あと、ターニャのユニット内には”テロド~ルくん”がいたはずなのに、そのことにテオドールが何も言わないのは変だと思い、40話にエピソードを書き足しました。
カーフベル大尉Side
『いや、武装警察軍の方々でしたか。てっきりBETAと戦うのが恐くて集団で逃げた軍隊崩れの押し入り強盗かと思い、全滅させてしまいましたよ。
卑劣許せぬ私の正義感が、ご迷惑をおかけいたしました。はっはっは」
幼女はまるで悪びれもせず暢気な口調で、外の包囲部隊の殲滅を語った。
この通信は我々『ゲイオヴォルグ』の指揮車両からのもの。なのに部隊員以外の人間によって、文字通り『子供のオモチャ』にされていることに、私は激しい怒りを覚えた。しかし彼女をその場にとどめるべく、平静を装い会話を続けることにした。
さすがは我が隊員は、不穏な空気を感じ取り、撤収準備をやめて再び武装をしている。
私は手振りと指サインで、この場の約3分の2の隊員に指揮車両に行くよう、そしてそこにいるターゲットを捕獲するよう指示を出した。彼らは音も無く、猟犬の如く素早く外に出た。
私は彼らを接近させるため、ターゲットとの会話を続けながら注意を引く。
『ところで、そちらは随分な人数の精鋭を送り込んだようですな。国家保安省の武装警察軍とのことですが、ベルリン派の部隊ではないのですか?
リィズ少尉とアクスマン中佐の関係から、来るのはそちらだと思っていました。ですがベルリン派に、これ程の部隊を送り込めるはずはありません』
「答える必要を認めない」
『では、さよならです。形勢不利なようですし、私だけでも逃げさせて貰います』
なに!? てっきり仲間を救うための交渉をしに連絡したのかと思ったが、見捨てて逃げるだと? ちっ、やむを得ん。ある程度情報を流して引きつけるか。
「待て。………そうだ、我々はモスクワ派の陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』だ。そしてリィズ・ホーエンシュタインは少尉ではなく、中尉。戦術機大隊ヴェアヴォルフの部隊員だ」
『リィズ少尉がヴェアヴォロフ? ………ああ、たしか諜報員の隠語には、一般的な”犬”の他に”狐”と呼ばれる者もおりましたな。飼い主を二人以上持ち、状況によって飼い主を選ぶ者だとか。成る程、彼女はコラボレイターなどではなく、生粋のスパイということですか』
私は数多戦友を殺しておきながら、あまりに暢気な様子の幼女に苛ついた。命令で彼女は殺せないが、後の自身の待遇を今この場で決めさせることにする。
「言葉を弄ぶのはこれまでにしてもらおう、ターニャ・デグレチャフ上級兵曹。私は国家保安省武装警察軍陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』のアーノルド・カーフベル大尉だ。
貴官はノィェンハーゲン要塞駐留の保安隊員殺害の容疑がある。さらに職務に従事していた我が隊員も多数殺害した。だがおとなしく投降し、自らここに来ればよし。貴官の協力によっては相応の待遇を約束しよう。
だが少しでも抵抗、反抗があるとみなした場合、後の刑罰、修正は相応に厳しいものとなる。
そして貴官が逃亡した場合、すでに捕らえてある貴官の仲間、第666中隊の命の保証はしない。よく熟考し、自らの進退を決めたまえ」
『できますか? 光線級吶喊に長けた第666中隊は、この先のBETAとの戦いに備えて、国家保安省の手駒にしたいんでしょう? それを自ら消してしまうおつもりですか?』
――――ちっ、やはりこの悪魔小娘には情けは無用だな。我々の管理下にある間、食うことも眠ることも許さん! そして、その舐めた態度を修正してやる。
「我々を甘く見るな! 丁度いい、ここにテオドール・エーベルバッハ少尉がいる。彼の運命を見て、我々の覚悟を知るがいい」
まだ殺すつもりはない。だがこれ以上、この幼女に甘く見られることだけは我慢ならん! 耳の一つも飛ばすつもりで彼に拳銃を向けた。そして………
ガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
だが、突然に付近から突撃銃を乱射した者がいた! それは………
「―――リィズ・ホーエンシュタイン中尉!? 貴様、なんのつもりだ!」
ホーエンシュタイン中尉はエーベルバッハ少尉の前に立ち、突撃銃を我々に撃ちまくった! 私はとっさに物陰に隠れることに成功したが、負傷した者。そして死亡した者までも出た。
「お兄ちゃんは殺らせない!」
彼女はそう言い、いつの間にか拘束を解いたエーベルバッハ少尉を立たせると、共に逃げていった。成り行きにとまどっていたファルカという彼女の副官も、少し遅れてその後を追った。
我々は体勢を立て直し、その背中を撃とうと発砲した。しかし、ボディアーマーを着ているとはいえ、至近距離からの突撃銃の乱射を喰らったダメージは大きく、取り逃がしてしまった。やむを得ず、数名に追跡を命じた。
そして通信からは、この顛末に幼女が大笑いしている。
『はっはっは、はっはっは! どうやら、リィズ中尉に叛かれたようですな。いや、予想してたとはいえ、まさか本当にやってくれるとは! あの人は、お兄ちゃん大好きですから………………くはっ、またアレを思い出した!』
「クッ! 貴様、これを狙って………!」
見事にしてやられた! 通信のみで我々に損害を与えるとは!
『ああ、ついでに私の存念も言っておきましょう。社会主義だの共産主義だのは、国を破滅させるだけの愚かなポンコツ理論。ドイツ社会主義統一党のみが我が国の政党であることもおかしいし、国家保安省に至っては世界のゴミ。テロと粛清を撒き散らすだけの害悪でしかありません。
これら全ては、この世から消え去るべきです、消しましょう。
さて、私への処分についてもう一度聞きましょうか、カーフベル大尉』
「………………処刑だ。ターニャ・デグレチャフ上級兵曹、貴様をはじめ第666戦術機中隊がここまでの反動分子だったとはな。いいだろう、覚悟をしておけ。捕縛した後あらゆる拷問をし、貴様らの背後を………」
その時だ。ターニャ・デグレチャフ捕縛に向かわせた部下から、耳のイヤホン型通信機に緊急連絡が入った。
『ゲイオヴォルグ01、指揮車両に着きましたがターゲットがいません。通信機の前にはレシーバーが置いてあり、そちらからの声はそれから受けているようです。しかし、送信は本人がいないのに、声のみがどこからか来ています』
な! 指揮車両の通信を使いながら、車両にいない!? ヤツの能力はそんなこともできるのか?
――――――!!!
その瞬間、激しい悪寒と共に全てが繋がった。
逃げると言っておきながら、何故通信で私と無駄話を続けているのか。
反射的に部下への連絡用通信機を手に取り、叫んだ。
「すぐその場を離れろ!! それは―――――!」
『シュヴァルツェスマーケンだ。カーフベル大尉、部下達のために祈りたまえ』
その言葉を最後に、ターニャ・デグレチャフからの通信は途絶えた。
そして――――――
ズウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
同時に爆発音が聞こえた。外と通信機とから同時に。
「きっ……きっ……貴様………! 私の部下を………!」
私は通信機を壊れるほどに握りしめ、誰も応えることのない相手に向かって言葉を吐く。
こんな無様なことをするほどに、かつて覚えたことが無いほどに、私はとてつもなく怒り、激昂している。
罠に嵌められたとはいえ、最精鋭の陸戦部隊。何人かは生き残っているだろうと一縷の望みをかけ、全員に通信を送った。
だが、一人として応答する者はいなかった。
――――その瞬間、本当に理解した。
『外にいる隊員は本当に皆殺しにされた。誰も生き残っていない』と―――――
――――ガッ!!
私は通信機を思いっ切り地面に叩き突けると、逃げていったリィズ・ホーエンシュタイン中尉の方向へ向かい、怒鳴った。『負け犬の遠吠え』であることはわかりすぎるほど理解しているが、叫ばずにはいられなかった。
「ホーエンシュタイン中尉、貴様はアレのことを何も調べてなかったぞ! 全く気がつかなかったのだろう? ヤツは『本物の悪魔』だとな!」
幼女が下す無慈悲な黒の宣告
それはシュヴァルツェスマーケン!