転生皇女様   作:さがる

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一寸先はなんとやら

 結果を先に言うならば、大成功だった。

 

 なあーんか、悪巧みしてそうな笑顔で祐徳が言ったのである。

「ならば、花を贈るというのはどうでしょう?」

「花ぁ?」

 確かにお祝いの時は花を贈る習慣はあるが、煌帝国ではあまりポピュラーではない贈り物だ。しかも、花を贈る場合は決まってお祝いごとってのが相場である。

 が、しかし。今回の件をお祝いごとと定めていいものかどうか迷うところで、事紅玉姉様に至っては、正に売りに出されていくドナドナ状態ときた。

 ……贈れない。花なんて贈ったら私なんて唯一の仲の良い妹にすら惜しまれない存在なのね、なんて思ってしまうに決まっている。結婚なのにフシギダナー。

 渋るあたしに、祐徳は力説しだす。

 曰く、花とは万物の心を癒す万能薬なのだと。

 曰く、花とは目の保養に足る宝なのだと。

 曰く、花とは香りだけでも心穏やかにしてくれる云々以下省略。

 まあ要するに花って凄いんだぜ!ということを語りに語った。

 姉姫様は少女のような初心さをお持でいらっしゃるから、きっと花もお好きでしょう、と。

 と、まぁ、その一言が決め手で、あたしの頭の中で花択一で決定したのだった。

 そして、市場で花を買い漁れるだけ買い漁って作りました!フラワーシャワーにフラワー絨毯(数がないためその名の通り空飛ぶ絨毯にばらまいてやった。不敬?知るか)、極め付けに花のブーケ!もうね、ほんとね、祐徳の女子力が怖いと思った瞬間だったわ。ねえ、あんた一体どこへ向かってんの?って聞きたいぐらいには謎だった。あんなニヤリって目つき悪くしながらするようなことじゃないよ。

 まあ、紅玉姉様泣いて喜んでくれたからいいけどね。嬉し泣きだよね?…だよね?傷付いたとか、花粉とかそんなんじゃないよね?ね?

 ま、まあ、私たちは離れてても家族よ!って抱きしめてくれたし!バルバッドでのことが落ち着いたら遊びにいらしてね!って言ってもらえたし!

 あたししか、プライペートで来訪してねって言ってもらってなかったし!!!あ・た・し・だ・け!ここ重要!!

 ふふん!祐徳にはご褒美に新しい書道具をあげようかしら。もしくは、花のほうがいいかな?

 今回のことであいつが花好きだということが知れたんだし。なんたって、今回一の功労者なわけだし?両方にしておいてあげようかしら。永徳?あいつ花を運んだだけじゃない。まあ、ここで何も無かったらまた喧嘩しそうだし、頭を撫でてあげるくらいならしてもいいかも。物じゃなくても永徳なら喜ぶでしょ。扱いやすい従者を持つと楽でいーわ。

 まあ!なんたって!あたしの手腕によるものですけどねー!

 だから紅玉姉様!どうかバルバッドでお幸せに~。そしてその恩恵をあたしにもちょーだいな。

 とまあ、お伽話よろしく、魔法の絨毯で旅立って行った紅玉姉様御一行様を華々しく送り出したのが、だいたい20日ほど前。煌帝国からバルバッドへの空路は早くて約一週間。今頃は挙式も終えて初夜も終えて奴隷やら新法の整備やらの調整に追われてるんじゃないかなー。

 だから、お呼ばれするのはきっと早くて半年、最悪クーデターとか起きた場合は数年越しの可能性もありそう。それまでに新しい服を仕立てられるくらいには時間がありそうだ。

 貿易国家、バルバッド。どんな国かなー。他の植民地どころか国内の視察なんてしたこともやらされたこともないし、そもそもまともに城から出たことさえないんだよなぁ。…………紅玉姉様が治る国なら、外出許可おりるよね?許可して貰えるようになんとか掛け合えばいいかな?がんばればいける?念のため姉様経由でバルバッド国王からの書状認めてもらえばワンチャン有り?

 なーんて考えてたんだけどね。

 つくづく、自分の運のなさを実感するはめになるとは思いもよらなかったなー。ほんとまじ。

 なーんか、外が騒がしいなーって思ってたら、外に出かけていた祐徳が慌てた様子で戻ってきたのが始まりだった。

 普段の様子からは想像もできないくらい乱暴に開かれた扉。神妙な雰囲気を醸し出しながら部屋に入ってきた祐徳の放ったたった一言で、あたしの計画はおじゃんになりましたー。ちゃんちゃん!まったくもって目出度くないっての!

 ほんとなんなんだよ。しょんぼり沈殿丸なんですけどー!!いや、冗談抜きに凹むんだが。

「……祐徳ぅ、あたし泣いても許されるわよね?」

「泣かれるのはご自由ですが、姉姫様がもうすぐ来訪されますので我慢ください」

 漸く落ち着きを取り戻した祐徳が冷たく答える。

 なんだよ、冷たいな。ほんとに泣くぞ?お?

 泣いてやろうと目に力を入れてみたけれど、全く泣ける様子はなくて、途中で諦めてごろりと、起き上がったばかりの寝台に寝転がることにした。

 もうやる気も何もでない。これが俗に言う燃え尽き症候群ってやつ?きっとあの時に、数年かけて貯めたあたしの全力を出し尽くしたんだ。貯金と共に。だからもうゴロゴロしたい。花代もなんだかんだ言って結構なお金かかったし。

 あー!もう!骨折り損の草臥儲けってやつじゃん!無駄骨じゃん!サイアクー!!

 確かにさぁ、前世に比べたら悪い子みたいだけどさあ!でもあんまりじゃない!?酷すぎない!?何かくれても良くない!?クソが!マジクソ!

 うーあーと唸りながらゴロゴロと転がっていると、扉をノックする音が、聞こえてきた。

 きっと、紅玉姉様の従者だろう。紅玉姉様が到着する前触れをしにやってきたのだ。

 つくづく思うけど、ほんとコーゾクサマって面倒。兄弟姉妹の部屋を訪れるだけでもかなりの手間をかけなきゃなんないんだからさ。気楽に過ごせるのはありがたいけど、そこら辺はちょっとめんどーだなあ。礼儀やら何やら本当に面倒くさい。誰に対してもあたしの方が身分が下だから礼を尽くさないといけない側だし。めんど。

 だらだらと考えながら、目配せで祐徳に扉を開けるように指示をだして、自分はのっそりと起き上がる。

 かるーく体やら髪やらの乱れを直していると、紅玉姉様の従者が部屋に入ってきたのが音でわかった。

 あたしが座っているベッドが置いてある寝室と客間を区切っている衝立の手前まで祐徳に案内されてやってくる。

 衝立の向こう側に影が見えるような位置までくると、紅玉姉様の従者であるかこなんとかは、左手を右手の上に置き、手のひらが下になるよう首の位置まで両腕を持ち上げると一礼してみせた。

 衝立越しだけど、こっちからは良く見えた。

 揖礼である。身分が上のものに使う礼の一つで、他にも右手を握り込んだパターンなどあるが、それは男の貴人にたいする礼で、男と女それぞれ違うので面倒臭かったりするやつだ。堅苦しいなぁと思いながら、顔を上げるよう指示を出す。

 どこか気落ちした様子の従者は、静かに間も無く紅玉姉様が到着すると言って退室して行った。

 行ったり来たりと従者は非常に面倒臭そうである。ま、思ったってあたしは皇女様だから関係ないんだけど。

 本格的に服や髪の毛を整えて、客間の方へと移る。

 部屋の奥では祐徳が茶を煎れる準備をしているのがわかり、代わりに永徳を側に付けることにする。

 さっきまで存在感を無くすように命令していたのでとても嬉しそうだ。だってこいつ本当に暑苦しいんだもん。

 さてはて、紅玉姉様は一体あたしに何のお話があるのだろうか。ただいまを言いに来たにしては手順はしっかりしているし、わざわざあたしの部屋に来るにしては、不十分な理由だ。かと言って見送りの事を話すにしても、既にお礼は言われている。結論、どちらも有り得ない。

 まあどっちにしても、バルバッドで何があったのかを聞き出すチャンスではあるわけだし、気楽に行こう。と、肩の力を抜いたところで扉をノックする音が部屋に響いた。

 すう、と息を吸う。

 表情は笑顔で固定し、なるべく可愛らしく聞こえるように、入室を許可する言葉口にした。

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