二度あることは三度ある。
世の先人たちはそんな言葉を残した。
二度、同じことが起これば三度目があるかもしれないから、悪いことが起きないよう注意しろって意味らしいけど、はっきりいってどーでもいい。
というか、三回同じことが起こるなら、それもう二回目も必ずくるやつじゃん。二回目きたらもうガチのやつじゃん。悪いことは続くって言うし。
一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は必然、四度目は運命って言うし。あ、四回あったわ。しかも、意味違う。
と、まあそんなことは置いておいて。
よーするに、一度会った人間には二度目も会うことがあるから心してかかれよってことなんじゃないの?回りくどい言い方してるけど、そーいうことっしょ。
狭っ苦しくしてちっぽけなあたしの世界ではとくに言えることだと思う。
ほら、よく世間は狭いって言うじゃん。元から狭い世間なら、会う確率高すぎるに決まってんじゃん。
知り合いなんていないに等しいし、客人のあたしには、城内を歩き回れる範囲なんて限られてるし、何より引きこもりだし。別にヒキニートじゃない。仕事は一応してるもん。
「シンドバッド王の命を受けまして、御三方を探しておりました」
そう言いながら礼の形を取って、白龍兄様はにこやかに微笑んだ。
付き添いで来てる紅玉姉様はその隣に並んで立っている。
そんなあたしは、二人の隣なんて立てるような身分じゃないから、後ろに立っているわけだけど、どうしてかハブられてる気分になる不思議。
まあ、ハブられてはないんだけどね。でもさ、そう思うのも無理ない話だと思うわけ。紅玉姉様だけじゃなくてどーいうわけか白龍兄様もあの子達と面識があるっていビックリ事実。そんなんだから、あたしだけ見知らぬ他人なわけでしょ?この人誰ってなるじゃん。見たことあるけど…誰だっけ?みたいな。被害妄想乙ってやつ?
現在地、シンドリア宮殿の中庭。位置的に言うならば、祐徳曰く、ギンカツトウ、コクショウトウ、リョクシャトウに囲まれた場所で、城門からわりと近い場所である。どうでもいいけど、ギンカツとかコクショウとか、リョクシャってどんな字書くの?トウならわかるけど、あとわけわかんない。なんなの?バカなあたしをバカにしてんの?
どうでもいいことを考えながら、対峙する三人を観察する。
赤と青と黄の髪色をした少年少女たち。まるで信号機のようだとは、昨日も思ったことで、まさかまさかこの三人ともう一度顔を合わせることになるとは思いもしなかった。驚きを顔に出すことはしなかったけど、マジでビビッた。だって、服装からしてどっかの王族やマギだなんて想像もつかないでしょ。威厳もそれらしい雰囲気もないし。
が、しかし。これは本気でいい出会いではないかと思う。
だって!昨日、あたしに優しくしてくれた女の子がいるんだから!
これを喜ばずしてどうするっていうの?
普段であれば、会うことのない身分の人間だ。会話もできない。
しかし、これはあくまでも非公式の場での挨拶だ。堂々と挨拶できて、昨日のお礼も言えて、お友達にもなれるかもしれないのである。一石二鳥どころか、一石三鳥である。石っころ一つで鳥が三鳥も獲れるとかそれなんてヌルゲーなの?ほんと助かりますありがとうございます。
金髪の男と白龍兄様の握手を眺めながらほくそ笑む。あらやだ、あたしったらはしたない。最初は笑顔が肝心なんだからもっと可愛く笑わないと。
形を整えるかのように頬の動かし方を変えて、綺麗に見えるよう微笑み直す。
笑顔の作り方なんて、元が良いのに加えて、物心ついてすぐに教わったから完璧だって胸を張って言える。なんたって、下賤の侍女の身でありながら皇弟サマに見初められるぐらいに美しい女の娘ですからー!あ、いまの自虐ネタね。
さてさて、早く私も挨拶したいなー、と赤い髪の女の子を見てると、紅玉姉様が呆れたようにため息を吐き出した。
「ちょっとぉ…何睨みあってんのよ」
えっ、と思わず姉様を見やる。あたし睨んでた?確かにつり目がちだけど、そこまでキツクない筈なのに?力んでないのに?目力強すぎた感じ?まじで?
恥ずかしいなーと、慌てて表情を引き締める。
「バルバッドでは、お互い散々色々あったけれど…今はひとまず休戦するべきではなくって?」
が、姉様が見ていたのはあたしではなくて、白龍兄様と握手に応じている、金髪の王子だったらしい。勘違いかよはずかしーな。ま、どうせ誰にもバレて無いだろうからいいんだけど。……バレてないよね?
ね?と永徳に目配せをしようとして、今は従者をつけていなかったことを思い出す。
……そうだった。これはあくまで"個人的"な邂逅であって、公式の場じゃなかったんだ。非公式だから、堅苦しくないよう共は連れて行かないことにする、って言ってきやがった白龍兄様の言葉を思い出す。
………まじねぇわと思う。
あたしから従者を無くしたら、ただの可憐な美少女じゃんか。姫様感ないじゃんか。ばっかじゃねえの?
と、まあ。いつも側に付き従っている従者がいないと落ち着かないってだけだけど。
「………そうだね。ケンカしてもなんにもならないし……シンドバッドのおじさんに迷惑かけたくないしね!」
紅玉姉様の言葉に、賛成だと頷いたマギの少年が、にこやかに手を差し出す。
「そうよ。あの時のことは水に流して…仲良くしましょう!」
同じく好意的な表情で紅玉姉様も手を差し出す。
そうやって、白龍兄様に続いて、紅玉姉様とマギも握手を交わした。
が、どこからどう見ても普通の握手ではない。姉様なんか爪たててるし。ギリギリと骨の軋む音がしている。お互いにものすごい力を入れて、お互いの手を握りしめている。あんな握手絶対に嫌だ。ってか、あれを握手だなんて呼んでいいの?
もしかして二人って仲が悪い?
「痛いじゃないか!」
「そっちこそ痛いじゃない!!」
…………もしかしなくても悪くね?
「見なさいよぉ、この痣!あなたのせいで跡になっちゃったじゃないっ!紅蘭ちゃんが綺麗な手、って褒めてくれたのに!」
「こ、紅玉姉様……」
いったい何年前の話をしてるんだよ。紅玉姉様に取り入りたくて、とにかく何でもかんでも褒めまくっていた頃の話じゃね?あ、いや確かに嘘ではないけど、シャコージレーってやつでしょ!まるであたしがシスコンみたいじゃない!やめてよ恥ずかしい!
出かかった言葉を飲み込む。代わりに出そうとした大丈夫ですか?という言葉も最後まで続けることはできなかった。
なんというか、間に入って仲裁する必要があるの?って思っちゃったんだよね。ほんの少しだけど。
半泣きで痣になった手を摩る紅玉姉様を慰めるべきか悩んでいると、先ほどの態度同様、しおらし過ぎる程しおらしく、マギの少年は素直に謝罪を述べた。
が、しかし。
「でも…おしろいがはがれただけなんじゃないかなぁ?お姉さん、なんだかお化粧もケバいし…」
これである。
仲直りする気も仲良くする気も見受けられない。
紅玉姉様は激怒した。無理もないと思う。
部外者であるあたしでも突き刺さるものがあったし。あたしが言われてたら、きっとマギだろうがなんだろうがあらゆる手を使ってでも仕返ししていたと思う。……できるかどうかは別として。
怒り狂った姉様がマギと取っ組み合いのケンカを始めだしたのをあたしはただ見つめるしかできなかった。
ケンカしてもなんにもならないって言ったの誰だよ。
仲良くしようって言ったの誰だよ。
バルバッドでのいざこざがあるのはわかったけど、和解しようとした二人がこんな感じだから、王子二人はどうなのやら。
思わずため息をつく。完全に蚊帳の外だ。あたし来る意味あったん?って感じ。でも紅玉姉様だけじゃなくて、白龍兄様にも誘われたしなぁ。一応、あたしにも実のあることなんだろうけど…。
しかし、険悪な感じではない不思議。言い合いしていてもどこかしら微笑ましくも見えるのはどうしてだろう。
姉様が歳が近しい子供と、あんな風に接している姿を初めて見るからだろうか?
あたし達皇族は、立場が立場だから周りとは一線を隔す。いくら乳兄弟であろうと、話し相手として充てがわれた子供であろうと対等じゃない。それは、対等という綺麗事で塗り固められた、一方的である種の暴力的な建前にすぎない。いくら仲が良くとも、絆で結ばれていても。
それは、皇族同士でも言えることで、序列や後ろ盾や環境や状況によって、相手との立ち位置は変わってくる。いくら兄弟姉妹と言ったって、権力差は出てくるものだ。
この世界には、対等という人間関係は存在しない。
あるとすれば、それは嘘っぱちの紛い物だろう。全てが全て、そうとは限らないのだろうけど、少なくともあたしはそう思っている。
赤髪の女の子が仲裁に入るのを眺めながら、別行動中の従者のことを思う。煌帝国で唯一信用している二人の人間。なんて狭い世界なのかと呆れないわけではないが、あんなに大勢の人間が蔓延る場所なのだ。人間の数だけ思惑が交差しているからぶっちゃけ、二人だけでも儲けものな気がする。
はてさて、あの二人は何か問題を起こしてはいないだろうか。きちんと大人しくしてくれているのだろうか。祐徳は心配はないけど、正直な話、永徳が心配なところだった。
あいつにはらとりあえず鍛錬場にでも行ってこいとは言ってあるけど、まさかまさか命令してないのに剣とを抜くような事態になんてなってないよね?さすがにそこまで馬鹿じゃないとは思うけど………。気になって仕方がない。
だってさ、いくら鍛錬とか手合わせとかっていう理由があろうとも、シンドリアの人間を傷つけるのってマズくない?もし力加減間違えて傷でも付けようもんなら、外交問題に発展とかしそうじゃない?いや、鍛錬なら大丈夫…なのか?でもなぁ、あたし第九皇女だしなぁ。地位低いしなぁ。国王にいちゃんもんつけられたらおしまいだしなぁ。……いや、見た感じシンドバッド王はそこまでゲスいおっさんじゃなさそうだけどさ……。だからって、周りの人間みんながそうだとは言い切れないわけで……。
シンドバッドの冒険に出てきたジャーファルっていう部下なんてモンスター?妖怪?そんな感じじゃん。頭に大きな角がいっぱいあるんでしょ…?怖いわ。22巻のお話も面白かったけど、でもそんな人?人がいる国で好き勝手出来るはずないよね。物語とかにはありがちな脚色とかあるかもしんないけど、でっかいトカゲみたいな人?人なの?人?もいるんだから、あながち嘘じゃないと思う。どうせいないとタカを括って、もし本当にでかい角が七本生えてる人間がいたらどうすんの。口から火を噴くんだよ?恐ろしいわ。
考えただけで不安になってくるのだから、あたしもつくづく心配性だと思う。こんな美少女が憂い顔なんてしてたらそこらの邪なおっさんの餌食になってしまうじゃないの。ほんとマジ勘弁。
はあ、と小さく溜息を吐き出して、予想外に和やかな雰囲気の兄様たちを横目に紅玉姉様とマギ様の仲裁の手伝いに入る。
きっかけってホント大事だよね。同じ作業でもすれば多少なりとも連帯感やら親近感が沸くし、なにより相手に興味を持てるし。
仲良くなれたらいいけどなぁ。あわよくばお友達に、なんて。
基本、他人なんて信用しないあたしだけれど、見返りもなく親切にしてくれる人はとても貴重だってことは知ってるから。
だから、どうにかこうにかして親しくなれたらなぁ、と、打算も含めた欲望がぐんぐん膨れ上がっていくのを感じた。