幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第14話 メイルシュトロームに幼女は嗤う

 『東と西のドイツ仲良くしましょう。強力してBETAと戦いましょう!』

 

 カティアのこの言葉は現実的にはお笑い種でも、実は政治的方針としては正しい。

 もし私がこの国の政治指導者なら、西ドイツだけでなく諸外国との協力体制を作ることに全力を尽くしている。例え血を流すような条件と引き替えにしても、だ。人間同士の交渉で失ったものは、いつかまた取り戻せることが出来るが、BETAに破壊されたものはもう二度と取り戻せはしないのだ。

 なのにこの国の政府は社会主義の正義にこだわるあまり、諸外国との相互理解の努力さえしようとしない!

 思えば前世の国家指導者らも最悪だった。戦争を終わらせる機会は幾度もあったのに、人間を薪にくべるが如くズルズル続けていった。それでも国民のことを考え、戦う兵達に敬意を払うことだけはあったと思う。私が最後まで不断の努力で戦い続けたのもそれがあったからだろう。

 それに引き替えこの国の政治屋共ときたら、『革命精神に反した』などというくだらん理由で自国民を捕まえ、拷問し、殺しまくる始末だ。

 私がいまだクルト曹長らに付き合っているのも、そんな政府への反発が大きいのかもしれない。

 

 さて、今現在だが私はバラライカに乗り、要塞の頂上に立っている。戦術機というのはこういう高低差のある場所でも運用出来るのが強みだ。

 見下ろせば一面BETAの群れ。いや、海とでも言った方が正しいのかもしれない。なにしろ遙か彼方までBETA、BETAなのだから。いやはや『メイルシュトローム』とは良く言ったものだ。これら全てがこの要塞に向かって来ているのだから、悪夢そのものとしか思えない。

 

 「まったく、BETA共の繁殖力というのは凄まじいものだな。前世から今世に至るまで、常に戦力不足に泣いてきた身としては羨ましい限りだ。さて、では防衛陣構築といこうか」

 

 

 『BETAはBETAを殺せない。足を潰して殺さずに動きを止めれば、他はそいつを避けていく』

 

 クルト曹長に、そんなBETAの習性を聞いた時は耳を疑ったものだ。私なら味方の進軍を邪魔する、為せぬ無能など踏み潰して行く。だがクルト曹長の言葉は真実だと、ファム中尉も言った。

 いやはや素晴らしい! あのおぞましいBETAが、かくも同胞愛に満ち溢れた存在だとは! 自国民の人間狩りなどを楽しむ国家保安省よ、見習うがいい!

 しかし、ならば話は簡単だ。BETAをもって我が要塞の防壁と為せばいい。

 

 突撃砲を下に向け、構える。カティア、ファム中尉の分ももらってあるので弾は豊富だ。

 魔導術式には弾の軌道を変えることの出来る術がある。前世これで弾丸を誘導弾に変え、無邪気に敵と追いかけっこをしたりされたりしたものだ。。

 それを突撃砲にかける。かなり曲げるので弾速は削れるが、エレニウム九五式宝珠の強力魔導なら問題はない。

 弾は破裂させず、術式のみで爆裂。威力は落ちるが、足のみ破壊なのでこれでいい。そして滞空時間と貫通力増強の術式もかける。

 

 「エレニウム九五式宝珠起動。『………おお、神よ。天に虹。地に豊穣の恵みの奇跡をもたらし、我と我らを慈しみ守りたまえ』」

 

 狙い…………発射!

 

 放たれた弾は地面に着弾寸前、軌道をまっすぐ前進に変える! 倒産寸前企業の営業成績グラフの如く、地面スレスレ!

 

 軌道上のBETAの足を次々破壊し、その一直線は動きが止まった。そしてBETAの群れはそれを避けて行く。

 

 「いい感じだ。次は曲線を描くとしよう。再び起動! 『神は永遠なり。いまだ至らざる我ら、その有限の命をもって祈り、その御名を讃えよう』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はっはっはっ、笑いが止まらないな。我が祖国を滅亡に誘う怨敵も、弱点がわかれば案外簡単なものだな。密集しすぎた行軍が仇になったな、虫けら諸君」

 

 大地に押し合いへし合い身動きとれず、それでも動こうともがくBETAを見下ろしながら、私は腹を抱えて笑った。

 私は足を潰したBETAで迷路を作った。いくつもの進路をいろいろ複雑に絡め合いながらも、全て行き止まり。結果、BETAは進むことも退くこともできずに、ほぼ全てその場に絡め取られている。

 

 「ファム中尉、要塞内の様子はどうです? BETAは多少漏れて行っていると思いますが、問題ありませんか?」

 

 『え、ええ。こっちにはごくわずかしかBETAは来なくて、全て余裕を持って迎撃できてるわ。でも、どうしてこんなに少ないの? ”メイルシュトローム”はどうなったの? 外の様子は?」

 

 「ああ、もちろん私の前面にはBETAが大海の如くおります。ですが、全て私が阻んでいるのでご安心を。要塞守備兵の皆には、『五万如きのBETAでは我が国最強の第666は抜くことはできぬ。心強くあれ』と、おっしゃっておいてください」

 

 「………………それは後でいろいろ問題になりそうだからやめとくわ。でも、どうやってあなた一人で……』

 

 ピ――――! ピ――――!

 

 ふいに別の方から通信が来た。

 

 「失礼、中尉。外部から通信ですのでお待ちください。これは……我ら第666のものです」

 

 そして向こう彼方から二機のバラライカがこちらに飛んで来るのが見えた。

 

 『応答せよ。こちら第666戦術機中隊エーベルバッハ少尉。そちらのバラライカに搭乗しているのはデグレチャフ上級兵曹で間違いないか?』

 

 「こちらデグレチャフ。ただいま要塞陣地の堅守防衛任務に従事中。わざわざ陣中見舞いに来ていただけるとは、そちらも大勝利だったようですな。お喜び申しあげます」

 

 『………ハァ? 勝利? ”メイルシュトローム”は……いや、下のBETAは何故進まない?』

 

 「ああ、足を潰したBETAで迷路を作り、それで絡め取ったのですよ。小官、陣地構築を少々学びましてね。このように陣を迷路にし、敵を遊兵へと誘う術も知っているのです」 

 

 『な、なんだと………!』

 

 「ただいま要塞は作戦行動中ですので大したおもてなしはできませんが、ファム中尉、ヴァルトハイム少尉らとお話でもして暖まっていってください、少尉殿」

 

 はっはっはっ、と陽気に少尉殿に語りかける私。もう離れる部隊なのに、つい上官にアピールしてしまう。我ながらパブロフの研究材料になれる程の条件反射だ。

 

 『ふざけるな!!!!』

 

 な………っ、私の上官アピールが間違っただと!? 

 

 『なんだそれは! お前らがここに取り残されたっていうからオレは……………! 大尉も!! 苦しい中、部隊の人数を割って、たった四人で光線級吶喊をしてるってのに!」

 

 大尉? アイリスディーナがどうかしたのか? いや、隊長である彼女の許可がなければ、テオドール少尉ともう一人もここに来ることはできないはずだが、どういうことだ?

 

 「と、とにかく中に入って互いの情報交換を。ただいま要塞内に連絡し、戦術機受け入れをしますので………いや、その前にやることができました。お二人が来ていただいたのは、ちょうど良いタイミングだったようです」

 

 

 彼方より、要塞級の巨体が三体こちらへ迫る姿を、遠視カメラがとらえた。

 

 

 

 

 

 




 見事、BETAの大挺団を阻んだターニャ!
 だが、未だ要塞の危機は終わらない!

 巨大BETA、要塞級を打ち砕け!

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