幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第37話 眩い空を 見て

 愛国心など欠片もないが、誓句を言った。その場のノリというやつも時には必要だろう。その時だ。テオドール少尉が割り込んできた。

 

 『中隊長、近接戦闘の仕方のアドバイスも必要でしょう。自分も残り、重光線級とのダンスの仕方をご教授いたします』

 

 なんとテオドール少尉も残留を希望した。成る程、私と同じ判断をしたか。ここで確実に重光線級を殲滅し、アイリスディーナを再びの光線級吶喊に出さないつもりだ。

 

 『…………いいだろう。確実に戦果をあげて来い』

 

 アイリスディーナは了承。私のエレメントを残してくれた、と考えるのは自惚れか。

 だが、そんな彼に想いを持つリィズ少尉が割り込んだ。

  

 『そんな………お兄ちゃん! だったら私も残ります! 私も残留に志願させてください!』

 

 『だめだ……ホーエンシュタイン少尉。……これ以上の残留は認められない』

 

 『イヤです! 私もお兄ちゃんと………あっ!』

 

 操縦しているヴァルター中尉が割り込んだ。

 

 『機体の一次操縦権を奪わせてもらった。帰還するぞ』

 

 『リィズ、帰還して待っててくれ。……お前とのことをうやむやにするつもりはない。必ず最後はお前のもとへ帰る。だが、今だけはアイリスディーナのために戦わせてくれ』

 

 ………………テオドール少尉殿、お前はそれで格好いいセリフを言ったつもりか? 立場を逆にして考えてみろ。お前は惚れた女に『あなたのことは愛している。でも、今だけは彼のために戦わせて』などと言われたらどう思うのだ? いや、あなたなら心で泣いても許すのかもしれない。

 しかしリィズ少尉は根っからの恋愛脳。その素敵なキメゼリフも火種にしかならんのだぞ!?

 

 『そんなに………そんなにあの女が大事なの!? あの女の代わりにこんな帰ってこれないかも知れないことやるの!? お兄ちゃんが戻らなかったら、全部意味ないのに!』

 

 ああ、ほらもう完全に痴話げんかだ。しかも、聞いているカテイアが泣きそうになっている。

 戦場の真っ只中だってのに、さすがに二人のことがわかってしまった。テオドール少尉、天然の恋愛トラブルメーカーか!? カティア、こんな状態でエレメントの相手が二人共いないってのに、無事帰還できるのか?

 エレメントはシルヴィア少尉、アネット少尉のエレメントを解消して、シルヴィア少尉がヴァルター中尉と、アネット少尉がカティアとの臨時編成をするようだ。

 そして第666が離脱する前、ヴァルター機が私に近づき弾倉を渡した。

 

 『ターニャ・デグレチャフ。私の弾を半分やる。必ず重光線級を全て倒せ』

 

 ヴァルター中尉がはじめて私を名前で呼んだ。アイリスディーナの機体からも貰ったので、戦闘には十分な程に余裕ができた。しかし………

 

 「よろしいのですか? 帰還時も相当厳しいものと思われますが」

 

 『かまわん。私の役目は大尉殿を無事、基地に送り届けること。可能な限り戦闘は避けるし、優先して守られる。だが、もう一度大尉を出撃させることは許さんぞ』

 

 つまりこの弾倉は彼の気持ちということか。話し方は普段と変わらず冷静だが、とてもアイリスディーナを心配していることがよく分かる。いったい彼とアイリスディーナの過去に何があったのか、少し気になる所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴオォォォォォォォ……………………

 

 第666は撤退した。私はテオドール少尉のバラライカと並んでそれを見送った。

 

 『……………孤児だった俺を引き取って育ててくれた人はな、とてもいい人だった。俺に家族を教えてくれて、幸せな日々をくれた人だった』

 

 テオドール少尉がポツリと話し始めた。

 

 『家族みんなでこの国から逃げようとして、でも捕まって………あの人の最後の言葉「リィズを頼む」ってことすら果たせなくて、ずっと自分を責めていた。

 でもリィズはもう一度帰ってきてくれた。だから俺はあの時の約束を果たさなきゃならない。「お前を選べない理由はこれだ」………カティアにそう伝えておいてくれ』

 

 

「面倒を押しつけますね、テオドール。やれやれ、カティアに泣かれますか」

 

 『………? めずらしいな、お前が階級を入れずに呼ぶのは。プライベートではいい、と言っているのに直さないのにな』

 

 「こういう話に階級など無粋でしょう。私はどうもカティアには弱くてね。まぁ、あなたの代わりにはなれなくても、側にいてあげることくらいは出来ます。精々、なぐさめるとしますか」

 

 『カティアの気持ちには薄々気がついていたし、アイリスディーナに惹かれてもいる。しかし、リィズには親父やお袋の分の責任もあるからな。どうしてもアイツを選ばざるを得ないんだよ』

 

 その時、ハインリツィ大尉から『残留した2機、こっちに来い』と、声が来た。

 

 「おっと、この話はここまでです、シュバルツ08。任務に集中しましょう」

 

 『………だな。まずは重光線級を殲滅して帰還しなきゃ話にならねぇ。シュバルツ09、お前の射撃、期待しているぞ。ヤツまでの道を造ってくれ』

 

 

 私は空を見た。

 

 眩しいほどの光芒が飛び交っている。

 

 灰色の空を、美しい光の死神が彩っている。

 

 ――――あれが敵。あれを空から消すことこそ、私の任務。

 

 

 

 

 

 

 

 私とテオドール少尉、そして戦術機教導大隊による再度の重光線級殲滅作戦が始まった。今現在、我々は行動不能になった要撃級の即席陣地で射撃体勢の準備をしている。

 さっきの重光線級との戦いを元にたてた作戦は次のようなものだ。光線種は飛翔物の迎撃を優先して行うこと。そして重光線級のレーザー照射後のインターバルは、かなり長いことを利用した作戦だ。

 

 まず部隊を吶喊役、支援砲撃役の二つに分ける。最初に支援砲撃役は大型弾を重光線級上空に発射。それに重光線級に一度重撃レーザーを撃たせる。レーザーの余波が収まった後、吶喊役が突撃する。そして近接戦闘にて重光線級を倒す。支援砲撃役は重光線級が再度レーザーを放たないよう、目玉に集中砲火だ。

 テオドール少尉はもちろん吶喊役。突撃の先頭となり、彼の発進が吶喊役突撃の合図。私はハインリッィ大尉の近くで支援砲撃役。全体の指揮をとる彼のアドバイザーのような役をやる。

 

 実はさっきの戦いで重光線級の詳細なデータを取ったのだ。なにしろ重光線級の手強さは出撃したときから感じている。これからも重光線級との戦いはあるだろうが、このデータがあれば先程より楽に重光線級吶喊を行える。そして最も重要と思い、詳細に記録したのが重撃レーザー照射の記録。発射する一連のタイミングと、発射される周囲の影響を完璧に掴み、記録したのだ。

 

 「ハインリツィ大尉、吶喊役の発進は照射より3分後。周囲にプラズマが漂っているので機体に影響がでるかもしれませんが、このタイミングがもっとも最適。次の照射までのインターバルで重光線級に接近させてください」

 

 『貴官、凄いな。貴官のような幼子が衛士となって我が国最強の第666戦術機中隊にいることが不思議だったが……これほどの分析が出来るなら納得だ!』

 

 などとお褒めの言葉をいただいた。いや、第666で分析などやったのはこれが初めてだが。

 

 そうして作戦開始。動けなくなった要撃級を背に、支援砲撃役は大型弾を篭めた突撃砲を上空に向けて待ちかまえる。私はハインリツィ大尉の隣にてアドバイザー。要撃級の後ろにテオドール少尉率いる吶喊役。これから放たれる重撃レーザーの影響を受けないよう、そしていつでも動けるよう待機している。陣形が整った頃だ。BETAを表すマーカーが、我々に向かってのBETA中規模集団の接近を示した。

 

 「射程圏内に入ったら何時でもいいでしょう。ハインリツィ大尉、準備を」

 

 『そうだな。では……………うっ、でかい!? 要塞級!? しかも集団でだと!?』

 

 ハインリッィ大尉を驚愕させたもの。それは重光線級と共にやって来た大量の要塞級。身長70メートル、体躯150メートルものその巨体を呻らせ、重光線級の後ろにピッタリついてきている。観測を担当している隊員から報告がきた。その声は悲鳴のようだった。

 

 『ぜ……前方集団の報告をします。重光線級30体と共に、要塞級50体以上!』

 

 なるほど、砲兵には接近する敵から守る護衛はつきもの。あの要塞級は重光線級の守り役というところか。しかし要塞級は多くても10体程度しか挺団にいたことはないはずだ。それが50以上もの集団を連ねるとは!

 最強の攻撃力を誇る重光線級30体と最大の防御力を持つ要塞級50体。その一つ目巨人と巨大ムカデの軍団はまさに悪夢の妖怪大行進だ。通信に映る死を覚悟したはずの教導隊員すらも、顔色が蒼白になっている。

 …………………脳内麻薬、多めに分泌させておくか。

 

 『よ………要塞級が50以上…………。デグレチャフ上級兵曹、何か意見はあるかね?』

 

 ハインリツィ大尉、声は多少震えているが、よく注意しないとわからない程におさえているのは流石だな。

 さて、彼からの質問。作戦中止か否かを聞かれているのだ。作戦通り重光線級を空に照射させて吶喊役を突撃させようとも、背後の要塞級になぶり殺しにされるだけだ。多分、一機も重光線級に届かない。

 かといって撤退も悩ましい。あの数の重光線級のレーザーから逃げられるはずもない。あれには魔術弾も効かないし。

 

 

 ……………いや、待て。思い返してみれば前世、魔術防御が厚く、魔術弾の通らない施設や敵部隊の攻略などいくつもやったな。末期には九五式の貫通すらも弾く敵も出てきた。だがその都度、私は指揮官として何とかしてきた。魔術のない世界の下っ端兵曹に馴染みすぎて、私は参謀将校としてすっかりナマっていたようだ。

 私は参謀将校に戻ったつもりで映像に映る重光線級、要塞級の位置、配置をよく観察した。そしてしばらく考えた後、彼の質問に答えた。

 

 「作戦は予定通り。ただし、吶喊役の突入を予定より30秒遅らせてください」

 

 『………………? 何故だね』

 

 

 「その30秒で、私が後ろの要塞級全てを葬り去るからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




東ドイツに審判の日来る!
重光線級と要塞級BETA最凶最悪の軍団押し寄せる!!
空を死の光で彩り、大地の全てを灼かんと邪悪の一つ目は輝く
その背後には暴威の巨大ムカデ。大地響かせ、群れをなす

灰色の空の下、幼女の番人そこに立つ!
それはターニャ・デグレチャフ
その邪悪全てを葬り去る者!!

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