明日も投稿は一話分だけになると思います。
また今回は少し短いと思いますが戦闘場面がございます。
では誤字脱字、文脈の違和感等ございましたらご報告ください。
────八神家────
二人が亡くなってから既に半年程の時が過ぎ去った。
あの日以来アリスは近所の喫茶店でアルバイトをする傍ら、
八神家の家事を一手に担いながら毎日笑顔で頑張っている。
私は本来、学校と呼ばれる教育機関に所属しなければならないのだが、
こちらの世界での戸籍を入手した際に生前のツバメが色々手を打ってくれたらしく、
通信教育という形で在宅しながら勉強に勤しんでいる。
これについては、はやての面倒をみる事もあり正直ありがたかった。
勉強内容で言えば計算問題などに関しては元の世界とあまり変わらず、
逆にこの世界での歴史などは一切分からないため苦労はしているが、
せめて年相応の知識をつけるため目下努力中だ。
そしてはやては勉強している私の傍で、絵本を読みながら少しづつ明るさを取り戻している。
しかし何気にこちらの世界の教育レベルは高いと思う。
その歳の子供達にもわかり易いように表現をある程度崩しつつも、
要点はしっかり抑えておりきちんと勉強すればすぐに理解し覚えられるだろう。
自分の世界の教育レベルは正直ピンキリだったためこれは素直に凄いと思った。
勉強が一通り終われば次に私がするのは自己鍛錬である。
これはこの世界に飛ばされてからもずっと続けてきた事だ。
鍛錬する場所は丘の上に建てられている『八束神社』と呼ばれる場所。
その神社から少し奥に入った木々に囲まれた場所で鍛錬している。
鍛錬の方法としては前の世界からと同じで基本的な素振りと回避訓練。
そしてスキル系統を個別に鍛錬し、最後に瞑想をして鍛錬終了である。
素振りに関しては元々の獲物である短剣の二刀流かカタールを装備してやりたいのだが、
私の武器はこの世界に来る際にあの黒い穴に吸い込まれてしまったので、
仕方なく素手で素振りを続けている。
近いうちにでも似た長さの獲物を見つけておかないといけないなぁ…。
回避訓練は基本的に仮想敵を相手にして行っている。
欲を言えば模擬戦形式で訓練できれば最高なのだが、そんな贅沢も言ってられないだろう。
スキル系統の訓練も同じでできれば模擬戦形式で訓練したい…。
瞑想はそのままの意味なので割愛するのだが、なぜか私が瞑想していると動物が寄ってくる。
鳥や犬、猫も寄ってくるし最近では子狐まで遠巻きにだが私の様子を伺っている。
実際今こうして瞑想している間も動物たちは集まってきてるし、
先ほど言った子狐もやはり遠巻きに私の様子を伺っていた。
いつもならほっとくのだけれど、ふとその子狐が気になって瞑想を中断する。
毎回瞑想を終えるとその子狐を含めた動物は皆帰っていくのだが、
今日に限ってその子狐は帰ることなくその場に留まっていた。
ジーッとこちらを見つめ続ける子狐と無言でその様子を見る私。
さてどうしたものかと考えていると、その子狐はいつもと違いこちらへと歩いてきた。
私のすぐ傍まで近づいてくる子狐を黙って見つめていると、
ふいにその子狐は私の匂いを嗅ぎ始めた…。
匂いを嗅ぐのはいいが…鍛錬で汗もかいてるしできれば止めていただきたい…。
子狐相手にそんな事を思っていると匂いを嗅ぎ終えた子狐は、
用事がすんだのか無言のまま再び森の中へと帰っていった。
そんな子狐の行動に疑問を感じながらも鍛錬を終えた私は八神家へ戻った。
自己鍛錬を終えた後、鍛錬でかいた汗をお風呂場で流しお昼ご飯の準備を始める。
ちなみに起きてからすぐに勉強を片付けその後に自己鍛錬をするため、
大体お昼ぐらいに八神家に帰ってくるようにしている。
お昼を食べ終わった後にアリスは仕事先の喫茶店へと出かける。
その間は私とはやての二人だけなので、アリスが帰ってくるまで遊ぶようにしている。
この時間帯に私とはやての二人でグレアムさんや宇喜多さんにメールをするのだが、
基本的に近況報告と私たちの体調に関する報告ぐらいしかしない。
…まぁたまにグレアムさんに甘えたい気持ちが出てきたりはするのだけどね…。
それは流石にグレアムさんには内緒にしている。
グレアムさんからすれば善意で私たちの支援をしてくれているのに、
それに加えて自分の子供でもない奴に甘えられても迷惑なだけだろうとの私個人の判断だ。
はやてとテレビを見たり風芽丘図書館に行ったりして時間を過ごし、
夜になるとアリスが仕事場から帰ってきて三人で晩御飯を食べる。
晩御飯を食べた後はやてをお風呂に入れるのだが…、
この妹は未だに私の胸を必要以上に触りまくってくる…。
いい加減この癖?らしきものを止めさせないと将来が…はやての将来が!!!
そんな時間を過ごした後、はやてを寝かせてからアリスは残った家事を済ませる。
私は夜間訓練をするために元の世界で身につけていた装備を持ち出し、
八束神社までトップスピードで走り抜ける。
そこで夜での戦闘を意識しながら訓練して終了となるのだけれども、
この日はいつもと違った出来事があった。
それは毎夜の夜間訓練の最中の出来事だった。
いつも通り素振りや回避訓練、仮想敵を相手にした実戦形式の鍛錬をしている最中、
強い視線を感じたため其方へと顔を向ける。
そこにいたのは二本の木刀を携えた一人の青年だった。
この時間に一体何故ここにいるのか考えていると青年から話しかけられた。
「…君は一体何者なんだ? 少しばかり鍛錬風景を見させてもらったけど、
君の動きはまるで…暗殺者の動きだ…」
「…人に尋ねるときは自分から名乗るもんだって習わなかった?
まぁいいけど、私の動きについては君に話すような事じゃないよ」
お互いそう言うとそのまま無言の時が過ぎていく…。
それから暫くしてふいに青年の重心がズレた事により私は咄嗟に身構える。
恐らくそれが切っ掛けになったのか二本の木刀を持った青年は、
見た目の年齢からは到底考えられないスピードで私との距離を詰める。
それを冷静に観察し青年の手の内を明かすことから始める私。
「…っと、狙われる謂れはないんだけど…ね!」
「…悪いがここで君を倒させてもらう!」
言葉はいらないとばかりに苛烈に攻撃を続ける青年と、
その攻撃を紙一重で躱しつつどう切り抜けるか思考に没頭する私。
青年が放った頭部を狙った一閃は髪の毛をかすめつつも私はバク転をして回避する。
バク転の着地と同時に私は傍に落ちていた手頃な木の棒を二本持つ。
これでお互い獲物は二本同士、問題は相手の獲物がちゃんと武器として成立するものであり、
私が持つ獲物は折れて地面に落ちていたただの木の棒だということだ。
青年は自分の攻撃がバク転で回避されても冷静に私に突進してきた。
私は突進してくる青年を正面に見据え木の棒を構える。
「…喰らえ! 御神流・斬!!」
「…ッ!?」
青年が繰り出してきた『御神流・斬』と呼ばれる技を咄嗟に木の枝で防ごうとしたが、
脳内で嫌な予感が極限まで高まったためそれに従ってバックステップで後ろへと回避する。
その際に木の棒を手から離してしまったが、
逆にそれがあの青年が放った技の威力を教えてくれた…。
「それなりに太さのある木の棒だったんだけどね…。
木刀で砕いたと言うよりは…切り裂いたって感じかな?」
一目で私に技の内容を知られた事に青年は驚きを顕にするが、
すぐさま持ち直して再び私へと肉薄してくる。
そんな青年の行動を見て私は分が悪いと独りごちる。
私が持つ獲物は先ほど拾った一本の木の棒のみ。
その木の棒も先ほどと同じ技、またはそれ以上の技を繰り出されたら一溜りもないだろう。
故に私が取る行動は青年の持つ武器の奪取、もしくはその破壊だ。
「次は仕留める! 御神流・虎乱!!」
二本の木刀を左右から繰り出してくるのを冷静に見切り、
木の棒を青年の手首に対して突き刺そうとした瞬間…、
私の腹部から背中へ向けて強烈な痛みが発生した。
一瞬何をされたのか分からず本能のままに後方へ大きく跳躍し、
地面に降り立つと同時に口から血を吐き出した。
「…ゴボッ! い、今何され…た?」
「…君が虎乱を避けて武器破壊か無力化をすると思っていた。
だからそこを狙って『御神流・徹』と呼ぶ衝撃を突き通す技を使った」
青年がこちらに警戒しつつ私に放った技を説明してくるが、
正直そんな説明聞く余裕なんか全然なかった。
脳内に鳴り響く嫌な予感は『御神流・斬』と呼ばれる技の時より強くなり、
そのおかげで追撃は免れたと言っても過言ではないだろう。
口の中に広がる鉄の味が気持ち悪く、唾液と一緒に地面へ吐き出す。
未だに痛みは引かず逆に痛みが強くなってるのが分かる。
「…そろそろ終わりにしよう、君の目的はその後で聞かせてもらおうか」
「ゲホッ…、まったく話は聞かないわ、下手すれば死にかねない技は使うわ、
君がどう教育されたのか聞いてみたいわね…」
口元に残ってた血を手で拭い去り青年を睨みつける。
これ以上ダメージを受ければ傷として残るだろう。
この青年に負ければ私は八神家に帰れなくなる可能性が高い。
そうなれば残されたアリスやはやてが悲しむのは目に見えて分かる。
故に私は手に持っていた木の棒を構え青年に対し殺気をぶつける。
「…まぁ正直謂れのない事で捕まるなんてまっぴら御免よ。
さっきまでは一応怪我させないように抑えてたけど、それももう終わりにする。
私には帰るべき場所があるんだからね!!」
私がそう発言すると同時に自分が出せる最高速度で青年へと突進する。
その私のスピードを見た青年は驚いて行動が遅れていた…。
ならばその隙を見逃すような事はせず、確実に青年を無力化しこの場を離脱する!
「クッ…! まだそんな力が残ってたのか!」
青年がそう言葉を発するがその言葉を聞く余裕は私にはない。
正直先ほどのダメージが引いてない中、私が出せる最高速度での攻撃だ。
これが躱されるぐらいならそのスピードのまま逃げればいいが、
逆にカウンターでも貰えば私は意識を失うか最悪死ぬだろう…。
だからこそ、この攻撃は何が何でも当ててみせるっ!!!!
「メテオ…アサルトォォォォォ!!!!」
青年の眼前まで迫った私は手に持った木の棒を地面へと叩きつける。
その瞬間膨大な爆風と衝撃波が発生し目の前の青年を吹き飛ばす。
衝撃波は真空波となり青年の身体を切り刻み、爆風による砂煙で視界を奪い取った。
砂煙に乗じて私は気配を遮断し木々の間を縫うようにその場を離れようとしたが…。
「まったく息子がいつまでも帰ってこないから様子を見に来てみれば…。
…君には悪いが大人しくしててもらえないかな?」
まったく気配を見せず私の眼前に現れた男性に話しかけられ、私は全身から嫌な汗が吹き出した。
私と戦っていた青年とは比べ物にならない程、
凄まじい闘気を身に纏ったまさに歴戦の戦士とも言うべき存在。
バクバクと五月蝿く鳴り響く胸を無意識に抑え、眼前の男性をキツく睨みつける。
「と、父さん! なんでここに!?」
私が放った『メテオアサルト』を受け吹き飛ばされていた青年が、私の前にいる男性に話しかけている。
父親と言うことは後ろにいる青年と同じ流派なのだろうと判断した。
という事は確実にこの男性は私の背後にいる青年よりも手練であり、
前後を挟まれた私は絶体絶命どころかもはや逃げることすら出来ないと理解した…。
故に私は手に持っていた木の棒を地面に置き、両手を頭の後ろに回して膝をつく。
その様子を見た青年は呆気にとられた顔をし、男性は私の行動が分かっていたのか頷いていた。
「…ふむ、流石に引き際は分かっているようだね」
「…まぁね、正直癪だけど貴方ほどの力を持った人がいるなかで、
抵抗するのもいらぬ怪我を増やすだけだしね…。
逃げるなんてもっと不可能なのは身に纏ってる闘気で十分分かったよ」
私がそう告げると男性は私の顔を見ながら話を進める。
「で、なんで僕の息子と戦闘をしていたのかな?
終わりの方だけしか見れなかったけど、君は暗殺術を学んでるようだったし…。
まさか御神流の人間を狙った暗殺者…って事かな?」
「別に御神流とかいう流派は今知ったし、貴方の息子を狙った暗殺者でもないですよ。
私は毎日やってるここでの自己鍛錬と夜間訓練をするために来ただけで、
その鍛錬中に貴方の息子さんですか?その人が話も聞かず襲ってきたんです」
私はため息をつきながら事情を説明すると、青年は若干顔を曇らせたが何も言わなかった。
男性は話を聞きつつも私の目をジッと見続けてくる。
多分私が嘘をついてるかどうか目を見て調べてるんだろうなとどことなく思った。
「…うん、どうやら嘘はついてないみたいだね。
息子の早とちりで戦闘になったのは分かったけど、
じゃあ何故暗殺術の鍛錬なんかしていたんだい?」
「…私は暗殺者の家系として育ってきたんですよ。
今はそういう仕事はしてませんけどそれでも鍛錬だけは続けてるんです」
異世界の話をしたところで信じるはずもないので、嘘を多少織り込みながら真実も話す。
少なくとも全部嘘だとはこれで言えないはずなので今はそれで凌ぐとしよう。
下手をすれば八神家にまで押しかけてきて事の審議を調べられかねない。
「本当のことは話してないけど、嘘はついてない…かな?
まぁ暗殺者の家系なら本当の事も言えないってのは、分からないでもないけどね。
じゃあ実際に御神流や海鳴の人に暗殺はしないって言うことでいいのかな?」
私は男性の言葉に頷くことで肯定する。
その様子を見て男性は納得したのかゆっくり立ち上がって青年の方へと向かう。
「恭也、今回はお前の勘違いだ。 …彼女にきちんと謝りなさい。
後、今回は息子の勘違いで怪我をさせてしまったみたいだし、
我が家に連れて行って怪我の治療をさせてくれないかい?」
「いや、お世話になってる家族に心配をかけるので治療は遠慮しておきます。
あと謝罪もいりませんよ、私も少し血が上ってたみたいですし…」
男性が『そうかい?』と言葉を発した後、青年から謝罪の言葉を述べられた。
謝罪はいらないと言ってるのに謝罪してくるとか律儀な青年だ。
その後、男性から『もし今後もここで鍛錬するのなら、よかったら一緒に鍛錬しないかい?』と、
なぜか一緒に鍛錬する事をお願いしてきた。
私も実戦形式の模擬戦ができるのは願ってもいなかったが、
暗殺者なんぞと鍛錬してちゃんと鍛錬になるのかと疑問に思ったのだが男性曰く、
『息子にはもっと他の対人経験を積んでもらいたいからね』
とそんな事を言ってたのでお互いに時間が合えば構わない旨を伝えて私はその場を後にした。
いつもより遅く帰宅した私は起きていたアリスに治療をお願いし、
鍛錬の疲れとこの世界に来て初めての実戦の疲れからか、気がつけば爆睡していた。
翌朝起きた時にアリスに昨日の出来事について少し小言を言われたのはご愛嬌だよね…。
こうして私はこの世界で初めての鍛錬仲間?ができた。
この世界に来て幼児化した時に検証した腕力の低下がどれぐらいなのか、
今回の戦闘で分かったしスピードやスキルの確認もできたのは良かったことなのかもしれない。
今後はあの男性と青年が私と時間が合えば一緒に鍛錬できるのだし、
この辺の課題もクリアしていかなきゃな…。
取り敢えずの目標は青年よりも強いあの男性に一太刀あびせる事…かな?
ここまでの読了大変お疲れ様でした。
今回は御神流の使い手との戦闘が発生しました。
もちろんお相手は高町家のお二人ですが士郎さんは戦闘に参加してませんね…。
ちなみに第八話での恭也君の年齢は十三歳前後になっております。
アオイが青年と勘違いしたのは外見が十三歳に見えなかったからですね。
まぁその年齢故に経験が足りず勘違いで戦闘が発生したといったところです。
でも、恭也君も士郎さんもこんな喋り方だっただろうか…?(笑)