重光線級を損耗無し、全て倒しての完全勝利だ。帰還の命令をハインリツィ大尉が出すのを待っていると、意外な指示を出した。
「重光線級の死骸をひとつ持って行く。損傷の少ないブツを2機で運び、それを守るよう、囲んでいけ」
正気か!? ここはBETA群の最深部。2機も戦闘不可にした上、そんな足手まといを作るとは! この人もイェッケルン中尉並の『残念指揮官』か!?
『不満があるのは分かる。[ここのBETA最深部からそんな足手まといを作り、帰還など冗談ではない]、とな。だが人類にとって最も恐るべきBETA重光線級が前線に出てきた以上、これの対策は必須だ。そしてそのための研究として死骸はどうしてもいる。これほど状態の良い状況で、重光線級の死骸を前にすることはどの部隊であってもこの先ないだろう。人類のため、あえて我々はリスクをおかす』
こう言われてしまえば仕方ない。教導大隊から2機が運び役となり、私とテオドール少尉は先頭を頼まれたのだが………
「シュヴァルツ08、バラライカは大丈夫ですか? 帰還まで耐えられそうですか?」
『…………………………保たせてみせる!』
「了解しました。やっぱりダメなのですね」
私はため息をついた。
テオドール少尉の機体は2回の重光線級との戦いで二十体近くの重光線級と肉薄し、その体から発するプラズマを浴びている。おそらく途中で機能停止してしまうだろう。それに引き替え、私の機体は支援砲撃に徹していたので、プラズマは一切浴びていない。
「シュヴァルツ08、その機体は捨てて私の機体に乗ってください。帰還途中で停止したら、見捨てるしかありませんから」
テオドール少尉のバラライカは、十七体もの重光線級を倒した前人未踏の戦果をあげた。戦果著しい機体ほど寿命が短いのは悲しいな。せめて、勇者に敬礼!
操縦はテオドール少尉に交代し、私の方がサブシートに乗った。私が操縦すると、テオドール少尉の体が邪魔してかなり動きが悪くなる。しかし私の方がサブシートだと、私は小柄なのでテオドール少尉はほとんど影響無く操縦できる。
「楽だな………いや、ノィゲンハーゲン要塞から出る時、ファムを乗せたのと比べてだが。
で、後ろの、このバカでかいクマはなんなんだ?」
テオドール少尉はユニットの座席の後ろに置いてある私のお友達。大きなクマのぬいぐるみを、イヤそうに見て言った。
「以前、ベルリンで買った”テロド~ルくん”です。ユニット内では仲良く、ケンカなどしないようお願いしますね」
「ふざけるな! 捨てろ、そんなもの! 戦場になに持ってきてやがる!」
「ダメです。彼はイザというとき、身を挺して私を守ってくれるんですから」
「………………お前の幼女らしい所、はじめて見た。まぁいい。お前が小さい分、問題は無い。それで戦争神経症を避けられるなら、安いものと思うことにする」
「自分の体の小ささが役に立つ時がこようとは。機体は即席の調整でも問題無くいけそうですね。ところで、ハインリツィ大尉の示したこのルートですが、どう思います?」
「BETAの密度が小さいな………。このルートは教導隊が光線級を倒した後のものだそうだから、問題は無いとは思うが」
実は第666戦術機中隊の進行は、ある程度BETAの密度が大きい場所を選んで進む。BETAの密度が小さすぎると、光線級に狙われた時に回避する時間があまり取れなくなってしまうのだ。
「ですが、まだ航空爆撃機の出動の合図は出ていません。全滅させたわけではないでしょう。どこからか流れてくることもありえますね」
「とはいえ、BETAの死骸をかかえて密集地帯を進むのは無理だ。光線級に出会わないよう、祈るしかないな」
戦場に祈りなんて届かない。運が悪ければ死ぬ。腕が未熟でも死ぬ。情に流されても死ぬ。
万一の時は後ろの足手まといは切り捨てて、多くが生き残る判断をするしかないのだ。
そうして私たちは出発した。
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ベアトリクスSide
私は国家保安省(シュタージ)の武装警察軍所属『ヴェアヴォルフ大隊』大隊長ベアトリクス・ブレーメ少佐。現在、アクスマン中佐率いる『ベルリン派』の武装部隊との戦闘は終了した。
ベルリン派の戦闘部隊の壊滅は成功した。なかなか良く戦力や武装を充実させてはいたけれど、こちらはモスクワ派。ソ連との交渉成功によってより充実した戦力、そして『チュボラシカ』を上回る戦術機『アリゲートル』を手にしている。さらにこちらの”誘い”にも上手く乗ってくれたのでごく短時間で壊滅させることが出来た。ハイム率いる西方総軍がベルリンに来る前にかたづけることが出来たので、三者睨み合いの状況が回避できたのは何より。
そして今、敗北と同時に行方をくらませたベルリン派の中心人物アクスマン中佐の捜索を命じた部下が戻ってきた。
「申し訳ありません。アクスマン中佐は捕らえることができませんでした。捜索は続行しますが、ベルリンより逃げた可能性が大です」
「…………そう。でも捜索に力を入れるわけにはいかないわね。ハイムが迫ってきているし」
”アレ”を野に自由にしたままにしておくのは危険ではある。しかし間近に迫るハイム率いる西方総軍と、それに連動して動くであろう反体制派残党と第666。さらにミンスクハイヴからの大規模BETA挺団に備えなければならない。忌々しいけど仕方ないわね。
そしてオペレーターの一人が、BETAとの戦闘結果を報告した。
「重光線級との戦闘結果の続報が入りました。重光線級十三体のさらに奥より来た重光線級群。内訳は重光線級30体及び要塞級50体だったそうですが、臨時指揮官ハインリツィ大尉率いる教導大隊が撃破に成功したとのことです」
「…………………凄いわね。本当なの? とても大隊ひとつで、どうにかなるシロモノとは思えないんだけど」
「撃破した教導隊に、こちらの目標の『ターニャ・デグレチャフ』がいるそうです。そしてこの戦果には彼女が大きく関わっているようです。そして他にテオドール・エーベルバッハ少尉がいるとのことです」
「………ああ、ならそのとんでもない戦果も納得ね。でもあの子とアレの執着している兄、第666から離れてそっちにいるの? なら作戦の変更が必要ね。カーフベル大尉をお呼びして」
「はっ!」
重光線級を殲滅できたのなら、要塞を突破される可能性はなくなった。これで心置きなく第666を潰せる。
「悪いわね、アイリスディーナに第666の衛士。人類史上初の重光線級の光線級吶喊のご褒美が”コレ”だなんて」
慌ただしく作戦に向けて準備をしている部隊を見ながらそうつぶやいた。
これこそ今日この日、第666戦術機中隊と、長く監視対象だったターニャ・デグレチャフの捕獲を目的とした部隊。
特にターニャ・デグレチャフは、特殊な能力を研究しているというソ連との交渉材料となるので特に重要。ノィェンハーゲン要塞保安隊殺害の一件ですぐに逮捕しなかったのは、彼女の能力の観察をするため。このデータをソ連に送ることにより、より高くソ連に売りつけることができる。さらに、この重光線級撃破の戦果でより価値は高まった。
「………本当に惜しいわね。これだけのことができるのなら、防衛計画も楽になるでしょうに。もっとも、その分高く売りつけるのでしょうけど。
それに収穫も厄介。忙しい中、これだけの部隊を割かなきゃならないしね」
第666戦術機中隊捕獲に送る部隊は我が国最強の陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』80名。それは我が武装警察軍の特殊任務を数多く達成してきた歴戦の特殊部隊。さらに我が戦術機大隊『ヴェアヴォルフ』より中隊規模12機を割って支援につける。もちろん、これだけの部隊を第666中隊捕獲のためだけには使わせない。捕獲任務は本来の任務前の前座だ。彼らは第666を捕らえた後、ベルリンの人民議会、人民宮殿等、ベルリンの中枢の制圧任務につく。これにより、国家保安省のエーリッヒ・シュミット長官がこの国の実権を握る。
「ブレーメ少佐、『ゲイオヴォルグ』指揮官カーフベル大尉をお呼びしました」
部下の一人が壮年の軍人然とした男を伴ってきた。陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』指揮官アーノルド・カーフベル大尉である。階級こそ私のひとつ下だが、武装警察軍にて数々の任務を成功に導いた立役者であり、兵士の育成にも定評のある歴戦の武人である。故に決して下に見ていい人物ではない。
「ブレーメ少佐、アーノルド・カーフベル大尉参上しました。ご用は何でしょうか」
「これから襲撃予定の第666戦術機中隊。重要目標のターニャ・デグチャレフ他隊員一名が現在別行動にて、後から部隊に合流するそうです。よって作戦の変更をします」
私はその場にて考えた作戦の変更を伝えた。先に第666を捕らえた後、二人をおびき出し捕らえるというものだ。
「了解しました。しかし大仰ですな。たった9名の衛士を捕らえるのに我々全員だけでなく、あなた方の一部まで向かわせるとは。特に我々は80名も潜ませるのは難しい。半数は先にベルリンへ向かわせ、準備をさせたいのですが」
「いいえ、無駄であろうと必ず全員で行って下さい。特殊な能力を持つという『ターニャ・デグレチャフ』は思った以上の怪物です。無力化するまでは総員で厳重な包囲網で囲み、万一にも取り逃さぬよう、そして抵抗に備えてください。これは絶対厳守の作戦命令です」
ここは釘を刺しておく。彼女には以前、『ヴェアヴォルフ』の隊員6名が戦術機チュボラシカ付きで葬られたことがあった。無駄であろうと、それ程の相手に手を抜くつもりは無い。カーフベル大尉に、彼女の最新の戦果の情報を伝える。
「もう一度言います。第二優先目標の『ターニャ・デグレチャフ』は戦術機にも乗せず、銃も持たせず、奇襲を徹底させて下さい。万一奇襲に失敗した場合、包囲した総員で必ず捕らえるよう。もっともその場合は損害が予想され、後の任務に支障が出る可能性があるため、出来るだけ初動で決めることを望みますが」
「…………失礼いたしました。確かに甘くみていい相手ではないようですな。指示通り総員で当たり、奇襲を徹底させましょう」
カーフベル大尉が敬礼して下がった後、私の部下の『ヴェアヴォルフ』別働隊の中隊長が、私に挨拶に来た。
「ブレーメ少佐、『ヴェアヴォルフ』別働隊十二機、これより第666戦術機中隊捕縛の任に出発します」
「ご苦労さま。カーフベル大尉の指示に従いなさい。そして第666の件が終わったら、ハイムの後背に回り待機してなさい。前後から挟撃して一気に叩くわ」
「はっ、了解しました!」
特殊陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』を人民宮殿及び人民議会制圧の前に、第666戦術機中隊の捕縛の任務につくよう長官に要請したのは私だ。
本来第666には私自ら捕縛に行く予定だった。だがハイム少将の決起に備えねばならず、ここを動けない。他に第666中隊隊員とアレを確実に捕縛できる腕を持つ部隊は、ゲイオヴォルグしかいないのだ。
「まったく、我々の動きを読まれるなんて、ハイムもさすが老将といったところかしらね。我々の国家掌握が遅れるだけでなく、アイリスディーナとの楽しみまで邪魔されるなんて。まあいいわ。人民軍からも見せしめが必要と思っていたし、楽しみを取られた分派手に踊ってちょうだい」
第666に送った整備兵のコラボレイター。そして”狐”からの報告では、彼らは襲撃を予想しているフシがある。ただし、ベルリン派からの少数の襲撃と思っているようだ。襲撃を予想したのは流石だが、それを計画しているのは我々モスクワ派。この大部隊が来た時のアイリスディーナの顔が見れないのは本当に残念だ。
―――――グオォォォォォォ………
豪華な第666戦術機中隊捕縛部隊は一斉に出発した。それを見送った後、私は残った『ヴェアヴォルフ』に向かい、言った。
「では、これからいらっしゃる老将をお迎えしましょうか。我々の貴重な時間を二日も奪った罪をキッチリ償わせなさい!」
さすがに原作キャラだけだと苦しくなってきたので、オリジナルの部隊と中ボスキャラを作りました。苦しいのはこんな複雑な展開にして、この先の話が中々進まないこともですが。