異界特異点 千年英霊戦争アイギス   作:アムリタ65536

10 / 24
9.三昧真火(神級)

「くっ、仕掛けます!」

 

 頼光も強力なバーサーカーだが、太陽さながらの熱量に無策に突っ込んで蹂躙することは出来ない。頼光は瞬時に武器を弓矢に切り換え、目にもとまらぬ早業で連射した。

 一見して狙いがバラけているように思えて、一の矢をかわせば二の矢が、二の矢をかわせば三の矢が迫る、必中必滅の矢だ。

 

 しかもそれはただの矢ではない。武具としての性能は剛弓なりともただの弓矢だが、サーヴァント源頼光の一部でもある。一般弓兵の矢とは違い、魔神の炎といえども貫くだけの霊的強度があった。

 

 だが、宝具たる三昧真火に耐えうる程ではない。

 高速回転する槍の勢いを乗せた一閃と共に、三昧真火の炎が走り、矢の弾幕はまとめて飲み込まれ焼き払われる。

 のみならず、炎は頼光をも絡めとらんと渦を巻いた。

 

 それまでの炎なら、頼光の刀を一閃させれば風圧ではね除けることもできただろう。だが、頼光は大きく横に飛びのいて炎を回避した。

 

「その炎……! 私のカンを焦がす熱を感じます。マスター、流れ弾にご注意を! あれはただ熱いだけの宝具ではありませんよ!」

「さて、どうかな。三昧真火の炎が如何程のものかは、その身で確かめてみろ!」

 

 炎を宿す槍を振るって、ナタクは頼光に襲いかかる。

 回転する槍から炎の軌跡を描く鋭い一撃が何度も振るわれて、まるで白い繭から炎の糸を紡ぎ出しているかのようだ。

 その穂先は不規則に加速し、燕返しを思わせる苛烈さで翻るが、頼光はそれらを的確に弾き返していた。

 

「──!」

 

 だが、頼光は不意に大きく後ろへ下がると、手にした刀をナタクへと投げ付けた。

 刀なんて投擲には向かないだろうに、それはアサシンの投げた短剣さながらにナタクの喉元を抉らんと飛ぶ。

 

 しかし、それはナタクの槍であっさりと弾かれた。

 弾き飛ばされた刀はくるくると回転して離れたところの地面に突き立つ。その刀身には炎が燃え移っており、立花の視線が少し留まったその間に、焼け落ち灰となりぼろりと崩れ落ちた。

 

 あれ、と立花は妙な違和感を覚える。

 木刀や蝋細工でもあるまいに、刀に火がついて燃え尽きる、なんてことがあるのか──

 

『先輩! 宝具の解析結果、出ました!』

『立花ちゃん、あの炎は『焼却』の概念そのものだ! 鉄でも石でも、水でさえも燃やして焼き尽くす。一度燃え移れば、サーヴァントでも焼き滅ぼされる以外の末路はないぞ!』

『ただ、その炎を自らの体内で精製するなんて……明らかに自殺行為です……!』

「そうとも、この炎は真っ先に自らを焼き尽くす。それを防ぐためには、五行の気を完全に制御しなければならない。故にこれは仙術の神髄なのさ!」

「あら、そう言う割には制御しきれていないように見受けられますが?」

「恥ずかしながら、流石のぼくでも体内に魔神の気を混ぜられてはね。火力ばかりが高まって、ちっとも制御を受け付けてくれないけど──

 何、問題はないさ。ぼくが燃え尽きるよりも前に、君達みんなみんなみんな、三昧真火に巻き込んでやる!」

 

 体内から火に焼かれる苦しみは如何程か。

 だというのに、口元から三昧真火をこぼしながら、ナタクは壮絶な笑みを浮かべた。

 

 対する頼光は無手のまま。刀はサーヴァントの付属品ではあるが、壊れても蜥蜴の尻尾のように再生するというものでもない。

 そもそも、本来ならば頼光の刀は童子切安綱。日本刀の中でも一等の神秘を秘めた宝具であり、であるならば三昧真火の炎にも容易く焼かれはしなかった筈だ。

 頼光がそれを手にしていないのは、ひとえに絆レベルが足りないから(マスターの未熟)である。ぐ、と立花は奥歯を噛んだ。

 

「マスター、やはり宝具に対抗するには宝具が必要となりましょう。宝具開帳の許可を!」

「……うん、全力でやっちゃって!」

「承知。ご命令とあらばこの頼光、鬼にも神にもなりましょう!」

 

 途端、頼光の全身から強烈な紫電が放たれる。

 空は急速にかき曇り、ゴロゴロと不穏な音が鳴り響いた。

 

「これは……!? しかし、三昧真火は雨ごときでは消えないぞ! 例え空から雷が降ろうと、武器も手にせずこのナタクを容易く撃ち取れると思うな!」

「武器? ふふ、そんなものは如何様にもなるものです。

 来たれい、我が忠臣。我が手足。我が具足!」

『!? よ、頼光さん、普段より宝具出力が高まってます!』

『今は一人しかいないからね、遠慮なくカルデアから魔力を吸い上げてる! 電気代が大変なことになるぞう!

 って、うおおおい!? 召喚システム・フェイト、観測レンズ・シバに出力がオーバーロード! これは……四天王を本気で呼ぶ気かい!?』

 

 ダヴィンチちゃんの悲鳴があがる。

 頼光の宝具は、共に数多の怪異を討伐した武士達、四天王……に見立てた牛頭天王の神使……に見立てた己の分身を呼ぶものである。

 しかし、全力で発動したそれは、今や独立したサーヴァントに極めて近い霊基で四天王を遣わそうとしていた。

 

 そもそも、レイシフトした立花には常に六体のサーヴァントがついている。

 だが、これは実際に六体を選んで連れているわけではなく、『霊体化したサーヴァント』という曖昧な存在なのである。

 

 そして必要な時に六体という枠のうちひとつを使い、カルデアから現地へとシステム・フェイトが召喚し、観測レンズ・シバがその存在を証明、固定する。これによって、状況に応じてサーヴァントを使い分けることができるのだ。

 いくつもの特異点を乗り越える過程でのアップデートと、百を越えるサーヴァントを擁するというカルデアの特殊な環境が相俟って行き着いたシステムである。

 

 この特異点に到着してから、立花は牛若丸と頼光の二人を召喚した。召喚可能なサーヴァントの枠は残り4つ。

 頼光はその4つの枠を奪って、四天王を顕現させようとしていた。

 強引でイレギュラーな力業に、カルデア管制室はてんやわんやだ。この無茶を成功させないと、頼光はおろか立花の存在証明にも影響が出かねない。

 

 そんなカルデアスタッフの影の尽力の元、それはついに降臨した。

 

 頼光を囲むように、四本の落雷が地を穿つ。

 その落雷と共に、四天王は姿を現した。

 

 深紅の鬼火を宿した太刀を持つ、渡辺綱(わたなべのつな)

 神妙なる冷気を放つ槍を携える、碓井貞光(うすいさだみつ)

 霊威を感じる大張の弓を構える、卜部季武(うらべのすえたけ)

 雷光を纏い黄金に輝く鉞を担ぐ、坂田金時(さかたのきんとき)

 

 三人の頼光の分身と、まさにゴールデンと言うべき筋骨逞しい大柄な青年が、堂々たる威風を以て顕現した。

 

「四天王など此れ此の通り──おや、金時?」

「あン、なんだかよくわからねえが、大将? それにマスターじゃねえか」

「本物が来た──!?」

 

 頼光四天王のうち、他の三人はともかく坂田金時は既にカルデアに召喚されている。

 限りなく本物に近い霊基を持つ分身を呼ぼうとして、システムが負担を軽減しようとしたのかあるいは真に迫りすぎたのか、本物の金時が召喚されてしまった。

 

 とはいえ、イレギュラーな召喚であるため、本人ではあるが頼光の宝具の一部でもあるという奇妙な状態だ。

 本体と分身、あわせて四人の頼光がにこにこしながら金時を取り囲んだ。

 

「丁度良いですね、手伝いなさい、金時」

「ところでお酒の匂いがしませんか、金時」

「微かに鬼の匂いもしますよ、金時」

「一体どこで何をしていたんですか、金時」

「い、今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろォ!?」

 

 四人の頼光に詰め寄られて青くなる金時だが、直後に五人とも素早く飛び退いて散開した。

 半拍遅れて、三昧真火の炎が五人のいたところへ炸裂する。

 

「へっ、とにかくアイツをぶっ飛ばしゃいいんだろ、大将ォ!」

「それはそれとして、後できっちり話を聞かせてもらいますよ、金時!」

 

 回避と同時に高く上空に飛んだ金時が手にした鉞を高々と振り上げる。

 黄金色の雷撃が金時の全身からほとばしり、黒雲に隠れた太陽の代わりとばかりにまばゆく輝いた。

 

 ナタクはそれを迎撃せんとするが、三昧真火をも吹き散らす神風を纏った矢が放たれてそれを牽制する。

 

黄金衝撃(ゴォォールデンッ・スパァァークッ)!!」

 

 そしてついに空の太陽が地上の太陽へと落ち、轟音と共に黄金の衝撃を轟かせた。




TIPS

【童子切安綱】
天下に五振りの究極の業物、天下五剣のひとつ。
大江山にて頼光が酒呑童子の首を斬った刀と伝えられている。
また、頼光の絆レベル10になると手に入る概念礼装でもある。
現実に存在する刀であり、国宝指定。東京国立博物館が所蔵している。



【頼光四天王】
FGOにおいて、実は金時以外の分身はどれが誰だかはっきりしていない。
渡辺綱を刀、卜部季武を弓、碓井貞光を槍、としてこの作品では設定してある。



【金時が何をしていたのか】
たぶん母には言えないこと。


k n o w l e d g e i s p o w e r .

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。