妄想わーきんぐ。やちよ   作:つば朗ベル。

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 乗り越えて手を繋いで (17)

 肩にズシリとしたウェイトを感じ、前を見ると、私の放った刀が美月さんによって防がれていました。右手にはめたメリケンサックによって!

「やるわね、美月さん……それを防御手段にも用いるなんて……」

「フフフ……なめてもらっちゃ、困りますよ、お嬢」

 バックステップで、距離をとります。やはり、美月さん……手強い相手。正攻法では簡単にダメージを取る事は難しいのでしょうか。さすが、杏子さんの一番の舎弟! 剣を交えて初めて分かります。

「来ないならこちらから行きますよ!」

 言って、美月さんが距離を詰めます。そこからのリーチの長い左ミドルキック! 更に、右足からの体を落としての足払い! 隙が無い攻撃にガードをするのがやっとです。

「タァーッッ!」

 思わず、刀を振り回しての反撃をします。体を守るように振って攻撃を止めます。

「おや? お嬢。私の攻撃を貰わないのに精一杯ですか?」

 挑発する美月さん。

「ええ、さすが美月さんは強いわ。と感心していたところよ、でもね美月さん。杏子さんにも認められたほどの私の身体能力を侮っていると痛い目に遭うのよ! 秘儀、高速八千突き!」

 高速八千突きは、突きスピードを極限まで高めた私の身体能力ならではの技です! 野球のスローイングによって養われた肩がその威力とスピードを増します。

「くっ!」

 さすがの美月さんも、受けきるのに精一杯のようです。このまま行けば、ダメージを与えるのは時間の問題……っ!! 

 私は、更に突きを繰り出します。

「フフ……手も足も出ないようね! こんな展開は予想外だったのかしら?」

 自身の優勢を感じ私は、佐藤くんの方に目を向けます。

 えっ……? 佐藤くん……? なぜ、美月さんの方をそんなに心配そうな目で……?

 その、事実に私は驚愕したのです。いつも私の方を良く見ていてくれていた佐藤くん。いえ、あれは、私の思い込みだったのでしょうか。美月さんの方を心配そうに見つめる佐藤くんの顔を見ていると、自信が無くなっていきます。ああ、人に想われるって事はこんなにも幸せな事で、人を愛するって事はこんなにも切ないものなのでしょうか。やっと自分の気持ちに気づいた時には、既に時遅し。という事なのでしょうか……。

 ガキィィィン!!

 と、火花がしたような強烈な音と共に私の手の芯が根本から痺れる。

「うぐっ……!!」

 思わず、ほとんど無意識に手を離します。刀は地に落ち、カラカラと音を立てました。

「情けはかけません! タアァッ!!」

 気が付くと、美月さんがすぐ目の前から蹴りを放っていました! 私はガードしか出来ません。肩に回し蹴り、左手でのパンチを頬にもらいます。

「お嬢……そんなもんですか、あなたの強さは! ……これから先、何があるかも分からないのにこんな事で音を上げてしまうつもりですか……?」

 真剣な眼を向けて、息絶え絶えな私に言います。美月さんも、さっきの私の突きでダメージをもらっている筈なのに……そんなもの微塵も感じさせません。これが、覚悟……なんでしょうか、美月さんの。

「……もう、やめましょう。お嬢はもう、戦えないでしょう」

「ま、待って!」

 私には……覚悟が足りていなかった。これは、格闘技でも剣術でもなんでもありません。佐藤くんへの想いがどれだけ大きいか――という、ただそれだけの意地のぶつかり合いなのです。だとすれば……私は、絶対に負けません。だって佐藤くんへの気持ちの大きさ比べなんですもの。美月さんの気持ちがどれだけ大きかったとしても……私はその上を行きます! 絶対に……!

「美月さん! あなたより、私のほうが……佐藤くんが好きなのーー!!」

 そう言いながら、美月さんに向って突進します。

 何もかもの――気持ちを全部その言葉にぶつけます。途中で剣を拾い、右手に持つと美月さんに向って振りかぶります!

 キィィイン!

 またもや、メリケンサックでガードする美月さん。打つコースを変えているにもかかわらずのガード。動体視力の良さがなせる業でしょう。美月さんは私を押し返し距離を取ると、

「私だって……私だって、佐藤の事が……好き……です……!」

 決して大きな声ではなかったけども、本気を強く感じさせるような眼差しで私を見る美月さん。

「いえ……譲れない! 絶対、私のほうが好きなんだからーーっ!!」

 懇親の力を込めて、もう一度美月さんに突進します。

「何度やっても、結果は同じですよ!」

 そう言って、私が刀を振るう直前、美月さんが私の刀を受ける動作をします。

 ――今よ! その瞬間、私は、刀から素早く手を離し、美月さんの腕を掴みます。そして、体を落とし美月さんの懐に肩口から入り込むと……

「……えっ!?」

 動揺している美月さんが気付いたのは既に私の肩の上……!!

 ドサァァッツ!!

「ぐふっつ!」私に投げられると、美月さんは大の字になってその場に倒れこみました。

「あ……み、美月さん……大丈夫……?」

 勝負は決した――と、思います。私は、いつものテンションに戻り、美月さんに駆け寄ります。

「はぁ……お嬢、見事でした。刀で打つと見せかけてこちらの動きを止めた上で……素早い一本背負い投げ……感服しました」

「……ええ、手強い美月さんには正攻法では勝てないと思ったのよ」

「しかし……お嬢、背負い投げなんて、出来たんですね……?」

「ああ、それはね……たまたま、最近、梢さんに……ハッッ!?」

「えっ……? 梢に? って、お嬢!?」

 こ、梢さん、まさか、こうなる事を分かっていて……? まさか、いやでも梢さんは、美月さんと交流があったとか無かったとか……いやでも、あの時はたまたま梢さんが護身術を教えてくれただけ……そこまで不自然じゃないわ……。

「たまたま、梢さんに護身術として教わったのよ」

 慌ててそう言い直すと、

「そう……ですか」

 そう言って美月さんは苦笑いを見せるのでした。

「おい、もう良いんじゃないか?」

 気が付くと、遠くで見ていた佐藤くんが近くに来ていました。

「あっ……さ、佐藤くん!!」

 ふと、私の顔が急に紅くなるのを感じます。今になって急に恥ずかしさがこみ上げてきたのです。

「八千代……その、なんていうか、好きと言ってくれた事は嬉しいんだが……俺は本当に喜んでいいのか?」

 一瞬、意味が分かりませんでしたが――ああ、そうでした。私は今まで佐藤くんが好きとか、付き合うという意味を良く分からず、付き合っても良いなんて言っていた小悪魔でした。(自分で言うのもなんですが……)佐藤くんにとっては、たしかに私が普通になったかっていうのは、判断できかねるのでしょう。

「好きよ……佐藤くん、本当に好き……ほら、分かる? 私の頬、すごく紅くなって……佐藤くんの顔だってまともに見られないっ!」

 焼けるような顔の熱さでした。佐藤くんはそんな私を見て確信したのか、

「どうやら、喜んでいい見たいだな」

 キザに笑って言います。

「あっ、でも、美月さんは……? あなた達、付き合っているんでしょう?」

 恐る恐る私が聞くと、

「ん? ああ、それはな……言いにくいんだか、実はそれは作戦で付き合っているフリをしていたってだけだったんだ」

 照れたように目を逸らしながら佐藤くんが言います。

「えっ? 作戦って?」

「俺と真柴が付き合っているフリをする事で、お前を本気にさせようって……言ってて恥ずかしいが」

 そう言って、「なあ?」と、美月さんに向って返事を乞う佐藤くん。

 美月さんは下を向きスーツをはたき砂埃をとりながら無言でいます。その間私達は、目で追って口を開くのを待ちます。美月さんが不自然なほど念入りにスーツをはたき終えると、やっと顔を上げて、

「……ああ、そうだったんですよ、お嬢! 佐藤の言う通り、付き合っているなんでウソです」

 そこで、作り笑いのように笑顔で私を見て、

「さっきまでのは全部演技! まんまと騙されましたね! お嬢!」

 吹っ切れたような顔をして言います。

 私は美月さんのそんな態度にとても違和感を覚えたのですが、佐藤くんはそうは思っていないようでした。

 

「八千代……」

 気が付くと、佐藤くんが私の前に立ち私を見つめています。

 ……ああ、そんなに見つめられると……何も考えられなくなっちゃう……。

「佐藤くん……だいぶ遠回りしてしまったけど、もう、良いのよね? 佐藤くんも私の愛を受け入れてくれるのよね……?」

「……ああ、ていうか、俺は最初から好きだったっての」

「ああ、佐藤くん……!」

「八千代……!」

 二人の体が自然にくっ付きます。私は今、佐藤くんと結ばれて幸せを感じているのです……!

「あーー……盛り上がっている所、申し訳ないですが……続きは、私の居ない所で……」

 隣にいた(とても近くに居たのに気付きませんでした!)美月さんが、気まずそうに言います。やだ、私ったら恥ずかしい……。

「ご、ごめんなさいね! 美月さん」

「あ、いえ、私だって、お二人が結ばれる事を願っていたんですよ、本当はお二人をずっと見ていたい位だったんですよ」

 そんな風に美月さんは言うのですが、その顔は何処か作り笑顔のようで本当は寂しさを堪えているように見えるのは私の思い込みでしょうか……。

「美月さん……もしかして、無理してない?」

 心配して私が言うのですが、

「無理? 何がですが? あははは、良かった! 本当に良かったな、佐藤!」

 なんだが落ち着かない様子で佐藤くんの肩を叩きながら言うのでした。

「真柴……その、なんていうか、有難うな、色々と」

 佐藤くんがぎこちなく言います。

「……なんだよ、よせよ! 良かったじゃねえか……うん」

 大げさに赤くなる美月さん。やっぱり美月さん、佐藤くんのこと……、

「あっ……そうだ! お嬢! ……と、佐藤。二人にいい物やろうと思ってな……!」

 そんな風に急に美月さんはスーツの内側のポケットに手を入れると何やら小奇麗な封筒を取り出します。少し折れてしまった事を気にしながら、中から二枚のチケットを差し出すと、

「ほら、これ、近くのホテルのチケットだ、お二人にプレゼントしようと思って」

「まあ、そんな悪いわ……美月さん」

「いいんですよ! はい、受け取ってください!」

 強引に私の手に渡す美月さん。佐藤くんを見上げると、「まあ、いいんじゃないか?」とそう言うので結局、受け取ったのでした。

「あーー、そのチケット今日までで、すでに予約してあるんで……6時にチェックインです」

 付け加えるように美月さんが言います。

 6時って……もう、1時間もありません!。

「時間が無いわ……どうしましょう? 佐藤くん」

「ああ、っていうか、泊まり……?」

 もしかして……という顔で佐藤くんが美月さんに言います。

「当たり前だろ! ちなみに一部屋しか取ってない。札幌の夜景を一望できる部屋なんだ」

「……いいのか? 八千代、泊まりって事だが……」

 その口調や雰囲気から佐藤くんが心配してくれている気持ちが伝わってきて嬉しさを感じます。

「いいに決まってるじゃない、佐藤くんがイヤだって言っても離さないんだから佐藤くんのこと!」

 そう言って、佐藤くんの袖をぎゅ~っと掴みます。泊まりの事は後でお母さんに電話しておこう。

「それは良いがちょっと待て! そこに行くまでどれ位時間がかかるんだ? 真柴!」

「ここからだと、20分位だな、地下鉄で行くと楽だぞ」

「もう、あんまり時間が無いじゃねーか!」

「だな! 急いで行って来い! ほら、お嬢も! 楽しんできてください!」

「よし、行くか? 八千代」

 佐藤くんが、私の手を握って語りかけます。

「うん! 行きましょ? 佐藤くん! すっごく楽しみだわ!」

 佐藤くんの手を取り……ホテルに向って……駆けるのでした。

 握られた手の、ぬくもり。カサカサしたおっきい手。私の手が汗ばんでいるのでしょうか? ちょっと、心配です。手を通じて……佐藤くんの気持ちが伝わってくるようです。私の気持ちも伝わってるのかな? 握った手に力を込めます。そうすると、佐藤くんも、もっと力を入れてギュっと握り締めてくれるのでした。心が通じ合っている。それを感じて嬉しくなる。佐藤くんにはいっぱい迷惑かけちゃったけど、これからはその耐えてもらった分、全部返していけるくらい……私が、好きでいてあげる。

「好きよ、佐藤くん……」

 立ち止まって佐藤くんの顔を見て私は言う。

「どうした……急に?」

「佐藤くんがこの先、私に愛想を尽かしても、私に飽きちゃっても……そんなの、関係ないわよ? もう、佐藤くんは一生、私と一緒に生き続けるの……覚悟してね♪」

 そう言って子供みたいに佐藤くんに抱きつく。佐藤くんも私の肩に手を回しながら、

「……望むところだよ。まあ、覚悟も何も……俺には何不自由の無い理想の人生だがな」

 そのまま佐藤くんに唇を塞がれます。

「んっ……んんっ……」

 あったかい……口の中……凄くあったかい……。

「ぷはっ!」

 しばらくして佐藤くんが口を離します。私も同時に、

「ぷはっ!」

 息を吸うのに、口を離します。お互いに軽い酸欠状態……頬が赤くなっていて可愛い佐藤くん。

「八千代、紅くなってて可愛い……」

「あっ……? それは、佐藤く……」

 で、また、キスして……その繰り返し。結局、お互い酸欠でクラクラになった所で、終わるのでした――。

「もうっ! 佐藤くん……早くホテルに行かないと」

 いたずらにちょっと怒ったように私が言うと、

「あ、すまん。イヤだったか?」

 本当に困ったように佐藤くんが言うので、

「イヤな訳ないじゃない……続きはホテルで……ね……?」

 もっと困らせてあげるのでした。

 

 

 

 

「お帰り、美月」

 家に着く。今日は誰とも話したくない気分なのだが、自室に行く前に陽平に話しかけられる。

「なあ、今日は遅くなるんじゃなかったのか? いや、帰らないって行ってたっけ?」

「……違う。そうかも知れないって言っただけだ」

「ああそうだっけか? 俺はてっきり、あのホテルに誰かと言ったのかと……」

「! なんで、その事を知ってる陽平!」

 陽平にはホテルのチケットを買った事は言っていないのに!

「だって、俺が雑誌見せて教えたんじゃないか、その後、それっぽい封筒が棚の上に置いてあったし……美月って、あの棚の上には大事なもの置くだろ?」

 棚を指差して言う陽平。

 ぬ、ぬかった! 雑誌見てた時だって、フーンって興味無さそうにしたのに……! さすがは、双子……!? という事か。隠し事は出来ないのか……!

「たしかに、そのホテルのチケットだが……あれは、プレゼント用だよ」

「はぁ? ……それは、ウソだろ? だって、そのチケット買ってきた日、あんなにウキウキしてたじゃないか?」

「マジで!? そんなに、顔に出てた? ウソ付けよ!」

「いや、出てた出てた。マジで」

 ボケツ掘っちまった……。

「なんだよ、結局、お目当ての人とは行けずにやっちまったって訳か?」

 呆れたように言う陽平。うむ、腹立たしい。

「いいんだよ! あげるのも、まあ、想定してたからな」

「……本当は、自分で使いたかったくせに」

「…………うるさい」

 小さく言うと、私は自室に戻った。

 全く、あいつは……人の気も知らんで……。

 ――結局、私は何をやっていたんだろうなぁ……。最初はお嬢と佐藤をくっ付けたくて……その内、佐藤の事が……。あの提案をした時――佐藤と付き合っているフリをするっていう――結局、私は何を望んでいたのだろう? 自分でも正直分からなかった。お嬢の事は好きだし、佐藤と結ばれて欲しいって言う気持ちはあった。……でも、同時にあの時にはすでにもう、佐藤の事は好きになっていた。でも自分でそれを言う甲斐性は無かった。そんな事、してはいけないと思っていたし。歳だって六つも下だ。

 まあ、でも……佐藤にもし選んで貰えていたら……喜んで受け入れただろうなぁ……佐藤に選んで貰ったっていう事を、言い訳にして…………。

 ――ま、これで良かったのだ。上手くいった。万事解決!!

「おい、美月?」

「…………」

「おいって」

 肩に手を置く陽平。

「やめろって!」

 私はその手を払いのける。

「そんな事言ったって……電気も付けずに……しかもちょっと泣いてるだろ?」

「うるしゃい! 泣いてないっ!」

 うわ……自分でも明らかなダミ声……。

「……まあ、良いけどよ、とにかく元気出せよ!」

「なんで……なんで、励ますんだよ、陽平! お前、普段そんな事しないだろ!?」

 私がそう言ってやると、

「ん? ああーそうか? そうかもな……?」

 なんて言って首をかしげる。部屋は暗いので顔は見えない。

「言わないか、そうかそうか。そうね……そう」

 ブツブツと続ける陽平。……ん? 私はその瞬間、変な気がした。陽平の声がいつのまにか女の声に聞こえた一瞬だが。

「……ん? あれ、あなたは……誰……!?」

「あら? あなたとは初対面だったかしら?」

「はい、えっと誰です……?」

 その女性は、背が高く……暗くてよく見えない。

「ああ、ちょっとあなたの事が気になって来ちゃったのよ。とにかく、気を落とさないでね! 私そういうの嫌いなんだから!」

 彼女はいきなりそんな事を言い出す。ていうか励まされてる……? なんで……?

「なぜ、ここに?」

 つい、その疑問を口にしたのだが、

「……まあ、とにかく……ね! あなたの…………は………要……だったんだから……」

 彼女は何か言っている。

 え? 何を言って……? 意味が……? 私の……??

 

そんな風に気を取られ、一瞬前方から目をそらした後、再び前を見るとそこには誰の姿も何も無かった。

 

 

 

 

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