俺達はヒーローになれなかった。   作:名は体を表す

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こんな稚作にも誤字報告をしていただける大変危篤奇特な方がいらっしゃいました。この場を借りてお礼申し上げます。
誤字報告、良いですよね。誤字しないに越したことは無いのですが、誤字報告が来ると何故だか有名作家にでもなった気分です。重箱の隅を楊枝でほじくるとはこの事ですか。
無論、良い意味です。
さあ皆様も、是非とも重箱の隅を楊枝でほじくりかえしてください。

改めまして、通りすがりの読む人さん。誤字報告ありがとうございました。


ええ、賢者タイムって奴です。



手加減ができない。

 また、またやってしまった。ただ俺はアイを感じたかっただけだというのに。アイを確かめたかっただけなのに。

 ちがう、俺はこんな事をしたい訳じゃない。俺はこんな事をする為に生きているのではない。

 こんな、違う。いや、俺が、俺がやった。させられた。違う。見るな。止めろ。違う。俺じゃない。

 やめろ、やめろ。俺をそんな目で見るな。俺が、俺の、俺を、俺で、俺、おれ、お、おおおおおおおおおおお

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 見るな。触るな。近づくな。これが、鉄則。

 

 

 

 

 生まれは、何処か遠くの。遥か、遠くの。ゴミ捨て場だったような気がする。少なくともこんな平和な国では無かったのは確かだ。

 そこでは人が人らしく、なんて何の意味の無い言葉だった。力が全て。今日を生きるためならば親を殺し、兄弟を犯し、子供を切り売りする事など普通の事だった。奪い、奪われ、搾取される。それがここでの常識だった。

 そんな世界の中、俺の様な存在は異端だった。何故なら、俺はまだ子供でありながらも搾取する側の人間だったのだから。

 知識ある大人たちは、俺の個性を『神の如し力』と言った。

 何も知らない子供たちは、俺を『どうしようもない災害』のように扱った。

 

 それは、事実。それが、真実(ほんとう)。この法も秩序も無いゴミ山の世界で、唯一絶対の法律(ルール)が俺だった。

 

 今日奪う者側だった者は、明日俺に奪われる側に回る。今日奪われる側だった者は、明日俺に犯される。今日を生き残る為に必死にかき集めた食料を献上しようとも、ただ俺が不機嫌だった。それだけの理由で未来を奪われる。

 ゴミ山の外から来たマフィアだろうが、自称ヴィランだろうが、似非ヒーローだろうが、俺の前には等しく同じ。嘗ての栄光も、全てこのゴミ山と同義。使える物は、蟻に集られるが如く細かく、細かく切り分けられ、持ちだされた。マフィアの持っていた銃器。自称ヴィランのサイフの中身。似非ヒーローのコスチューム。全て、ゴミと化し、資源と化す。

 

 

 

 

 目を合わせるな。考えるな。逃げろ。それが、道理。

 

 

 

 

 そんなある日、唐突に。『ゴミ山』が綺麗に無くなっていた。

 ガスやヤク臭かった通りも。汚泥や糞尿が垂れ流しだった川も。大型機械や生ごみ、死体等が積み重なって出来た山も。

 全て。

 全てがあっという間に消え去ってしまった。

 残ったのは、大きな建物と、真実(ほんとう)のヒーローの輝く笑顔だった。

 

 大きな建物は、学校と言うらしい。そこでは毎日のように新しい事を学び、自らを育て、未来を創る場所の様だ。

 日々、その日を生きる事だけを考えていたゴミ山の住人は、紙切れに書かれた問題に頭を悩まし。

 日々、強者を出し抜く事だけを考えていた弱者は、自身の成績を上げるために努力し。

 日々、暴力を振るって奪う事しかしなかった強者は、自らで造り上げる事の喜びを知った。

 もう、其処には嘗てのゴミ山に生きた者は居なかった。

 もう、其処には嘗てのゴミ山に存在した法律(ルール)は居なかった。

 

 

 

 

 迷うな。戻るな。抵抗するな。あれが、摂理。

 

 

 

 

 異質で異端だった俺は、暴力を振り撒く事しか知らなかった。暴力を振り撒く事しか出来なかった。

 異質で異端だった俺は、初めて奪われる側に回った。

 全てのゴミ山の住人が力を合わせ、知恵を合わせ、心を合わせた。力こそ全て……。嘗ての常識は、新たな時代の流れに敗北した。

 それは、討伐譚。皆が勇者の、英雄譚。永遠に語られるお伽噺のように、『めでたし。めでたし。』で綴じられる物語。

 

 だが、視点を変えれば、それは破壊と滅亡の序章だった。

 

 ゴミ山が消え、嘗ての常識など通用しない世界に放り出された。ゴミ山の荒神は、所詮井の中の蛙に過ぎなかった。

 そこでは、ゴミ山以上に人の命が軽かった。

 

 身体が硬くなる者は、考える盾程度の道具。

 身体から火を出す者は、喋るマッチ程度の扱い。

 身体が爆発出来る者は、足の生えた砲弾程度の消耗品。

 

 様々な、『便利程度な個性持ち』を孕み、培養し、消費する。

 たった一人の、悪魔のような人間によって引き起こされた紛争地帯に俺は投げ出された。

 

 

 

 

 求めるな。崇めるな。与えるな。どれが、真実(ほんとう)

 

 

 

 

 そこは、そこでは、暴力は万能な解決策ではなかった。数ある内の手段の一つだった。数ある内の手段の一つでしかなかった。ただ、その程度のあつかいだった。

 数多もの人間(道具)と戦い、数多もの人間(消耗品)を殺した。それでも一切尽きることなく、人間(ゴミ)は補填され続ける。

 俺は、暴力以外の手段を取るべきだった。しかし、俺は暴力以外の手段を取れなかった。

 殺し、壊し、人間(ゴミ)の山を築き上げても、尚殺し、壊し。

 砕き、砕かれ。穿ち、穿たれ。崩し、崩され。そして、そして。

 

 

そして。

 

 

そして、どうなったんだっけ

 

 

 

 

「僕に捕まったんだよ」

 

「フフ……。個性は環境によって磨かれていく。良くも、悪くも。君の事はゴミ山に居た時から知っていたよ。僕が作った、ゴミ山の世界はどうだったかな?」

 

 眠い。だが意識は失わない。辺りは透明な緑色の液体で満たされ、その中で俺の世界は逆さに存在していた。

 身体を動かそうにも、粘性が感じられない液体に囚われて動けない。否、囚われてるのは、自分。

 

「せ、先生……いつの間においでなすったの……ですか」

「やあ、ドクター。解析は順調かい?」

「え、ええ。この……コイツ、恐らく複数の個性を宿してるのではないかとの……見解……が」

「……へえ?」

「え、あ……いや。まだそれがコイツの個性が持つ特性なのか、例の魔人による異常環境の所為かは判別できてない……です」

 

 眠気の所為か、ぐらりぐらりと視界が揺れる気がした。だが、この液体が口に入る度に半覚醒状態にまで引き戻される。動けない。自分。

 

「そうか。ならば、この子が今持っている個性を判明しているだけでいいから説明してくれるかい?」

「は、はい。まず、増強系と思われる身体機能の向上。計算上、元の力から20倍~75倍まで強化されるようです。また、強力な力にありがちな反動も一切見られません」

「シンプルな強化系かな?にしては随分と強化倍率が高いね」

「え、ええ。元が子供の身体だとしても、この強化率は異常です。デメリット有の増強型ですら10倍程度が良い所。ま、判明している中での話ですが……。そ、そして次に、あらゆる攻撃を通さない強靭な鎧を生成することが出来、ます。まだ完全に分析は終わってないで、すが、色々試して、熱、衝撃、強酸、電撃、洗脳波、どれも一切通しま、せ、ん。まあ、この研究所で用意、出来る程度の火力なのでお察しレベル、です、が」

「なるほど。勿論個性による攻撃も試したんだろうね?」

「勿論、です。分解、結晶化、爆発、何も通しませんでした」

「へぇ、それだけでもぜひ欲しいなぁ。他には?」

「あ、ほ、他には重火器を生成する事も出来るみた、いです。重歩兵用の機銃から、航空機や戦車等に装備されるようなチェーンガン、果ては古式から最新式の大砲まで生成する事が可能、です。但し、先ほどの鎧を先に生成しておかねばならないようで、その鎧から離れてしまうとグズグズに溶けてい、きます」

「ふぅん。ゴミ山に居た時にはそんな個性は使ってなかったが……」

「そ、それと。コイ、ツは恐らくですが、擬似的な不死である可能性、が、ありま、す」

「……へぇ?」

「今日で、五日目で、すが……アイツはあの状態から、一切の呼吸もせず、食事もとらず、生存反応を示して、ます。アイツの体細胞を採取出来れば調査も捗るのですが、アイツの鎧の所為でそれも不可能でして……」

「なるほど、なるほど。死なないから、不死。って事か」

「はい……」

 

 動けない、動けない?動こうと思えば動けるのに?動かない?動く?動く、動く。

 

「い、以上が判明した個性で、す」

「そうか、そうか。うん。良い。実に素敵だ。まさに無敵の個性じゃないか。この個性があれば簡単にあの怪物を手中に収められる。フフ……」

「あ、の怪物……まさか、魔人に手を出すのですか……?」

「ああ。幾らでも兵隊を創り出せる個性。遊ばせておくのは勿体ないだろう?そういう個性は悪の支配者()にこそ相応しい」

「しし、しかし魔人に手を出したら大いなる災いが……ヒィッ!」

「……フフ。ドクター、君はいつから僕に意見を言えるほどに偉くなったのかな?」

「おおおお許しくださいッ!!」

 

 動く。動く動く。動く動く動く動く動く。

 透明な緑色の液体を壊し、透明なガラスを壊し、近くのゴテゴテした箱を壊す。

 

「おや、起きたようだね」

「ばば、馬鹿なっ!?象すら眠らせる強力な催眠剤だぞ!?」

 

 眩暈は無い。身体は万全。なら、後は。なら、やる事は。

 暴力。圧倒的な暴力を振り撒くだけだ。

 一歩、踏み出す。暴力を、纏う。

 

「……ほう、それが鎧か。中々……」

「あわ、わわわわ……」

 

 一人、無様にも腰を抜かし、這いずる様に、逃げ出す。

 アイ。

 そこにアイを感じた気がした。

 その感覚を確かめるために。その感覚を刻む為に。

 

 腕から機銃を取り出した。

 

 破壊と血霧を振り撒く恐慌の音。暴虐なる科学の力。殺意と悪意の塊。

 現代の技術により造り出された、殺すためだけの兵器は。

 ただ一人の男によって止められた。

 

「はっ、はっ、はっ、先生……」

「ん?ああ。君が死ぬと僕が困るんだ。早く逃げてくれないか?」

「あっ、はっはい!」

 

 アイ。アイ。

 この男からもアイを感じる。

 

「さて、どんな攻撃も効かない、か。ならこの個性ならどうかな?」

 

 そう言って男は手のひらから小さな爆弾を造り出し、放り投げた。

 アイ。アイ。

 こんなモノが俺に効くとでも?手を突き出した風圧で爆弾を押し返す。だが風圧が爆弾に届く前に爆発。

 所詮こんな爆竹程度

 

 

「ふむ。このテの個性なら通用するようだね」

 

 何が起きた。

 身体が動かない?否、動きはする。動きはするが、あまりにも遅い。遅すぎる。

 

「『遅延爆弾』なるほど。効果も範囲も弱すぎると思ったが、こういった相手に当てられたなら丁度いい位か。だがやはり使いづらいな。誰かにあげるか」

 

 アイ。アイ。

 アイ。アイ。

 機銃を男に向けようとするが、余りにも遅く。

 拳を突き出そうとするが、余りにも遅く。

 悠々と男は俺の頭を掴んだ。

 

 

「君の個性。僕に渡しておくれ」

 

 

 俺の中からナニカが引き出される。

 俺の中からナニカが持っていかれる。

 また。

 

 また俺は奪われる側に回るのか?

 

 アイ。

 アイ。アイ。

 

 

 

 哀。

 

 

 

 あんな惨めな思いをするのは嫌だ。

 あんな惨めな思いをするのはもう嫌だ。

 あんな無様を晒すのは嫌だ。

 あんな無様を晒すのはもう嫌だ。

 嫌だ。

 嫌ならどうする。

 嫌ならどうする。

 

 奪え。

 奪え奪え。

 奪え奪え奪え奪え奪え奪え。

 

 

 

ソレは、俺のだ

 

 

 

「っ!?」

 

 見るな。触るな。近づくな。これが、鉄則。

 

「……馬鹿な。僕の個性が()()()()だと?」

 

 目を合わせるな。考えるな。逃げろ。それが、道理。

 

「だが途中までは確かに個性を奪う感覚はあった」

 

 迷うな。戻るな。抵抗するな。あれが、摂理。

 

「綱引きで綱が断ち切られたかのように。僕の個性から逃れたっていうのか?」

 

 求めるな。崇めるな。与えるな。どれが、真実(ほんとう)

 

「……だけど、まあ……()()()()なら奪えたようだ。ハハ、中々に新鮮な感覚だよ」

 

 抗いようの無き力の神髄を見せよう。

 

「なるほど、なるほど。この()は面白い個性だ。まるで肌そのものの様に馴染む」

 

 抗いようの無き神の御業を見せよう。

 

「そしてどんな攻撃も効かないというのも嘘じゃなさそうだ。良いね」

 

 破壊の神。そして、奪掠の神。

 

「個性が弾かれるというのなら、何度も、何度も。削る様に奪ってあげよ

 

 破壊の右腕。鎧越しに男の顔に叩きつける。火薬が炸裂したかのような音を立てて男を殴り飛ばした。

 がしゃりがしゃりと鳴り、無惨に砕け散った鎧。

 額からどくどくと血を流し、ふらりふらりと壁に手を付きながら立ち上がろうとする男に向けて、右腕から火砲を準備、装填する。

 

「ぐぁ……な、何故……。『ダメージ吸収』の上から堅牢な鎧を着てて、尚この威力とは……。ぐぅ……完全に見誤ったね……」

 

 破壊の力を前に、如何な壁も如何な盾も意味を成さない。

 哀。哀。

 愚かな罪人は無惨に砕かれる。火砲、発射。

 

「っ!『飛来物反射』!」

 

 弾が反射され一直線に戻ってくる。しかし弾を片手で掴める程度には減速していた。

 

「はっ、はぁっ、やってくれたね。この借りはいつか返すよ……」

 

 何かを引き寄せるような動作をした。逃げるつもりか。

 哀。哀。

 奪掠の左腕。空間を、時間を、奪う。

 瞬きの間も無く、間合いはゼロになった。

 

「な」

 

 何か、意味のある単語を言う間も与えず、左腕を叩きつけた。

 砕いた鎧を奪い返し、更に何か見えないモノも奪った。

 

「が、は……」

 

 そう。呼び起こすのも忌々しい記憶の中。

 そう。書き起こすのも忌々しい記録の中。

 嘗ての戦場では、無限に涌き出る人間(ゴミ)から無意識にかき集めたゴミ(資源)で生き永らえていた。

 嘗ての戦場では、無限に涌き出る人間(ゴミ)から無意識にかき集めたゴミ(資源)で戦い続けていた。

 使える物は、全て使った。武器、防具、道具、そして個性。

 使える物は、全て使った。自身の肉体、精神、そして個性。

 使って、使って。使いつぶして、使いつぶして。

 

 後に残ったのは、砥石で研いだかのように鋭く、限界まで圧縮された自分だけだった。

 

「う、おおおおおお!!」

 

 目の前の男が、歪な膨張、歪な変容を遂げた。その右腕は、自身の身体よりも太く膨れ上がり、所々に歯車のようなパーツが繋がれていた。

 

「『瞬発力×3』『膂力強化×2』『肥大化』『発条筋』!キミは、ここで、殺す!!」

 

 哀。哀。

 醜く、無様で、何より、惨め。

 その姿のように、あらゆる個性をただ奪っては肥え太らせていくだけの存在は実に、哀れ。

 腕を振りかぶる。その緩慢な動作も涙を誘う。

 哀、哀。

 破壊の、そして奪掠の、右腕。黒く、昏い鎧を纏い、紅く、煌く軌跡を残し。

 哀。哀。

 肥大化された殺意の右腕が振り下ろされた。肥大化されたが故の遅さで。鈍重さで。

 そして俺は、破壊と奪掠の右腕を振り上げ、振り下ろした。不要なモノを削ぎ落し、圧縮し、磨き上げた速さで。敏捷さで。

 

 腕と腕がぶつかり、俺の圧倒的な破壊力で、止めることのできない巨大な力で、男を、研究所を、その周囲一帯を。

 全て、叩き潰した。

 

 

 

 哀、哀。

 俺が居た場所は、さながら核ミサイルでも落ちたかのように地面が抉れ、辺りの殆どを塵にした。

 しかし、いくら辺りを探せども、見つかるのは粉々に吹き飛んだ研究所の破片と人間の物と思わしき複数の部位だけだった。それだってあの男の物と思わしき物は見つかっていない。塵すら残さず消し飛ばしたとは思えない。きっと逃げられてしまったのだろう。

 哀、哀。

 全てを壊し、全てを奪う無慈悲な力。あの男は、俺が何時か奪う者リストにでも書きこんでおこう。

 全てを壊し、全てを奪う無慈悲な力。あの男は、あの女の名の横にでも書きこんでおこう。

 哀、哀。

 俺が奪うまで、精々生き残れ。

 止めることなど出来ない巨大な力、破壊の神の化身。『ジャガーノート』が奪いに行くまで、精々生き残れ。

 哀、哀。

 

 

 哀。哀。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 それから、二年。裏の世界からあの男が消えた。だが、きっと未だに生き延びている。奪った『勘』がそう告げた。

 そこから、四年。永き紛争は終焉を迎えた。だが、あの女にも逃げられた。決して浅くはない深手を負わせたが、きっと近いうちにまた世界を混乱に陥れるだろう。俺の『勘』がそう告げた。

 そうして、一年。あの男も、あの女も。この島国の何処かに身を隠している事を突き止めた。今思えば、あいつ等はどちらもこの国の言葉を使っていたような気がする。多分、恐らく。奪った『言語』は滞りなくこの国にも馴染んだ。ならあとは闇から闇へ、あいつ等にトドメを刺すだけだ。

 そうして、三ヵ月。俺は……。

 

 そう、俺はただ哀を感じたかっただけだ。いつものように奪掠を繰り返し、無様を晒す愚か者を嘲笑うだけの行為だった。そのはずだった。

 狂いだしたのは、あの男に出会った時だ。

 運命が捻じ曲がったのは、あの男に出会った時だ。

 

「キヒッ!よう『ジャガーノート』。こんな闇夜に何処に行く気だ?」

「……『悪食のダークサイダー』。何の様だ?」

「あぁ?なんでお前が俺の事を知ってるんだ?少なくとも表じゃ派手に暴れてねえんだが」

「わざわざ俺に色々喋る『目』と『耳』がある。うっとおしいが便利なモンだ」

「けっ、ガイジンに接触する物好きも居るもんだぜ。まあ良い……お前、俺の元に来い」

「……あ?」

「『ジャガーノート』。界隈じゃぁ大人気じゃねえか、ああ?『工場』を仕留め、その力は一個旅団を凌ぐ戦闘力。どんな攻撃も効かないと言われる堅牢な鎧に、戦闘機に搭載するようなバルカン砲を隠し持ち、三機を振り回しながら掃射できるだけの怪力を持つ。なあ?」

「……」

「キヒヒッ!言葉にすりゃあなんて馬鹿々々しいんだろうな?ぼくのかんがえたさいきょうのこせいでーす、ってかぁ?だけどよぉ、何より馬鹿々々しいのは、さっきの話が事実って事だ。違うか?」

「……」

「そんなお前が俺の下につけば俺の組織にも箔が付くってもんだ。よぉ、オマエが何でこの日本に来たのかは分かんねえがよ、きっと俺の下に来ればオマエの目的も達成しやすいぜ?諜報に長けた奴も居る。機動力に長けた奴も居る。お前に無いモンを持ってる奴が居る。どうだ?悪い話じゃねえだろ?」

「断る」

「……はぁ?」

「俺は欲しい物は自分の手で奪う。施しなんてゴメンだね。施す奴をぶっ殺して奪うのが俺のやり方だ」

「……ほー」

「そして俺に無いモンを持ってる奴が居るってんなら、奪い取るまでだ。なあ?」

「……キヒッ!交渉不成立かい、ざぁんねん。ま、いいよ。来ないんならそれで。ありゃ便利な駒だろうが、なくても計画に差し障りねえしよ」

「……計画?」

「お?気になるか?良いぜ別に、教えても。そんな内緒にすることじゃぁねえし。だが路地裏とは言え大声で言う事でもねえ、ちょい耳貸せ」

「……」

「そう、俺の計画。それはなぁ……」ぽん

 

「この世界に絶望と悪意をただ振り撒くだけだ」

 

「っ!?これ、は……!?」

「キヒッ!キヒヒッ!!()()()()()()!?俺の通り名は知っていても俺の個性は知らなかったか?それともその無敵の鎧で慢心しちゃったかぁ?まあ何でもいいさ!お前が更に欲望を解放し、恨みを増幅して暴れまくればそれでいいさ!」

「グっ!?あっガッ!?」

「どうだァ?テメエの個性が書き換えられていく感覚はよぉ?テメエの欲望が解放されていく感覚はよぉ!?精々派手に、盛大に!大暴れしろや!!」

 

 キヒヒャハハハ!と大笑いしながら闇に消えていく悪食。だがそんな事に気を払う事など一切できなかった。

 哀、哀。哀。哀。

 俺が、俺自身自覚しなかった欲望が湧き出てくる。

 俺自身想定できなかった欲望が溢れ出てくる。

 哀、哀、哀。哀。

 違う、俺はこんな事がしたい訳じゃない。

 違う、俺の本質はコレじゃない。

 俺は、ゴミ山の王であり、神。

 俺は、破壊の王であり、奪掠の神。

 俺の本質は、ゴミ山の支配者。

 全てを塵に還し、全てを奪い、全てを破壊する。

 俺は、俺は。俺は?

 哀、あい。アイ。アイ。

 違う、俺はアイを感じたいだけだ。

 違う、俺はアイを確かめたいだけだ。

 破壊も、奪掠も、手段でしかなかった。

 暴力は、アイを彩る手法でしかなかった。

 アイ。アイ。アイ。アイ。

 違う、俺は。

 違う、俺は。

 

 

 キャアアアアア、と闇を引き裂く悲鳴。絹を裂くような悲鳴。

 違う、俺は。

 頭と身体と心が全てちぐはぐ。だというのに勝手に体は悲鳴の元へと跳んで行った。

 そこには、左肩から血を流す妙齢の女性と、全身から鋭いアイスピックの様な物を生やした男が居た。

 

「ひぃ、嫌ぁあああ!!」

「いひ、ひ。大丈夫、大丈、夫。痛いのは始めだけ、痛いのは始め、だけ。すぐ、昇天する、よ。ひ、いひ」

「助け、誰か助けて!!!」

「血、血良いねぇ。キミ、良いよぉ。もっと、紅く。もっ、と、朱くなれ」

 

 アイ。

 アイ。

 俺は、

 俺は。

 おお、

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおお

 

「いひ、ひ?誰だ、おま、え。邪魔す」

「黙れ」

 

 漆黒の地に赤い線の入った(右手)を、振るう。それだけでトゲごと男を粉砕した。アゴの骨を砕いた感覚はあるが、まだ生きているだろう。

 

 俺は、なぜ今拳を振るった?

 

「あ、ああ……ありがとうございます!」

「……あ?」

 

 ありがとうございます。アリガトウゴザイマス?

 アリガトウゴザイマスってなんだ?

 分からない。ワカラナイ。

 

 アイ。

 

 アイ。

 

「ヒーローです!大丈夫ですか!?」

「あっ!貴方は、マニュアル!」

 

 アイ。

 

 アイ?

 

「っ!君が、コレをやったのか!?」

「ち、違うんですマニュアル!この人は私を助けようと!」

 

 アイ?

 

 これはアイじゃない?

 

「……とりあえず、すぐに救急車を呼びます!先ずは貴方の止血からやりますので落ち着いてください!」

「マニュアル!この人は私を助けようとしただけなんです!」

「……大丈夫です!悪いようにはなりませんから」

 

 アイじゃないなら、この気持ちはなんだ?

 違う、俺がしたかった事はこんな事じゃない。俺は、俺は。

 あ、哀、あい、アイ、あい。

 

「……君、少し話、良いかな?まずは、この女性を助けてくれてありがとう」

 

 タスケテクレテアリガトウ?なんだ。なんだ?その言葉が理解できない。理解できない。できない。

 

「それで、多分その鎧が君の個性……なのかな?街中での個性使用は本当はいけない事なんだけど……」

 

 アイ、あい。合い。会い。遭い。相。あ、あ。あ。

 

「それでも、暴漢から女性を守った事は事実だ。警察に一緒に行くことになるだろうけど……厳重注意で済む……と、思う」

 

 やめろ。そんな目で俺を見るな。止めろ。止めろ。

 

「だからもう少しここで待機を」

 

 止めろ!違う!違う!!

 

「あっ!ちょ、君!!」

 

 違う!違う!これは俺のしたい事じゃない!これは俺がしたい事じゃない!!

 頭も、心も、何一つ合致しないが、それでも身体が勝手に動く。建物の壁を蹴り跳び、その場から逃走した。

 俺は、俺はゴミ山の王で、破壊の神で、奪掠の化身で。それで、それで、暴力の使徒だ。

 違う、俺は、俺が本当にやりたかったことはこれなのか?俺が本当に成し遂げたかったことはこれなのか?

 俺は、俺は悪。俺は、俺は。

 

『もう大丈夫!私が来た!!』

 

 唐突に思い起こされる、真実(ほんとう)のヒーローの笑顔。

 俺の全てを、一切合切を。

 何もかもを吹き飛ばして、世界をひっくり返してしまった英雄の笑顔を。

 俺は、

 

 俺は。

 

 

『私のこの力だって、ただの暴力に過ぎない』

『だけどこうして、ヴィランを倒す事で人々を笑顔にすることが出来る』

『キミは、どうだ?』

 

 

 ああ、俺は。

 

 俺は、どうしようもなく愚かで、どうしようもなく醜く、どうしようもない程に哀れだった。

 

 アイ、哀。

 

 

『今は戦うことしか出来なくても、これから他の事を覚えればいい』

『それでも、戦うことしか出来ない時は、誰かの為に戦えばいい』

『君の言う通り、この世はまだまだ弱肉強食がまかり通っている場所が多いからね』

『でも君が弱い人を守れば、戦うことしか出来なくても世界は変わっていくんだぜ?』

 

 

 

 俺は、どうしようもなく愚かで、どうしようもなく醜く、どうしようもない程に哀れなんだ。

 

 アイ。哀。

 

 でも、そんな俺でも。

 

 

 

『少年!君にもきっと、いずれ守りたいと思える誰かが出来る!』

『君にもきっと、いずれ守りたいと思える世界が出来る!』

『だから大いに学べよ、少年!』

 

 

 

 どうしようもなく憧れた輝く笑顔があるのだから。

 

 アイ。愛。

 

 オールマイト。俺には未だに守りたいと思える誰かがいません。

 オールマイト。俺には未だに守りたいと思える世界がありません。

 それでも、それでも。

 

 ヒーロー(あなた)の真似事をしても良いですか?

 

 

 オールマイト。俺の両手はもう、洗っても落ちない汚れに塗れてます。

 オールマイト。俺の全身はもう、洗っても落ちない返り血に塗れてます。

 それでも、それでも。

 

 英雄(あなた)の真似事をしても良いですか?

 

 

 俺の過去は、きっと誰よりも汚れて醜いモノなのだろう。

 未だにゴミ山を引きずっている俺にロクな未来は無いのだろう。

 汚れて、傷んで、歪んで、腐って。道を何度間違えたか分からなくても。

 原点(オリジン)を思い出すのがあまりに遅くても。

 それでも意地汚く、救いようもなく。

 無様に。愚かに。ただ、唯一残った憧れを大事に抱き続けて。

 戦うことしか出来ない化け物が、英雄(ヒーロー)の真似事をするだけ。

 

 ただそれだけの、救いも、未来も、なにも無いお話。

 

 

 




書きたい事書きなぐったら支離滅裂になった。よし、寝よう!


『ジャガーノート』

??歳 男

個性:ジャガーノート

 怪力、強固な鎧、兵器作製、擬似的な不死、あらゆる物を奪掠する等の様々な個性の複合体。
 生まれつきの個性は強固な鎧と奪掠の力だけだったが、当時ゴミ山一の怪力個性持ちから()()奪掠した結果、ゴミ山で神の如く崇められる(当然荒神だが
 その後『魔人』が起こした紛争地帯に放りだされ、『魔人』の手駒から奪掠し、使いつぶしを繰り返した結果個性が洗練されていき、異常な強さを手に入れた。
 オールマイトに憧れるも、環境によって歪められた悪意で育ち、国際指名手配される程に悪名を轟かす。
 その戦闘力は軍事国家の一個旅団を凌ぐとか。きっとスペックだけならオールマイト殺せる。

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