幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第12話 白銀の復活

 共産主義とは質量保存の法則から生まれたものだという。

 質量保存の定理が発表された時、それを人間社会にも当てはまると考えた者がいたのだ。

 すなわち、

 

 一人の仕事量×国民総数=国家の生産能力

 

 などというオモシロ算数の公式を作った。そして導き出された値を富に直し、『それを平等に国民に分ければ平等な社会になるね』、というのだ。共産主義国家、社会主義国家はこの公式に基づき運営されている。

 諸君、笑いたまえ。声を上げ高らかに!

 無能な者の仕事と、私の様な有能な者の仕事が同じである訳がないではないか!

 ……………失礼、私の仕事はそこそこだ。(あまり仕事で傲慢になると、前前世で電車に突き落とされたトラウマが甦る。あれからこの幼女戦場地獄が始まった)

 まあ、そんなわけで共産主義国家、社会主義国家は有能な人間を惜しみなくドンドンすり潰し、潰した後は党に忠実な無能を据える、というわけだ。この公式では無能な人間の仕事量も有能な人間の仕事量も等しく同じなのだから。

 化学式より生み出された社会理論なので『科学的社会主義』、『科学的経済』などと堂々と宣伝している様は、正に”冗句も極まれり”! 世界中の資本主義者を爆笑させ、腹筋を破壊する陰謀なのではないかと疑ったぐらいだ。

 ただ一つ笑えないのは、このポンコツ理論をあまりに多くの人間が大真面目に信じ、大真面目に人を殺し、政府まで立ち上げてしまったことぐらいだな。その政府は世界中にそのポンコツ理論を押しつけるために侵略だの、テロだの、粛清だのを行い、すっかり嫌われ者だ。諸外国からも自国の国民からも。にも関わらず、その政府の要人は『自分は正義を行っており、正義そのもの』などと本気で思っているのだから、全く始末が悪い。

 

 そんな世界の縮図がこのノイェンハーゲン要塞で繰り広げられている。

 女史たち保安隊とその他一般兵の皆さんだ。BETA襲来に備えなければならないというのに、険悪な雰囲気で睨み合っているのだ。

 

 「いったい何をしているのです、あなた方は! 今が非常事態だとわからないのですか!?」

 

 「黙れ、ベトナム人が! サルが人間の言葉をしゃべるな!」

 

 ファム中尉はベトナム系ですが、れっきとした東ドイツ国民であります。政治指導的に、その辺の人種差別は”アリ”なのでしょうか?

 

 「国家保安省からの命令だ! ヴァルトハイム少尉、デグレチャフ上級兵曹。貴様らは要塞より撤退許可が出た。良かったな。こいつら諸共BETAに食い殺されなくてすむぞ」

 

 「そ、そんな。行けません! それにファム中尉は!?」

 

 やはり私たちを手土産に撤退許可をいただいたか。しかし撤退を許されない彼らの前で、何てことを言うのだ! ヤケになって私たちを殺しにかかり、内乱になってもおかしくない。BETAが迫ってきているというのに余計なトラブル持ち込みおって。

 

 

 

 

 ………………仕方ない、私が泥を被ろう。

 

 このままでは、部隊が溶けてしまう。

 カルネアデスの板からは、不用な者を海に叩き落とさねばならない。

 さもなくば、全員が溺れ死んでしまう。

 私は女史のおとしたスペツナズナイフを手に、女史に近づいた。

 

 「失礼、同志中尉。落とし物を届けに参りました。あと申し上げたき件が。反革命分子に関する重要な情報です」

 

 ザワリ、とその場の空気がかわった。己の保身のため誰かを蹴落とす密告は、この国に住む人間の恐怖そのものなのだ。クルト殿のでかい「チッ」との声と共に、あちこちから冷ややかな視線を感じる。皆、私が誰を密告するのか注目している。

 

 「ほう。何だ、言ってみろ。貴君、幼いながらも、なかなか良い革命精神の持ち主の様だな」

 

 女史はスペツナズナイフに手を伸ばし、聞いてきた。

 

 「光栄です、同志中尉。実は………」

 

 さぁ、大一番だ。今だけは『白銀』に戻らねば

 

 

 「小官、『社会主義はクソだ! くたばれシュタージ! 私が革命して滅ぼす!』などと思っております。いかがです? 小官の革命精神は」

 

 

 

 ―――――ピシッ!!

 

 その瞬間、その場の全員が凍結したように固まった。

 本当にシ~~~ンという音が聞こえるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「きっ、貴様ァァァァ!!!」

 

 最初に動き始めたのは、やはり女史。

 銃を懐から出し、私に向けてきた。

 私は素早くスペツナズナイフの刃を女史の心臓目がけて発射!

 

 ガスッ!

 

 寸分違わず、刃は狙い通りの場所に刺さった。

 はじめて使う武器だというのにこの精度。人を殺し慣れている自分が少し悲しい。

 女史は怒りの形相そのままに即死し、ドサッと床に倒れた。

 

 「よくも同志中尉を! この反動分子め!」

 

 ガーン! ガーン! ガーン! ガーン! 

 

 後ろ二人の保安隊員は女史の仇と、ライフルを私に撃ってきた。

 

 すぐさま魔導防殻展開! 銃弾をはじき返す!

 

 パシイッ! パチン! パチン! パチッ!

 

 「ば……バカな! アサルトライフルまでも!?」

 

 私は女史の銃を拾うと保安隊員に向け、別れの挨拶をした。

 

 「保安隊諸君、”シュヴァルツェスマーケン”を送ろう。君たちは選別された」

 

 パーン! パーン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 血と硝煙の臭いの漂う中、ふと女史の頭から落ちた制帽が目に入った。

 私はそれを拾い、観察する。

 

 (磨き上げられた良い制帽だ。丁度いい。女史殿、拝借します)

 

 私はそれをキチッと頭に被った。これで前世のカンを取り戻せれば良いが。

 そして見回すと、やはり皆固まったまま。

 私は彼らの真正面に立ち、彼らをしっかり見据える。

 

 「傾注!」

 

 さあ、『白銀』を始めよう。

 

 

 「諸君、私は第666戦術機中隊のターニャ・デグレチャフ上級兵曹だ。

 宣言しよう。私がこの要塞の堅守防衛任務にある限り、ここが落ちることはない。

 為すべき事はただ一つ、BETAを倒せ!

 人類に勝利を!!」

 

 

 

 

 

 




ターニャ・デグレチャフ、要塞の危機に起つ!

今、再び白銀の名を胸に

強大なBETA挺団に立ち向かえ!
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