幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第33話 アイリスディーナに希う

 かつてないBETAの大規模進攻に合わせ、ついに国家保安省が動いた。この東ドイツの国家掌握に乗り出したのだ。

 最初に動いたのはアクスマン中佐率いるベルリン派。彼らは首都ベルリンの警護を担当していたのだが、突如主要施設を武力で押さえにかかったのだ。だがモスクワ派もベルリン派のこの動きを読んでいたらしく、反撃を開始。

 そしてまたまたこの動きを読んでいた西方総軍のハイム少将は、監視していた政治将校と保安隊を拘束し、部隊をまとめてベルリンへ進軍。ベルリンは権力争奪の泥沼と化した。

 

 さて、問題だ。私たちはとある倒産目前の企業に務めているとしよう。私たちは旧式の設備を騙し騙し使いながら、何とか業務をこなしている。その一方で、とある有力派閥が自らの出世と権力掌握のために、最新の設備をふんだんに使い、接待に贈与と予算を湯水のように使っているのを見たとしたら、私たちは何を思うだろう?

 

 答えは『今、クーデター真っ最中の国家保安省を見ている気分』だ。今すぐ『シュヴァルツェスマーケン』を下してやりたい気持ちで一杯だが、BETAの大攻勢の中で我々がベルリンへ動けるはずもない。光線級の排除が完了するまではここで戦わねばならない。

 

 そして現在、第666戦術機中隊はシュトラウスベルク郊外に集結している。すでにゼーロウ要塞陣地はBETA中央集団と激突しており、私達が戦闘に入るのも、もう間もなくだ。

 他の隊員はすでに戦術機に搭乗待機している。が、私とテオドール少尉は、アイリスディーナを前にリィズ少尉との一件での報告だ。そして私はそれとは別にアイリスディーナに話がある。強化装備の録音機能とデータリンク機能は眠らせてあるので、この会話が聞かれることはない。

 

 「ではエーベルバッハ少尉。貴様は、ホーエンシュタイン少尉をコントロールするために抱いたと言うのだな?」

 

 「ああ。リィズは……国家保安省の犬かもしれない。だが、こうすることで鎖を外せるかもしれない。だから……」

 

 リィズ少尉は国家保安省のコラボレイターである可能性が濃厚であるとし、中隊の監視下におかれることとなった。すなわち、私の提案通り戦闘時以外は監禁され、監視されることになったのだ。さらに一次操縦権をアイリスディーナほか、ファム中尉、ヴァルター中尉にも握られることとなった。

 しかし、リィズ少尉は移動前にテオドール少尉と結ばれた(豪華幼女のまなざし付き)。そのことが心強くしているのか、まるでこたえた様子も見せず厳しい監視を受け入れた。

 

 「そうか。貴様の考えを尊重する。引き続きホーエンシュタイン少尉の監視を頼む」

 

 アイリスディーナはそう言い、テオドール少尉に機内待機に行くよう言った。そして今度は、残った私と話しはじめた。

 

 「まったく、西方総軍とは慎重に協議の上で連携したかったのに、お前のおかげで碌な話し合いさえ出来ずに動くことになってしまった。事を為した後の協議は荒れるだろうな」

 

 「仕方ないんです。向こうはこの日のために入念な準備をして臨んでいるはずです。協議などしていたら、その間に向こうは全て事を終え、我々は向こうのいいなりになるしかないでしょう。

 大事なのは向こうのクーデターの動きを遅らせ、我々が介入できる時間を手に入れることです」

 

 このBETA大攻勢が確認された直後に、国家保安省が人民軍将校を大勢逮捕したのは、人民軍にクーデターに介入されるのを嫌ったため。つまり人民軍が介入すれば国家保安省を邪魔できるという訳だ。

 それをやることが可能なハイム少将が接触してくれたのは実に幸運だった。ベトナム産の純正品コーヒーを頂けたことも含めて。

 

 「それでハイム少将を焚きつけたのか。確かにハイム少将が時間を稼いでくれるなら、我々も反体制派もこのクーデターに乗じることが可能だな。国家保安省のクーデターの動きを察知したことといい、大した戦略眼だ。ついでにエーベルバッハ少尉とホーエンシュタイン少尉のことも聞いておこう。お前はどう思う?」

 

 「はい、エーベルバッハ少尉の尻がガンガンガン!と激しく動いてました。ホーエンシュタイン少尉の躰もプルンプルンプルン!と、凄く揺れてました」

 

 おや、どうしましたベルンハルト大尉? 何か不味い物を食べたことでも思いだしましたか? しかし、いつも凜々しい貴女もそんなお顔ができるのですね。

 

 「………それはいい。お前が只の幼女ではないのは承知だが、お前の口からのその説明はやはり衝撃的だな。一部始終を見ていたお前の意見を聞きたい。テオドール・エーベルバッハ及び、リィズ・ホーエンシュタインはこの戦いで、そしてこれ以後も戦力として機能すると思うか?」

 

 「エーベルバッハ少尉は大丈夫でしょう。『ホーエンシュタイン少尉を守る』という決意が良い方向へ向かうことを期待しましょう。ホーエンシュタイン少尉は……BETA戦以外で使うのは避けた方がよろしいですな。現在の厳重な監視体制も当分の間は」

 

 「やはりそうなるか。いいだろう、そのようにしよう。で、お前の方の話とは?」

 

 「はい、私の能力……魔術のことです。BETAとの戦いは今回も、そして今回以後も非常に厳しくなるでしょう。我々第666にも対応しきれない状況が来ることが予想されます」

 

 「………使わせろ、というのか? その”魔術”を」

 

 「今までも使っていました。極力知られないように、ですが。しかしさらに過酷になるBETA戦闘。今までのような自重した使い方では、間に合わなくなる日が来ます。犠牲が出るくらいなら……」

 

 「………………」

 

 「戦いが厳しくなった時、ベルンハルト大尉に符牒を送ります。もし、許可がいただけるなら、そちらも符牒で返して下さい」

 

 「いいだろう。で、どんな符牒だ?」

 

 「そうですね………”希う(こいねがう)”とでもしましょうか。適当な連絡にこの言葉を入れて通信します。もし許可がいただけるなら、少々派手な魔術を使います。で、そちらは許可の符牒は何に?」

 

 「そうだな……………うん、これにしよう。『主を讃え、希え』」

 

 「…………は? 我が社会主義国で宗教は禁止ですよ? いえ、我々ならある程度は見逃されるでしょうが、符牒でわざわざリスクを犯すこともないでしょう?」

 

 「許可する時は、そのリスクを犯してでも使わねばならない時ということだ。その力をさらしたならば、国家保安省はじめ様々な勢力がお前を取り込もうとするだろう。故に私は本当の最後まで許可を出す気はない」

 

 やれやれ。いろいろ守りすぎるな、この人は。国家保安省に関しては、リィズ少尉という犬を送り込んだ時点で今更という気もするが。

 

 「………了解しました。あと、帰還後の備えも怠りなきよう」

 

 「『リィズ・ホーエンシュタイン少尉のあからさまな動きは陽動。戦闘後、我々にも仕掛けてくる可能性』か………。だが、アクスマン中佐のベルリン派の戦力はモスクワ派の半分。それに現在ハイム少将も決起して動いたそうだ。とても我々にまで手を回す余裕などないと思うが……」

 

 「ベルンハルト大尉の拘束のみに目標を絞れば、少人数でもいけると思います。あなたを質に取り、残った第666に陽動でもやらせれば、天秤は大きくベルリン派に傾くでしょうから」

 

 「そうだな、備えておこう。話は以上でいいな? では、お前も機体に乗れ」

 

 「はっ!」

 

 敬礼をした後、新しく受領したバラライカに向かった。

 

 

 

 バラライカに乗り起動開始。起動前点検を全て終え、データリンクを繋いだ時だ。一瞬、彼方の空が眩く閃いたように見えた。そして再びデ-タリンクを見てみると…………

 

 ―――――!!?

 

 ある地点の味方のマーカーが先程見た時よりごっそり消えている!?

 そしてアイリスディーナから緊急連絡が来た。

 

 『総員、傾注! 要塞司令部から緊急連絡が来た。たった今、作戦従事していた戦術機60機以上がレーザー照射にやられたそうだ』

 

 バカな! まさかさっきの閃光で!? あれは光線級のレーザー照射だろうが、あの一瞬でそんなに!? 重金属雲も十分な濃度で散布されているのに!!

 

 『通常の光線級照射とは比較にならない熱量が観測された。そのため重金属雲による減衰が不十分なのだそうだ。現在、AL弾の再攻撃で張り直している最中だが―――――うっ!?』

 

 それは多数のAL弾混じりの砲弾だった。空を舞うそれが、光線級のレーザーを飽和させるはずだった。が、巨大な光の柱の如き光芒が全て蒸発させてしまった!

 

 「……………特定された。あれは重光線級だ。観測した限り重金属雲によるレーザーの減衰はほとんどない。そして要塞司令部の緊急指令により、これに目標が変更された。出発した瞬間、警戒態勢だ。ぬかるなよ!』

 

 重光線級!? あのハイヴ周辺にしかいないはずのアレがこの戦場にいるのか!?

 重光線級の有効射程範囲は………60キロ以上!? この重金属雲下でそんなにも届くのか!?

 そんな長距離の光線級吶喊など、可能なのか!?

 

 ―――くそっ、『国家保安省との戦いを考え、余力を残そう』なんて考えてる場合じゃないな。このBETA最強の攻撃力を持つ強敵には、全力をもって立ち向かわねば、一瞬で終わる!

 ―――光線級吶喊の激しい機動をそんなにも長距離でやったら、推進剤が保たず片道切符になりかねない。やはり出発から魔術を上手く使い、隊全体の消耗を抑えないと………!

 

 そんな決心とともにエレニウム95式宝珠を握りしめ、発進起動をする。

 

 ふと、同エレメントのカティア、テオドール少尉の機体を見て感傷が沸き上がる。

 

 私の前には、いつも通り二人のバラライカが仲良く並んでいる。

 

 ―――それでも、心の距離はかつてのそれと同じじゃない。

 

 テオドール少尉はリィズ少尉を選んでしまったのだから―――

 

 

 一瞬、カティアの泣き顔が浮かんだ

 だが、すぐにそれを振り払う。

 

 ―――戦場の犬に情は邪魔だ!!

 

 今、私は優秀なる猟犬。

 獲物を求め、敵を嗅ぎつけ、

 顎を振るい、ただ駆け抜けるのみ!

 

 

 

 『総員、機体起こせ! 狩りの時間だ!』

 

 アイリスディーナの号令とともに、第666戦術機中隊のバラライカは一斉に出撃した。

 

 

 

 

 

 




後ろには国家保安省のクーデター
そして前にはハイヴ守護の獣重光線級
光線級を遙かに凌ぐレーザー照射を放つ
恐るべき光の魔獣、ハイヴの彼方より来たる!

誇り高き幼女は今、戦いの海へ!!
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