うっすらと瞼を持ち上げると、寝ぼけ眼の先に火が灯っていないシャンデリアがあって、驚きから一気に眠気が覚めてしまった。オシャレで、まるで何処かの王宮にあるかのような豪華なシャンデリアは、ギラギラと輝きながら天井からぶら下がっていて、存在をこれでもかと主張している。自己主張激しすぎだろ。他の装飾より目立ってるし。いや、オシャレなんだけど、それよりも、と首を傾げてみる。
ここは一体どこだろうか。間違っても、そんな西洋的な照明器具など、煌帝国には…………、ああ、シンドリアだっけか、ここ。さして悩むまでもなく答えはあっさりと出てしまって拍子抜けしてしまった。
あんまりにも久しぶりに西洋チックなものを見たからビックリしちゃったわ。驚かせんなよなもー。
内心で悪態を吐きながら、ゆっくりと起き上がって両腕を伸ばす。頭痛は止まないし、胃がムカムカしてて気持ち悪いしサイアクだけど、動く分には問題なさそうだ。絶好調には程遠いけど、それはいつものことなので悩んだって仕方ない。
ぐるーりと首を回し、凝り固まった関節を解して今度は全体的に大きく伸びをしてから、状況把握につとめることにした。
ここはシンドリア。恐らく、宮殿に用意されていた客人用の部屋だろう。あたしが気絶したから、ここに運んだと、多分そんなかんじ。
陽の高さは、記憶にあるのとさほどの違いはない。が、一日経過していることも考えられるので、日時は不明。最後に、疑問に思う点があるとすれば、衣服があたしが着ていた夜着から、見たことのないものに変わっていることだろうか。
脇腹や太ももにスリットの入った、オフショルダーになっている丈の長い白のワンピースは可愛いし大人っぽくてわりと好みだけど、こんなもん着慣れていないからなんだか落ち着かない。てか、肌見せすぎじゃない?嫁入り前の女の子の着るような……って、嫁入りする予定なんてないけど!それを抜きにしてもあたしってば煌帝国での常識に染まってるー。
まあ、仕方ないか。記憶があるって言っても、ほんとに記憶があるだけで、性格は前世のあたしとはだいぶ違うみたいだし。可愛いものやお洒落なものは好きだけどね?
それでも、着慣れていないことに変わりはないので、なんだか落ち着かずそわそわしながら周囲を見回すと、枕のすぐ側にベルが置いてあるのに気がついた。が、それはあたしのものではない。デザインもそうだけど、素材が全く違う。恐らく、シンドリアで普及してるものだと思う。
なら、これを鳴らしても永徳や祐徳がやってくることはないのだろう。というか、そもそもあいつらどこ行ったん?ってかんじなんだけど、ほんとどこに行った。アルジサマがご起床だぞ。側に控えていなくてどーすんだバカたちめ。
女官や侍女なんてあたしには与えられてないから、あの二人がいなければ着替えもままならない。自分で着替えようにも、見た感じでは、この部屋にあたしの着替えは置いてないように見える。ま、あったとしても一人では着れないから意味ないんだけど。
よって、この露出過多な服から衣装チェンジすることは不可能との結論に至る。
初対面の相手っていうかあの二人以外に着替えの供をさせるのは、ぜえっっったいに嫌だから、もうどーしようもなくね?部屋出ちゃう?恥ずかしいけど、知らない人の世話になるのもヤダし、部屋から出てあの二人探したほうが良くね?
でも、この格好で外出るのはなぁ。部屋の中だけで着る分にはかまわないんだけど、露出した肌を他の人間に見られる、なんて考えたら気分が悪い。
うだうだと悩むこと数秒。よし!と気合を入れて寝台から降りることにした。少しだけなら大丈夫だろう。扉を開けて、ちょっと顔を出して近くに人がいなければ戻って永徳達を待てばいい。
素晴らしい案ではないか。意気揚々と床に足をつけて立ち上がる。立てたと思った瞬間、どうしてか膝から下の力が入らずに膝から勢いよく床に倒れてしまった。
それも盛大に。顎打った、痛い。
「……………」
しばし、呆然とする。
そしてふと、いつもあるはずの感触がないことに気がついて、だらしなく投げ出された足を見ると、いつもつけているはずの足飾りがなかった。すごく今更だけど、腕輪も外されている。
「………あー、…」
なるほど、と。最後の言葉は続かない。なるほど、どうりで立てなかったわけだ。理解できたが、どうにも納得がいかなかった。おいおい、皇女様の装飾具を勝手に外すとはどーいう了見だ。
はあ、とため息を吐く。
推測するに、装飾具を外したのは例に漏れず永徳と祐徳の二人なんじゃないだろうか。きっと、目を覚ましたあたしが勝手に部屋から出ないようにする為だろう。全く、お前ら二人が傍にいればそんなことしないっての。ばっかじゃねえの?それともあれか?病み上がりだからってか?心配してくれてんの?ありがとう。ふざけんな。だとしても、勝手に外してんじゃねーよ。あーもう!これじゃあ寝台に戻れないんですけど!
どうしたものか。自分でどうこうできるわけではない自体に、もうため息しか出てこない。
どうすることも出来ずにうんうん唸っていると、扉がガタリと音を立てた。何かがぶつかったとかそんな感じの音ではなく、どちらかというとそれは開く音に近い。と、冷静に考察している場合ではなかった。
これは紛れもなく開くような音ではなく、実際に扉が開こうとしている音だ。誰かが開けようとしている?永徳?それとも祐徳?しかし、その推測は恐らく間違っているだろう。あの二人なら必ず許可を求めるはずだ。
じゃあ、誰だ?紅玉姉様?白龍兄様?それともシンドリアの誰か?想像なんて全くつかないけど、そのうちの誰であろうとも嬉しい出来事ではない。
今は他人になんて会いたくないし、何よりこんな姿を見られるわけにはいかないのだ。どうにかして身を隠せないかと慌てるも、伸ばした手で掴めたのはシーツだけで、慌てて引っ張ってしまったせいで加減ができず、勢いが強すぎたのかシーツがふわりと舞い上がった。そしてそれは重力に従ってあたしの頭へと落ちて、全身を包み隠した。
はい、ドジっ子おつー。ふぁさ、とシーツが被さる軽い音と同時に、扉が開ききって誰かが入ってくる音がする。足音からして三人くらいだろうか?一つはやけに軽いから子供だろう。あとの二つはよくわからない。
じっ、と息を潜めて気配を探っていると、あれ?って、子供の声がした。足音もちょうど止まって、ってやば、見つかった。いや、見つからないと思ってたわけじゃないけど、やめてよまだ何も対策練ってないよ。来るなよ!?来るんじゃないぞ!?って頭の中で唱えていると、唐突にシーツが剥ぎ取られた。
「あれ…お姉さんこんな所で何してるんだい?」
シーツを片手に持った子供の不思議そうな声が上から降ってくる。
隠れん坊?って首傾げんなちげーよ。
顔を上に上げると、そこには赤と青と黄の、まるで信号機のような髪色をした、子供と女の子と少年と青年の中間ぐらいの男があたしを不思議そうに見下ろしていた。
どう答えればいい?寝ぼけたって誤魔化すか?
でも、いくら寝起きで頭がぼーっとしてたからって、自分の体調にも気付けないのは皇女としてはあるまじき姿だ。
そして何より、こんな姿を見られるわけにはいかなかったのに。祐徳が見たら情けないと呆れるだろう。永徳なら天変地異の前触れとばかりに慌てふためきあたしの心配をするのだろうけど、それもそれでかなりダメージがある。
何度か口を開いたり閉じたりと答えあぐねていると、赤髪の女の子が何かを察したのか、私のそばに屈んで見せた。
「失礼しますね」
静かな、抑揚の少ない声だ。表情の起伏も少なく、どこかボンヤリとした印象を与える。目元が変わってるから、きっと、何処かの珍しい民族かもしれない。所謂外国人ってやつ?
なんて思いながら眺めていると、女の子の腕が、肩と腰のあたりに置かれた。と、思ったらうつ伏せの状態から仰向けにされ、あっと言う間もなく持ち上げられた。
「ぴゃっ」
驚きすぎて変な声出た。恥ずかしい…じゃなくて、これ何事!?
背中から脇にかけてと、膝裏に腕があって女の子の顔が近くてこれってプリンセスホールドってやつだよね。お姫様抱っこだよね。誰得ってやつじゃない?
目を見開き体を強張らせたあたしに気づいた女の子が、申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「驚かせてしまってごめんなさい。寝台にお運びしようと思って…少しの間だけ、我慢してくださいね」
そう言って、女の子がすぐ側にあるベッドへとあたしの体をゆっくりと下ろした。横たえらせずに背中をもたれ掛けさせるように座らせてくれたところや足に落としたシーツを被せてくれたところにも優しさが垣間見える。あまりにも優しい手つきにちょっとどきりとしてしまった。
し、仕方ないじゃん!お姫様抱っこ初めてなんだから!そ、それにこの子優しいし!なんでこんなに優しいの!?家族でさえこんなに優しくはしてくれないよ!?そ、それに、なんかあたしを見る目も優しいし………名前、なんて言うんだろう。
って、違う!そうじゃない!この子は親切にもあたしを寝台に戻してくれたのだ。ならば言うことは一つだけじゃん?お礼を言うだけじゃん?名前なんてそのあとでいいじゃん。第一印象は大事だと思わない?まずは笑顔でお礼言って、名前聞いて、その髪の毛綺麗だけど何か特別な手入れでもしてるの?って、美容とかなんかそんな感じのこと聞けばいいのよ。女はみんな綺麗なものが好きなんだから、きっとこの子もお話してくれるはずよ。
青色の髪の男の子が、モルさんすごいね、って笑ってる。モルさんって言うのね。いや、もしかしたらあだ名かも。やっぱり自分で聞くべきだ。え、黄色髪の男?空気みたいになって、キョロキョロしてるよ。おい、お前乙女の部屋を見回してんじゃねえよデリカシーねえな。
と、そんなことをしている場合ではない。お礼を。早くお礼を言わなければ。
「あ、あのぉっ」
「何か?」
寝台から離れようとした女の子を慌てて呼び止める。
やばっ、ちょっと声が上擦った。恥ずかしい。でも、無視されなくてよかった。安堵に胸をなで下ろす。
ボンヤリとした瞳があたしに向けられたのを確認して、一つ、大きく息を吸った。緊張で喉が震える。声まで震えないように気をつけなきゃ。
本来、皇族が下々の者に礼を言うなんてあってはならないことなのだ。でも、この場には口煩い祐徳も、この子達を追い出すだろう永徳もいない。言うなら今しかないだろう。名前を聞くのも今だけだ。
よし、と決意を決めて口を開いた。
「あのっ、あ、あり」
がとう、と続く筈だった言葉は、勢いよく開かれた扉の音によって遮られた。
「……………」
一瞬頭の中が真っ白になった。もう、なんかもう色々と吹っ飛んだ。
声が出ない口をパクパクさせながら、ギギギ、とまるで錆びたネジを回すような動作で扉の方を向く。
そこには、わなわなと肩を震わせる永徳の姿があった。
「え、えい、えいと、く」
血の気が一気に引いていく。
なんとか名前を呼ぶと、永徳が顔を上げた。
かと思ったら、あたしの呼びかけには応えずに、口元を歪めさせら歯をむき出しにしたような威嚇だとわかる表情を見せた。目元は見えないが、確実にこれは睨みつけてる。
あ、終わった。
その瞳を見て、すぐさまあたしの試みが実行される前に終了したことを悟った。
「…貴様ら、ここで何をしている!ここを何方の寝所だと心得ているのだ!」
ボソリと、呟くように低い声が唸った。
「一体、誰の、許可を、得て、足を、踏み、入れた…っ!」
一言一言区切りをつけて、肩から全身へと広がった震えを気にした様子もなく、永徳は腰に下げられた剣に手をかけた。
おい。おい待て。こいつ殺る気まんまんじゃねえか。お前こそここを何方の寝所だと思ってんの?あたしの許可なく何勝手に剣を抜こうとしてんの?
今にも斬りかかるんじゃないかという様子に止めようと口を開こうとして、別の声に先を越されてしまった。
「いやぁー!スンマセン!僕たちまだシンドリアに来て日が浅くて~。ここが皇女様のお部屋だとは知らなかったんですよぉ。すぐ出るんで許してください!」
そんな呑気な声がこの緊迫?した空気を一瞬で吹き飛ばした。黄色髪の男だ世間ではそれを金髪と言うが、黄色で十分でしょ。金髪羨ましいなくそ。そんな黄色髪の男が、人好きする笑みを浮かべながら子供と女の子の前に進みでたのだ。
まるで、永徳から守るように二人を背にして。
そして、笑みを絶やさず、へこへこと頭をさげる。
「ほんっと、すみませんでした。今後勝手に入ることがないよう気をつけますんで!」
じゃ、と片手を上げて女の子と子供の背中を押しながら扉の向こうに消えていく。
「待て、貴さぶごぉっ!」
その背中を抜刀しながら追いかけようとする永徳を、手元にあったベルを使って止めた。どう使ったかって?顔面に向かって投げたに決まってんじゃん。兜あるから無駄かもだけどらしないよりはマシだし。それ以外に何の使い道があんの?
「永徳、こっちに来なさい」
「ひ、ひべざば…」
「いいからさっさと来な」
どうやら鼻に直撃したらしい。鼻を押さえてるのを見るに、鼻血でも出たのかもしれない。しかし、そんなのあたしの知ったこっちゃない。さっさとしろと視線で促すと、鼻血を垂らさないよう慎重に歩きながら、ベルをあたしの手元に置いた後に永徳はベッドの傍に膝まづいた。
「お前、一体何考えてんの?お前こそ、ここを何方の寝所だと心得てるのかしら?あの人たちは、確かに勝手に入ってきたけど、困っていたあたしを助けたのよ。それを何?不法侵入者扱い?ねえ、お前馬鹿でしょ。大馬鹿ものでしょ。いつからあたしの従者は愚か者になったわけ?おい、黙ってないで答えろよ」
「あ、ありがとうございますぅううううっ!」
「誰がお礼を言えって言ったよオイ」
永徳が拾ってきたベルを受け取り流れるような動作でそのまま永徳の頭に叩きつける。カーン!と金属同士がぶつかる音がしただけで、永徳にはこれと言ってダメージはないようだ。ちくしょう。こいつがいつも着けてる目元まで覆う兜が邪魔だと初めて思った瞬間である。
仕方なく八つ当たりも含めて太ももめがけて投げつけてやる。これも鎧によって痛くなさそうだ。投げたせいで、更にベルが勢いよく鳴るが、先程から音を上げているにも関わらず誰もこないところを見ると人払いは事前にしてあるようだ。そういうとこは優秀だからほんと腹がたつ。もっと間抜けにいこうよ。揚げ足取れないじゃん。
はぁ、と大きく大きくため息を吐き出して気分を落ち着かせる。ホントはこんなことしたくはないのだ。でもついついやっちゃうんだよね。そこはご愛嬌ってやつだ。
本来の目的を果たすべく、両手を寝台の縁に置くと、身をのり出すようにして永徳へと顔を近づけた。肩にかけていた赤い髪の毛が重力に従って下へと流れる。うん、髪の手入れは入念にしてるからサラッサラだよ。美髪だよ。CM出れる並みだ。美少女は美髪。これは真理だと思う。
つらつらくだらないことを考えながら、少し震えるだけで崩れることのない腕を見て、このぐらいの動作ならなんとかなりそうだ、と確認も忘れない。
「で?どうだったの?」
じい、っと兜を見下ろしながら、先ほどとは打って変わって、優し~く問いかける。
あたしの質問に対し、永徳は下を向いたままはっ!とこ気味のいい返事を返した。なんで顔を上げないかって?だって、顔を上げていいなんて許可出してないし。あたりまえじゃね?
「先程、シンドリア国王との謁見が終了いたしました」
その口頭から始めた永徳は、あたしが気絶していた間に起きた出来事を事細かに説明しだす。
話を聞いて、ふむ、と頷く。予想通りあれから一日も経っていないらしい。それどころか一刻もまだ過ぎていないみたい。思ったより早く意識が戻ったようだ。この部屋も、客人の為に用意してた寝所、と。服は、シンドリアに普及してる寝巻きらしい。着物よりは寝苦しくないとのことで、祐徳が着せてくれたようだ。で、足飾りやら腕輪やらを外したのは、これ以上体に負担はかけられない、と。そういうことね。ありがた迷惑っちゃそうだけど、まあ、あたしの体のことを心配してくれたのなら、一応ここでは良しとしようか。
一通りの流れから祐徳の動向へと移ったあたりで、もういいと報告をやめさせた。
祐徳のことは祐徳から聞けばいい。
それより何より、あたしが気になるのは別のことである。気になる、というか、キョーミ深いっていうかなんというか。
「煌帝国を滅ぼす、ねぇ…?はっ!」
おっと、思わず鼻で笑っちゃった。
でもさ、だってさ、仕方なくね?一国を滅ぼすってどんだけ大変なことかわかってんの?って感じ。それが小国なら、まあ大変だけど死に物狂いでいけばなんとかなるんじゃね?ってギリギリなところ。
でも、煌帝国って大国だし。侵略国家だし。何より金属器使いいるし。紅炎兄様なんか三つも持ってるんだよ?どー考えても、無理っしょ。神官様(笑)の斡旋を断って未だに金属器を手にしてないどころか迷宮にも行ったことがないなら尚更じゃん。経験足りなさすぎ。見識狭すぎ。頭でっかちすぎ。…おっと、これは言い過ぎか。
でもさ、ほんっと、白龍兄様ってば夢見すぎだよねー。現実ってもんを知ってるつもりなんだろうけど、それって所詮つもりなだけだから。力がなきゃなーんも出来ないのわかってるだろうに。いや、ないからこそ、シンドバッド様に打ち明けたんだろうけど。どちらにせよ、理想だけ高くても実力が伴わなきゃ痛々しいだけだわ。すっごい憐れー。
「…シンドバッド様の反応は?」
「驚いておいででした」
そりゃな。一国の皇子が自分の国滅ぼそうとしてるんだもん。そりゃ驚くわ。
……しかし、本当にそれだけか?向こうは、今に始まったことじゃなく、前々から煌帝国が綻び始めてるのに気づいているはずだ。いや、いずれ綻ぶだろうと見抜いている。そうじゃなくてもきっかけを探っている、はず。難しいことわかんないけどたぶんそう!
今回のことで、今まではそうなるだろう、という予想が確信に変わってもおかしくはない。それでいて、いつ敵に回っても、っていうかほぼ敵国な感じの煌帝国に大打撃を与えることが出来る可能性を前に、打算的にならないはずがない。……思惑はどうであれ、きっと、シンドバッド様は支援するだろう。で、白龍兄様はその支援に縋る、と。
あはは。程のいい駒じゃないですかー。三分クッキング並みの即席具合に笑いしか出てこない。ホントは違うかもしんないけど、それでもちょーウケる。
だってあの人絶対に善意じゃないでしょー。煌帝国のこと大っ嫌いじゃんぜったいー。邪魔とか思ってるって!白龍兄様に手を貸しても、どーせそのうち何かと理由つけて滅ぼしにかかるってぇー。だって、白龍兄様の思惑が成功するってことは、主戦力はほぼ壊滅してるだてことでしょ?なら攻め時ってその時じゃん!
ああ、でも。
でもでもでも!
「……あの豚を殺してくれるなら、願ったり叶ったりねえ」
煌帝国皇帝・練 紅徳の死。
そんな素敵な未来を思い描くことができるなら、協力ぐらいしてあげてもいいかもしれない。煌帝国が滅びるのは困るけど、でも、あの豚が死んでくれさえすれば今後の憂いも晴れるだろうし。っていうか、あの醜い豚がそもそもの原因だし?
気絶したことに辟易とはしてたけど、こんなに素晴らしい収穫があったならその甲斐もあるって感じね。
「ねえ、永徳。お前もそう思うでしょう?」
「おっしゃる通りです」
さてさて、次は祐徳の話を聞かなくちゃ。あたしが気絶していた間は、二人はフリーになってたから他の侍従たちの手伝いと称して城を歩き回っても怪しまれなかったことだろう。気配を完全に消すことができる永徳なら会話の盗み聞きもお手の物だし、祐徳は祐徳で独自の情報網を築き上げている。それが、いくら結界に守られたシンドリア国内であろとも、だ。
「しんどいこともあったけどぉ、シンドリアに来て正解だったわねぇ」
来る未来に想いを馳せながら、しみじみと呟いた。