幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第2話 義勇兵志願

 

 

 私は二度目の転生をした。場所はドイツ民主共和国。通称は東ドイツ。ソビエト社会主義連邦を盟主とするバリバリの社会主義国だ。この瞬間、私は長くコミーに頭を下げ続けなければならない屈辱が決定したわけだ。

 名はグレース・ワイスという女の子。両親が出征した時、何故か孤児院に預けられた。だが両親が戦死した時、そのまま孤児院の住人となった。さすが社会主義国、やることに無駄がない。それから乳幼児期のお世話される屈辱も、二度目のおかげでそこそこ………慣れる訳なかろう! 

 そして容姿は前世のターニャ・デグレチャフと寸分違わず同じ。本当に体を全くそのままに転生させられたようだ。孤児院の生活は、まぁ普通に最悪だった。食い物は不味くて少ないし、社会主義国らしく人民と党への忠誠をやたら強要された。

 

 私は社会主義というのは、メンヘラ気味のお偉いさんのブスな娘だと思うことにした。『愛している』と四六時中語りかけてやらねばならず、他者への愛………父母の愛だろうと神の愛だろうと、とんでもなく嫉妬してくる頭のおかしい女。そいつをジゴロよろしく上手くつきあっていくことが仕事のひとつと割り切っていくことにする。

 無論、それと一生つきあうなど冗談じゃない。私はもうすでに、西側……資本主義陣営への亡命を決断している。私は前の前の人生から資本主義への忠実な信徒であるし、社会主義国というのは上から下まで誰も幸せにしない国だということは知りすぎているからだ。この国でどれだけ偉くなろうとも、決して安寧なぞ訪れない。なるほど、確かに平等の国だ。誰もが一律に不幸となる。

 

 なに、存在Xからの頼みはどうするのかだって? 知ったことか!!!

 前回、私はさんざん過酷な戦場を歩かされた。そして今世、今度こそは暴力のない人生を、と望んだにも関わらず、社会主義国家で宇宙生物と戦え、だ。まったく、前よりさらに酷い過酷なノルマを押しつける様はまさにブラック企業、いやブラック転生だ。暗黒神め! ヤツのために働いてなどやるものか!

 

 そしてエレニウム九五式宝珠。それはいつの間にか手元にあった。存在Xの思し召しの特典らしいが、有りがたい。感謝する気はカケラもないが。こいつがあれば前世の強力な魔術を使える。これを乳幼児期の暇にまかせて魔術の様々な使用法、応用法を研究し、学んだ。強い力を行使すると、神を讃える誓句と光が出てしまうのが難点ではあったが。

 

 九五式宝珠をかなり使える様になった頃、義勇兵の徴募が来た。だが、これは一定数の子供を軍に抽出しなければいけないという強制だ。義勇兵なのに強制というコミーマジック!

 現在この国は………いや、この世界はBETAと呼ばれる地球外起源種。いわゆる宇宙生物と戦っている。BETAの物量は凄まじく、殺しても殺しても、いくらでも湧き出してくるそうだ。結果、兵は足りなくなり、立場の弱い孤児はその穴埋めの肉壁となるべく義勇軍に行かされるのだ。

 誰もが嫌がるそれに私は志願した。ある条件と引き替えに。

 

 「ターニャ・デグレチャフ? 入隊にあたり、君はこの名にかえるというのかね? グレース・ワイス」

 

 「はい。『グレース・ワイス』という名はやさしすぎて、戦意を高めるのに難が有りすぎるのです。院長先生の許可なども取ってありますので、よろしくお願いいたします」

 

 現在、私は義勇兵徴募の面接官殿との面接の真っ最中。院長に名を変えることを条件に義勇兵に志願したのだが、面接官殿はこのことに難を示した。

 

 「手続きが煩雑になる。やめたまえ」

 

 などと怠けたい本心を隠しもせず言う始末。孤児の義勇兵ひとりに髪の毛一本分の苦労さえ厭う気持ちは分かる。しかし私としてもこれは避けたくない事なのだ。

 

 「いえ、どうか面接官殿の格別のご厚情を持ってお願いいたします。もし、私の拙い願いをお聞き届け頂けるなら、党のご恩に報いるべく最前線を希望いたします!」

 

 「…………貴君の人民と党への献身、大いに評価する。希望は受理しておこう。もっとも死亡時、関係者への通知時には元の名へと戻すことになるが………」

 

 「ありがとうございます、面接官殿。人民と党へ感謝を!」

 

 最終的には最前線送りは立場の弱い者からの強制になるとはいえ、やはり志願の方が望ましいのであろう。めでたく私は最前線と引き替えに、再び『ターニャ・デグレチャフ』となった。

 さて、何故に私は『ターニャ・デグレチャフ』の名にこだわったのか? それはこの名はどうも戦争に引き寄せられすぎる気がするからだ。前世、私は死んだ時の記憶がなく、どの様な最期だったのかもわからないため、『ターニャ・デグレチャフ』の自我が強く残っている。なので次の戦場で華々しく死に、私の中の『ターニャ・デグレチャフ』をきれいさっぱり消し去ろうという一種の儀式めいたことをするつもりだ。

 無論本当に死ぬわけではなく、死亡したとみせかけての国外逃亡をするつもりだ。普通に考えるなら、最前線からの逃亡なぞ上手くいくはずがない。だが、私にはこのエレニウム九五式宝珠がある。これさえあれば人のいない地域で空を飛んで悠々逃げられる、というわけだ。さらに支給される乾パンで道中の食料をまかなう。戦死した同胞からもいただければベストだ。

 

 

 そして出征日。

 迎えのバスが来たようだ。

 見送りの皆の表情は複雑そうでも、祝福の言葉を述べてくれる。

 死にそうなお顔のお友達と共に雄々しく出征するとしますか。

 

 

 ターニャ・デグレチャフ最後の戦いへ!

 

 

 

 

 

 

 




 義勇兵より始まる新たなターニャの戦記!
 シュヴァルツェスマーケンと交わる日はいつ?

 次回、新生ターニャ初戦闘!

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