転生皇女様   作:さがる

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愚者に告ぐ

 皇位継承権が最下位であれども皇女は皇女。お姫様には変わりないわけで、あたしの生活は実に快適…と言うには程遠いけれど、悪くはなかった。………………とは言っても、ここ数年での暮らしに限るけど。

 周囲から期待されていないし政治的な発言権もないぶん、特にこれといってすることもなくて、プレッシャーはかけられたことはない。記憶する限り。

 だから、開き直ってこれ幸いと、実現可能な範囲で悠々自適に過ごしている。じゃなきゃやってらんないもん。胃が痛くなるどころか穴開くわ。

 それだけのせいってわけじゃないけど、まぁ、肩身が狭いのは当然っていうか。出自的にも致し方なしというか。

 なん、だ、けど。

 そう、けど、だ。

 肩身が狭い!けど!それは、皇族の義務を果たして公務に奔走する兄様や姉様方に対してだけで、あたしよりも身分の低い文官や武官や政務官、小間使いやらなんやらに見下され、舐められる謂れはないと思うのだ。

 継承権が最下位?取り入っても美味しいものはない?ふっざけんな。何当たり前のこと言ってんだ。バッカじゃねぇの?それでも皇女は皇女だろ。お前らは下々の者なんだから、得も何もなかろうと頭を垂れるのが仕事でしょーが。舐めてんのかこら。

 だから、そんな失礼極まりない上に、こっちを舐め腐って利用しようとか考えている馬鹿共には、其れ相応のお仕置きが必要だと思うわけ。

 とりあえず、今のあたしの急務はお稽古でもありもしない視察でもなんでもなくて、この目の前の女をどうするかってことなんだけど、一体どうしてくれようか、この女。

 現在位置、あたしの部屋の中。

 長椅子に腰掛けて踏ん反り返ってるのはいつものことだから省くとして、そんなあたしの足元には女が跪いている。

 この女の名前は忘れたけど、つい最近クビにした仕立て屋の女だっていうのは覚えてる。だって祐徳がそう言ってたし。自分の立場を弁えず、注文通りに服を仕立てることのできなかったグズだ。

 が、この女はクビにされたことが納得いかなかったらしい。

 王室お抱えの仕立て屋である自分がクビになるなんておかしい。あの姫は我が儘で傲慢で、国の権力者足り得ない、母が母なら子も子。高貴な血を汚す売女の娘、といろんな場所で言い回していたそうだ。他にも色々と言い回したり怪しいこともしてたりしてたらしいけど、詳しく知る必要なんてない。だって、それが全てだからだ。

 ちなみにこれは祐徳からの情報である。ほんとあいつ有能過ぎて欠伸出ちゃいそう。いくら文官でも情報網広過ぎでしょ。

 だって、あの女はもう城を出入りできないようにしてるのに、どこで仕入れて来たわけ?地獄耳過ぎてドン引きだわ。

 まあ、それはさておき、この女のことである。

 逆恨み…ではないけど、馬鹿すぎるにも程が有るってもんだっつーの。

 金払ってんのに注文に添えないってそれでもプロなわけ?大雑把なやつだけどパターンも何枚か渡したし、努力すればその通りに作れたはずなのに作らなかったグズをクビにして何が悪いの?

 素直に従っていれば、見逃したものを…。その証拠に、あたしはこの女がすること全てに目を瞑ってきた。小馬鹿にしたような笑いも、ぼったくりかよって思うほどのふっかけ具合にも、全て。

 この、あたしが。

 そう、この、あたしが、我慢したんだよ?凄くない?

 なのにこの仕打ち。

 そもそも、あたし、自分が我が儘だっていう自覚はあるけど、別に傲慢でもなんでもないんだけど。そのつもり全くないんだけど。性格悪いけど傲慢違うし。あと、売女じゃないし。元は下級侍女やってたけど、手の早い現皇帝である前皇帝の弟様であるぶ………あたしのお父様にお手つきされてあたし身籠っただけでほぼ無理矢理だっての!責めるんならてめーらの尊敬するオウサマを責めろよ!……まあ、いつの時代も孕んじゃった女の方が悪いってことなんだろうけどね。……クソが!

 嗚呼、悲しき哉、力無き者よ。って感じ?

 ま、こんな卑しい生まれのあたしでも、一応皇女だからさ、不敬罪に問われても仕方ないっていうか?うん、自業自得ってやつ?

 途端、喚き出す女の声がキンキンキンキン煩いったらなかった。必死すぎ。もう詰んでるんだから、潔く諦めればいいのに。

 たったそれだけの理由で、って?なあにそれ。甘い甘いあまーい!あたしコーゾク。あんたは考えなしの愚か者。理由なんてそれだけで十分じゃない?思ってても、口にしちゃいけないことがこの世の中にはあるのよ。あんたがしてた事も含めてぜーんぶね。

 権力っていうのは、良くも悪くも凄いんだってことをよおく思い知っちゃってよ。ね?

 親指以外の指を拳を作るように握り込んで、残った親指で首を一文字に切る動作をしながら、あたしは女の背後で構えている永徳へと言ってやった。

 

「首を刎ねよ!」

 

 それがあたしの唯一出来ることである。

 言うは易し。

 言葉は空気よりも軽いのだ。

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