今回も丸々加筆部分になります。
ぜんぶ夢だった。
そう言えたなら、どれほど楽だったんだろう。
夢。
とても甘い響きがする言葉。
何をしても、何が起きても全て許され、そして無かったことになる幻想的な世界。
夢を見るのは嫌いだ。
嫌いなくせに、ってかんじだけど、でも、こんな時ばかりは想いを馳せてしまうのも仕方ないことだと思う。
縋ることで救われるのなら、ぜひとも縋りたい。
けれど、これは紛れも無い現実だった。
どうしようもないくらい、現実で、逃げられもしないのだ。
だからこそ、あたしはこんなにも苦しんでいる。
って、感傷に浸ってるっぽく言ったけど、これといってドラマチックな展開など皆無だったあたしの気持ちを誰かわかってほしい。
切実に。
「あ~~無理~~~~。ほんと無理。なんなの、なんでこんなことになってんの?意味わかんない。現実厳しすぎでは?」
盛大に寝返りを打ちながら呟けば、近くで供をしていた祐徳が大きくため息を吐き出した。
その態度に、ひくりと目元が引きつる。
こっちがため息つきたいんだけど?なんなの?喧嘩売ってんの?
僅かに募る苛立ちのままに、祐徳を横目で睨む。
「何よ、祐徳。言いたいことがあるんなら言いなさいよ」
今のあたしに言えるもんならな!
そんな気持ちを込めて、言葉を投げかける。
「……姫様。何度も進言しておりますが、一国の姫君ともあろうお方が独り言など…」
が、あたしの真意が伝わらないっていうか、伝わった上で無視してるのがわかる小言は、聞き飽きた内容すぎてソッコーで意識の外に追いやることにした。
聞いたって今更感半端ないし、二番煎じどころの話じゃないし。
はいはいと、何度もはいを繰り返して小言を強制終了させる。
ついでに寝転がりながら手をひらひらと振ってやると、祐徳のため息はより一層大きくなった。
「ご友人作りに失敗したからと、そのように不貞腐れて、一体何になると言うのです。寝込むほど落ち込むのはわかりますが、いい加減に現実を見つめられては?」
小言厳しすぎんだろ。
長年連れ添った従者の言葉はしっかりとあたしの胸どころかメンタルをざくざく切り裂いていく。
やめ、ちょ、やめろや!!!!
あんまりだろ!耳に痛すぎる!
落ち込んでるのがわかるんなら辛辣になるのやめろよばか!
「な、なに言ってるのよ祐徳。あれは失敗なんかじゃないんだから。お前、さては知らないわね?この世間知らず!!失敗は成功の元って言葉が世の中にはあるのよ!!」
「失敗しているではありませんか」
「…っ」
ぐうの音も出ないとはまさにこの事である。
言い返す言葉もなく、悔しさに打ちひしがれながら、もう一度寝返りを打った。
くっやしいいい!!!でも言い返せない!くそ!くそくそ!
だけど、そう、失敗だ。まさに失敗。それに尽きる。祐徳の言葉は大正解である。
自己紹介はまともに出来たのに、それ以降が最悪だった。最後は体調崩したと言い訳して永徳に抱えられて逃走。挙げ句の果てには、熱を出して寝込む始末だ。
そうやって過ぎ去った二日間のなんと無駄な事か。
あたし最低にカッコ悪すぎじゃない?ダサすぎだろ、どう考えても。しかも紅玉姉様をパシリみたいにしちゃったし、白龍兄様にも迷惑かけたし。
あーもう無理。無理無理無理!
恥ずかしすぎて外に出れる気がしない。
取り繕う気力もない。次に顔を合わせた時にとるべき対応のことを考えるだけで、鳩尾あたりがムカムカしてくる。むり。
未だに火照りが残る頬をシーツに押し付けて、小さく咳を数回。喋りすぎたせいか治まりかけていた喉が少し痛んだ。声が枯れていないのは救いだけど、ほんとこの症状やだ。むり。
ついで、思い出したかのように、米神の内側を鋭く走った痛みに、思わず顔をしかめる。頭痛とか、いつものことすぎてほんと今更だけど、熱があると余計に痛く感じるのは気のせいだろうか?気のせい?病は気からって言うしあるってことでしょ。頭痛い!!むり!!
更に何度か咳を繰り返していると、ガタリと床の上を何かが滑る音がした。
祐徳が座っていた椅子から立ち上がったんじゃないかと、なんとなくあたりを付ける。
何かを漁る音のあと、寝台のすぐ側から息遣いみたいな微かな音がして、予想が的中したことがわかった。微かに影がかかるのを感覚的に捉える。そんなシックスセンス持ち合わせてないけど、でも、本当に、何となく感じれるものなのだと、この十数年間で学ぶことが多かった。
と、そんなくだらないことをしみじみと思いながら、重たい頭をゆっくりとあげると、あたしを見下ろしている祐徳と視線がばっちりと噛み合った。ちょ、見つめスギィ。今更祐徳に見つめられて照れるとかあり得ないけど、弱ってる時の顔ほど見られたもんじゃないからなんか嫌だ。むり。とくに寝起きとかやめて欲しい。
祐徳の顔から不自然にならないよう視線をずらして腕の方へと降りて行くと、その手には、少し厚みがある紙袋が抱えられていて、その中身を想像するのは、けん玉をけん玉だと言うくらいには簡単だった。ちょっと意味がわからない。ボキャ貧酷すぎてそれこそむり。熱やばいね?
「姫様、そろそろ薬をお飲みください。それ以上悪化するようなら、帰国する羽目になりますよ」
「わかってるわよ…。でも、その薬は、お前が調合したものじゃないんでしょう?」
想像通り、袋の中身は薬だった。……しかも、シンドリアの。
思わず不快に顔が歪むのは仕方ないことだと思うの。
だというのに、そんなものをあたしに押し付けようとする祐徳が、腹立たしく思えてしまった。理不尽?それこそ今更だ。
「ですが、シンドリアの優秀な医師が調合したものです。ですから、」
「無理よ」
尚も食い下がる祐徳の言葉をピシャリと跳ね除ける。ついでに差し出された薬も、その手のひらごと押しのけた。
「優秀だろうがなんだろうが、誰とも知らない奴が触ったものなんて、飲めるわけないのわかってるでしょ」
それとも、と。
底意地が悪そうに口角を歪ませてみせる。
こんな可愛くない顔作りたくないけど、祐徳しかいないから気にしないことにして、重たい体に鞭打つように、のっそりと上体を起こした。
体の節々が悲鳴を上げているように軋んで、小さく唸る。
「それとも、お前が毒味をしてくれるのかしら?」
息苦しいのを我慢しながら言葉として吐き捨ててやった。
骨を伝わって鼓膜の内側でその声を認識すると同時に、性悪女め、なんて自分自身を罵倒してやりたくなった。
そんなこと、やらせようと思うどころか、させるつもりもない癖に、何を抜け抜けと、って。
答えなんて、分かりきっているのだ。
いつも、いつだって、同じ。
「姫様がお望みとあらば」
間を置く暇もなく即答された内容は、いつだって聞き飽きた言葉だった。
ほーら、やっぱり。
お決まりの返答に、更に気分が悪くなった、ような気がした。吐き気がする。胸焼けみたいに、胃の上がムカムカして、マグマみたいなものが、グツグツ煮え立っているようだ。
「あっそ。なら、さっさと済ましなさいな」
思ってもないことを言う。言って命令を下す。本心じゃないことを言うのは、慣れている。あたしも、目の前の従者も。その片割れさえも。
それが良いことか、悪いことか、なんて。
あたしたち三人の関係を見れば明らかだ。
成功すると、思ったのだ。そんなの簡単だと。だって、記憶にあるんだから。
友達を作れると。こんな、あたしでも、何かできるのだと。
その為の、一歩でもあった。
まあ、結果は惨敗な訳だけど!しかも目も当てられないほどのやつ!
いつも側にいるはずなのに、何処かに行ったっきりの永徳。
側に控えているはずなのに、何かに考えを巡らせてる祐徳。
いつも目覚める時とは、逆の立ち位置の二人。
なにか言えばいいのに、と思う。
いつもいつも小言は言うし、開けっぴろげな褒め言葉も口にする癖に、決して本心は零さない双子に、少し辟易とする。
言えば、いいのに。言ってくれたなら、そうしたら、あたしは。
二日前の、あの庭で見た、紅玉姉様や白龍兄様と微笑むマギ様たちの姿が、瞼の奥にこびりついて離れない。
はいはい。皇位継承権も最下位で何もない底辺なあたしなんかには、とうてい入り込めない世界ってことね。はいはい察した察した。
あーほんと充実してる人って眩しすぎー。人間関係ほんとむずかしー。
そのコミュ力少しわけてくんねぇかなって、心底思ったあたしは悪くない、はずだ。
何も言えないこの口に、価値なんてあるわけないのに。
久々に書いたのでキャラをなかなか思い出せないとかそんなことあるわけなくなくない。
JKっぽさってなんなんでしょう…?