前世で見れなかった物語の続きを   作:マジンガーD

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2学期の始まり

~花火大会当日~

 

「どこから見よっか?」

 

「・・・・・」

 

ヤバイ、ヤバイ!

 

「やっぱ混んで無いとこが良いわよね?」

 

「・・・・・」

 

どうしよう、どうしよう!

 

「ロク、聞いてんの」

 

「いふぁいっ!」

 

三浦さんが空いている左手で、俺のほっぺたをツネってくる。

 

「いたた、ごめん。聞いてなかった」

 

「もう、さっきから様子がおかしいんだけど」

 

「そ、そうかな。ところで何の話でしたっけ?」

 

「花火をどこから見るかって話だし」

 

葉山君と別れた俺と三浦さんは、花火を見る場所を探している。

人が多くて混んでいるため、良い場所を見つけるのに難航しているのだが、俺はそれどころではなかった。

彼が別れ際に言った"雪ノ下陽乃"の名前が、俺の心を不安にさせる。

 

「こんなに混むってわかってたら、小さなビニールシートでも持ってくれば良かったね」

 

「ロクって、そういうとこは、気を使えるわよね」

 

「そうかな。男は地面にそのまま座っても別に問題ないけど、さすがに女の子はね。せっかくの浴衣も汚れちゃうし」

 

「どうしよっか?」

 

「あっ、良い事を思いついた」

 

「なに?」

 

「俺が地面に座るから、三浦さんは俺の上に座りなよ。お父さんと子供♪みたいな感じで」

 

「ふん!」

 

三浦さんの空いてる左の拳が俺のボディに突き刺さる。

 

「ぐふっ」

 

「バッカじゃないの。お父さんと子供って、何だし」

 

うずくまる俺を三浦さんは、顔を赤くして見下ろしている。

良い案だと思ったのだが、女王様はお気に召してくれなかったようだ。

俺は立ち上がりながら妙な既視感を覚えていた。

いくら思い出そうとしても思い出すことが出来ない。

そのまま、人の少ない方へと歩いて行く。

 

「ここって有料エリアよね」

 

彼女の言葉を聞いて妙な既視感の正体がわかった。

これは、比企谷君の物だ。

2年生の夏に彼が由比ヶ浜さんと行く花火大会の記憶。

物語の中のワンシーン。

となるとここは、彼らが行くであろう花火大会の前年の花火大会って事になるのだろうか?

 

そうだとしたらヤバイ、ここに居てはいけない!

俺は知らず知らずのうちに魔王の領域まで侵入してしまっていたようだ。

 

「三浦さ・・・」

 

この場所から早く移動するために彼女に声を掛けようとするが、有料エリア側からの声によって止められてしまう。

 

「あれー、黒田君だ」

 

その声を合図に一発目の花火が打ち上がった。

花火の花が開き、照らされる彼女の顔は、どこか不気味に微笑みを浮かべている。

遅れて耳に伝わる花火の音は、これから始まる地獄の号砲に聞こえた。

 

 

「良かったよ、隼人と2人だけじゃつまんなかったからー」

 

魔王に見つかってしまった俺達は、魔王の本拠地へと連れて来られていた。

先ほどまで居た場所から少しの距離しかないのだが、先ほどまでの喧騒が遠くに消え、全然違う別の場所に来てしまった様な感覚に陥ってしまう。

 

俺達は長椅子に掛けて花火を眺めているのだが、その座る配置がどうにもおかしい。

長椅子の大きさが4人で座るには狭く、周りには誰も座っていない長椅子が何脚もあったので、葉山君の座っている前の長椅子に三浦さんと座ったのだが、何故か魔王様もこっちの長椅子に座ってしまったのだ。

葉山君を見ると、苦笑いを浮かべ申し訳なさそうにしている。

その様子を見てると俺の方が申し訳なくなってしまう。

 

「隣のその可愛い子は?」

 

「彼女は高校の同級生の三浦さんです」

 

「・・・三浦優美子です」

 

三浦さんは無愛想に名前を言う。

やめてー、魔王様を怒らせる事だけは止めてね!

妹さんの比じゃないくらい泣かされちゃうよ!!

 

「三浦さん、よろしくね。私は雪ノ下陽乃だよ」

 

「雪ノ下・・・・」

 

雪ノ下雪乃さんの噂は女王様の耳にも入っているのだろう。

雪ノ下の名に引っ掛かったようだ。

 

「ところで2人は付き合っているの?」

 

「そんな関係では無いですよ」

 

彼女のペースに持っていかれないように冷静に答える。

 

「手繋ぎデートを楽しんでたのに?」

 

「それには事情があるんです。」

 

「へぇー、事情ね。気になるなー♪」

 

「そんなに大した事情じゃないんですけどね。

2人だけだったのは、他のメンバーに約束を反故にされてしまったからです。手を繋いでいたのも彼女が下駄に慣れていないようだったので、それで」

 

ふふーん、今日の俺は1ミリも隙が無い。

最後まで冷静に対処していけば、魔王など恐るるに足らず。

それに三浦さんも俺を応援してくれている、長椅子に置いた手の甲を彼女がツネってくれ、俺が冷静でいられるように手助けしてくれているのだ!

・・・そうだよね?・・・うう、痛い。

 

「黒田君はジェントルマンなんだね」

 

「そんな事は無いですよ。普通に接しているだけです」

 

最近はタガが外れかけているのだが、俺は普通に接していつもりだ。

 

「それが難しいんだよ。当たり前に出来る事が大事なんじゃないかな」

 

何か気持ち悪い、嫌な予感が込み上げてくる。

 

「そんなに褒めてもらっても、何も出ないですよ」

 

「何も出ないのはイヤだなー。それじゃあ、簡単な事だから1つだけお願いを聞いてくれないかな?」

 

ほら来た。でも焦るな、ここも冷静に対処するんだ。

 

「簡単なお願いですか?」

 

「うん、そうだよ。でも、言うの恥ずかしいなー」

 

うわー、うざい。

 

「そんなに、勿体ぶらないでください。気になるじゃないですか」

 

「わかった、言うわね」

 

「はい」

 

さあ、どんとこーい!

 

「お姫様抱っこしてもらいたいなー♪」

 

「はい?」

 

この人は何を言っているのだろうか?

 

「だって、めぐりにはしてあげたんでしょ?」

 

はぁー、わかった。

その話題で俺の事を冷やかそうとしているのだろう。

今日の俺をナメないでもらいたい。

このくらいの攻撃は冷いいいいい痛いー!

痛みの原因に顔を向ける。

 

「どういう事?」

 

ひーっ!三浦さん、何て顔してんの!?

めっちゃ恐いんだけど、いや痛い!コワ痛いよ!!

 

「み、三浦さん、痛いのでその手を」

 

い、痛い!もう一段階あがるだとぉ。

いやいや、それ以上やったら皮膚がちぎれちゃうから!!

 

「・・・・どういう事?」

 

 

それから三浦さんに事細かにその時の事を説明するハメになった。

何とか納得してもらえた事で、俺の左手の痛みは無くなった。

いや、だいぶ前から麻痺していたので、左手の状態がどうなっているのか解らない。

 

なんで三浦さんは、こんなに怒ってしまったのだろうか?

もしかして嫉妬?もしかして彼女は俺の事を・・・・。

いや、いや、いや、それは無いだろう。

彼女は葉山君一筋なのだ。物語の中と同様に・・・・。

 

「怒られちゃったねー」

 

「・・・・・」

 

この人は俺が怒られている間、ずっとニヤニヤと笑っていた。

あなたが原因でしょう。という思いを込めたジト目で彼女を見る。

 

「黒田君が悪いんだよ。いくらジェントルマンでも、簡単に女の子に触れちゃダメなんだからね♪」

 

「うっ、・・・・はい、反省してます」

 

「わかればよろしい。今日の事、めぐりには内緒にしといてあげるから」

 

はぁー、何なんだこの人は・・・・・。

 

でも、何で彼女は俺にちょっかいをかけてくるのだろう?

あの事故現場にいたからなのか?

彼女の考えている事が少しも解らない。

俺は彼女に好かれているのだろうか?それとも嫌われているのだろうか?

 

『あの人は興味のないものには何もせず、好きなものを構いすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的に潰すことしかしない。』

 

物語の中で葉山君が言ったセリフを思い出していた。

 

 

~2学期初日~

 

はぁー、あの日の事を思い出すだけで気分が重くなる。

 

下駄箱で靴を履き替え教室に向かう。

教室に向かう道すがら、奇異の目で見られている様な感じがした。

別に2学期デビューをするためにイメチェンをしたつもりは無いのだが。

嫌な予感を抱きつつ教室へとたどり着き、ドアを開けて中へと入っていく。

 

「おはよう」

 

挨拶をしながら自分の机に向かおうとすると、クラスメイトの視線が一斉に俺へと集中する。

 

「二股男のお出ましだ」

 

「うらやましい」

 

「誠実そうな顔して裏ではゲスいわよね」

 

「黒田君の事、狙ってたのにー」

 

みんなはコソコソと話しているつもりのようだが、その内容は俺の耳にも伝わってくる。

教室まで来る途中の奇異の目の理由もこれで納得した。

 

「クロダ君、パないわー。二股とか、うらやま。もうクロダさんだわー!」

 

戸部君から声が掛けられる。

 

「おはよう」

 

「おはよーっす!マジ、パないわー。1、2年のマドンナを落とすとか、さすがクロダさんだわー♪」

 

俺の地獄は終わっては、いないようだ。

 

 

 

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