幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第17話 チキチキ戦術機猛レース

 やあ、諸君。ターニャ・デグレチャフ上級兵曹だ。いざ、主の名を讃えよう!……………失礼、またまた九五式の使いすぎで精神汚染中。

 私は今現在、愛機バラライカで、チーム『ヴェアヴォルフ』諸君の戦術機、六機のチュボラシカとレースの真っ最中! コースはBETAがゴロゴロなので良好とはいえないが、トップをキープだ。このまま逃げ切り、優勝といこうか!

 『大規模BETA侵攻への防衛戦闘の最中、なにをやっている!? 社会主義精神欠如によるサボタージュだ、怠慢だ。くらえっ、社会主義的修正パンチ!』などと、イエッケルン中尉あたりに怒られそうだ。いや、遊んでいる訳ではない。こういうことだ。

 

 私達は基地に帰還すべく、ノイェンハーゲン要塞を出発した。カティアとファム中尉の戦術機は破損していたので置いてきた。この二機のと要塞にわずかに残っている推進剤で、帰還する三機を満タンにした。ファム中尉はテオドール少尉の、カティアはアネット少尉の機体の補助シートにそれぞれ乗った。

 が、道中背後から四機のチュボラシカが追ってきた。おそらく保安隊の女史中尉らは、彼らに私とカティアを引き渡す手はずになっていたのだろう。保安隊は失敗したので、直接確保しに来たという訳だ。

 チュボラシカはバラライカの上位機体。機体能力の全てにおいてバラライカを上回っている。そのため彼らを振り切ることは出来ず、グングン距離を詰められる!

 そこで私は先任二機と別れ、単独で逃げることにした。連中にとって私がどの程度の重要度か量る目的もあった。そこで、

 

 「こちら幼女。こちら幼女。諸君らは幼女禁猟指定に抵触している。直ちに追跡をやめよ」

 

 と、別れ際に敵方に通信を送った。追跡する四機の内、二機がこっちを追ってきた。

 

 そして途中どこかに隠れていたのか、新たな四機が前方に出現! 六機も私に使っていただけるとは光栄至極。女史に見せたパーフォーマンスで殊の外、私に興味を持ってくれた様だ。

 

 私は囲まれた………が、光学系術式によるデコイによって脱出!

 

 それでも連中は、諦めず追ってくる!

 

 包囲を突破されても、機体性能差を考えれば楽に追いつけると考えたのだろう。

 

 そこでエレニウム九五式宝珠発動! 「神は偉大なり!」

 

 機体強化によって連中と同スピードをキープ! 引き離すことも出来たが、あえてしない。

 

 やがて、前線付近へ突入!

 まばらだったBETAも増えてきた。

 襲ってくるBETAを迎撃しながら進む。なんと一体一発で完全撃破! 劣化ウラン弾に爆裂術式をかけると、素晴らしい威力になるのだよ。

 うむ、劣化ウラン弾を誘導、光学、爆裂の術式で誘導弾に変えるのもだいぶ慣れてきた。要塞でいっぱい実弾演習できたからな。

 さて、司令部より送られてきたBETA分布情報によるとそろそろだ。

 

 ピピピピ!

 

 おっと、いたな。では、目標に向かって果敢に突撃といこう。ヴェアヴォロフの諸君、しっかりついて来たまえ!

 

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡♠

 

 追跡ヴェアヴォルフSide

 

 『くそっ! なんなんだ、あのバラライカのスピードは! どうしてチュボラシカで追いつけない!?』

 

 『さっきの包囲、誰がミスしやがった!? 一機を六機で囲んで、なぜ逃げられる!?』

 

 『新任小娘の乗ったバラライカに追いつけませんでした、なんて報告は出せんぞ。ヴェアヴォロフの名にかけて、なんとしても捕まえろ! 重要指定も、ヴァルトハイムよりも上がったんだ』

 

 『あの弾、炸裂弾か? BETAが爆発してるぞ! あんな武器、配備されたという報告はない。あれも手に入れて報告するんだ!』

 

 『ちっ、そういやBETAが増えてきた。どこまで深入りするつもりだ? あいつ、俺達に逃げるのに夢中で、危険区域になっているのも気がつかないらしい」

 

 『まずいな………そろそろ前線付近だ。作戦目標の光線級がいる場所だ。仕方ない、足を撃って止めるぞ!』

 

 ピピピピッ

 

 『……………光線級の予備照射反応? だが、BETAは退いていない。故障か?』

 

 『――――!!! なっ、バラライカが消えた!? 付近のBETAまで!? 』

 

 『うあああああ! 前方に光線級が!? ま、間に合わない~~~~!!!』

 

 

 ズウゥゥゥゥゥゥン………………

 

 

 

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡♠

 

 ターニャSide

 

 

 種明かしなど無粋と思うが、あえて解説しておこう。光学系術式で私の機体付近に、とっくに退避しているBETAの幻影を作ったのだ。私がこの場所に来たのはとある実験のためだが、ヴェアヴォルフの諸君には面倒なのでついでに消えてもらった。もっとも連中が追っていた私のバラライカは実体だ。消えたのはこういう訳だ。

 

 私の作る魔導式防殻は、BETAに有効なのは小型まで。だが、上手く使えば大型でも致命傷は避けられる。が、光線級だけはダメだ。戦術機すら蒸発させるレーザーに対して、防殻など紙装甲一枚貼り付けただけにすぎない。。

 そして国家保安省の手先の武装警察軍。ヤツらは国家保安省に反抗的な部隊には間違った情報を渡し、光線級の潜む場所に追いやっているというウワサがある。私たち第666戦術機中隊もいつ罠にかけられるか分からない。

 そこで自衛のため、光線級から身を守るための術式を考えた。注目したのは光線級がレーザーを発射する前の予備照射。

 予備照射とは光線級がレーザーを発射する前に発する不可視の光線。もっとも予備照射の時間は2秒ほどなので、それを感知した後に退避しても間に合わない。レーザーが発射される直前には射線上のBETAは退避するので、その動きに合わせて逃げるのが確実だな。

 そこで私はこのセンサーが予備照射を感知した瞬間、機体がスピード特化に強化。レーザー照射圏から全力で退避する、という所まで自動で行う術式を作ったのだ。ヴェアヴォルフの諸君には消えたように見えただろうが、瞬間的な猛スピードのためだ。

 

 さて、新術式の実験も成功。あまり近づいては流石に躱しきれないが、二千メートル辺りまでならいけるだろう。

 

 そして照射の隙を突き、最接近! ひとり光線級吶喊の完成だ!!

 

 ノロマな間抜けがこちらを向く前に、次々と誘導弾で葬っていく!

 

 ズゥ――ン! ズガァ――ン!! ズガガァ――――ン!!!

 

 はっはっはっ、前回までのおっかなびっくり近づきながらの光線級吶喊が嘘のようだ。ここの光線級群を担当している部隊の諸君、楽をさせてやるから感謝したまえ。

 

 ズガァ―――ン! バァ―――ン! バババァ―――ン…………

 

 

 

 『ターニャ・デグレチャフ上級兵曹、応答せよ。ベルンハルト大尉だ』

 

 粗方光線級をかたづけ終わった頃、懐かしき我が隊長殿から通信が来た。ふと見ると、一キロ程先に第666戦術機中隊の機体が勢揃い。我が第666でしたか、ここの光線級の担当は。

 ああ、テオドール少尉の機体もありますね。無事に本体に合流できて何よりです。アネット少尉の機体が無いのは、カティア、ファム中尉を後方に送ったからですね。

 

 『デグレチャフ上級兵曹、状況を説明せよ。ここの光線級を殲滅したのはどこの部隊だ?』

 

 

 

 さて、どうしよう…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チーム「ヴェアヴォロフ」を全てリタイアさせ見事優勝!

そしてゴールには、懐かしの仲間たちの歓迎が!

さぁ、いい訳だ!

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