幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第42話 軍事争乱劇は始まった

 「確かに襲撃は予想していたが………ここまでとは考えなかったぞ! これじゃ、いくらアイリスディーナが備えても、どうしようもなかったろう」

 

 私は空より、格納庫を包囲している部隊を見下ろして驚愕した。

 50余名もの練度の高い陸戦部隊が格納庫を包囲しており、狙撃兵までも十数人も狙撃体勢で待機している。さらに軍用ヘリが付近の空を哨戒しており、さらにさらに戦術機『チュボラシカ』が12機も包囲に加わっている。当然格納庫の中にも相当数いるだろう。

 クーデターの真っ最中に、ここにこれだけの部隊を送れるとはどういうことだ?

 

 「フム、この練度。特殊作戦に使うような精鋭部隊だな。まさか、アイリスディーナの言っていたあの部隊か?」

 

 格納庫を包囲している部隊。あれは『待って、撃って、走って、歩いて』を徹底的にやるだけの歩兵とは明らかに違う。一人一人が戦術機一体と同じ予算をかけて育成されるという、特殊部隊だ。どう考えてもコイツらは、主戦場のベルリンへ行くべきだろう。いや、戦力不足のベルリン派がやれることじゃない。まさか………?

 

 さて、今現在私は格納庫の上空、哨戒しているヘリのさらに上で、光学迷彩魔術で姿を隠して待機している。もちろん突撃銃他武装を携帯している。

 では今、捕まっているはずの『ターニャ・デグレチャフ』は? 

 実はアレは以前ベルリンで買ったクマのぬいぐるみ”テロド~ル君”だ。アレには条件を満たせば認識阻害魔術を発生するよう改造しており、周囲の人間は私だと認識してしまうのだ。

 以前、ベルリンに出張したときに蚤の市で私の背丈と同じくらいのぬいぐるみを見つけ、身代わり人形にするのに丁度いいので購入した。今回のクーデターに合わせ、いよいよ私を確保に動くだろうと予想して持ってきた。そして出迎えの兵の中に第666中隊が誰もいないことに不審を抱き、入れ替わったのだ。万一の備えだったが、持ってきて良かった! 

 

 「ありがとうリィズ少尉! この部隊に囲まれていたら、いかに私でもお終いだった。演技過剰で気づかせてくれて、本っっ当~~~に感謝に絶えない!」

 

 おっと、包囲を解き集合し始めた。どうやら作戦完了。しかし速いな。またたき二つ分の時間で、あっという間に集合したぞ。

 私は彼らが特殊陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』だとアタリをつけた。アイリスディーナが話してくれた武装警察軍の情報の中に、『ヴェアヴォルフ』以外の厄介な敵として彼らの名が出たのだ。

 諸外国にて数々の悪名高い共産テロを成功させ、東ドイツをワルシャワ条約機構の盟主に仕立て上げた立役者。現在の国家保安省の隆盛は、彼らの存在あってのことと言ってもいい。なにしろ暗殺でも最高の技術を備えており、その恐怖による支配は政府関係者や議会にまでも及んでいる。

 何故彼らがここにいるのか疑問はあるが、これは好都合。『ゲイオヴォルグ』とベルリンで戦闘となれば、間違いなく多大な損失を覚悟せねばならない。それをここで殲滅できるのは何よりだ。さらに数々の共産テロの実行部隊を取り除いたとなれば、西側の好意も買える!

 

 「やれやれ、人間同士。それも同じ国の者同士が戦い、殺し合うとは愚かなことだ。君たちに恨みはないが、我々を襲った以上覚悟したまえ」

 

 私は握っている突撃銃を下に向け、全ての陸戦部隊に照準補正魔術による狙いをつける。

 久々に航空魔導師に戻った気分だ。この体勢になった以上、下の連中の運命は決まった。

 前世の魔術世界では、いくら光学迷彩魔術で姿を消しても、魔力反応で気づかれてしまう。故に狙撃で術式を組むのは必要最低限しかできない。

 しかし、ここではいくらでも時間をかけて、膨大複雑な術式を組むことが出来る。

 『下の連中一人一人に狙いをつけ、引き金ひとつで全員に等しく爆裂入り術式弾を喰らわせる』なんてこともできてしまうのだ。

 

 

「舞台開演のベルを鳴らそう。『これなるは戦鬼の惨憺、落涙の軍事争乱劇。クソッタレの神と子と聖霊の御名において』誘導爆裂術式による広域殲滅射撃、開始!」

 

 タァァァァァン!

 

 引き金一度引いただけで全弾射出! 

 それはすべて照準に合わせた下の部隊一人一人の頭上に、正確に降り注ぐ!

 

 そしてそれは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはり航空魔導師というのはこの世界では相当の規格外だな。おそらく最高の陸戦部隊精鋭であろう50余名が一瞬で壊滅か」

 

 私は眼下一面に赤い色に彩られた地面を見て呟いた。動くのは12機の戦術機チュボラシカと哨戒ヘリのみ。周囲をせわしなくサーチし、どこから攻撃されたのかを探している。あと、指揮車両もあえて残してある。今頃中の指揮官に通信を送っているだろう。

 次は哨戒ヘリだ。慌てた様子で下のCPと連絡を取り合っているそれに、高性能爆弾をセットした後、尾翼ローターを破壊した。姿勢を安定させる尾翼を破壊されたヘリは、空中人間ミキサーとなり、物凄い勢いでグルグルその場で回転した。

 

 哨戒ヘリを救出すべく、チュボラシカが二機上がってきた。

 コレに気を取られている間がチャンスだ。

 次は戦術機。

 私は貫通術式を突撃銃にかけ、指揮官らしき機体に向かい空中滑空、突進した。

 

 タァァァァァァン!

 

 管制ユニットの壁を貫通させ、頭のある位置に射撃!

 瞬間、チュボラシカは動きを止めた。

 次だ。コレの停止に気づかれる前に、次のチュボラシカを眠らせる!

 私は一番近くのチュボラシカに向かい、またまた突進した。

 

 

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 カーフベル大尉Side

 

 私は国家保安省所属、特殊陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』指揮官アーノルド・カーフベル。階級は大尉。現在、拍子抜けな程に最初の作戦を完了し、撤収準備に入っている。ブレーメ少佐が脅威と感じ、我々『ゲイオヴォルグ』全員を向かわせた要因の幼女も、重光線級との戦いで力を使い果たしたのか目を覚まさないままだ。

 ホーエンシュタイン中尉は、エーベルバッハ少尉をファルカという彼女の副官と共におさえ、我々に触らせない。エーベルバッハ少尉は彼女の兄ということだが、彼への執着には少々危ういものを感じる。

 まぁ、気にしてもしょうがないか。我々は急いでベルリンへ出発せねばならないのだから。

 

 「総員気を引き締めろ! 本番は次だ。ベルリンはこれ程簡単に事が終わるとは思うな!」

 

 隊員の少しの気の緩みを感じた私は、緊張を促すべく号令をかける。

 

 「了解! 集団遠足でお使い任務とは思いません」

 

 「幼女の超能力とやらを拝めなかったからといって腐ったりしませんよ」

 

 「今度こそ、少しは銃を撃てるといいですな」

 

 やはり少し緩んでいるが仕方ないか。最精鋭の余裕と思っておこう。

 

 「よろしい。では………?」

 

 ふと、外から銃声と爆発音が聞こえた。そして耳をすませると、哨戒ヘリの音がおかしい。規則正しいいつものローター音では無く、まるで暴れているような音だ。

 通信をCPの指揮車両に繋いだ。

 

 「ゲイオヴォルグリーダーよりCPへ。ヘリがおかしいようだがどうした。銃声、爆発音も聞こえたが、外で何かあったのか」

 

 『か、カーフベル大尉、緊急事態です! 格納庫周囲を包囲していたゲイオヴォルグが襲われ、全滅した模様! 呼びかけに一人も答えません!』

 

 「………………? ゲイオヴォルグ00、何を言っている。銃声も爆発音も一度しか無かったぞ。それでゲイオヴォルグが全滅? 哨戒ヘリ及び戦術機部隊は何と言っている」

 

 『ほ、本当です! 潜んで射撃体勢にいるはずの狙撃手すら、誰も応答しません! 哨戒ヘリは尾翼ローターを破壊され、空中で激しく回転! 唯一無事な戦術機部隊が、ヘリの救助と周囲の警戒、敵の探査をしておりますが………』

 

 ドォォォォォォォォン!!!

 

 突然に外から激しい爆発音が聞こえた!

 

 「ゲイオヴォルグ00,どうした!? 今の爆発音は何だ!」

 

 『へ………ヘリを支えようと、戦術機2機が接触した途端…………ヘリは突然、爆発してしまいました………。ヴェアヴォロフ06に状況と原因を説明させます。

 ……………? おい、ヴェアヴォロフ06! 応答しろ! さっきの爆発について説明しろ! クッ、戦術機部隊! ヴェアヴォロフ! 誰でもいいから応答しろ! してくれ…………』

 

 まるでうわごとの様にヴェアヴォロフに呼びかけるCPの声を聞きながら、私はようやく事態がただならぬことを悟った。もし、本当に外のゲイオヴォルグが全滅したとあらば、この先のベルリン制圧作戦は完全に破綻する。特に貴重な狙撃兵十三人を一斉に失ったとなれば、ゲイオヴォルグの存続さえ………

 いや、今は謎の襲撃者の排除が先決だ。

 

 「落ち着け、ゲイオヴォルグ00。今からこちらの部隊を送る。周囲の警戒を厳にし………」

 

 ガシャン………

 

 通信の向こうで何かが壊れる音がした。

 

 ―――――――!!

 

 クソッ、襲撃者め! とうとうCPまで狙いに来たか。

 

 「時間を稼げ00! 今は…………」

 

 『なっ! お……お前はターゲット02!? 何故ここに? 大尉が捕らえたという方は!?』

 

 ターゲット02だと? バカな、ターニャ・デグレチャフはすでに捕らえて……

 

 「おい! 捕らえているターゲット02をもう一度よく調べろ!」

 

 だが私は猛烈な悪寒を感じ、そう命令した。

 そして、それは的中した。

 ターゲット02を取り押さえている部下はひっくり返ったような声を出した。

 

 「なんで………なんでこんなモノを娘だと? 一体何が………」

 

 私たちがターニャ・デグレチャフだと思っていたそれ。それは痩せたクマのぬいぐるみに化けていた。なるほど、ブレーメ少佐は、彼女がまだ能力を隠している可能性を示唆して恐れていたが、コレか。

 では、ターゲットはやはり指揮車両に…………

 

 『何で………外のアレはみんなお前がやったのか!? 他に仲間が………』

 

 『残念ですが、あなたに送る手向けは一つだけです。痛みも苦しみも無いこの慈悲の銃弾。社会主義者の天国で、偉い人達を迎える待機任務に入って下さい』

 

 マズイ! 私が呆然としている間に、通信の向こうでは事態が進んでいる!

 

 「よせ! こっちには人質が………」

 

 パァァン! ドサッ!

 

 銃声と共に何かが倒れる音。

 そして再び通信から応答したのは、長年CPに従事してくれた戦友の声ではなく、幼い女の子の声。この声の主が彼の………………いや、頼もしい数多の精鋭の部下達の仇とは、とても信じられなかった。

 

 

 『貴方たちが私だと思っていたそれ。身代わり人形の”テロド~ル君”といいます。大切なベルリンの思い出の品ですが、よろしければ私の代わりに持って帰って可愛がってやって下さい。

 私のことはよくご存知でしょうが、改めて自己紹介いたしましょう。第666戦術機中隊所属ターニャ・デグレチャフ上級兵曹であります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに始まった国家保安省との宿命の戦い!
ゲイオヴォルグの奇襲に対し、奇襲で返すターニャ!

幼女と最精鋭部隊の軍事争乱劇、開幕!!
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