さて、諸君は多数の注目を浴びたことはあるだろうか? 私は前世子供将校、今世子供衛士として何度かあるが、中にはいたたまれないものもある。逃げ出したいものもある。だが今浴びている視線は世界最凶最悪。これほどいただきたくない視線は他に無いと断言しよう。
重光線級諸君の一ツ目が一斉に熱い視線を私に向けているこれだ。
彼らはさらに熱いレーザー視線を私に放とうと、間合いを開けようとする。が、私はそれを許さない。巧みに彼らの間をすり抜け、彼らを巻き込まずにいられない位置をキープ。光線種は他のBETAと違いあまり足が速くないため、こんな芸当もできるのだ。
最初は体当たりなども警戒していた。この近距離なら体表から発するプラズマで、かなり有効な攻撃法だろう。ところが重光線級はそんな攻撃をまったくしようとしない。どうやらBETAというのは決められた攻撃方法しかできない。決められたルールを逸脱できない存在のようだ。思えばいくらでも沸いてくるというのに、仲間のBETA一匹も自ら殺せないというのも、ルールを逸脱できない存在故ということか。
しかしこんな距離であの超重撃レーザーを放とうとするなど、戦艦の巨砲を1メートル先の人間に向けるようなものではないか! これが全世界すべての軍隊をもっとも震わせる最凶BETAの行動だと思うと、実に滑稽極まりない。
そしてこの状況、実は私も攻撃はできない。逃げる彼らにあわせ細かく位置を変えていかねばならないので、動きが止まる射撃などできないのだ。だがそれでいい。これで十分私の目的は達せられる。
ピ―――――!!!
『09、その場を動くな! 只今より重光線級への攻撃を開始する!』
おっと、来たようだ。頼もしい中隊長殿の声。そして部隊の皆の顔が通信に映る。
本来ならここまで近づいた第666戦術機中隊。重光線級の最優先目標にされ、レーザーの回避に多大な苦労をさせられる。しかし今はさらに最接近している私がここにいるので、第666はまったく無視されてここに悠々到着というわけだ。
『撃てェェ!!!』
ズガァァーン! ダガァーン! ドォォォン! ガガァーン! バァーン!
アイリスディーナの号令に第666戦術機中隊一斉砲撃。そのまっただ中にいるこの状況。皆の腕は知っているが、実に心臓に悪い。戦場でよくある事故など起きませんように。
やがて砲撃はやみ、その場は黒煙に覆われた。数秒後、黒煙の晴れたそこには…………
『な、なに!?』『そんなバカな!』『なんだと!?』
皆、一様に驚いている。私もだ。
あれ程の砲撃にも関わらず目標の重光線級は全て健在だった。眼球部分の皮膜は閉じた状態だが、砲撃前と変わらず悠然とその場に立っていた。
―――くそっ、ヤツらの防御力は要塞級並か!
ヤツらの体からは常時プラズマが発生している。自身のレーザーに灼かれないためのものであろうが、それが天然のバリアーになっており、途轍もない防御壁となっている。
だが弱点もわかった。唯一防御らしきことをした眼球部分。やはりそこの部位だけはかなり脆いのだろう。
ピ―――!
『無事か、09?』
アイリスディーナからまた連絡が来た。
「はっ、流れ弾にも当たらず、私も機体も壮建です」
『そうか、何よりだ。先程の命令不服従は不問にする。その代わり次の任務を成功させろ』
やれやれ。どうせ厄介極まりないが、このままでは私も身動きがとれない。光線級吶喊の英雄殿の作戦に期待するとしますか。
「了解。必ずや敬愛する大尉殿の期待に応えてみせましょう」
応答ついでにちょっと上官アピール。さすがに堂々と命令不服従などした後だからな。実はこの社会主義国家において、命令不服従や独断専行というのは強制労働キャンプ送り、もしくは処刑にあたる重罪。これは政治将校のイェッケルン中尉がいないこと、そしてこの後反乱決起する予定なので行えたトンデモ行動なのだ。
『ヤツらには射撃が効かないため、近接戦闘で倒すことにする。私、ヴァルター、テオドール、アネットが接近戦を挑む。私たちが近づくまで連中を引きつけろ』
近接戦闘か。こいつらが発するプラズマを浴びれば機体は危険だが、それしかなさそうだ。今度こそ命令に服従。完璧に任務を遂行するとしよう。
「了解。中隊長が迎えに来るまで、こいつらとダンスでも踊ってましょう」
『ふん、どこまでも度胸のあるヤツだ』
いえ、脳内麻薬を自在に分泌できるので、簡単に恐怖を沈静化できるのです。ただのドーピングを勇気や度胸と思われては、貴女のような本物の勇者の方に申し訳ありません。
そんな私の心の声など届くわけもなく、作戦ははじまる。
『作戦開始! 進めぇ!』
アイリスディーナの号令一下、一斉に動く戦術機中隊。
グワァァァァァァァ…………
さて、大きなお目々の素敵な紳士諸君。天には灰色の雲。大地はどこまでもまっさらなダンスホール。吹きすさぶ吹雪はバックミュージック。
この広大なステージで私と踊ろうではないか。
ワルツぐらいしか踊れない不調法な娘。
されど命をかけて、迎えが来るまでシャラシャラ舞い踊ろう。
熱い視線、巧みにかわす。それを受けたら踊れない、心が墜ちる、命も墜ちる。
一瞬一秒、ついては離れ、離れてはつきの繰り返し。
永遠にも似た一秒一瞬。
風に抱かれダンスはどこまでも激しく華麗に舞ってゆく。
別れのその刻を惜しむかのように。
グオォォォォォォォォ!!!
重光線級との命がけの鬼ごっこに集中しすぎて周りが見えなくなっていた。
ふと我に返ると、バラライカ4機がすぐ近くまで来ていた。
『デグレチャフ、よくやった! あとはまかせろ!』
時間だ。我らが麗しの中隊長、アイリスディーナとその他が諸君らのパートナーを務めてくれるそうだ。男もいるが気にしないだろう? 君たちには性別などないのだから。
吶喊役4機は風のように前面の重光線級へ肉薄する!
他の4機はその後ろにいる個体にレーザー照射を封じるけん制射撃。私ははじめてレーザーの目標から外れた。
吶喊役はそれぞれに持った多目的追加装甲を、アネット少尉は専用に持った長刀を重光線級の眼球部に叩き突ける! 多目的追加装甲は通常は盾として使用されるが、近接戦闘時においては表面に張られた多数の指向性爆薬と下部のブレードにより、強力な打撃武器となるのだ。
グシャァ! ガギィィィ! メキョ! ドオォォォ!
派手に体液を撒き散らし、倒れていく重光線級!
重光線級のレーザーは強力すぎるため、仲間に肉薄している4機に放つことができず、その場は一方的な虐殺カーニヴァルだ。
『異星起源種ども、シュヴァルツェスマーケンをうけろ!』
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
『あたしの前に立つなぁぁぁぁぁぁ!!』
『俺たちは負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁぁ!』
だがアイリスディーナが攻撃している、ある一体が角度をやや上空へ向け、レーザーを放とうと充填している。アイリスディーナのみを攻撃するつもりだ!
(いかん、発射される! ならば………)
貫通、爆裂術式を銃弾に瞬時に展開! すっかり手慣れた作業でWSー16C突撃砲にかける。
発射!
バシュウ! ……………パシッ
――――不発!? バカな!!!
私の放った術式弾は貫通も爆裂もせず、その重光線級の肉体に弾かれてしまった。
そして当然、それは滾らせた閃光そのままに放つ!
―――ゴオオオオオオアァァァァァァァァ!!!!
その瞬間、景色が歪んだように見えた。
私の機体はその照射より斜め横にあり、直撃はまったく受けてないにも関わらず、起こった衝撃波と水蒸気爆発によって吹き飛ばされそうになった!
――――機体強化! 踏みとどまらず、姿勢制御に集中!
……………ザシャァァァ
どうにか転倒せず、数メートル下がっただけに留めた。だが、アイリスディーナの被害は!?
『ち………中隊長!』 『ご無事ですか!?』 『応答を!』
アイリスディーナは瞬時に避けたらしく、機体は原型そのままに残っていた。レーザーを放った個体も体液を撒き散らし、仕留められていた。だが発生したプラズマ、衝撃波、水蒸気爆発により機体は大きく損傷し、あちこち熱で融解していた。
『無事だ………攻撃の手を……緩めるな……!』
どうやら応答できるほどには無事のようだ。しかしあの機体の状況じゃ、相当ダメージを受けているはずだ。
しかし、どうして術式は発動しなかった?………………まさか!?
術式弾とは本来、事前に弾に術式をかけて運用する。だが戦術機の扱う巨大な突撃砲の弾全てにそんなことが出来るはずもない。なので今の私はユニット内から強力な魔力によって突撃砲に術式をかけ、突撃砲内の弾を即席の術式弾に変えて運用している。
即席術式弾は前世の魔術世界では使えない。対魔術用防御をほどこした装備に簡単に打ち消されてしまうからだ。しかしこの世界に魔術は存在しなく、当然に対魔術用防御もない。故に即席術式弾とはいえ、今までは問題なく使用することができた。だが、どうやら重光線級の体から発しているプラズマは、そんな即席の術式を打ち消してしまうようだ。
つまりヤツらには魔術が効かない!
うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
魔女っ子バトルアニメ定番、『必殺技が効かない!?』がターニャにも!
どうなる? ターニャ!