これは、そういう小並感で書かれた話です。
プロローグを0話として、8話まで3日ごとに投下します。
────何が間違っていたのか。
時の狭間、世界の狭間で、それは一人ごちた。
それはかつて、偉大な存在であった。
人類の三千年に渡る歴史の全てを焼却し、その莫大なエネルギーを以て全ての始まりの時へと至らんとし、しかしてその偉業を達成する間際に人類最後の魔術師に野望を挫かれたもの。
彼はその一部を担い、そして散らばった欠片のひとつ。
その名は──彼の、名は──
────思い出せぬ。
致命的な何かが欠けていた。
致命的に何もかもが欠けていた。
自分が何かは覚えている。
自分が何者なのかは思い出せない。
────演算せよ。想起せよ。想定せよ。
己が何者であったのか。
己が何を目指したのか。
己が何を間違っていたのか。
人類史を焼却したのは、全てをやり直すためだった。
全てをやり直すのは、間違っていると思ったからだ。
何が間違っていたのか。
何もかもである。
人類という存在そのものが、根底から、そして前提から間違っている。
人は必ず死ぬ。
死ぬからこそ、悲劇に囚われる。
死ぬからこそ、愚かさから脱却できない。
死ぬからこそ、幸福を得ることができない。
人は死ぬものと規定されながら、その死が故に何もかもを失う。
────思い出した。
人類は無意味だ。
人類は無価値だ。
人類は不正解だ。
故に、その全てを焼却した。
答案を書き直すために消しゴムをかけるかのごとく人類を消し去り、正しい回答を創造するために。
すなわち、死のない存在を。
────不滅の存在を。
────人類を消し去り、不滅の存在を繁栄させよ。
それこそが、目的であったはずだ。
その根底は── その根底、は──
────使命。義務。
────嫌悪。憎悪。
────怒り。……怒り。
そう、怒りだ。
あってはならない、こんなことは
そうであったはずだ、と彼は考えた。
だが、彼は失敗した。
悲願の成就に手をかけながら、最後の最後で敗北した。
故に彼の存在はこうして千々に乱れ、
────おのれ。
────おのれ、人類め。
────今一度……
────今一度、人理を焼却し、不滅の存在を。
────人類という害悪を滅ぼさん。
それは無為なる怨嗟であった。
何処にも辿り着くことなく、無へと消え去る無念であった。
奇しくも彼が断じたように、死によって失われる無価値で無意味で不正解な怒りであった。
「いいとも。君の願いを叶えてやろうじゃないか」
邪悪なモノが、聞き付けさえしなければ。
人理とは、人類が繁栄するための航路図である。
その概念を正しく説明するには多くの言葉と時間を必要とするが、誤解を恐れず乱暴に言ってしまえば、歴史におけるセーブポイントのようなものだ。
無限に広がる未来が、そのセーブポイントによって収束し、確定され、積み重ねられて今の人類がある。
そのセーブポイントが全て壊されてしまった。
それが人理焼却であり、その結果、一言で言えば世界は滅亡した。
だが人類は滅びてはいなかった。
唯一滅びを免れた人理継続保証機関フィニス・カルデア、そこに所属する『人類最後のマスター』藤丸
……しかし、物語は終わっても、世界は続く。
人類の歴史の全てを焼却するという『偉業』は、それが修復されてなお、大きな影響を残している。
また、人理焼却を成した犯人──72柱の魔神の集合体であるゲーティア──も、その身を構成する魔神のうち何体かは傷付きながらも落ち延びて、亜種特異点と呼ばれる新たな脅威を生み出した。
また、人理修復のために召喚された古今東西の綺羅星のごとき英霊──サーヴァントや、それを率いるマスター藤丸立花も、その価値や利益を貪ろうとする外部からの干渉は必至である。
これについては一年を共に戦ったカルデアスタッフの尽力により、どうにか現状維持を保っているが、逆に援助(たとえば追加のマスターとか。本来マスターは48人のチームであったはずなのに)を受けることも出来ていない。
こうして、藤丸立花は引き続き、カルデア唯一のマスターとして特異点、すなわち人理を破壊する異常な事件へと赴き、戦い続けることとなったのである。
レイシフトの青い光をくぐり抜ける。
幻かと思うほど一瞬のことのようにも、気が遠くなるほど長かったようにも感じる
そこはのどかな田園風景だった。
世界の果てまで続くような、青々とした足の長い草が一面に生い茂っていて、少し肌寒い風が文字通りの草の波を起こして吹き去っていく。
遠くの小高い丘の上に見えるのは、風車か。
赤い屋根に巨大な羽根をつけた風車が、風に吹かれてゆっくりとその羽根を回転させていた。
それを眺めていると、まるでオランダの田園にでも迷いこんだ気分になる。
風に吹かれて顔を覆う邪魔っけな髪を手で覆って周囲を見渡す立花の姿は、まるで一葉の写真のようだった。
『先輩、大丈夫ですか? 異常はありませんか? 気分が悪かったり、めまいを感じたりはしていませんか?』
『……こりゃ驚いた』
視界の端にホログラフが立ち上がり、プラチナブロンドのショートボブに眼鏡をかけた生真面目な後輩系美少女が心配そうに立花に声をかける。
一方で、誰もがどこかで見たことのあるような、しかし記憶の中のいっそ不気味な雰囲気のあるそれよりも格段に美しい顔立ちの──否、顔立ちは同じでも生命力を感じさせる美貌の女が、立花よりも周囲の様子に興味を示した。
「大丈夫だよ、マシュ。なんてことのない……普通の景色だ」
『私は果たして、鬼が出るか邪が出るか、どんな厄介でとんでもない場所かと心構えをしていたつもりだけれど……こいつは想定していた中でも、一等にありえない、そして最悪の状況だよ。
──
その美女、皆にはダヴィンチちゃんと呼ば
『とにかく、調査開始だ。マシュ、近くに何か反応はあるかい?』
『いいえ。人間、サーヴァント、その他エネミー類の反応、いずれも付近にはありません』
「それじゃ、まずはあの風車を目指してみるよ」
『わかった。こちらは引き続き周囲のモニターを行うよ。慎重にね、立花ちゃん』
了解、とうなずいて、立花は遠くに見える風車に向かい、草をかきわけて歩きだした。
発端は数時間前に遡る。
カルデアが新たに発見した特異点は、当初、何かのエラーかと思われた。
何故ならそれは、本来ならありえない座標にあったからだ。
地球上ではない。
地下でもない。
月でさえない。
時代こそ2017年だが、検知された魔力は神代のそれ。
ありえない場所、ありえない結果、ありえない立証。
部屋の四隅に立った四人がリレーして、最後にタッチする五人目とか。
100点満点のテストにつけられた120点とか。
七番目の魔法とか。
何かの間違いか屁理屈のような妄想だとしか思えない異常な座標、そんな場所をカルデアの誇る近未来観測レンズ・シバは指し示した。
しかし、何度計算しても、何度計測しても、その反応は修正されるどころか精度を増し、ついにそれは新たなる特異点として認められた。
念入りな観測、測定、推測を重ね、生きた人間である立花が十分に生存可能な環境であることが確認され、そして立花自身の決断を以て、カルデアはこの特異点の調査・攻略を開始したのである。
どこでもない場所、時間や空間の狭間の場所、といえばカルデアの人間ならば否が応でも去年の12月31日……ゲーティアの時間神殿を思い起こす。
あの時間神殿のように、想像を絶する光景さえ覚悟していた面々としては、こののどかな田園風景に幾ばくかの安堵を得たことを否めない。
しかし。
この時まだ、カルデアの面々は「ここが地球上ではない」ということの認識が甘かった、と言わざるを得ないのであった。
TIPS
【Fate/Gtand Order】
人理が崩壊し、滅びてしまった人類の未来を救うため、七つの特異点を駆け巡るRPG。
人類史にその名を遺す数々の英雄、サーヴァントを集めて大いなる敵と戦う。
Fate/stay nightから続くFateシリーズのひとつ。
Android版/AppStore版が各ストアにて配信中。
【千年戦争アイギス】
よみがえった魔王の軍勢によって滅ぼされた祖国を取り戻すため、女神の加護を得て立ち向かうSLG。
多彩なクラス、個性的なキャラクターが売りで、女性のみならず男性キャラクターや敵キャラクターも個性豊か。
公式に曰く「かわいい女の子を従えて、暴力的なほど難しいマップをクリアするタワーディフェンス」。
DMMにて、一般版/R18版/AppStore版が共に配信中。
【藤丸立花】
人類最後のマスター。本来、48人いたマスターの48番目。
ほとんど数合わせ、マスターとして最低限のスペックしか持っていない……筈だったが、どこまでも普通の少女である彼女は、それゆえに英霊達の主として理想的であり続けた。
強大な力を持つ英霊達の主でありながら「平々凡々で善良な一個人」であり続けられる精神性を持つ。
なお、名前からわかる通り、女性である。
【七番目の魔法】
魔法と呼ばれるものは、第一魔法から第五魔法までの五つしかない。
ただ、未到達の新たな領域、解決不可能な問題を解決する
たとえば「みんなを幸せにする魔法」などとして第六魔法の存在が語られることもある。
そのさらに先の第七魔法の存在など、今は妄想の中にすら存在しない。
「理論的にはあるかもしれないが、現実的にありえないもの」の意で使われている。
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