ONE-PUNCH-MAN 『IF』~最強の正義VS最強の悪~   作:上井カルタ

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第六擊目 『修行』

 サイタマの提案により、ジェノスとサイタマの二人はとある場所に趣いていた。

 

「じいさんいるかー!?」

 

 勢いよく引き戸を開けるサイタマ。

 その先の広い道場の中心に、二人の目的の人物は静かに正座をしていた。

 

「おお、よく来た。サイタマ君にジェノス君。久しぶりじゃの」

 

 そう。流水岩砕拳の生みの親にして武術の達人であり、過去にS級ヒーロー三位の座に登りつめ、引退しても尚研鑽を重ね続けている男【シルバーファング】である。

 

「急な訪問を受け入れてくれたことに感謝する。シルバーファング」

 

「まぁちょっとビックリしたが、弟子もいないし、一人で鍛錬するのも寂しかったからの。丁度よかったわい」

 

 ジェノスの謝意を受け、満面の笑みで受け答えるシルバーファングにより、三人の緊急事態による緊張感がほんの少し和らいだ。

 

「そんで、いきなり修行というのはどういう風の吹き回しじゃ。ワシが昔あんなににも勧誘したというのに。今更弟子になりたくなったのか?」

 

「それはだな……」

 

 

 

 ジェノスは怪人グランの一件についての全てを話した。

 

 

 

「――――――なるほどのぉ。サイタマ君ですら致命傷を与えられておらぬとは……」

 

「なぁじいさん。何かいい必殺技とか教えてくれよ。再生できなくなるぶん殴り方とかさ」

 

 難しい顔をするシルバーファングに向けて、サイタマは懇願した。

 

「そんなデタラメな技使えるワケないじゃろ。それにサイタマ君はワシより強いじゃろう」

 

「そんな事言わないでくれよ。そしたら俺たちは何のためにここまで来たって言うんだ……」

 

 ショックを隠しきれないサイタマは、小さく丸め込み、自分の膝に顔をうずめてしまった。

 それを見ていたジェノスは。

 

「大丈夫です先生。シルバーファングが教えてくれるのは技術だけではありませんよ」

 

「? どういうことだ?」

 

 ジェノスの言葉にサイタマはひょこっと膝から顔を覗かせた。

 

「シルバーファングは技術や肉体の他に精神力においても超一流です。俺も詳しいことはわからないですが、きっと答えを見出すヒントになることでしょう」

 

 そう。シルバーファングは流水岩砕拳を使うにあたり、明鏡止水の如く落ち着いた心や精神を保つ必要があり、そのことにおける的確なアドバイスを貰えるとジェノスは踏んだのだ。

 

「確かにワシは瞑想とかしっかりやって心を鍛えとるが、別にそれをお主らに伝授したところで特に大きな意味はないと思うがの」

 

「そんな……では他に何か―――――ー」

 

 ジェノスが言いかけたその瞬間。

 

「――――――俺、昔は一般人だったんだよ」

 

「「?」」

 

 サイタマがいつになく真面目な表情で話を遮った。

 

「普通に勉強して、普通にメシ食って、普通に寝て、ごく普通の退屈な生活に少しうんざりしてたんだわ。そして先生に怒られたり不良に絡まれたりして思ったんだよ。『あ、生きるのって難しいんだな』ってな」

 

「「――――――」」

 

 サイタマの話をただ静かに聞くジェノスとシルバーファング。

 

「でも就活中に怪人に襲われてるガキを助けて思いだしたんだ。昔なりたかった『どんな悪役も一撃でぶっとばすヒーロー』になれば、この退屈な人生も何か変わるんじゃないかと思ってな。だから鍛えたよ。ハゲるくらい全力でな」

 

「先生……」

 

「気づいたら強くなってたよ。なんなら目標通りパンチ一発で大体の敵を倒せるくらいにな。でも俺は強さと引き換えに何かを失っちまったんだよ」

 

 失笑しながら話すサイタマを見て、ジェノスは無意識に自分の拳を握り締めていた。

 

「最初、ここに来る前は軽い気持ちだった。ただもっと強くなればアイツに勝てるかもしれないって。でもよく考えたら全然違ったんだよ。俺はあの時俺は、力でも精神でも負けていた」

 

「先生は負けていませんでした! あの時はたまたま調子が悪か―――――」

 

「そんなことは関係ないんだ。『ヒーローが悪役に負けた』その結果は今の俺には必然だったのかもしれない。俺はあの戦いの後、顔には出していないけどクリーニング代と敗北感で胸が張り裂けそうだった」

 

 ジェノスの言葉を遮ると、サイタマはシルバーファングの目を見て言う。

 

「だからよじいさん。頼む。俺はあの日失っちまった何かを取り戻したいんだ。それさえ分かれば、俺は今を、アイツを超えられる気がするから」

 

 頭を深々と下げ、心から懇願するサイタマを見たシルバーファングは。

 

 

 

 

 

なんじゃ。そんなの簡単じゃわい

 

 

 

 

 

 満面の笑みでそう答えた。

 

 

「ほ、本当かじいさん!? 教えてくれ!」

 

 あまりの興奮に、サイタマはシルバーファングの肩を強く掴んだ。

 

「あぁ簡単じゃ。だが、それはワシが教えることじゃない」

 

 サイタマの手を剥がし、シルバーファングは人差し指を立てた。

 

「いいかサイタマ君。今から言うことはその答えについてのヒントじゃ」

 

「ヒ、ヒント……」

 

「そうヒントじゃ。お主は自分の私欲を満たすためだけにどんな悪役も倒せるすごく強い『人間』になっただけで、『ヒーロー』になれたワケじゃないんじゃ。ヒーロー協会には認められとるがの」

 

「まだ、ヒーローじゃない?」

 

 

 

 

「うむ。お主はまだ『ヒーローの本質』を知らない」

 

 

 

 

「「――――――ヒーローの本質?」」

 

 シルバーファングの言葉に二人は首を傾げる。

 

「そうじゃ。それを知るために、お主らは一度Z市に戻って誰でもいい、一人の人を本気で助けてみる事。これがお主の修行じゃ。いいな?」

 

 そう言うとシルバーファングは、おもむろに立ち上がり、道場を後にした。

 二人はシルバーファングの言葉の意図は理解できなかったが、課された修行に応じるために道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くを見つめるサイタマの目には、静かな闘志が宿っていた。

 




ご閲覧ありがとうございました。
今回は少々時間ができたので執筆しました。
不定期更新なのは変わりません。

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