俺達はヒーローになれなかった。   作:名は体を表す

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名前隠してまで本編放置して息抜き小説書き続ける日々は楽しいか~い
^p^


派手だが如何せんヒーロー向きじゃない。

 午前7時。毎日毎日こんな時間に起きねばならん生活に嫌気が差す。二度寝がしたい誘惑をなんとか今日も振り払い煎餅布団から転がり出る。畳臭い。

 抜け出た布団を窓の手すりに干し、畳んでいたちゃぶ台を広げる。目やにがついている目を擦りながら洗面所に向かい顔を洗う。そのまま軽く歯を磨くのはもはや10年以上もの習慣になってしまった。

 口を漱ぎ終えたら台所に向かい朝食を作る。もはや何とも思わなくなってしまったが、少し前までは朝食を作ってくれる嫁でも出来ないかと夢想していたが、この歳では望み薄であろうか。この際顔や体形は高く望まないから料理上手な嫁……彼女……この際お隣さんでもいいから来ないだろうか。

 野郎の一人メシなんぞ特段マズくもなければウマくもない。食えればそれでいい。俺がもしも美食家か、或いはクックヒーローみたいな料理人だったのなら或いは違っていたのかもしれないが、生憎生まれも育ちも一般家庭と称するに値する程度の舌で育ったからか食に対する拘りなんてモンは欠片も無かった。ただ三食ゼリー飲料で済ます同僚程じゃないが。強いて言うならコンビニ飯は余り好みではない位だ。それだって偶にはコンビニで弁当だって買うし、カップ麺だって食う。つまりその程度でしかなかった。

 朝食を適当に済ませ、洗い物を少し急ぎ目で片づける。そうこうしているうちに午前8時半。朝食を作っている間や食べている間、つけっぱなしだったテレビのニュースによれば隣の県で酒呑童子と呼ばれるヴィランが大暴れしているそうだ。既に県庁が彼のヴィラン一人に制圧されてしまったらしい。ああ怖や怖や、頼むからこっち来るなよマジで。

 そうこうしながら仕事着に着替えて家を出る。ガス栓チェック、電気の消し忘れチェック、鍵締めチェック。もはや小慣れた作業にふと飽き飽きする。時々敢えて鍵を開けっぱなしにして家を出たい衝動に駆られる。衝動に駆られるだけで実行はしない。だってそうだろ?日々町中をパトロールしているヒーローの自宅が空き巣フリーパス状態だなんてシャレにならない上、マスゴミにでもバレたら面倒だ。しかも精々週刊誌の一部にちょろっと載る程度の記事だろう、売名行為にしたってショボすぎる。

 

 そう、俺はプロヒーロー『スポットライト』

 県外じゃ誰も知らない様な、ご当地ヒーローでも何でもない一般モブと何ら変わりはしないプロヒーローだ。

 

 

 

 

 俺はきっと、生まれつき運がいい方だった。兄弟3人、末弟として生まれ、大きな事故や病気に遭うことも無く、強いて言うなら頭を3針程縫う怪我をした事と水疱瘡になったことくらいか。それだって大きな不幸なんて物でもない、不幸自慢は出来そうだが所詮それくらいだろう。

 今の今まで家族にも大きな事故や病気なんて無かった。精々飼っていた猫が車に轢かれて死んでしまったくらいだ。悲しい事ではあったが、この程度の不幸なんて世界中どこにでもある事でもあった。

 俺はきっと、生まれつきの運は良い方だったんだろう。運よく近場の進学校に入学出来、運よく雄英の一般入試を潜り抜け、運よくヒーロー試験にまで合格し、そして運よくヒーローとして独り立ちをした。

 そこで、俺の運もきっと尽きてしまったんだろう。それ以降特に大した活躍も無く、日々町内パトロールをしている程度の仕事。ヒーローというのは歩合制。活躍すればそれだけ給料の方にも影響される。当然ロクな活躍も無い俺に支払われる給料なんて微々たるものだ。正直これなら近所の交番勤務のお巡りさんと何ら変わらない。やってる事も、給料も。

 ヒーローには副業も認められるが、ルックスに自信がある訳でも無し、個性が戦闘以外にも役に立つような万能性はほぼ無い(そもそも戦闘でもあんまり役に立ってるわけではない)し、知名度なんて皆無に等しい。同じ雄英出身の奴は、その雄英で教鞭をとっている上CM出演、ラジオ出演、そして本職のヴィラン退治と大活躍だというのに。

 早い話、自身の活躍では事務所を借りる事もサイドキックを雇うことも出来はしない。自身がサイドキックとして誰かに雇われるのも、自身の個性が余りにサイドキックとしてのチームワークよりワンマンプレー向きである事もあり勧誘されることも無かった。

 

 これで良いのか。ふと思う時がある。

 

 このままで良いのか。そう思う時がある。

 

 俺がまだ子供だった頃に憧れていたヒーローってのは、少なくとも今の俺みたいなうだつの上がらないサラリーマンの様な姿では無かった。もっとずっときらきらと輝いていた。オールマイトが常に笑顔で大災害から人々を救った様に。エンデヴァーが圧倒的な技量を持ってヴィランを制圧した様に。夢見た世界は派手な毎日だった。だが、今の俺はどうなんだ。派手なのは俺の個性だけで、そもそも大きな事故も災害も無いこの町をただパトロールしているだけ。一人暮らしの爺に会いに行ったり、保育園に顔を出し子供達の遊び相手となったり、薄暗くなってくる時間帯に公園で遊んでいる小中学生を家に送ったり。とても地味だが大事な事と続けられているのも、自分自身がこの活動に誇りを持っている訳じゃなく、いつかの同窓会にオールマイトが招かれた時、特に大した活躍の無い俺の小さい意地を守る為に口から出た地味な活動がオールマイトに褒められたってだけだった。

 周りがどんな凶悪ヴィランと戦ったかについて熱弁している最中、不意に俺に話の水を向けられたがプロヒーローとなりこの地で活動を始めてから一切の戦闘行為をしていない故にその手の話のネタは無く、かといってオールマイトの前で嘘が吐けるほど器用でも無かった俺はただ毎日の活動を述べる事しか出来なかった。周りの連中にはヒーローらしくねえなと大いに笑われたが、オールマイトはそう言った奉仕活動こそがヒーローの原点であると笑顔で褒めてくれた。連中の妙に居心地悪そうな顔はよく覚えている。

 だが、それでも。

 俺はもっと輝かしい活躍がしたい。

 もっと華々しい生活を送りたい。

 でも、俺には都内での凶悪犯罪に対する能力なんて無い。追跡能力なんてこの個性に求めるのは間違ってるし、戦闘能力だって俺より高いヒーローはそれこそゴマンといる。災害救助能力だって俺の個性に求めるのはお門違いにも程がある。結局俺が出来る事はこの派手な個性と、一般人より鍛えられている程度の身体能力で動き回る程度なのだ。その程度で、ある意味魔境と恐れられている都内でヒーロー活動するのは自殺行為だろう。正直、今のこの地でのヒーロー活動だって前任が偶々引退した直後に、偶々潜り込めたのだ。この世界は非情なまでにシビアで、ヒーローにもナワバリの様な物が存在する。オールマイトやエンデヴァーの様な規格外や実績に溢れる存在には関係無いが、特に実績も無い若造が考えなしにその辺にヒーロー事務所を建てると、その辺りの別のヒーローの面々が総出で、ネチネチと嫌がらせ染みた行為をする上、陰湿に排除してくるのだ。

 そう言う意味でも俺は非常に運が良かった。前任のヒーローは主にこの町の朝9時から夕方7時くらいまでがナワバリだったらしく、それ以外の時間はまた別のヒーローが出張ってくるのだ。そして、意外かもしれないがこの町は昼はとにかく平和だが、夜はそこそこの頻度で犯罪が起きるのだ。具体的にはコンビニ強盗やひったくり等の、言っちゃあアレだが良くある犯罪だ。そんな訳なのか、この町の昼のパトロールヒーローは俺以外に居らず、逆に夜になると夜行性のヒーローが活動しだすのだ。そんな彼等と要らぬ諍いを起こさない様に何時も日が昇って少ししてから活動を始め、日が暮れて完全に暗くなる前にパトロールを終了する。そんな毎日。

 現状より良くしたい。

 今をより良く変えたい。

 なのに、今より悪くなることを恐れ、何もしない。

 現状を維持する事に力を割いてしまう。

 俺は生きているのか、ヒーローとして。人として。

 いっその事諦めるべきなのだろうか。

 諦めて、ヒーローとは全く違う道を歩みだすべきなのだろうか。

 

 それでも、この個性で生きると決めたのだ。

 

 俺の個性は特段強い個性ではない。むしろ弱い個性だ。なにせ直接的な破壊力はほぼ零に等しい。だが、これは恐らくだが、俺の個性の影響範囲は世界一の広さを持ってるだろう。個性は身体能力だ。本来ならばその身体及びその周辺までにしか影響を及ぼさない。少し前、雄英体育祭で見た心操といった少年の個性も、恐らくだが自身の声が変質し、相手の脳波を操る様な物なのだろう。少ない例外は雄英の先輩、ベストジーニストだろうか。アレの有効範囲は少なくとも視界内だとは思うがどういう理屈で働くのかわからん。

 話が少しずれたか。そう、俺の個性の有効範囲、試したことは無いが、まず間違いなく全世界中に届く。少なくとも日本全域は確実だろう。試したことは無いが。

 長く勿体ぶったが、俺の個性はその名もずばり『スポットライト』。俺のヒーロー名と同じだ。捻りが無いってのは自覚してる。どんな力かというと、一帯を暗くして、俺だけにスポットライトが当たっているかのように光を集めるだけの個性だ。派手だが、地味だろう。

 だが、そんな派手で地味な個性が俺は好きだ。だからこの個性を毎日鍛えまくったし、その事を一切苦に思わなかった。その結果、俺は昼を夜に、夜を闇に、闇に眩い光を差しこむ事が出来るようになった。勿論、誇張無しだ。

 一度、個性を限界まで使おうとした結果、当時俺が住んでいた町が真っ暗闇に包まれる事になった。勿論真昼間にな。最終的にもの凄い厚みのある積乱雲が太陽を隠したからっていう説が信じられたが、事実を知るのはきっと俺だけだ。そしてその時の感覚でも、俺の個性は町一つ真っ暗にしても遥かに余裕がある感じだった。町全体分の太陽光を一身に受けた俺は、差し詰めレーザーに身を焼くかと思われるだろうがそんな事は無く、闇の中ド派手に輝いていただけだった。

 これは俺だから無傷で済んでるのか、他の誰でも無傷で済むのかは今となっては分からないが、俺のスポットライトの光の反射で敵の目を眩ませることが出来る事から多分俺だから無傷で済んでるのだろう。

 

 そう、俺の戦闘スタイルは光を集めて相手の目を眩ます卑怯殺法だ。人気が出ないのも頷けるなぁおい。そういうスタイルだからか、俺のヒーローコスチュームは大小のパラボラアンテナの様な鏡を全身に隠し持っている動きやすいジャージの様なデザインだ。正直、依頼するサポート会社間違えたと思ったね。だけどつくり変える金が無い上メンテナンス費用が掛からないこのコスチュームはマシな方なのではないかと思っている。

 

 

 なんで俺はこんなことを誰かに伝えるようにつらつらと考えているのか。それは、今の状況のせいであろう。今、俺の目の前には一組の男女が居る。今まで見たことの無い、異様で、異質な空気を纏うその男女はヒーローでも、ヴィランでも無い雰囲気を醸していた。

 

 

「こんにちは、ミスター。ご機嫌いかがかしら」

 

 

 車椅子に座った、襤褸切れの様な服を着た女が口を開く。肌は白く、その女の髪もまた、病的なまでに白かった。襤褸切れの様な服はよく見たら、嘗て毎日のように見ていた雄英の制服ではなかったか。

 

 

「あ、ああ……こんにちは。今日は……そう、いい天気……だな……」

 

 

 口が急激に乾いていく。今すぐにでもこの場から逃げ出したい。だが俺のなけなしのヒーローとしてのプライドが、この場からの無意味な逃走を許さなかった。

 ソレを察したのかは分からないが、ニコリ、と。或いは、ピキリ、と。笑顔を作る。怖ろし、恐ろし。

 

 

「貴方の独白、中々に興味深かったわ?ねぇ、この服、良いでしょう。私の憧れだったんだけど、どうにも。私には正規の手段で手に入れることが出来なかったのよ。ねぇ、どう思う?」

 

 

 この骨と皮だけの女から目を放すことが出来ない。それは男女間の甘い雰囲気を持つアレではなく、もっと原始的な。生きるか死ぬかの境界に立たされた、天敵が真正面に存在するかのような、捕食者が口を開けて襲い掛かる直前かのような。そんな刹那の刹那、生き残る事に全集中力を掛けるかのような。

 

 

「そ、う、だな……似合っては……ねえな。その服はもっと……生命力あふれた……未来に向かって全力で走るような奴にこそ良く似合う」

 

 

 何を言っているのだ俺の口は。正直に話してこの女の不興を買ったらどうする。媚び諂い、おだてて気分を良くさせた方がいいんじゃないか。

 

 

「ふふふ、そう。そうね。確かにこの服は貴方の言う通り、健全で自信あふれる子が着るべきなんでしょう。私もそう在りたかったわ。だから、そう。憧れなのよ、私の」

「……そうか」

 

 

 よくわからないが、恐らくさっきの言葉は間違いでは無かったのだろう。冷汗が背中を伝う。一つ間違えてしまえば自身が死ぬかもしれない綱渡りに突然投げ出されたようだ。

 

 

「ふふ、そう、そう。貴方にお話があるのよ。ミスター」

「……俺に、何の用だ?」

 

 

 目の前の妙な存在はその見た目に一切似合わない悍ましいオーラの様な物を更に広げるように話し出す。とても信じられないような、破滅の話を。

 

 

「私には未来を視る個性があるのだけれどね。その未来を操る個性があるのだけどね」

 

 

 

 

 

「近いうち、この世界は終焉を迎えるわ。貴方、世界を守る()()にならない?」

 

 

 

 

 今まで俺は燻っていた。燻り続けていた。その事に漠然とした不安を感じつつも、現状を大きく変えるような一手は打たなかった。そんな俺が、突然降って湧いたように現状を変えるような出来事が起きるとして、それに身を投じると思うか?

 

 答えは……

 

 




『スポットライト』

??歳 男

個性:スポットライト

 一定の範囲内の光を集め、自身の上空より照射する個性。光の角度、本数は変えられるが、常に自身に当たる様にしなければならない。
 狭い範囲を真っ暗にすることも、広い範囲を薄闇程度にすることも、日本中を暗黒に閉ざす事も、世界中を宵闇に包む事もその気になれば出来る。当然そんな事したら世界中で大騒ぎな上、照射される光で地面が融ける事間違いなし。


さてさて、こんな物語でも終わりが見えてきました。
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