ときめきハートウォーミング幼女ロマン
第4章開幕!
第28話 再びベルリン
それからのことを少し話そう。あの後アクスマン中佐はアイリスディーナを一時的に拘束した。その間、私たちは心配したが、何事もなく帰って来た。彼がリィズ少尉を国家保安省のコラボレーターだとほのめかした件は気になるが、部隊員に関しては隊長のアイリスディーナや中尉ら幹部の領分。兵曹ごとき下っ端の出る幕ではない。それに今、私は部隊を離れて出張任務中なのだ。
突然だが私の階級について少し話そう。『上級』は前にもいった通り『兵曹ではあるが戦術機の搭乗許可を特別に与える』という意味だ。では兵曹は?
実は衛士任官前の訓練兵。厳密にそう規定されているわけではないが、兵曹待遇なのだ。つまり私は訓練兵だったのだ。散々実戦に赴き、四軍合同の『海王星作戦』にまで参加しておきながら、そうだったのだ。
アイリスディーナは、規定年齢に達していない幼女である私を第666戦術機中隊へ入れる言い訳として、『第666が教育する訓練兵』ということにしてあるのだ。
以上を踏まえ、新任務について説明しよう。
海王星作戦から帰還した数日後、私は首都ベルリンへと出張することになった。同行者はテオドール少尉とイェッケルン中尉。目的はベルリンのお偉いさんに第666戦術機中隊を教導隊へと売り込み、我が隊の政治的立場を高めることだ。そして私はその『第666が教育した訓練兵』のサンプルモデルとして見せるために連れてこられたというわけだ。
しかしどう教育しても私のような衛士など育てられるわけがない。詐欺ではないかと思うのが、まあいい。社会主義国でこの程度の騙しなど可愛いものだ。言葉巧みに国家に批判的な意見を言わせ、国家保安省に売り飛ばすよりは遙かに良心的だ。
イェッケルン中尉は市内の党本部や軍の政治総本部を巡り、政治将校と会合を重ねていった。私とテオドール少尉も同行したが、大抵は室外待機。もっともその間遊んでいたわけではない。ベルリン市内の重要施設の地理を存分に把握することができたので実に有意義だった。ベルリンはいずれ事を起こさねばならない地。ここで詳細な地理を知ることができたのは大きい。
私とテオドール少尉が立ち会いをしたのは、アーダベルトシュトラッセにある国防省参謀本部のとある参謀将校。私は教育関係の将校に会う時に立ち会いは経験したが、テオドール少尉は初めてだ。どうやら彼が本命らしい。
ところがこの将校殿、国家保安省にビビリまくり。私やテオドール少尉の優秀性は認めたものの、国家保安省に睨まれるのがイヤで言葉巧みに逃げようとする。ところがイェッケルン中尉、なんとこの将校殿の不正のネタを握っていた! そして青白い顔をした将校殿から言質を取ることに成功したのだった。
いや~~お見事! 実に素晴らしい! 海王星作戦で亡き者にしなくて本当に良かった!
作戦本部の庁舎より舗装路に出るとき、ついはしゃいでしまった。
―――ドン!
私はそこで不注意から、私くらいの男の子とぶつかってしまった。私は女、なのに倒れたのは男の子の方。魔導強化してなくても、現役軍人の私が普通の子供に力負けするわけがないのだ。
「ああ、申し訳ない! うちの子の不注意で!」
彼の父親らしき男性がすぐ私に詫びてきた。私が纏っている軍の高官に会うための正装のせいだろう。にこやかな顔でも、怯えた様子が見て取れた。ここは社会主義国。制服を着ている者で下手な相手だと、こんなことでも引っ張られかねんのだ。
「ああ、私は大丈夫、お気になさらずに。それよりお子さんに怪我はありませんか?」
「ええ、うちの子は丈夫だけが取り柄でして。………失礼ですが、軍の関係者で?」
幼い私が、軍の正装を纏っていることが不思議なのだろう。そんなことを聞いてきた。
「ええ、一応部隊付の雑用などをやらせてもらっています。『私のような者でもお役に立てるなら』と、志願いたしましてね」
さすがに『もう戦場に出て、実戦も経験しています』などと本当のことは言えない。私の年齢から見ればこれでも無理はあるが、まぁ納得できる範囲だと思う。
「すげぇ! 君、もう軍に入って働いているんだ! ねぇお父さん、僕も入っていい? 世界最強の東ドイツ軍に入って、僕も貢献するんだ! 第666戦術機中隊『シュヴァルツェスマーケン』とかに会えたらいいな!」
男の子の方が食いついてきた。もう会っているよ、坊や。ニュースの影響は凄いものだな。
しかし東ドイツ軍が世界最強とは何の冗談だ? 『海王星作戦』じゃ、西側のどの国より装備、武装は旧式であったし、戦術機も型落ち。人数も半数以下。西側の豪華な艦船にも圧倒されていて、光線級吶喊までは”いらない子”扱いだったぞ。
「こら、よさないかハンス! すみません、不躾な子で。その…………失礼とは思いますが、本当に軍ではあなたの様な子供を?」…
ふむ、私のような子供が軍に行かされるなら、自分の子も…………と、心配している感じだな。しかしまずいな。あまり深く聞かれるとボロが出そうだ。ここらで会話を打ち切るか。
「いや、私は軍の方に少々縁がありましてね。さすがに、普通はまだ私の様な年齢の子供が軍に引っ張られるようなことは………………あるかもしれません」
「ええ!!?」
いかん! なぜか急に孤児院の義勇兵に行った子達のことを思い出してしまった!
「ああいや、本当に滅多にありませんよ。それでは私はこれで!」
私は逃げるように親子から離れ、待っていたテオドール少尉、イェッケルン中尉の所へと急いだ。
「『世界最強の東ドイツ軍』、か………」
イェッケルン中尉はポツリと言った。
「いや、あの男の子の声が聞こえてきたものでな。あのように言われると、面映ゆいものだな」
彼女はそう言って、まだ小さく見えている親子の姿を眩しそうに見た。
「私もな………あの男の子と似た感じの子供だったよ。我が国はどの国より社会主義を実践した先進的な国であり、世界でもっとも優れた国家だと信じて疑わなかった」
さすがイェッケルン中尉。実に模範的なコミーの子供時代だったようで……………え? 今は疑っておられるので?
「幸い学才に恵まれ、政治将校の道を歩むことができた。が、同時に我が国の色々な矛盾点をも知ることになった。それを解決すべく、出世を目指すことにしたのだがな………」
その優秀な頭脳を、糞みたいな社会主義思想で埋めてしまったのはもったいない限りです。
しかし矛盾どころではないだろう、我が国の問題は。狂った思想の共産主義より発展した社会主義。それに基づいた社会制度は信じられないほど非効率な上、多くの罪のない人間を『政治犯』という犯罪者にして獄に繋いでいる。イェッケルン中尉が出世したぐらいで治るようなものではないぞ。
「いや、これ以上は体制批判になってしまうな。だが、それでも私はこの国が好きだ。BETAの海に沈む運命だとしても、できる限りのことをしたい」
つまり体制批判に近いことは考えているわけだ。海王星作戦以来、イェッケルン中尉は変わった。いや、正確には海王星作戦での危機に、上司の政治将校の言葉よりアイリスディーナの進言を取り、光線級吶喊に赴いてからだ。
彼女は本来アイリスディーナを狙う立場のはずだが、どうも、あれ以来アイリスディーナ側に近い立ち位置になった気がする。この第666戦術機中隊を教導隊にして政治的立場を強めるのも、アイリスディーナに頼まれたからだ。
さっきの言葉から考えて、我が国のあまりに政治を優先してしまう社会システムに疑問を持ったのかもしれない。思うにアイリスディーナは海王星作戦のあの時だけでなく、長い時間をかけてイェッケルン中尉を説得してきたようだ。確かに我々を監視する政治将校を引き込めれば、やれることの幅は一気に広がる。
「二人とも。決して振り向かないように」
突然、テオドール少尉が言った。
「つけられている。このままホテルに戻るのはヤバイ」
尾行か! コミーの秘密警察の仕事ぶりには実に頭が下がる。
私たちはライプツィヒ・シュトラッセの小さな公園にまで尾行者を引き連れて来た。光学迷彩術式で撒くこともできたが、一応、どこの者かを知るためにあえてしなかった。すると尾行者の一人が接触してきた。
「安心したまえ。我々は君たちを捕らえるつもりはない。少し話をさせてほしいのだ。ご同行願おう」
随分と丁寧だな。だが、地獄までの道のりは歩きやすく舗装されているともいう。話がどこぞの監獄で、というのなら丁重にお断りしよう。
話は監獄ではなく、公園内に目立たず停めてある高級車の前だった。そして話相手はとある老人であった。纏っている制服は国家人民軍のものであり、幾つもの勲章があった。
「何故、あなたが………」
イェッケルン中尉はその老人を知っているようだった。おそらくこのご老公は国家保安省ではなく、人民軍のお偉いさん。しかし、いったい何者だ?。
「驚かせて済まなかったな。私は国家人民軍のフランツ・ハイム少将だ。西方総軍隷下の教育軍総監を務めさせてもらっている。よろしければ車の中で話そうか。外でする話ではないし、暖かいコーヒーも用意してある。ベトナム産の純正品だよ」
なん………だと?
このご老公、いま何と言った?
ベトナム産の純正品コーヒーだと!?
くっ、爺ィ! 老獪な!
なんと恐るべき調略を仕掛けてくるのだ!
生唾がでてきてしまったではないか!!!
希う=こいねがう
と読みます。簡単な漢字なのに一度も使ったことがない言葉なので使ってみました