二つ目の太陽 ー東京地獄変2017ー   作:択捉

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東京地獄変のオマージュ?です。
初めての執筆なので拙い文章や考証をお許しください。



予兆

2017年8月11日 金曜日 午前9:15 品川駅

 

「.....それじゃあ、コミケの戦利品に期待しておいてね!バイバ~イ」

 

 アニメオタクの親友「大橋加奈枝」からの長電話が切れた。「大野良太」はスマホの電源をきって右腰のポケットにしまうと、ちょうどホームに到着した東海道新幹線に乗り込む。自動扉が開いて車内に入り、自分の指定席を探す。二人用の席を見つけると、まだ他の客は来ていないようで、同乗者が来るまで好きに使わせて貰うことにした。

 キャリアバッグを荷物棚に置いてから席に腰かけ、今のところ空席状態の隣に置いたリュックサックから一枚の写真を取り出す。十年前の写真だ。良太はこの盆休みを利用して、実家のある高知に帰省しようとしていた。

 幼少期を高知の田舎で過ごしてきた彼は、両親の仕事の都合で十年前に東京へ引っ越した。故郷の友人との別れを惜しみつつ、土讃線、瀬戸大橋線、宇野みなと線....と乗り継いで、この新幹線に乗ったものだ。泣きっぱなしで新幹線についての記憶はあまりないが、東京に来たときのことは鮮明に覚えている。引っ越してきて最初、彼は見たこともないような高層ビルが林立し、故郷の村の全人口よりも多いであろう人間が歩く都会に驚かされ、同時にこれでにないほど興味をそそられた。

 都会の小学校に入学し、初めのうちは方言など文化の違いで苦労し、高層と東京の大きなギャップに色々と悩まされたりすることもあったが、それも次第に馴れていき、今では田舎臭さなど微塵も感じさせない都会っ子になっている。

 良太はそれら今までの思い出を振り返る中で、ふと子供の頃によく遊んだ「鈴ヶ森千佳」のことを思い出した。千佳――――活発な子ではなかったが、一番自分に信頼を置いてくれていた。

 彼女のことを思い返すとしんみりしてきた。上京して以来、良太は東京の名門高校に入学するため、小学校の頃からひたすら勉学に打ち込んできた。夏休みも都内の塾校に通い、つらい課題をやり遂げていった。娯楽は休憩時間に見るテレビアニメか寝る前に読むライトノベル。故郷のことなどそっちのけの生活を送ってきた。名門高校への入学を最も望んでいたのは両親で、この厳しい勉学は両親の意向が強いが、それを黙って成し遂げたのは、彼の負けず嫌いがあったからだ。しかし、そうやって勉学とサブカルチャーにだけ打ち込んだ生活を送ってきたせいで、故郷だけでなく親友の千佳のことも忘れてしまっていた。最初の一、二年は手紙のやり取りをしていたと思うが、本当にそうだったかも疑わしい。

 

「私....大きくなったら....良太くんの....お嫁さんになる」

 

 昔彼女に顔を赤らめながら言われた言葉を思い出した。今思えばあれは告白である。きっとあの一言を言うのに相当な勇気が必要であったはずだ。自分だったらとても言えない。そんな彼女のことを忘れていた自分のとてつもない薄情さを嘆き、心中で彼女に精一杯謝った。

 

(本当にすまないことをした。千佳はこんな俺のことを覚えてくれているだろうか。もし覚えていたら、いや、覚えていなくとも、彼女に会って謝ろう。彼女のあのときの言葉と勇気に報いるために....)

 

 良太はそう心に誓い、窓の外、今はまだ目に見えない故郷のある遥か南西を眺める。新幹線は知らぬ間に走り出していた。

 

同日午後14:50 中国某所

 

 中国奥地にあるコンクリート製の建物の周りを小銃で武装した兵士たちが包囲していた。中国人民解放軍陸軍部隊だ。彼らは御大層にも96式主戦坦克――――96式戦車を四両も引き連れている。四両の戦車の砲は皆建物を睨み付けている。彼らの武装で建物を制圧しようとすれば、それこそ一分とかからないだろう。何故なら建物を占拠して立て籠っている反乱者は僅か五人。対して建物を包囲している兵士は、少なく見積もっても三百人を超える。実に六十倍以上の兵力である。指揮官が攻撃の命令を下したら、たちまち建物の外壁は戦車砲によって破壊され、占拠している反乱者は蜂の巣にされるだろう。

 だが、彼らはにはそれができなかった。それは反乱者が最高の“切り札”を持っていたからだ。外の兵士たちはその武力を遺憾なく見せつけながら何もできないでいた。

 

 真夏であるが冷房によって建物内は冷えていた。この建物を占拠した五人の反乱者は、巨大なモニターとコンソールが壁一面に設置された管制室の中で、皆一様に建物の外と内部を監視する保安用のモニターを眺めていた。

 

「北京に最後通牒を突き付けてから三時間。何も返信はないな。」

 

 反乱の首謀者であるリーダーが小さく呟いた。四人のメンバーは何も答えずに、ただ黙ってモニターを見つめている。北京政府がどんな返答をして来るのか。自分たちの悲願がやっと成就するのか。それを心配している面持ちだった。リーダーはそんなメンバーの心中を察して口を開く。

 

「心配するな。連中は紅衛兵や棒子(韓国人の蔑称)どものような狂信的で、ものわかりの悪い連中じゃない。損得勘定を第一に考える奴らだ。自治区を失うか、国家が破滅するか......。奴らの天秤にかけたとき、答えは自ずと出てくるさ」

 

 リーダーは不敵な笑みを浮かべながら時が過ぎるのを、ただじっと待っていた。

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