俺達はヒーローになれなかった。   作:名は体を表す

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強くなければヒーローにはなれない。

 太陽の光なんて届かない地下の地下、暗いというより黒いと言った方が正しい様な闇の底。

 そんな場所に一人の女が居た。

 歳は18。肌は病的なまでに白く、髪もまた一切の色素を捨てたかの様に白かった。

 身長程もある白い髪は一切の手入れがされてなく、彼女の服もまた、ゴミ捨て場で拾ってきた服をそのまま着続けているかの様にボロボロで汚かった。

 彼女位の歳ごろならば、そういった身だしなみには敏感なはずだ。ましてや、生(・)半(・)可(・)な(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)よ(・)り(・)も(・)稼(・)い(・)で(・)い(・)る(・)のだからそれこそ選り取り見取りだろうに。

 しかし彼女は、そんな事はどうでもいいといった顔でこちらを見続けている。

 この暗い、昏い部屋の中。蝋燭一本分の光が不気味に揺らめいている。そんな部屋の入口に何時までもつっ立っている人間に、いい加減痺れを切らしたのだろう。コツン、と机を叩いて目の前の椅子に座るよう催促する。

 ちらりと見えた手は骨と皮ばかりで、その身体には余計な肉どころか必要な肉すら無い事が容易に予測出来て。こんな女を抱いても面白くないだろう…と、この状況で酷く的外れな事を思った。

 

 女は、こちらを見続けていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 昔、昔の出来事。

 世界に超常が現れ出した時の事。

 日本中で、或いは世界中でまことしやかに囁かれていた都市伝説がある。

 曰く、この超常、今で言う”個性”を人に与える”神”がいると。

 曰く、神、妖怪、怪物。全ては元々人間が起こした超常であると。

 曰く、人間だけでなく、昆虫、動物、もしくは大地までも超常を発現していると。

 

 曰く、過去を塗り替える人間がいる、或いは、未来を書き換える人間がいる と。

 

 これらは全て荒唐無稽な話だった。しかし現在に至ってどうだ?

 ”個性”を奪い、与えることで人を支配する”悪”が居た。

 殺しても死なない。姿が見えない。空を飛ぶ。そんな”個性”持ちが居た。

 生きる為に人里から食料を引き寄せた”個性”持ちの動物が居た。

 ならば、そう、ならば。

 

 世界の理を書き換える、まさに神の所業たるチカラを持った人間がいたって不思議ではないだろう。

 

 そして、そんな強大なチカラを持った人間が、果たして善となるか、悪となるか。簡単に予測がつくだろう。

 

 武力、知力、財力

 これらは生物学的な意味で生きる上には必要が無い。

 だが、人間社会で生きる上には一切欠かすことが出来ないモノだ。

 武力、社会には突発的な理不尽が時として襲い掛かる。人間として尊厳のある生き方をする上で、最低限の防衛力を持たない者は奪われるだけだ。

 知力、社会は無知な者に非情である。他人に弱みを知られてはいけない。社会は、弱みを見せた人間に容易につけこめる様に出来ている。

 財力、社会に生きる上で最も重要な物とは結局金である。金が無い者を社会は忌み嫌う。金があれば防衛力を買える。金があれば知識に変えられる。そして、金があれば社会に対して発言力が増すのだ。

 それぞれ、社会に生きる上で不可欠な力だ。

 だが仮に、もし仮に、それぞれの力を過剰に持った人間がいるとしたら?

 武力を過剰に持った人間が自らの力に酔いしれ、誰にも止めることは出来ないと暴虐の限りを尽くすかもしれない。

 知力を過剰に持った人間が知恵を働かし、誰にも解く事の出来ない最悪な完全犯罪を考え、実行に移すかもしれない。

 財力を過剰に持った人間が金を動かし、社会の在り方を変える巨大な組織を作り上げて、自らの行いのみを完全な合法として悪逆を尽くすかもしれない。

 過剰な力を持った人間は、更に過剰な力を持つ人間にしか止めることは出来ない。

 そう。

 その構図は正しく現代のヴィランとヒーローの構図そのものだ。

 力ある者だけがヴィラン、或いはヒーローとなり生き続ける。

 力無き者がヴィラン、ヒーローを名乗ってもすぐに淘汰される。

 弱肉強食、自然の摂理、世界はそうして回っている。

 

 もし、もしも。

 もしも強大な力を持ち、だけれどヴィランとも、ヒーローとも名乗らない者が居たとするならば。

 その者は果たして善か、悪か。

 

 簡単に予想がつくだろう?

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 私は生まれつき身体が弱かった。脆弱だったと言ってもいい。

 同世代の子は外を走り回ることが出来るのに、私の身体ではそれが出来ない。

 同世代の子はご飯を一杯食べるのに、私の身体は殆ど食事を受け付けない。

 同世代の子は同じ世代の子と一緒になって遊びまわるのに、私がその輪に入る事はない。

 偉そうな医者が言うには、内臓の殆どがダメになっているそうだ。

 生きる上で必要な内臓がほぼ使えず、しかしそれでも生き延びれる身体は正しく生命の神秘である、そう言っていた。

 下らない。そう思う。

 生命の神秘?ただ呼吸をする為だけに生きるこの身体に何の意味があるというの?

 無駄という言葉が最も当てはまる様なこの身体に、どんな意義があるの?

 生き延びる。正に言葉通り、無意味に、無駄に、無価値に、延々と。

 ただ、息をするだけ。それだけで、10年。

 外を夢想し、かび臭い図書室の奥で外界に思いを馳せページを捲る。既に新しい知識を作りだす事の無い閉ざされた世界で過ごす事、5年。

 本物のヒーローをこの目で見て、世界が色に染まり、夢と希望を抱いた、1年。

 足掻いて、もがいて、1年。

 

 私は、やっぱりヒーローになれなかった。

 

 ヒーローになるには、この身体は脆過ぎた。

 ヒーローを目指すには、この身体は弱すぎた。

 ヒーローとして生き残るには、この身体は余りにも言う事を聞かなさ過ぎた。

 

 何処の世界に歩く事すら覚束ないようなヒーローが居るのだろう。

 何処の世界に戦いの場にすら立つ事が出来ないヒーローが居るのだろう。

 何処の世界に助けるはずの市民に助けられるヒーローが居るのだろう。

 ・・・いや、探せばそんなヒーローは居るのかもしれない。

 歩けないのなら、車椅子の様な物で駆けつける。

 戦えないのなら、別の所で活躍する。

 助けられたのなら、それ以上の数を助ける。

 そんなヒーローが私の知らない所にいるのかもしれない。

 だけれども。

 

 私の個性は余りにも強力で、だからこそヒーロー活動に全く向いていなかった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ようこそ、運命の部屋へ。ここは・・・」

「あー、大丈夫だ。ちゃんと紹介者から聞いてる。そして俺には時間が無い。さっさとしてくれるとありがたいんだが?」

「なら、先にチップを出しなさい。時間、ないんでしょ」

「・・・チッ」

 俺はポケットから純金の塊(チップ)を一枚掴んで出した。コイツに会うために半年、更に高額のチップを買わされたんだ。これでただの占い程度だったら殺してやる。

「始めるわ。私の質問には正確に答える事。そして、私の言う事は絶対。それがたとえどんなことでも。いいわね」

 余りにも機械的な声色に苛立ちを隠せない。だが、紹介者が言うにはホンモノらしい。こんな暗闇の中、蝋燭一本分の光しかない状況でスピリチュアルな体験に眩んだだけじゃないのかと思いもするが、今の俺には本当にこれしか無い。それほどまでに追い詰められている。

「まず一つ、終わるまで絶対に立ち上がらない事。二つ、どんな結果でも後悔しない事。貴方が望んだことよ、逆恨みも遠慮するわ」

「・・・」

 時間が無いって言ってんだろ。さっさとしろ。

 

 

「そして三つ、返事をしろ」

「っ!」

 

 

「聞こえなかったかしら?貴方の耳の穴を新しく開ける必要がある?」

「・・・結構だ」

「なんだ、マトモに喋れるのね。てっきり最初の一言で喉が塞がったのかと思ったわ」

「ッチ、クソアマが・・・」

「マトモに喋れても礼儀がなってないわね。嫌なら帰りなさい。止めやしないわ」

「てめっ・・・ぶっ殺すぞ!!」

 手のひらの中から銃を取り出す。俺の”個性”にかかれば身体検査なんて無意味だ。

 そのまま女の額に銃を押し当てる。

「良いからテメエはさっさと俺を占え!下らねえ茶番なんかしてる暇ねえんだよ!」

「・・・立(・)っ(・)た(・)わね?」

「あ”あ”?」

 

「終わるまで絶対に立ち上がらない様にって言ったのに」

 

 「だったらなんだあああああ!!!」

 

 俺は怒りに任せ引き金を引いた。

 バン。

 乾いた音と共に俺の腕が吹っ飛ぶ。

 

 ・・・あ?

 

 なんで俺の腕が

 

 腕が、腕が・・・無い?

 

「あ、ああああああああああああああああああああああああ!!」

「あーあ。身から出た錆って奴ね、自業自得とも言うわ」

「うううぅぅぅでぇぇぇぇがああああああああああああ!!」

「ま、これに懲りたらヴィラン活動なんて止めてマトモな職業に就職しなさい。その腕で働けたらの話だけど」

「あああああああああああああがあああああああああああああああ!!!」

「・・・」

「いでえよおおおおおおおああああああああああ!!」

 

 「五月蠅いわ」

 

「っ!?ぁ!!ッが!!っっ!!」

 息がっ!!?何で・・・!?

 

「あら、不(・)幸(・)に(・)も(・)飛び散った銃の破片が喉に刺さったのね。救急車を呼ぼうにもここは地下だし電波も届かないわ。困ったわね」

「・・・っ!ぁ・・・!ぅ・・・!」

 頼む!助けてくれ!助けてくれ!!死にたくない!俺はまだ死にたくないっ!!

「しかもこんな所に来る物好きなんて居ないから助けも呼べないわ。私も、こんな大の大人を地上に運ぶことなんて出来ないし」

「・・・!・・・・・・・・・!」

 死にたくない!嫌だ。

 

 

 しにたくない

 

 

 しにたくn

 

 

 

 

 あ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう死んだのね。残念だわ。貴(・)方(・)が(・)殺(・)す(・)は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)一万人分の苦痛を与えたかったのだけれども」

 

 まあ

 

 ま(・)だ(・)殺(・)し(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)別にいいわね。

 

 

 

 部屋から生命の気配が消え

 

 蝋燭の火が消えた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 私はヒーローになれなかった。ヒーローとして生き続けることが出来なかった。

 でも、良い。

 ヒーローになれなくても、ヒーローを目指さなくても。

 十分に、十分に生き続ける意味が生まれたのだから。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ただいま。終わったわ」

「ん、お疲れ様。ほれ給金」

「ありがとう。それとあの部屋掃除しておいてね」

「・・・なーにやらかしたんだよ」

「事(・)故(・)死(・)よ」

「・・・はぁー。めんど」

「掃除しないと不幸になるわよ」

「マジかー」

「それと例の整備終わってる?」

「とっくにな。何時でも起動できるぞ」

「っ、そう。やった!」

「あん?」

「ん”ん、何でもないわ。掃除よろしくね」

「へーへー。(何時もあ(・)あ(・)だと仕事し甲斐があるってんになー)」

 

 

「・・・行ったわね?」

 私はすぐさま機械に飛び込む。最新式のフルダイビング型のVR機だ。

「うぇへへへへ」

 おっと口から欲望が。まあいい。漸く、漸く私の生きる意味が戻ってくるのだ。もう何だったら口だけじゃなく全身の穴から欲望出そう。

「んふっ、うぅん。」

 機械が全身に接続される感覚。最初は気持ち悪いものだったが今ではコレが待ち遠しい。

「早く!早く!」

 ヘッドセットが取り付けられ、360度がVR画面となる。

 機械が起動し始め、画面が切り替わる。VR酔いしない様に開発された世(・)界(・)は眩しすぎず、暗すぎず、丁度いい光量に調整される。

 そしてゲーム選択画面。私は迷わずとあるゲームを選択する。

「待ってて私の王子様!」

 そのゲームとは、とあるオンライン乙女ゲーである。もうこれの為に生きてると言っても過言ではない。

 1週間。1週間も待ったのだ。きっと私は王子様と顔を合わせただけで絶頂出来る。そういう自信がある。脳汁どころか××汁出る。

「うぇひ、うぇひひひひひ!」

 さあ。いざ、ゲーム開始・・・!

 

 

 

 

 サーバーメンテナンス中・・・。

 

 

 

 

 そんなのぜったいおかしいよ・・・

 

 私は死んだ。そして、メンテが終わる時に復活するのだった。

 




??? ??

18歳 女

個性:未来操作

 目視した相手の未来を操ることが出来る個性。
 元々は未来を見るだけだったが、未来を変える事が出来ると知ってからは”個性”を鍛えだす。その結果、一度に見れる未来に限界が無くなり、未来を簡単に変えるコ(・)ツ(・)を掴んだ。今では望む未来をほぼ確実に引き寄せることが出来る。
 未来を視て事件を起(・)こ(・)さ(・)せ(・)な(・)い(・)ので、ヒーローとして活躍する事は一切なかった。


最強ってなんだろ?って考えながら書いたのは言うまでもない。
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