幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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今日、とりあえず1話書けたので投降します


第5章 魔術幼女と 軍事争乱劇
第39話 革命夢見る 幼女


 

 「やれやれ。これでアイリスディーナの再びの出撃はなくなったな」

 

 私は、テオドール少尉ら吶喊役が残りの重光線級を屠っていく様を見ながら、そう安堵した。まったくあの英雄殿は自分の命を省みなさすぎる。まぁ、だからこそ英雄なのだろうが、彼女に死んでもらっては困る私としては、彼女を守るために苦労させられっぱなしだ。

 

 実は私がアイリスディーナを忠犬の如く助け彼女を心配するのは、ヴァルター中尉やファム中尉はじめ第666の皆のように純粋に彼女を思ってのことではない。仲間として多少の情はあるが、それだけで他部隊に私の能力をさらすようなリスクなどは犯せない。主な理由は私のライフプランに彼女が大きく関わっているからだ。

 当初、私はこの社会主義国から逃亡し、自由主義圏への亡命を計画していた。ノィェンハーゲン要塞の帰還時辺りまではそうだった。しかしBETAの脅威にさらされたこの世界、自由主義圏でも甘くはないことを知ったのだ。

 

 

 

 あれはノィェンハーゲン要塞から帰還してしばらく経った頃だ。逃亡先候補の西ドイツの状況を知るべく、西ドイツからの亡命者のカテイアから話を聞くことにした。

 場所は基地から多少離れた、人の来ない開けた場所。万一にも人に聞かれたり盗聴されたりしないためだ。

 

 「ターニャちゃん。こんな所に私を呼び出したってことは、聞かれたくない話があるってことだよね。何か危ない話かな?」

 

 「ええ、まぁ多少は剣呑な話ですね。実は私、西側諸国に興味がありましてね。向こうはどの様な国か教えて欲しいんです」

 

 「なんだ、そんなこと…………って、そういうのも危ない話になっちゃうんだっけ、ここじゃ。うん、いいよ。私が知っているのは西ドイツと、合同訓練で一回ずつ行ったフランスとアメリカで聞きかじった話だけだけど」

 

 カティアの話による西ドイツは概ね私の予想通りの国だった。前大戦の戦犯国ではあるが、地道な外交努力によってその汚名は消えつつある。そして自由主義陣営の政治らしく政治の批判も意見も自由だし、民間企業が蓄財しても政治指導など受けたりしない。うむ、健全に資本主義国に育っている。

 さて、やはり西ドイツは亡命先第一候補だが、問題は東からの亡命者の扱い。私の狙いを晒すことになるが、聞かないわけにはいかない。

 

 「いや、参考になりました。ありがとうございます。ところで、この東からの亡命者はどう扱われています? やはりカティア少尉も軍に入ることができたようですし、同一国民としての待遇を受けているのですか?」 

 

 するとカティアは沈んだ顔で答えた。

 

 「私、お父さんの、西ドイツの友人の娘ってことになっていたから、西ドイツ人だったんだよ。私が西ドイツに来た時はそうしていたんだけどね。でも東から来た人の中にテロ活動する人や、民衆の扇動をする人が出てきたの。それを受けて西ドイツ政府は東からの亡命者は監視できる場所へ隔離するようになって…………今じゃ、他の国から来た避難民の人と一緒の状態になっちゃっているの」

 

 共産テロ!? BETAの脅威ににさらされているってのに、そんなことやっているのか? そういや、共産主義というのは全世界の国に共産革命を起こして、世界全てを共産国家にするのが目的だったな。歴史で習った時は『なんじゃそりゃ!』な与太話だったが、リアルタイムの出来事だと笑えんな。そのテロ発信国の人民だし。

 

 「ち、ちなみに外国からの避難民の扱いというのは?」

 

 「うん………あんまり気持ちのいい話じゃないんだけどね」

 

 『気持ちのいい話じゃない』とは実に控えめな表現だった。実に最悪極まる気分になってしまった。ベットで布団被って寝込みたくなった。カティアの話は次のようなものだった。

 

 BETAに国を滅ぼされ、流れてきた避難民。彼らは強力なコネでもない限り、不衛生でチンピラのうろつくような、劣悪な環境の難民キャンプに送られる。そして劣悪な仕事に従事しなければならず、決められた地域から出ることはできない。そこから出て市民権を得るためには、軍に入隊し、生還の望めないような危険任務をやらねばならない。家族の市民権と引き替えにやる者も多いらしい。

 これはアメリカやフランスでも同様で、亡命したら間違いなく危険任務上等の『外人部隊』行きだ。国家の後ろ盾のない個人など、どこまでも悲惨なのだ。

 

 

 

 お分かりだろうか? つまり今とまったく変わらないのだ。いや、社会主義国からの亡命者など、共産テロの疑いをかけられ、死亡確実の任務に行かされる。もちろん絶対に出世などできず、安全な後方勤務など、甘くて美味しい夢にすぎない未来しかない。ゴミのような東ドイツとはいえ、そこの人民という立場はないよりマシなのだ。

 カティア以外からも西側の情報を集めてみたが、現実を知るほどに絶望的。社会主義国人民に希望などないことがイヤというほどわかってしまった。

 

 が、そんな絶望から希望を見せてくれたのがアイリスディーナとその背後の反体制組織だ。彼女から現体制の打倒計画を聞いたとき、前前世のとあるニュースを思い出した。

 

 『東ドイツ革命』

 

 ベルリンの壁を市民が破壊した事件のアレだといえばお分かりだろうか? ソ連が『ペレストロイカ』という社会主義否定にも似た政策をしたことにより、社会主義体制が崩れていくことを受けて起こった革命だ。これにより東ドイツも社会主義体制、一党独裁体制が崩壊した。そして東西ドイツ統一が起こるまでに繋がる。

 

 要するに私の目的はアイリスディーナとその背後の反体制組織の後押しをして、これを起こそうというのだ。成功すれば私は晴れて統一ドイツの国民。忌まわしい社会主義国家人民のレッテルも消え、自由主義国家の正規の国民として安全な仕事にもつける。その夢踊る将来のためにも、革命の中心になるであろうアイリスディーナには死んで貰うわけにはいかないのだ。

 

 とはいえ、これの成功は容易ではない。アイリスディーナの話によれば、今の反体制派組織は秘密警察の活躍によって大分弱体化させられているらしい。これにドイツ社会主義統一党と国家保安省、政治総本部等を倒させ、自由主義体制へと変革させるのは実に難問だ。

 しかし私は前世、あらゆる過酷な戦場で幾多の困難な任務を達成してきた戦闘団指揮官。私の輝かしい将来のためにも、必ずや成し遂げてみせる! 

 

 そしてもし革命が成ったら、もう軍はやめよう。前世、安全な後方任務を目指して奮闘したが、実に無駄な努力だったと痛感する。

 

 1,前線では常に指揮を執れる人間は不足しがちだ。

 

 2.私はその優秀さ故に、前線指揮官として優秀な戦果を上げるだろう。

 

 3.結論。私は軍にいる限り前線から離れられない。

 

 実に簡単明瞭な三段論法だ。否定しうる論拠など見つけようも無い。前線から離れられるのは、戦闘不可能な程の負傷をした時か? いや、戦術機でのBETAとの戦いだと、そのまま死亡する方が確立が高い。

 つまりはそういうことだ。この先ずっと軍人を続け、出世などしてしまうとしよう。そしてそれなりの部隊の指揮を執れる立場になったとする。私は仕事に手を抜くことの出来ない性分だ。結果として優秀な私は優秀な戦果を上げまくるだろう。

 するとまたまた前世のようにあちこちの崩壊しそうな前線に送られ、人員、補給のやりくりに苦労しながら、生涯を戦いに費やさねばならない。そんな人生は一度で十分だ。中尉、大尉となって指揮官などになったら、もう軍からは抜けられない。無名の下っ端の今の内でこそ、離れられるのだ。

 

 だがBETAの脅威にさらされたこの世界。生活の安定があり、戦いから離れられる仕事は限られている。そこで私が選び、目指すのは内政官僚!

 東西ドイツの統一が成った暁には、西に一方的な政治主導を取られるのを防ぐために東からも内政官僚を出さねばならないだろう。しかし19世紀そのままのポンコツ社会主義経済しか知らない東では、20世紀の自由主義経済行政について行けるはずもない。

 そこで私の出番だ! 前前世の記憶など大分抜け落ちたが、重要な部分はそれなりに覚えている。そう、21世紀の経済システムを! この最新を超えた最新の知識でガンガン業績を上げ、内政のトップに近づけば私の将来は安泰だ!

 ああ、夢が踊るなぁ。今すぐベルリンへ飛んでいって、ドイツ社会主義統一党だの、国家保安省だの、まとめて叩き潰したい!

 

 

 「早く革命になぁ~れ♫」

 

 

 

 

 

 

 




夢は東ドイツ革命!
大いなる夢を抱く幼女ターニャ・デグレチャフ
果たして成るか?

そして本当にそんなもの書けるのか? 俺!

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