転生皇女様   作:さがる

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いつかの為の布石

 さてさて、紅玉姉様がサルージャ王家へ嫁ぐにあたって、あたしも用意しなければならないことができた。それも早急に。

 用意するもの。

 それは、寄贈品と言う名の賄賂である。またの名を先行投資。

 嫁ぎ行く紅玉姉様を慕う可愛い妹が私のことを忘れないでね、と意地らしさを見せつつ、今後ともご贔屓に、と送り出すための品物である。

 そうと決まれば早速準備しなければ!有言実行。即日決行。早いが勝ちだ!

「祐徳!紅玉姉様に贈る品は何がいいかしら?」

「……姫様」

 永徳に足の爪磨ぎをさせながら、部屋の隅で書簡をしたためている祐徳に尋ねると、祐徳はこれでもかと大きく溜息を吐き出した。

 そして、筆を机に置くと、じぃ、っとこちらを見つめてくる。

 口布によって、唯一剥き出しになっている目元。そこから向けられる、どことなくどんよりとした視線が、なんだか居心地悪さを感じるのだが、何なのだろうか。

「な、なによ…」

「いいえ、何も」

 尋ねてみればこんな返事。何か言いたいことがあるんでしょ!って言ってやりたいのになんだか言いづらい。何かを訴えかけてくる瞳に言葉を出すのが躊躇われる。あ、指の間揉まれるの気持ちい。永徳、爪磨きは十分だからもっとそこ重点的に。ちら、と逸れたあたしの思考を汲み取ったのか、永徳の手が爪磨きの動作からマッサージする動作に切り替わり、一点に集中し出す。おい、あたし言葉に出してねえぞ。なんだよこいつエスパーか。

「姫様」

 永徳に逸れそうになった意識を繋ぎ止めるような祐徳の呼びかけ。もう一度祐徳を見やると、今度は体ごとをこちらを向いていた。

「姫様は、姉姫様に品を送りたい、そう仰いましたね」

「え、ええ。そうだけど」

「その品は、嫁ぐ際の寄贈品、ということでお間違いは?」

「ないわよ。さっきから何?言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい。あたしそーいうはっきりしないの嫌いだって言ってるでしょ!」

 オチが見えない会話にイライラしてきて、気分を落ち着かせるために永徳の顔を空いている方の足で踏んづける。くぐもった声がしただけで、特に永徳から抗議が上がることはなかった。マッサージする手も動いている。こいつ、どこまで従順なんだ。やっといて何だけど、少し怖いわ。

「ならば、はっきりと申しましょう」

 さっきよりも重々しく祐徳が言葉を吐き出した。何を言われるのかわからなさすぎて、なんだか緊張してしまって、ゴクリと唾を飲み込む。

「姉姫様にお贈りする品は、言わば嫁入り道具。ですが、姫様。主上から下賜されました金子では、到底賄えるものではございません」

「…つまり?」

「お金がありませんのでお諦めください」

 にべもない。

 おかしいな、あたし皇女様じゃん。どうしてお金がない!なんて状況になんの?恵まれなさすぎじゃない?あ、第九皇女だからか!なるほど!

「って、納得できるか!」

「ふぐぅっ!!」

 勢い余って永徳の顔を踏み台にしながら立ち上がる。いつも身につけている幾つもの足飾りがぶつかり合ってカシャン、と甲高い音を立てる。ついでにいつも永徳に被せている兜がどっかに飛んで行って、派手な音を立てた。耳障りだ。イライラする。それよりなりより、永徳の発言の方に怒りが湧き上がる。

 おい、今こいつ不遇っつったか!?っざけんなよ!永徳の癖に!

 ホントマジで、なにそれ!!って感じなんですけど!

 お金がないからはいそうですか、って諦めちゃいけないに決まってんだろ!?

 だって、ここで何か品を贈らなければ、なんて冷たい妹なの、って思われて繋がりが消えるかもしれないじゃん。今までのあたしの苦労がパァじゃん!手のひらパァじゃねーんだぞ。おじゃんだぞ!

 ガシャンガシャンと五月蝿い音を立てる足を勢いに任せながら永徳の顔を何度も踏みつけて苛立ちを吐き出していく。足裏にべっとりと濡れた感触がして、鼻血をだしたのだという事がわかった。が、それでも怒りはおさまらない。つうか、足飾りがさっきから五月蝿い!金属製だからってもう少し静かにできないわけぇっ!?あたしのが五月蝿いってか!そりゃそうだろうな!だって五月蝿くしてんだもん!!

 どうせあたしなんて!

 紅炎兄様も紅明兄様も紅覇兄様も義理の姉弟様方も、どうせ何か贈るんでしょ!?苦もなくあげちゃうんでしょ!?ちょっとばかりあたしより先に生まれて、あたしよりも才能あるからって偉そうに!!紅玉姉様と一番仲良いのはあたしだっての!

 なのになのに!!あーもう!!想像しただけで悔しい!めちゃくちゃ悔しい!!こうなったら意地でも用意してやるんだから!底辺の人間舐めんなよ!

 なんのプライドかなんて、見当もつかないけど、得体の知れないプライドにせっつかれて、大きく大きく冷静になるように息を吐き出す。

 考えろ。考えるんだ。

「……祐徳。なら聞くけど、最低限の金子で、嫁ぐ花向けとして成り立つ且つ、紅玉姉様も喜ばれる贈り物は何かしら?」

 そうだ、高価なものを贈ろうとするから工面するのに困るのだ。

 ならば、最低限の金をかけて何か贈ればいいじゃない。紅玉姉様の普段の生活はそこまで派手じゃないし、ああ見えて少女のような初心さも持ち合わせている。子供でも喜ぶような物でも満足するだろう。周りがなんと言おうが、本人が喜べばいいのだ。体裁なんて知るか。

 あたしの考えが読めたのか、祐徳が、普段の真面目ぶりからは似つかわしくない、ニヤリとした表現が当てはまるほどのわかりやすさで、目元を歪ませて見せた。おいおいあたしまだ何も言ってねえぞ。兄弟そろってエスパーかよ。こわっ。

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