異世界では子供も戦うそうです(仮題) 作:はつかねずみ
レイエスが川原を登ること数秒。川の色に変化が起こった。水が元の澄み切った美しさを取り戻し始めたのだ。
つい先程までとはうって変わり、すっかり澄みきりキラキラと陽の光を反射する川沿いに進んでいた彼は、岩陰から微かに昇る煙に気がついた。
彼は額に薄くかいた汗を拭いながら、少しばかり歩みを速めた。
◇◇◇◇◆
血で汚れきった体を洗い、血のこびり付いた服を洗い、焚き火で暖をとりながら服を乾かした。
流石に秋も終わりのこの時分に、服を全て脱ぐのは少しばかり堪えた。
洗った服は流石に付着してから時間が経ちすぎていたのか、血の染みが抜けることはなく、赤黒い血の染みが薄気味悪い斑模様を描き出していた。
焚き火の揺らめく火を眺めて、人心地ついた私は、火の側に置いておいた、ナイフと木材を持ち川辺に向かった。
川岸にしゃがみ込むと穏やかな川面には、醜い刺青の入った私の顔が映った。
私は一度ナイフを川岸に置き、万が一にも舌を食いちぎらないようにするために、薪の中からより分けておいた木材を咥えた。
大きく咥え込み、しっかりと歯を食いしばれるか確認する。
生木だったようで、歯が木材に食い込み、ぐらつくこともなく非常に噛みやすく、思っていた以上の感触の良さについつい口角が上がる。
私は木材を加えたまま一つ大きく息を吸い込み、水面に写った顔を頼りに、ナイフを右頬に刺青の端に近づけた。
ピタリと肌に当てた刃は焚き火の近くに置いあったからか、ほんの少しだけ温かかった。
私はそのまま躊躇うことなくナイフを動かした。
刃が皮膚を裂き肉に達する寸前で止め皮を剥いでいく。
自らの頬から響くビリビリベリベリと異常な音が骨を伝い鼓膜を震わす。
腹を括っていたが、想像以上の痛みに意識が持っていかれそうになる。
体が己を守ろうと手を止めようとするのを、無理矢理に動かしそのまま皮を剥いでゆく。
剥ぎが刺青の半分程に達する頃には、顔の感覚が鈍ってきた。
刺青を削ぎ切る頃には痛みを欠片も感じなかった。恐らくは身を守るため、脳が痛みを遮断したのだろう。
刺青の入った皮を剥ぎ切り焚き火に放り込む。
川面を見ると当然の事ながら顔の半分が赤に染まり、顔を引き攣らせて笑う女の顔が見えた。
それが自分だと気がつくのに少しの時間がかかる。
毛細血管が大量に通る顔の皮膚を削いだことで、命に別状はないとはいえかなりの量の血が出てしまった。
失血により頭が朦朧とする。視界が徐々に黒くなっていく。
しかし、ここで倒れると下手をすると溺死してしまうし、何よりこれ以上の出血はよくない。
とびそくになる意識の中ふらふらと頼りない足取りで焚き火に戻り、ナイフの刃先を火に突っ込む。
落ちようとする意識の中、ナイフの刃が赤くなったことを確認し、ひと思いに傷に押し付けた。
ジュッと肉の焼ける音のあとに続く肉の焼ける臭いを感じた時、私の意識は遂に暗い闇の中に落ちていった。
◇◇◇◇◇
はーいどうも!! レイエスです。
突然ですが、問題です。
秋も終わり、冬に入りかけた山の中。女性が一人焚き火の近くに、うつ伏せで倒れています。
女性の手には頑丈そうな大振りのナイフがひとつ、顔には血と火傷のあと、服には真新しい血の跡があります。
こんな状況、回答者の皆さんならばどのような対応を致しませうか?
1、何も見なかった事にして下山する。
2、女性の容態を確認し、場合により介抱する。
3、起きた時に暴れられたりしないようにした上で助ける。
4、意識がないのをいいことに『自主規制』や『自主規制』なことをする。
私の場合は、2と3です。
1はないものとして、4もやりたいけれども流石に、ねぇ。
私は恐る恐る女性に近づくと、安全を確保するために、彼女の手にあった血肉の焼け付いたナイフを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたナイフは焚き火の脇を通り過ぎ、椅子代わりにでも使われていたであろう大きな石に当たり止まった。
レイエスはナイフの行先を見届けると、背負っていた籠を下ろし斧を取り出した。
斧を取り出したのは女に振り下ろす為ではなく、斧に付いている紐を活用するためである。
クラーグが手が滑って斧が飛んでいかないように、それと持ち運びやすいようにと付けてくれた紐だ。
よく分からないが、なにかの動物の毛を編んで作ったらしく、私の小指よりも細いくせに非常に丈夫なんだよね。
斧の柄から紐を外し、うつ伏せで倒れている女腕を背中に持ってきて、その手の親指同士をくっつけて縛る。
はい、いっちょう上がり。
これで彼女が目覚めた瞬間に襲ってきたとしても逃げることくらいは出来る、はず。知らんけど。
それでは容態を見てみましょうか。とりあえず仰向けにしないと顔の傷もよく見えないし。仰向けにしますか。
んぎぃいい……、むんぬぅ…… 、どっこいしぉお!!
ひっくり返らないのですがこれ如何に。
あれ? 人ってこんなに重いの?
数秒の格闘虚しく女性の体は全くひっくり返る様子がない。
こうなったら斧の柄とそこら辺の大きめの石を使って……。
そぉおい!!
よし、ひっくり返せた。
女性にこんなこと言うのあれだけども、重かったわぁ。
ひっくり返した女性を改めて見ると色々なことに気がつく。
来ている服が、ボロ布のようなものであることや、遠目には単色に見えた服の色も、実は赤黒い斑模様だったこと、怪我は顔のモノだけだということ等々。
しかし、とりあえずは顔の傷の様子を確認しよう。
レイエスは女の顔にかかった髪を払い、傷の様子を観察した。そして、その傷が皮を削いだ上で焼かれたモノだと理解した。
彼が傷の出来方を理解するに至ったのは、クラーグが獣を捌く様子をこっそりと見続けていたからである。
更には先程蹴り飛ばしたナイフに焼け付いた血肉が頭に引っかっていたからである。
彼は焼けた傷跡と、先程のナイフという状況を鑑み、漠然とながらも想像し理解してしまった。
自分の想像が、『彼女が自分の顔の皮を剥いだ上で、焼けたナイフを傷口にあて止血した』ということが恐らく事実であることを。
それを不幸にも理解してしまったレイエスの顔色は徐々に悪くなっていく。
レイエスは無意識のうちに手を口に当て、川辺に走り出していた。
『知らぬが仏』 日本の諺より。
(´・ω・`)次話投稿しない豚は出荷?
(´・ω・`)そんなー。