幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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この話、何故か『アンリミ』の方へいっちゃってました。ビックリした。


第36話 祖国に勝利を

 『重光線級に魔術は効かない』

 

 その事実に大きく動揺したものの、私は前世、戦闘団指揮官。一つ二つの破綻で思考を止めるようでは部隊指揮など執れはしない。

 

―――マイナスに心を囚われるな、ターニャ・デグレチャフ! 通常弾でも眼球部には効果があるし、正確無比の照準補正魔術はそのまま使用可能だ!

 

 強制的に心を奮い立たせ、網膜投影で私が見たもの。それは部隊の動揺の隙をつき、複数の重光線級が再び重撃レーザーを放とうと充填する姿だった。

 アイリスディーナの機体を見る限り、重光線級の照射は当たらなくてもヤバイ!

 

 ――――だったら、照射させるか!

 

 魔力をすべて照準補正術式に集中。射撃開始!

 

 ガガガガガガガガガガ!!!

 

 フルオート射撃にも関わらず、銃弾は全てそれぞれの重光線級の眼球中心部に吸い込まれる!

 脆い眼球に一点集中砲火を浴びた重光線級。さすがにたまらないのか、防御皮膜を閉じる。

 その隙を逃さずヴァルター中尉とテオドール、アネット両少尉は猛然と重光線級を狩りまくる!

 さらに支援砲撃をしていた4機もアイリスディーナの防衛と戦闘支援に駆けつける!

 私も徹底的に照射を封じるべく、敵が眼球をさらした瞬間に銃弾を叩き込んだ!

 

 程なくして、第666戦術機中隊は重光線級の殲滅に成功した。

 

 

 

 

 

 ―――――ヒュオォォォォ………………

 

 重光線級の残骸が散らばる戦闘跡。付近にBETAは一匹もいなくなった。強い寒風吹きすさぶ中、私たちは疲労と感慨で何も言わず佇んでいた。

 

 『……………終わったね。ターニャ、あんた凄いね。あんなことが出来ちゃうなんて』

 

 と、アネット少尉がポツリ呟いた。

 

 『………そうね。アイリスディーナがあんたみたいな子供を戦場へ行かせるなんて何かあるとは思っていたけど、やっぱりいろいろと有るみたいね』

 

 シルヴィア少尉も不審そうに言った。大きく魔術をさらしたせいで、反体制の同志ででない隊員との関係が難しくなりそうだ。それに何も言わないが、国家保安省の犬のリィズ少尉も。

 ……………まぁ、その辺は覚悟の上だ。さて、基地に帰還して国家保安省のクーデター対策だ。

 

 

 『おい………みんな、この先…………東の方の空を見てくれ』

 

 皆が安堵する中、ふいにテオドール少尉がそう言った。それを言った彼の顔は蒼白であり、震えている。……………まさか!?

 

 『………俺たち、いま重光線級の殲滅に成功したよな? じゃあ、あれは………あれはいったいなんなんだ!?』 

 

 テオドール少尉の指し示す方向の空。そこには吹雪の中、あの巨大な光芒が砲弾を次々と撃破していく、その光景があった。重光線級特有の重撃レーザーの太い光芒。それは何十も一度に照射されており、先程の十三体よりはるかに多いことを示していた。

 

 「第二陣…………砲兵部隊が?」

 

 確かに部隊を第一、第二に分け、機動力に優れる第一陣が敵を撹乱し、陣形の崩れた敵に第二陣が当たるという基本戦術はある。しかしこれは足の遅い砲兵のやる戦術ではない。

 …………まさかヤツら、人類の戦術を意味もわからず、そのまま真似しているのか?

 

 「…………ここが前線の果てと思いましたが、さらに先がありましたか。中隊長、とにかく足を潰した要撃級の陣地まで後退しましょう。あれはこの先から発射されています。やがて程なくこちらへ向かってくるでしょう」

 

 おそらく光線種は視界にない敵を照射する時は、その敵の近くにいるBETAの目を利用する。そのBETAが見た情報をテレパシーのようなもので光線種に送り、それを元に光線種は敵を認識するのだろう。現在付近にBETAがいないため照射は受けていないが、時間の問題だ。

 

 『………そうだ……な、体勢を……立て…直そう。全機………後退!』

 

 アイリスディーナは苦しそうに命令した。

 

 

 

 

 

 

 

 第666戦術機中隊は行動不能になった要撃級付近にまで戻り、集結した。とりあえずアイリスディーナは機体を放棄し、ヴァルター中尉の機体のサブシートに乗った。そしてこれからどうするかの指示を待った。再び戦うか、撤退か。

 

 だが再び戦うには推進剤は帰還ギリギリだし、先程吶喊した機体はプラズマにやられ、機動があやしくなっている。何よりアイリスディーナが戦闘に耐えられず、死亡してしまうかもしれない。

 そして光芒の数で予想した重光線級の数は約30体ほど。この状態でそれと戦うなど、悪夢のような話だ。

 

 つまり撤退一択だが、それも難しい。全機そのままに撤退すればあの重光線級からの照射を受けてしまう。レーザーを避けることに長けた誰かを殿にして、重光線級を引きつけてもらわねばならないだろう。そして負傷したアイリスディーナ。この辺の判断はいま出来るのか?

 

 

 「クリューガー中尉、ベルンハルト大尉の容態は?」

 

 私は皆の聞きたがっていたことを代表で聞いた。

 

 『……………今は聞くな。02、次席指揮官として撤退の指揮を取れ。大尉を別の機体に移そう。私が殿を務める』

 

 やはり撤退か。あの重光線級群をどうするのかはわからないが、今はそれしかないようだ。

 

 『全機……撤退だ……急いで、戻るぞ……』

 

 その時、アイリスディーナの声が絞り出すように割り込んだ。

 

 『補給をし……急いで戻らねばならん。……あれを……ベルリンへ向かわせたら……東ドイツは終わる……!』

 

 アイリスディーナは重光線級とまだ戦う気だ。だが再び戻って戦えば、アイリスディーナは死ぬかもしれない。通信に映る隊員の顔は一様に彼女を心配している。次に出撃するとしても彼女は待機させたい。しかしアイリスディーナの指揮なしにここまで来れるかといえば、それも難しい。彼女の卓越した誘導あってはじめて重光線級の前にこれたのだから。

 

 『もう………やめてくれ! あんたは十分戦った! これ以上命を削るマネをしないでくれ!』

 

 それはテオドール少尉だった。尚も戦おうとする彼女に、悲壮な声をあげた。

 

 『そうです、中隊長! そのお体で二次の出撃は無理です。私が代わりに!』

 

 ファム中尉も叫んだ。だがアイリスディーナは決意を翻そうとしない。

 

 『テオドール、”十分戦った”じゃ………ダメなんだ。私は必ず祖国を守らねば。それにファム、これは私の役目だ。誰にも代わりなど……やらせん!』

 

 多少言葉はしっかりしてきたが、やはりかなりの重傷だ。そして彼女の決意は固いようだ。

 ………………どうするか。

 

 

 

 ピ―――――――!

 

 その時だ。突然に部隊以外からの通信が来た。そして20機前後の戦術機がこちらにやって来るのが見えた。

 

 『―――無事か第666中隊? こちら戦術機教導大隊臨時指揮官のホルンスト・ハインリツィ大尉だ。戦死した大隊長に代わって指揮を執っている。こちらの仕事は済ませてきた。この先の敵は我々にまかせ、貴官らは撤退せよ!』

 

 ハインリツィ大尉の言葉にアイリスディーナは噛みつくように叫んだ。

 

 『待て! まさかこの先の重光線級と戦うつもりか? その機体の状態では危険だぞ! それに推進剤の残量は!?』

 

 彼らも激戦を潜り抜けてきたのだろう。教導大隊のバラライカは主腕や頭部が損傷したり失っている機体がほとんどだ。だが任務を達成し、ここまで来れるということ事態、際だった技量を示している。

 

 『――――気にするな。ベルンハルト大尉、その様子だと負傷しているようだな。ならばなおさらだ。今、貴様たちに死なれては、この国は本当にお終いだ』

 

 ―――この連中、我々のために死ぬつもりか?

 

 『第666中隊。貴様たちはこの国の最後の希望だ。ポーランドで西側の連中を救い、今また重光線級第一陣を殲滅した英雄。誰もが皆、貴様たちがいればこの絶望敵な戦いもマシになると信じている。生き残れ、第666中隊!』

 

 そこまで部隊の勇名が轟いているとは知らなかった。第666戦術機中隊は反体制派の決起の際、旗頭になると言っていたが、さもありなん。市民の意識を引くのに十分な存在だろう。

 

 

 

 結局、我々は彼らに重光線級をまかせて撤退することが決定した。そして現在、情報の引き継ぎなどをしている。アレと戦ってくれるのは有難い限り。しかし教導隊とはいえ、倒すのは無理だろう。出来たらとっくに『東ドイツ最強』の肩書きは向こうに移っている。時間稼ぎがせいぜいだろうし、向こうもそのつもりのようだ。…………そうだ!

 

 私はヴァルター中尉の機体にいるアイリスディーナに通信を送った。

 

 「ターニャ・デグレチャフ上級兵曹よりアイリスディーナ・ベルンハルト大尉へ希う。我、教導隊と共に残り、対重光線級戦のアドバイスなどをすることを望みます」

 

 『なに?』

 

 『ターニャ?』

 

 『ターニャちゃん!?』

 

 皆、驚いているが、これがもっとも合理的な解決法。私が教導隊に協力してここでヤツらを殲滅すれば、アイリスディーナは再びの出撃、再びの重光線級の光線級吶喊することはなく、国家保安省のクーデターにも対処することができる。ただし私の力を教導隊にさらすことになるが、この際そのリスクは飲み込むべきだろう。

 ――――頼む、アイリスディーナ。了承してくれ!

 

 『………大尉、デグレチャフ上級兵曹の意見、自分は最も適切だと考えます』

 

 ヴァルター中尉は静かに私を支持してくれた。

 

 『……………中隊長、私もです。』

 

 ファム中尉も迷うように支持してくれた。彼女が私を残すことを支持するとは、よっぽどアイリスディーナが心配なのだろう。気持ちは分かる。彼女の危うい決意。それはどうにも死に向かっているようで、ほうっておけない気にさせてしまうのだ。

 アイリスディーナはしばらくの後、言った。それはまさに祈るように――――

 

 『デグレチャフ………”主を讃え、希え”。頼むぞ、我が国を……東ドイツを救ってくれ!』

 

 

 「任務了解。祖国に勝利を!」

 

 

 

 

 

 




魔術の効かない強敵、重光線級
だがあえて再び戦う決意をしたターニャ!

皆の思いを受け、勝利を誓う!!
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