第1話 さらに過酷な転生
気がつくと私、ターニャ・デグレチャフは彼の存在Xの前にいた。存在Xとは神のテンプレ姿の老翁である。二度と会いたくない相手ではあるのだが、遺憾ながら死ぬたびに会わなければならない相手である。
………うん? ということは私は死んだのか?
あんまりである! 幼き日から生涯の安寧を夢見て戦場を飛び回り、戦果をあげ、実績を積み、確実に階級を上げてきたはずだ。安らかな老後どころか、後方での勤務すらかなわず、前線暮らしの幼女のまま死亡するとは! いったい今までの苦労は何だったのか!?
「…………再び創造主を前にし、考えることがそれか? 貴様の不敬不遜はまったく治らんものとみえる」
…………そう言えば私に『信仰心』というものを目覚めさせるために、こんな巫山戯た幼女にされたんだったな。こんな目にあわされ、神への『憎悪』ではなく『信仰心』に目覚める奴がいるのならお目にかかりたい。私は存在Xに文句を言うべく口を開きかけると、
「だがよくやってくれた」
などと以外な言葉を吐いた。
何を? 死ぬまで戦果を上げ続けたことか? あなたに関係があるとは思えないのだが。
「おぬし自身はともかく、おぬしのまわりの者どもは大いに信仰心を培い、良く神の恩寵を知り、敬虔なる者となることができた。これもまた、ひとつの良き結果といえよう」
…………何のことだ? 神への信仰に目覚めた者など、MAD技師のシューゲル博士以外思いつかないのだが。だがまあ、この難アリ老翁の機嫌を取れたのならなによりだ。恨みはあっても、この死後の世界じゃ厄介極まりない絶対権力者ではあるしな。
「神への信仰を説いた覚えはないのですが、そうですか。新たなビジネスモデルを築けたのなら何よりです。以後、消費者の心理分析を徹底し、計画の検証を密に行うことをおすすめいたします」
――――このとき私は致命的なミスを犯してしまった。わずかでも、この邪悪極まりない存在Xに心を許してしまうとは!
わずかでも警戒することを忘れなければ、この前世よりさらに過酷な、さらにクソッタレな世界に来ることを免れることが出来たのかもしれなかったのに!
「そこでじゃ。そんなおぬしを見込んでひとつ、頼みがある」
「微力、非才の身でありますが、役に立てるとあらば努力を惜しむものではありません」
――――私のバカバカバカ! 何故こんなことを言ったのだ!? 用心のひとつもしないで! 存在Xを信じるなど、戦時下の統制放送が全て真実と思い込むようなものなのに!
「その世界は謎の宇宙生命体襲われ、それに人類滅亡の危機にさらされた世界でな。そいつらをなんとかする方法を見つけて欲しい」」
「…………は?」
「あとついでに、信仰心一切を否定した忌まわしき主義を掲げた者どもの勢力が生まれておる。その集団に行き、糺してもらいたい」
それ、もしかして共産主義?
なんだそれは!!!!!!!
宇宙生命体に襲われている世界の、さらに共産主義の国にいけ!? 巫山戯ること極まりない!
「異議を申したてます!そのような…………」
「ああ、みなまで言わんでもよろしい。確かに普通の転生では手に余るじゃろうな。ゆえにその世界には魔術はないが、特典として魔術能力はじめ、前世の身体能力はそのままに持ち込めるよう転生させてやろう」
「違う! その転生が理不尽だと申し上げているのです!そもそも………」
「あともうひとつ。これがあれば、大抵の局面はどうにかなるじゃろ。ホレ!」
忌まわしき存在Xがよこしたそれは………エレニウム九五式宝珠!?
宝珠。正確には演算宝珠。あの世界では魔導によって三次元世界に干渉し、様々な事象を起こせる。そして演算宝珠を使用することによる演算で、より正確、自在に事象を引き起こせる。
そしてこのエレニウム九五式宝珠は特別だ。4核の複合による宝珠で、より強力、正確に魔導を発現させることが出来るのだ。本来ならこんなことは不可能なのだが、存在Xが干渉することにより実現せしめたシロモノだ。そしてそのせいか、使用するたびに信仰心篤くなるという精神汚染があったりするのだ。
「そいつはなかなかのオモチャじゃな。ちょいと手を加えるだけで次元世界の壁を越え、存在させることが出来るようになったわい。まったく、次の人生でもこれを使えるとは幸運すぎじゃな。我ながら贔屓極まりない。これで神の御心に感謝しなければ、とんだ人非人じゃ」
そいつはあなたを讃えるようになる、などというとんでもない精神汚染があるだろうが!
「いえ、転生が避けられぬのなら、せめて九七式を! その他、私にも希望を述べさせていただく権利を主張します!」
「ではな。達者でやるが良い」
存在Xは…………やはり変わらず邪悪であった。
私は再び、あの懐かしい転生の渦へと落ちていった。
過酷なる宇宙からの侵略にさらされる世界へと、転生させられたターニャ!
彼女を待つものとは……?