妄想わーきんぐ。やちよ   作:つば朗ベル。

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(3)  忍者ライダー2号

その日は、特に変わった事もなく、俺はいつも通りの時間に仕事に入り、そしていつも通りの時間に休憩を取っていた。ドタバタとしている事の多いこの店だが、今日は平日だし、こうして静かな時を過ごせる事もある。八千代が休みの日で従業員も全体的に少ないし今日はそういう日なのだろう。

 

 ――まあ、俺は休憩室のパイプイスでタバコをふかせながら、そんな風にこのゆったりとした平日のひとときを楽しんでいたんだ。

 ……って、言うのに、な。

「おお、金髪! ここにいたかー!」

 静かだったこの空間をぶち壊す様に、なにやらテンションの高い声でそう言ったのは真柴2号こと真柴美月だ。気持ち悪いくらいの笑顔で俺を見ると向かいのイスに座った。

「今日は、ちょっと、お嬢との事を聞こうと思ってな! 今日は、お嬢休みだから丁度いいと思って」

 やっぱりか。まあ、こいつが俺に用があるとすればその事しかないだろう。こいつもいい歳して八千代の事ばかり気にかけてないで自分の事をもっと考えればいいと思うのに。まあ、それはどうでもいいか。それにしても相馬といい、こいつといい、やけに人の人間関係に首を突っ込んでくる奴ばかりだ。

「なあ、その……お譲とは上手く行ってるのか?」

 チラチラと探るような目で聞いてくる。

「上手く……まあ、特に変わらねーよ。可もなく不可もなく、いつも通りだ」

 俺がそう言うと、真柴2号は考えるように顔を強張らせて下を向いた。

「なんだ? せっかく聞きに来たのに進展なしで面白くないんだろう? まあ、そりゃ、お前は俺と、やち……轟が、上手く行かないのを望んでるんだろうが……」

 俺が言うと、真柴2号は驚いたように立ち上がって、

「いや……そんな事はない! 私は……お譲が喜ぶなら、変な邪魔をするつもりは無い……!」

 目を逸らして力強くそう言う。

 

 ――驚いた。以前までは、俺が八千代に近づくだけで、その日の夜に闇討ちされそうな雰囲気すら醸し出していたのに、それがどういう事だ? むしろ俺達の事を応援でもしているかのようだ。

 俺は言葉も出ず、タバコの火を消して空いた間をごまかしていた。

「なあ? 金髪……私はな、分からなくなってきている。お嬢にとって何がいいのか。最初はお前の事は嫌いだったし、お嬢の敵だと思っていたが、案外お前は良い奴だし、一途そうだし、お嬢の事を幸せにしてやれるような気がしないでもない……。それに、最近気付いたんだが、お前は、私や姐さんにも似ている……ヤンキーだし、ズボラそうでいて、情が深い所とかな……」

 珍しく真面目な顔をして真柴2号が言った。

 最も、俺はヤンキーではないのだが。しかし、こいつがこんな風に思っていたとは……なんていうか、意外だ。ていうか、俺、店長に似てるのかよ。それは無いと思うんだが。

「……なあ? だからさ、いっそ、お譲と付き合ってみたらどうだ?」

 さっきとは打って変わり、いかにも用意していた台詞のようにそう俺に言う。どうやら、今日ここに来た理由は俺にこの台詞を言うためだったらしい。

「……しかし、轟に悪い虫が付かないように俺に付きまとっていたお前が、付き合ってみろ、だなんて、どういう風の吹き回しだ?」

「付きまとっていたなんて失敬な! ……まあ、だって、付き合ってみれば、お嬢にとって金髪が、相応しいかどうか分かるだろう?」

 一瞬、髪の話かと思った。金髪って俺の事かよ、紛らわしい。

「真柴2号、金髪って言うの紛らわしいからやめてくれ」

「……ああ、そうだな……って、お前も、真柴2号って呼ぶのやめろよ!」

「いや、俺はいいから」

「なんでだよ! ……まあ、わかったよ、えーっと、佐藤! そう言う訳だからお嬢と付き合え!」

「……いつの間にか命令形になってるな……」

「えーーい! いいだろ! さっさと、そうした方が、答えが出るのが早い! 私は思いついたら直に行動したいタイプなんだ!」

「それは勝手だが、他人にも押し付けるなよ」

「……っ! そうは言っても、黙って見てたら、あと何年かかるか分かんねーじゃねーか! 本当は、こうして背中を押されるまで待ってるんじゃねーのか!?」

 挑発……というか、それは単なる苛立ちから出た言葉だとは俺も分かっていたけれども、その時は、一気にカチンと来る部分があって気付くと俺は、

「あのなぁ、俺はお前なんかに、背中を押されなくても自分一人でそうするつもりだ! 八千代にだって、告白するさ! そろそろな! 元からそのつもりだった! それが、他人のお前が勝手に人の恋愛の筋道立ててんじゃねー!」

 立ち上がって、挑発に乗るようにそんな宣言をしてしまったのだ。

「お、おう、なんだ。お前も言う時は言うんだな……ちょっと驚いたぜ……し、しかし、そうか、近い内にお嬢に告白するんだな? ……まあ、それは良かった。それでハッキリするからな、お嬢に取ってお前が必要かどうかって言うのが」

 引きつった顔で、パイプイスに腰を落としながらそう言う真柴2号。俺の雰囲気に圧倒されてか、柄にもなくビビッているように見える。こいつ本当に元ヤンキーか? ……なんて、思ったが口に出さないでおこう。

 

 その後、俺の休憩時間も終わる事もあり、真柴2号は、そのまま焦るように帰って行った。口ゲンカには勝ったが、勝負には負けた……。なんだかそんな感じだ。つい、先日、相馬にも急かされたばかりだった事もあり、柄にもなく微妙にキレちまった。そりゃ、俺だって、連日、違う奴に同じ事を言われれば、さすがにイライラしてくるってもんだ。

 

 ……しかし、厄介な事になってしまったかもしれん。もし、今回の事を無かった事のようにしたら、「やっぱり、ウソだったのか」なんて、言われるのは目に見えている。それでなくとも、相馬だってうるさいだろうし、相馬の事だから今回の事もその内どこからか聞きつけてくるような気さえする……。

 

 まあ、しかし、なるようになればいい……なんて、俺は返ってせいせいしている部分もあった。八千代との事は自分でも、そろそろどうにかしなくてはならないと思っていたし、まあ、良い機会なのかもしれない。あいつに感謝する事も無いだろうが、良い機会を与えてくれたと、少しは愛想良くしてやろう。

 ……いや、まあ、俺が無愛想なのは元からなんだがな。

 

 ――久しぶりの休日。その日は前見たく、相馬が来るとかそんなイレギュラーな予定は無い。いつも通り、家でダラダラ。いや、いつも家でダラダラしている訳でもないのだが、今日は特別外に出かける用事も無いので、午前中から、午後2時くらいまで、家でくつろぎゆったりとしていた。こういう休日の過ごし方も悪くない。テレビを見ながら飲み食いしていたので、昼を食べていなかった。が、さすがに小腹が空いてきたので、冷蔵庫を見て、適当に料理を作った。作ったのは、まあ、なんて事のない、パスタだ。昨日作った残りのクリームシチューを使い、その中にパスタを入れて、上からチーズを散らしオーブンで焼くグラタン風パスタだ。一人暮らしだと、妙に凝った料理を作りたくなる時がある。バイトでキッチンを任されている関係上、料理の腕はかなり上がった。まあ、マニュアル通り作っているだけではあるのだが、さすがにあれだけの回数、あれだけの数(メニューは時折変わる事もあって作ったメニューも多い)作っていれば、普通に上達するという事か。まあ、和食を作ることが極端に少ないため、洋食の腕ばかり上がるのだが、俺が洋食好きだから、それも都合が良かった。

 

 ……しかし、いくら料理が出来ても食べさせる相手がいないと空しいものだ。自分で作って食べるのも乙だが、やはり、料理とは人に食べてもらってナンボだと思う。無愛想な俺でも、そう思う。そう考えると、小鳥遊なんかは、毎日料理を家族に食べさせているから、さぞ料理のする甲斐があるだろうな。最も本人はそんな事は思ってないのかもしれない。あいつは逆に一人でのんびりしたいなんて思っていそうだ。結局、人間はみな自分の持っている当たり前の幸せに気付かないって事か。

 

 

 まあ、こうして考え事ばかりしている事も含めて、一人でいる事の良さなのかもしれない。なぜなら、家に人が入れば必然的に会話などのコミュニケーションを取る可能性があるだろうし、家族が多ければその確率はなおさら上がる。つまりは、小鳥遊なんかは、休日でも、こうして考えに耽るという事自体あまりないことなのだろうな。

 なんだか、達観してしまったような気がした。

「こうして、一人、家でダラダラしていてもしょうがないな……」

 ふと、そう思った俺は、用も無いが外に出てプラプラしてくるかなと考え付く。思った時に即行動……とばかりに、俺は、ソファで横になっていた体を起こして、出かける準備をした。

 

 コートを羽織って外に出ると冷たい風が顔を伝った。今日はちょっと寒い。とりあえず車のエンジンをかけ、少し暖まった所で町に向った。

 軽快に車を走らせ道に出ると、いつもと変わらない町並みがそこにあった。今日は平日だったので、学校帰りの小中学生がカバンを背負って家に帰る姿を何度か見た。

「こうみると、やっぱり、種島と後姿は変わんねぇのな……」

 ランドセルを背負った小学生高学年と見られる子供の後姿を見て、思わず口をついた。

 そんな自分に苦笑。そして、俺の脳内には種島が「もぉ~佐藤さんったら~!」とか、「もう、怒ったんだから! 佐藤さんなんて知らない!」なんて、プリプリ怒りながら俺を見る種島の顔が脳内再生され、俺の口元が緩む。

 

 ――思えば種島がワグナリアにバイトに入ったのは一つの転機だったと俺は思っている。あいつが入る前は、八千代と俺と店長と、後から入ってきた相馬で、しばらくやっていた気がする。八千代はあの頃から可愛らしかったけども、まだ、仕事の歴が浅かったからか今より余裕が無く、仕事中は顔が強張っていた事も多かった。俺は勿論無愛想だし、相馬はアレだし、店長はいるだけで良かったんだろうが、特別、八千代を過保護にする事も無かった。最もそういう所があいつは好きなのかもしれないが。それで、種島が入ってからと言うもの、年下で後輩の女子――それも、あいつのような、ハッキリした女子っぽい――ようするに、子供っぽいやつも少ないだろう。八千代は、種島に仕事を教えながら、自分も仕事への意識が高まったようだった。笑顔でいる事が以前より増えていたし、仕事の効率も段違いに良くなっていた。いつも見ていた俺が言うのだから間違えない。あいつにとって、後輩である種島の存在はとても大きいものだったらしい。種島も積極的に八千代とコミュニケーションを取っていたようだったので、八千代にとっても、仕事場で同年代の女子と関われる事が良かったのだろう。思えば、あいつはプライベートでも同性の友達が少ないそうだから、いっそう種島の存在は大きかったのかもしれない。その内、伊波や小鳥遊といった、俺らなんかの数倍キャラの濃い連中が入ってきて、それに押し流されるように、古株の俺達は気負いする事が少なくなった。八千代もその頃になると人に仕事を教えるのも慣れてきたようで、そしてそれが自分にも良い影響になり、ついにはチーフと呼ばれる事となったという訳だ。……って、さも上から目線で言っているが、八千代は俺より歴が長いんだがな。

 

 考え事をしながら運転していると、目的の場所に到着したので車を止めた。とりあえず、本屋だの飲食店だの、雑貨屋などが立ち並ぶ場所で、俺はとりあえず本やレンタルDVDがある店に入った。映画のコーナーに行き、新作の映画のランキングを眺めていると、なんだか、ふざけた映画や地味な物ばかりだなと思っていたら、そこは邦画のコーナーだったことに気付いた。俺は邦画に関してはテレビでたまたま放送していた時くらいしか見ずわざわざレンタルして借りてみる事はほとんどない。俺は詳しくないが小説原作の地味なものか、恋愛物か、昔のアニメの実写というイメージがある。なんというか日本の映画って、ふざけた映画が多くないだろうか? 恋愛か小説原作以外はだいたいそんな感じがする。

 

 ……まあ、そんな事を思いながら、俺は見慣れた洋画コーナーに足を運んだ。大体借りるジャンルはアクションとかSF、ホラーっぽいのも好きだ。やっぱり映画はハリウッド――なんていう、古臭いイメージが俺の中にあるのは、俺が所詮ミーハーな映画鑑賞者だからだろうか。そういえば昔にバイトの休憩の時、相馬とたまたま映画の話になった時、邦画も見たほうがいいとか、もっと違うジャンルも見たほうがいいとか、言われて余計なお世話だと心から思ったことがあった。あれ以来、相馬の前では映画の話は意識してしないようにしていた。

 

 大口を開いて、うんちくを語る相馬の姿を頭から追い払いながら俺は、パッケージを見て面白そうなアクションやホラー映画を、何本か手に取った。

 

 これで、しばらく時間つぶせるかな……。そんな事を思いながら俺は、会計を済ませ店を出た。それなりに借りた映画が気になるので、さっさと帰って見ようかとも思ったが何も焦って帰らなくとも、今日中に一本は見られるだろう。折角、町に出たというのにこれだけで直に帰るというのも、なんとなくもったえない気がしたので、辺りをフラつく事にした。今日くらい晩はどこかの露店の美味そうなものを買って帰るのも悪くない。そんな事を考えながら、辺りを散策しているとなにやら見慣れた後姿を発見した。八千代である。あまり見慣れない私服姿に少し圧倒されたが、素直に可愛いと思った。マフラーみたいな暖かそうなものを首に巻いている。どうやら一人のようだったので声をかけようと思い、近づこうと歩き出した。

 

 ――と。なにやら不自然に八千代の後ろを歩く二人の男が目に入ったので俺はそこで足を止めた。そいつらは何か二人で話しながら八千代をつけているように見え、きな臭いと感じた俺は、距離をとって少し様子を見ることにした。その二人組はやはり、八千代の後を追っている。どうやらナンパしようと、どちらが話しかけるか相談しているらしい。なんとなく気分の悪かった俺はそいつらをどこかに追い払ってやろうと一歩踏み出した。

 

 ――が、その時だった。そいつらが人気のない公園の脇を通り過ぎようとした時、忍者のような速さでいきなり視界から誰かが現れたように見えた。その人物は彼ら二人を公園に一瞬で引きずりこんだ。 

 

 俺は、何が起きたかハッキリと理解できなかった。慌ててその公園に駆け寄り、その様子を窺う。その公園は、町外れにあり、町のちょっとした近道として使われている通路の脇にある。八千代も近道として利用したのだろう。人はほとんどおらず、無造作に立ち並ぶ木々が四方にあり、それがある程度ブラインドの役割をしており、角度によっては中の様子はあまり見えないようになっている。相馬によれば、夜には大人達のとある目的の場として割と人気があるとかどうとか、そんな物騒な事を言っていた。俺は太い木に身を隠しそこから様子を覗き見る。我ながら何をやっているのだろうとも思ったが、八千代に関わる事ならば、なりふりなんて構っていられない。もう、日も沈み薄暗くなってきた中、目を凝らして彼らを見た。

 

 

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