転生皇女様   作:さがる

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本日二度目の更新です。


練 白龍

 大きな背中の人物によって、抱えられながら去っていく血の繋がりが薄い末の義妹を確と見送って、彼女の義兄にあたる白龍は漸く同年代の少年少女達へと向き直った。

「みなさん、お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」

 そして、深々と頭を下げて見せる。

 マギの少年やその友人である少女はともかく、バルバッドの第三王子に対しては思うところがないとは言い切れなくとも、それは向こうも同じことであろう。

 今はあらゆることに蓋をすべきだと、確と理解し、白龍はもう一度、義妹が挨拶も碌に出来ないまま場を去らなければいけなくなったことへの謝罪を繰り返した。

 面会を求めたのはこちらの方だ。義妹が申し出たことではないけれど、それでも白龍が連れてきたのだから無関係というわけでもない。

 なのに、挨拶どころか許可もなく場から抜けたのだ。体調を崩した事が理由ではあれ、このようなこと、国元である煌帝国では許されないことである。彼女の立場なら尚更だった。末の義妹は、他の兄弟たちのように尊い血筋や後ろ盾も、紅玉のように武人としての才能も何も持たないのだから。

 だから、普段よりも丁寧に慎重に、悪気はないのだと、言い訳がましいとわかっていながら言葉を落とす。

 そんな白龍に、対峙する少年少女は狼狽えた。

 第三王子とはいえ、それは元の肩書である少年も、マギと呼ばれども、まだまだ未熟なうえに身分を気にしない子供も、元奴隷の身であった、ファナリスの心優しい少女も、誰も彼の末姫に対して思うところがなかったのだ。

 だから、何とも思っていないと、きっちりと否定を返す。

 むしろ、根が善良である彼らは心配した。

 体が小さく、弱弱しい少女のことを心の底から案じていた。

「いや、それにしても大変だな…。入国した時も倒れてたようだし…体、弱いのか?」

 元第三王子の言葉に、神妙に頷きを返す。どこまで話たものかと、慎重に言葉を選びながら口を開いた。

「………はい。彼女は…、紅蘭は、昔から臥せることが多く、外出もほとんど許されずに育ったので、はしゃぎすぎてしまったのだと思います。よほど、皆さんとお会いするのが楽しみだったのでしょうね」

 その言葉を聞いて、三者三様ではあれども、それぞれに痛ましそうな表情を浮かべたのを見るに、本当に善良な人物たちであるのだと、白龍は再認識させられた。

「……………」

 少し前のことを思い出す。

 義妹を外に連れ出す少し前のことを。

 誰に告げることもせず、義妹の部屋へと訪れた時のことを。

 あの時、焦るあまりに言葉を選ぶこともしなかった。

 どうして、シンドリアに来たんだ?などと、義妹の事情を少し考えればすぐにわかるだろうに、心無い言葉を投げかけてしまった自身の浅はかさに辟易とした。

 一瞬、ほんの瞬きの間ではあったが、いつも控えめに微笑んでいる義妹の表情が歪んだのを目にした時、己の失敗を悟った。

 それと同時に、その唇から落とされた返答が、本心ではないことも。

 全て、とは行かずとも、自身のように勉学のためだけではないことを、白龍は理解したのだ。

 この義妹も、自分のように変えたい何かがあって、こんなところまでついて来たのだと。

 船室で横たわり、日々痩せ細っていく姿には肝を冷やした。下手をすれば命を落とす可能性だってあったのだ。いくら仲が良くても、無理をしてまでついこようとは、思わないはず。

 それは、そこまでしなければいけない理由があるからだと、そう結論付けるのは容易だった。

 それが何かはわからない。

 けれど、もしかすれば、自分と同じなのではないか、と。そんなことを考えて、次の言葉を発した。核心にも触れる、下手をすれば自身の目的を悟られるかもしれない問いかけを。

 その言葉に、義妹は、少し困ったように眉尻を下げながら、答えた。

 無難な返答だった。悪手でもなく、かといって最善でもない。

 聞き手によって意味合いを変えてしまうだろう、相手に都合のいい解釈をさせる、そんな言葉だった。

 都合よく勘違いしてくれと言っているようなものだ。

 心底呆れた。呆れを通り越して、同情してしまった。

 どこまで、この義妹は、他人任せに生きることをやめないのだろうか。足掻くことを諦めたのなら、あの薄暗い邸で、静かに息をするだけの生活を享受していればよかったのに。

 今の白龍のように、シンドリアという光を見つけなければよかったのに。

 けれど、収穫はあった。

 時機を見逃さなければ、こちら側に引き込める。そう、確信した。

 義妹の従者は優秀だ。何も出来ない、後ろ盾もない末姫を生かし続けてきた。外に出されることもなく、政略結婚に利用されるようなこともなく、ずっと守り続けてきたのだ。それがどれだけ凄いことなのか、武人になるしか道がなかった姉を見ていればよくわかる。

 もし、あの従者が仲間になってくれれば、心強いことこのうえない。

 なにもかもが上手くいく気さえするのだ。

 そうすれば。

 全ての思惑を心の内にしまいこんで、白龍は笑みを浮かべた。

「あの、もし、よろしければなのですが。お時間がある時にでも、紅蘭に話しかけてやっては頂けませんか?御三方のような人たちと触れ合えれば、義妹も少しは励まされると思うのです」

 

 そうすれば、きっと。

 

 あの義妹はもう、あの時のように、小さな体を震わせて、絶望に涙することは無くなるはずだと、そう信じて。

 利用することの免罪符に、義妹の事を思う言葉を口にした。

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