カティアSide
ターニャちゃんがおかしくなった!
いきなり保安隊員の人達に”密告”を堂々とした、と思ったら、自分がニセ社会主義者だと告白!?
そしたら保安隊員の人達を全員殺害って………どうするの!?
「………は? 衛士なのに兵曹? い、いや、それよりアンタ、こんなことして……!」
クルトさんも大いにとまどっています! 私もです!
「後のことは心配するな。全てが終わったら私を告発すれば君たちは安全だ。それよりBETA迎撃だ。いいか? 諸君らはBETA退治の専門家だ。いつも通りだ。いつも通りやれ! それぞれの役割を完璧にこなせ。そうすれば………」
………ターニャちゃん、兵曹だよね? なのに何で指揮とかやってんの?
「………驚いたわね。守備兵達が完全に落ち着いたわ。。部隊の掌握の仕方といい、非常に優秀な指揮官だわ。あの子がこんな能力を隠し持っているなんて………まさか本当にどこかのスパイ?
いえ、さっきのトンデモ宣言、全然スパイしてないわね。ホントに何なのかしら………」
ファムお姉さんもビックリです! あ、ターニャちゃんの指示が終わりそうです。
「では、私はバラライカで外の迎撃にあたる。徹底的に数を減らし、諸君らに楽をさせてやるから感謝したまえ。もう一度言う。私がこの要塞に有る限りここは落ちることはない! 以上だ。
後ほど逢おう。勝利の美酒を持って!」
ターニャちゃん、まだお酒はいけません! あ、こっちに歩いてきます。
「ファム中尉。ケガ人に無理をさせて申し訳ありませんが、私との連絡を密に要塞内の状況をお教えください。ヴァルトハイム少尉は衛生兵と共にケガ人の看護を」
ターニャちゃんはそう言って敬礼。完璧な軍人です。
「………わかったわ。あなたも気をつけてね」
ファムお姉さんはそう言いましたが、私はショックすぎて返事ができませんでした。
「全てが終わったのなら、彼らと共に私の告発を。陥落寸前のこの要塞に送られたことで気づいておいででしょうが、あなた方は反動分子と目されています。それを持って保身をしてください」
「…………断るわ。私は何があっても告発も密告もしない。まして、あなたはいろいろ外れてはいるけど、それでも子供だもの」
「その気高い魂もこの国では報われないものですよ。では……」
踵を返し、ターニャちゃんは行こうとしました。そんなあの子を私は思わず呼び止めました。
「待って! どうして……どうして保安隊員の人たちを殺したの? いくらファムお姉さんにあんなことをしたって、私、あなたにそんなことして欲しくなかった!」
ピタリ。ターニャちゃんは止まりましたが、振り向かず答えました。
「勝つためです。保安隊員らも悪人だったわけではありません。国家保安省の正義に基づき行動しただけです。でも、その歪んだ正義はこの危機において邪魔になる。故にご退場願いました。
ああ、それと彼らを殺すことで守備隊の信頼を得る、という狙いもありましたがね」
ターニャちゃんの答えにフラリ、足元が揺れ、ファムお姉さんがやさしく肩をささえてくれました。そしてファムお姉さんもターニャちゃんに聞きました。
「私も聞くわ。さっきの指示だけど、戦車等ほか戦力を全て要塞内に留めたわね。そしてあなた一人だけ、バラライカで迎撃に出るですって? いま、何が起こっているかわかっているの?」
「メイルシュトローム………海の災厄に例えられる要撃級BETAの大規模侵攻が来ています。少なくとも五万以上が一斉にこのノイェンハーゲン要塞に押し寄せて来ているとか」
「さっき後のこととか言っていたけど、あなた一人で迎撃しきれるつもりなの? 援軍もいつ来るか……」
「来ないでしょうな。これまでの情報をまとめて考えますと、作戦本部もそんな余裕はなさそうです。ですがご安心ください。五万が十万であろうと、外のBETAは、ほぼ全て私が狩り尽くしてご覧にいれましょう。では」
ターニャちゃんはそう言って、はじめて振り向き敬礼。そして保安隊の女中尉さんの遺体に制帽を返すと、バラライカのある格納庫へと向かっていきました。
……………やっぱり、おかしくなっちゃった?
「ま、しょうがないか。言っていることはとんでもないけど、冷静だし、おかしくなっている様には見えなかったわ。ともかく言うとおり、私達にできることをしましょう。衛生看護、しっかりね」
「はい、がんばります!」
――――ターニャちゃんのことは悲しい。
でもどんなに悲しくても、ここじゃ立ち止まっちゃいけない。
悲しみ、心の痛みで立ちすくむ弱さと甘さをここに捨てます!
でも理想は捨てません。東と西、仲良くするという理想は。
そしてターニャちゃん。
あなたのことは悲しいけど、それでもあなたを信じます。
どうか――――
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ターニャSide
私は現在バラライカに乗り、要塞の頂上にいる。この要塞は構築当初は最大標高百メートルだったらしいが、弾着観測のために造成して百五十メートルになったそうだ。なるほど、いい眺めだ。BETAで出来た一面の海が良く見える。
五万以上というのはBETA襲来の数としては珍しくない。だが普通は半分以上が小型BETA、全長2.8mの戦車級だ。それがこのメイルシュトローム現象において、全長12mの大型BETA、要撃級に置き換わるのだから脅威度は倍ほども跳ね上がる。
さて、だいぶ遠回りしたが、この任務を最後にこの国を離れよう。私はこの世界唯一の魔導師。いつでも逃げることは出来た。なのに今まで付き合ってきたのは、我が隊長、アイリスディーナに魅せられたからであろう。
彼女の統率力、指揮能力、それに何より何らかの目的に向かっている目。一体何をしようとしていたのか分からなかったのは残念だが、まあしょうがない。成功すればどこか遠い国でニュースにて答えを知るだろう。
あの海がここに達するまであと一時間………いや、四十五分か。
我が愛機バラライカよ、今日でお前ともお別れだ。
だが、私からの餞別だ。お前に栄誉をやろう。
あの海の災厄の名を持つBETAの群れ、
あれを討つ。
『ただ一機、五万のBETAを喰らいし者』との誉れを捧げよう――――
迫り来る大型BETA要撃級の群れ!
大海の津波の如く押し寄せる!
だがノイェンハーゲン要塞に立つ幼女
ターニャ・デグレチャフが愛機バラライカと共に迎え撃つ!