幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第41話 ひん死の幼女

 ※キルケのエピソードは当時刻の翌日です

 

 キルケSide

 

 

 私は西ドイツ軍第51戦術機機甲大隊「フッケバイン」所属のキルケ・シュタインホフ少尉。現在ポーランドのグダンスク軍港基地において、バルク少佐の呼び出しに応えて指揮官室に向かっている所だ。

 しかし眠い。最近の大幅に増えたBETAは、私達に寝る暇も食べる暇も与えてくれず押し寄せ続けている。

 

 (やはりBETAの圧力は増している。ここ一週間で爆発的に増加したBETAの目的は、東欧に新しいハイヴを建設するためだと予想されている。そして、そのもっとも有力な候補地と予想されるのは”東ドイツ”。そんなことになれば、我が祖国西ドイツは――――!)

 

 私はその最悪の未来の想像を断ち切り、指揮官室の扉をノック。促されて中に入った。

 

 「キルケ・シュタインホフ少尉、参上しました」

 

 「来たか。まぁ座れ」

 

 私はバルク少佐の促す通りに椅子に座った。

 現在、我々西ドイツ軍は海王星作戦に従事しているが、情勢の変化により予定よりはるかに早い撤収に入っている。

 理由は戦局の悪化だ。戦いの初め、我々合同軍は光線級により瓦解の危機に追い込まれた。その経験を踏まえ、戦略、戦術の見直しを計り、光線級に対応できるよう軍を再編した。しかしやはりAL弾の届かない内陸部の光線級には対応できず、合同軍は壊乱。さらにBETAのあまりの増加に敗退を重ね、グダンスク軍港基地をやっと守っているという状況に追い込まれ、全軍撤退が決定されたのだった。

 

 「お話というのは我々も撤収に入るということでしょうか?」

 

 「ん? ああ、確かにフッケバインはこれより撤収作業に入る。が、お前は本日今すぐ単独で帰還となる。夕方出航する補給艦に乗っていけ」

 

 「…………? 何故でしょうか。何故私だけ?」

 

 「東の第666………帰還して二週間ほどか。だがその間色々あったらしい。まず、東ドイツでの大規模BETAに対する防衛戦。そこに50体ほど重光線級が出現したらしいが、それを見事光線級吶喊で仕留めたらしい」

 

 「ええ!?」

 

 只の光線級すら、内陸部では欧州連合軍、アメリカ軍、国連軍が揃って対応できずにいる。その上位種である重光線級はさらに強力で長射程のレーザーを放つという。それを光線級吶喊で討つなど、恐るべきことだ。

 

 「ほ、本当ですか? 確かに東ドイツ軍の光線級吶喊技術は格段ですが、そこまで?」

 

 「ああ。東ドイツのニュースで派手に報道しているらしい。さらにその死骸も持ち帰ることに成功したらしい。その映像も出たそうだ」

 

 「えええええ!!?」

 

だとしたら大変な快挙だ。人類にとって最も厄介なBETA重光線級。あのハイヴの番人の研究が一気に進めることが出来る!

 

 「これにより東ドイツの重要度は大きく増した。外交部、及び情報部のお偉いさんが、東ドイツを代表する戦術機部隊第666と深く接触したお前から直接話を聞きたいと言ってきた。帰還したらそれぞれに行って、お偉いさんにうたってこい」

 

 「了解しました。あの、では西ドイツは東と協調路線をとることになるのでしょうか?」

 

 「それはまだ早いだろうな。いや、難しい。確かに西は光線級吶喊の技術と重光線級の研究素材は欲しい。そして東は戦力。互いに欲しいものを持っている。手を組むのが一番だが、こちらは向こうの共産テロに散々やられている。下手に気を許せばそれを呼び込むことに繋がっちまう」

 

 「……………そうですね。私も、友達の家族がそれに巻き込まれて死亡しました。あの子の嘆きを見ると、私も簡単に東のやつらを信用できそうにありません。反共思想を持っていると思われる第666は別ですが」

 

 バルク少佐は珍しく難しい顔をして、続けた。

 

 「それと東ドイツの現在だがな。国家保安省がBETA戦の最中、クーデターを起こして内乱だそうだ。それに対し、人民軍から国境警備の西方総軍が押さえに出て、武装警察軍と睨み合っているらしい。体制の打倒を考えている第666もそれに合流するだろうな」

 

 「内乱!? クーデター!? BETAに攻められているのにそんなことを……あ、でもその戦いで西方総軍が国家保安省を倒せば………」

 

 「ああ。俺らの国にテロを仕掛ける国家保安省。そいつを倒してくれるなら、ずっとつき合いやすくなるだろうな。だが、国家保安省の武装警察軍には、厄介な部隊が二つある。そいつらに逆にやられなきゃいいが」

 

 二つ? 私は首をひねった。武装警察軍では有名なのは一つだけだったと思うが。

 

 「一つは戦術機大隊『ヴェアヴォロフ』ですよね。警察なのに軍より高性能な戦術機を使っているっていう。でもあと一つは? 私は聞いたことがありませんが」

 

 「何だ、知らなかったのか。まぁ、BETAの掃除屋には戦術機関係しか耳には入らんか。もう一つは『ゲイオヴォルグ』って特殊陸戦部隊だ」

 

 「陸戦部隊ですか……。それってヴェアヴォロフに並ぶほど厄介なんですか?」

 

 「ああ。何しろ西ドイツ……いや、西欧の共産テロのほとんどが、そいつらの仕業だ。お前さんの友人の家族の仇もそいつらだ。ここ数ヶ月姿を消したって聞いたが、国へ帰ってこのクーデターに備えていたんだな」

 

 ―――――――!!?

 

 「破壊工作、対人戦闘、そして暗殺技術は一級品だ。むしろ第666にとって厄介なのはこちらだろう。戦術機戦闘では遅れはとらんだろうが、戦術機の乗っていない状態でこいつらに襲われたらひとたまりもない」

 

 私は不安になった。東ドイツの第666戦術機中隊は、肉弾戦にはさほど向いてなさそうな女性が多い。いや、年端もいかない幼女までいる。特殊部隊に襲撃されたら、本当にどうしようもないだろう。

 

 「おそらく西ドイツは水面下で西方総軍と接触する。正直俺もだが、お偉いさんは西方総軍に勝って欲しいと思っている。シュタインホフ、お前は西方総軍との特使役に選ばれるかもしれん。いちおう覚悟しておけ」

 

 「むしろ志願します! 私もテロを送り込む国家保安省を倒して欲しいですから」

 

 「………だとしても過度の深入りは厳禁だぜ。負けたとき目も当てられねえからな」

 

 バルク少佐は立ち上がり、私に近づき声をひそめて言った。

 

 「シュタインホフ、正直に言うぜ。この東ドイツの内乱、BETAの超大規模進攻と相まって、全ヨーロッパの命運を賭けるまでになった。いち早く勝者を見極め、そいつと協力体制を築き、BETAを押し止めなきゃならん。もちろん、こちらにとって最高なのは西方総軍軍が勝って、それと手を組むことだ。介入にならん程度に支援も考えているはずだ。

 ま、任務の重要性はわかったろう。俺もここを手早く切り上げて、東ドイツへ備える。しっかりやれ!」

 

 「了解しました。最善の未来を掴むため、全力を尽くします!」

 

 

 

 

  ♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 テオドールSide

 

 出発した時は不安だったが、帰還したルートには本当に光線種はいなかった。これまで散々苦労したので拍子抜けだ。後ろの荷物のため、ある程度余計にBETAを倒していき、教導隊と共に無事にヘルツフェルデ基地に帰還した。

 重光線級の死骸を持って凱旋した俺たちに、基地の人間は喝采で迎えた。そして程なく、光線種の完全殲滅の報。それによる空軍の戦略爆撃群による絨毯爆撃の開始が伝えられ、再びの喝采が上がった。

 だが、そのとたんターニャは倒れてしまった。

 

 「お、おい大丈夫か!? どうしたんだ、ターニャ!」

 

 「どうやら魔術の使いすぎのようです。基地に着いて安心したら、一気に反動がきたみたいです。すみませんが、しばらく寝かせてもらいます」

 

 ターニャはそう言って、俺の返事も待たずに眠ってしまった。

 

 (やはり魔術というのは相当消耗するのか。ファムが見たら大変なことになるな)

 

 と考えて、ふと俺は迎えてくれる兵士の中に、第666中隊の誰もがいないことに気がついた。みんなの行方は整備兵の一人が教えてくれた。

 

 「ベルンハルト大尉の容態が思わしくないので、後方の格納庫で休んで貰っています。他の中隊の皆さんも大尉についています。軍医もいますので、そこでその子もみてもらった方がいいでしょう」

 

 ということらしいので、俺はターニャを背負い、その後方の格納庫へ向かった。

 そこは人気の無い閑散とした場所で、動くものすら何も無かった。

 本当にみんないるのか? 一人くらい誰か外にいてもいいものだが。

 

 無人とも思える格納庫内に足を踏み入れた途端―――――

 

 ガッ! ドシャァァァ!

 

 俺は屈強な男たち数人に地面に取り押さえられた。ターニャも取り上げられ、そしてどこからともなく現れた数十人もの兵士に銃を突きつけられてしまった。

 

 (バカな!こんなに大勢の人間が隠れていたのか? まったく人の気配なんてしなかったってのに!)

 

 「抵抗は無理だよ、お兄ちゃん」

 

 そしてその兵士の中に、リィズがいた!

 

 「リィズ、お前やっぱり国家保安省の犬……」

 

 「仕方ないんだよ。『国家保安省には逆らえない』私はお兄ちゃんと離れていた三年間で、そのことをイヤと言うほど思い知らされたんだから」

 

 そう言うリィズに、隣にいる指揮官らしき壮年の男が話かけた。

 

 「よくやった、ホーエンシュタイン中尉。貴官のお陰で手際よく第666中隊全員を捕縛することに成功した。ブレーメ少佐によく言っておこう」

 

 「はっ、光栄です。カーフベル大尉」

 

 そう言ってリィズは敬礼した。

 しかし中尉? リィズは只のコラボレーターじゃないのか?

 リィズは俺に向き直り、ニッコリ笑って言った。

 

 「改めて自己紹介するね。武装警察軍『ヴェアヴォロフ』所属リィズ・ホーエンシュタイン中尉。第666戦術機中隊には、潜入任務でいました。

 お兄ちゃん、おとなしく協力してね。ベルンハルト大尉は先に後方へ送ったし、ターニャちゃんもすぐに送らなきゃいけないけど、他のみんなはここの地下にいるわ。抵抗の素振りがあったら、容赦なくシュタージの尋問があるからね?」

 

 ――――!?

 

 リィズが国家保安省!? 武装警察軍の中尉だって!?

 

 クソッ! リィズ、信じていたのに………。他のみんなも捕まっちまったのか。

 いや、人質などいなかろうと、こいつら相手にはどうしようもないことは見ただけで分かる。

 俺も近接戦闘には自身あるが、こいつらは格が違う。

 一人一人が対人戦闘に恐ろしく長けた、おそらくは特殊陸戦部隊!

 リィズに裏切られ、連中に捕まったこともショックだが、それより気になるのはターニャの容態だ。ターニャは連中に捕まり、厳重な拘束をされている。なのに、グッタリ眠ったままに、まったく目を覚ます様子がない。

 

 

 魔術の使いすぎの消耗。まさか、想像以上に深刻なのか―――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




衝撃の事実!
リィズは国家保安省の手先だった!
(原作プレイした人にはおなじみですが)
さらに頼みのターニャは、消耗して意識が戻らない!
そして全員が捕縛された第666戦術機中隊!

果たして彼らの運命は………?

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