テオドールSide
―――カティアを救いたい
――――ただ、その想いのためだけに、俺はアイリスディーナの同志になった。
カティア、ファム、ターニャが中隊と切り離され、ノイェンハーゲン要塞内に取り残されている。そしてメイルシュトロームと呼ばれる要撃級の異常発生。その現象が確認された新たなBETA挺団は、推定五万以上。そしてそのほとんどがノイェンハーゲン要塞に向かっているそうだ。だが明日、光線級吶喊を命ぜられている俺達第666戦術機中隊は彼女達を助けに行くことは許されない。
―――カティア
―――救えなかった妹を思わせるアイツを
―――助けて欲しいとアイリスディーナに乞うた
そしてアイリスディーナから、カティアの父親はかつてのこの国の英雄であり、反政府グループのリーダーだったこと。彼女はその英雄の部下だった兄から意志を託されたこと。この国を絶望の運命から救うための、とある反体制派のグループの一員であることなどを聞かされた。そして俺はアイリスディーナの同志となり、カティア達を救う作戦に加わることにした。
―――そして現在。光線級吶喊の任務での出撃中だ。
だがその途中、アイリスディーナは指揮系統の隙を突き、中隊を割ってノイェンハーゲン要塞内の仲間を救うことを決断。俺とアネットを要塞へと送ることになった。だが、アイリスディーナはたった四人で光線級吶喊をしなければならなくなった。
後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも要塞へ向かう。だが俺達が行う三人の救出も、決して楽な任務じゃない。五万ものBETAの大規模攻勢に、援護も無しのノイェンハーゲン要塞はおそらく保たない。大量のBETAをかいくぐり、要塞内にまでたどり着かなきゃならない。そして要塞守備兵。彼らを救う余裕はなく、命運定まった彼らが邪魔をしてくる可能性もある。難易度の高さにクラクラくる。
―――――それでも、やり遂げる!
―――アイリスディーナとの決意の灯火にかけて!
……………と、決意して来たのだが。
どうも様子がおかしい。ノイェンハーゲン要塞周辺に大量のBETAはいるのだが、それらはその場で蠢いているだけでまったく進まない。戦術機の空中機動で要塞に近づいても、要塞はBETAにとりつかれることなく静かに佇んでいる。
用心して遠視カメラで観察すると、要塞頂上部に一機の戦術機がいるのを発見した。それの識別信号は同じ第666戦術機中隊、ターニャのバラライカだった。
『やぁ、エーベルバッハ少尉。陣中見舞いですか。ファム中尉、ヴァルトハイム少尉らとお話でもして暖まっていってください。はっはっはっ』
「ふざけるな!!!!」
そんな暢気な言葉にブチ切れた。陣中見舞いだと!? このBETA大規模攻勢にさらされている最中に、どこの部隊にそんなヒマ人がいると言うのだ!? いや、仲間が無事なのは良いことのはずだ。が、昨日までの焦燥と絶望。今までの決意と覚悟を返せ、と言いたい!!!
………が、落ち着いて考えてみれば、任務が楽に終わりそうなのは何よりだ。急げば光線級吶喊前に中隊と合流できるかもしれない、と思ったのだが、
『丁度良いタイミングで来ていただけました。あれを狩るのを手伝ってください』
ターニャが言う”あれ”とは、彼方よりノイェンハーゲン要塞に向かってくる三体の、最も巨大なBETA、要塞級のことだった。要塞級は器用に細い足で足元のBETAを踏まないように歩き、ゆっくりとだがこちらに向かっている。
『あれらがここに来たら迷路が壊され、BETAが一斉に中に入ってきます。今のうちに叩きますので、手を貸してくださいませ』
などと、とんでもないことを言う。
『わ、私達だけで要塞級を三体も相手にするなんて………』と、アネットは及び腰。
「一人一体を相手にするのか? 明らかに戦力不足だろう!」
と言うとターニャは、
『いえいえ、お二人にはあれらの足止めをお願いして頂くだけで結構です。それで、ちゃんと私が仕留めてみせますので、お願いします』と言う。
薄々だが、コイツに何か理解の及ばない未知の力が有ることを感じている。アイリスディーナが拾ってきた幼女を無理に衛士にしたこと。技術以前に体力すら及ばないはずの衛士テストに一ヶ月で受かったこと。そして今現在、五万ものBETAを足元で釘付けにしていること、などを考えてだ。
なので、今一度こいつの力を量るために決行することにした。
「アネット、とにかくこいつの言う通りにやってみよう。攻撃はせず、衝角をかわすことに集中するんだ!」
『う、うん、やってみせるわ!』
俺達が近づくと要塞級は足をとめ、衝角付きのムチを放ってきた。俺はアネットのためにけん制の銃弾を放ちながら、それを躱す。………が、躱したと思ったら、別の個体の衝角が迫ってきた!
ガガガガガガガガ!
銃弾で方向をそらしたが、やはり長くは保たんぞ。アネットも長刀で衝角を弾いているが、苦しそうだ。その時だ。
パン! パン! パン! パン! パン!
後ろから射撃音が聞こえた。だが、フルオートじゃなく単射だ。
(何のつもりだ? 要塞級の巨体相手に、それじゃ意味ないだろう)
そう思った瞬間だ。
ドォォォォォォォォォン!
―――――――!?
いきなり要塞級一体の片側の胴体と足の間の関節が内側から全て爆発した!
なんだ、なにが起こった!?
パン! パン! パン! パン! パン!
再びターニャは単発で連射をした。すると先程と同じように、もう一体も片側の胴体と足の間の関節が内側から全て爆発した。さらに同じ様な連射で三体目も!
ズウウウゥゥゥゥゥゥン×3
要塞級の足は千切れなかったものの、要塞級は大きな音をたてながら全て横倒しに崩れ落ちた。関節が完全に破壊されたのであろう。立てなくなってその場でもがく三体の要塞級を見下ろしながら考えた。
(どういうことだ? 状況からターニャの射撃がこれを引き起こしたとしか思えない。だが、なぜ爆発する? それに、あの位置は完全に死角だろう!)
ターニャに聞いてみるべく通信を開いてみると、おごそかな声。
『神は私を愛し、私もまた神を愛してる。汝、幾度罪にまみれようと神は全てを許すだろう』
お祈り? こいつが? いや、この国じゃ国民全員宗教を持たないことになっている。これ、まずいんじゃないか? ………しかたがない。後でアイリスディーナから聞いた機内ログを消す方法で抹消しとくか。
『テオドール、あれ!』
急にアネットから注意が来た。うながされた方向を見てみると、要塞級の腹から数体の光線級が這い出てきている。
(やれやれ、こんな所でもまた光線級吶喊か)
俺はアネットと共に光線級が這い出てくる先から、片っ端に排除していった。
ターニャが要塞級を倒した術式は、誘導術式で関節に当て、爆裂術式で弾を爆破したものです。
ノイェンハーゲン要塞はついにBETAからの危機を脱した。
この後、ターニャはどうする?