幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第6章 革命の空に幼女 雄々しく叫び
第48話 驚愕のベアトリクス


 

ベアトリクスSide

 

 

 ヘルツフェルデ基地へ送った調査隊は意外なほどに早くゲイオヴォルグ、別働隊の連絡の途絶えた原因を突き止め、連絡をしてきた。それは予想以上に最悪な答えだった。

 

 「全滅!? この映像に映っている死体は、みんなゲイオヴォルグのものなの!? まさかBETAの襲撃!?」

 

 調査隊が通信で送ってきた映像。それは捕獲作戦地点であるヘルツフェルデ基地格納庫周辺のものであるが、そこには一面に兵士の死体が映っていた。最高の陸戦兵である彼らが、こんなにも開けた場所でまとめてやられるなど、とても信じられなかった。

 

 『制服や装備は確かにゲイオヴォルグのものでした。基地の者が付近を捜索したそうですが、BETAの侵入はありませんでした。それに格納庫内の死体は銃撃戦でやられたものです。カーフベル大尉も含めて。そして外に展開していた戦術機部隊は、ユニット外から銃弾を貫通させ、頭部を撃ち抜かれてやられていたそうです』

 

 …………やはりこれはターニャ・デグレチャフか? 彼女が手強いことは予想していたが、まさかゲイオヴォルグを全滅させる程だとは! それにカーフベル大尉は一度、彼女も含めた第666中隊全員の捕縛も報告してきたはずだ。あれはいったい何だったのだ?

 気がつくと、私は副官に体を支えられていた。あまりのことに呆然となり、足元がおぼつかなくなっていたようだ。『理想的な成功』から一転、『一兵残らずの全滅による失敗』という上げて落とされた衝撃は、ひどく私の体を蝕んでいる。

 何しろ特殊陸戦部隊『ゲイオヴォルグ』は人民宮殿、人民議会を制圧するための精鋭部隊。そして我がヴェアヴォルフを割って送った中隊は、ハイムの部隊の後背を襲う挟撃作戦の一手。それら全てがゴッソリ無くなってしまったのだ。

 

 「………そこの始末は国家保安省の者にやらせなさい。人民軍には手を出させないよう。こちらからも手を打っておくわ」

 

 そう言って、通信を切った。

 ヘルツフェルデ基地の人民軍上層部には、鼻薬をかがせて『後方の格納庫周辺で装備のテスト射撃を行う』ということにして人民軍は近寄らせないようにしてある。だがもう一押し必要だろう。

 

 「私の失った時間は…………最短で6日? いえ、彼らを全滅させたのは、間違いなくターニャ・デグレチャフ。彼女の能力が把握できないなら、作戦なんてたてられない………」

 

 まずい………内乱を長期化させるのは悪手。このままでは計画は頓挫してしまう。ともかく、シュミット長官に報告だけはせねば。どのような罰がくだろうとも。

 

 

 

 

 

 

 『収穫に失敗し、第666戦術機中隊に逃げられた? 前の報告では、ターゲットを含め全員捕縛したとの報告だったはずだ。虚偽の報告だったのか?』

 

 予想通り、第666中隊捕縛の失敗の報告にに、シュミット長官はひどくお怒りだ。もっとも、この後のゲイオヴォルグ全滅の報を聞けば”怒り”ではすまないだろうが。

 

 「いいえ、シュミット長官。ゲイオヴォルグが奇襲に失敗するとは思えません。報告の時点ではその通りだったのでしょう。しかし、そこからひっくり返されたようです。おそらくは、ターゲットのターニャ・デグレチャフによって。彼女は想像以上の化け物だったようです。

 アイリスディーナ・ベルンハルトだけは先に運んでおいて幸運でしたね。彼女の名声は厄介ですからね」

 

 『それで? どうするつもりだ、ブレーメ少佐。ここからどのように収穫を為すつもりなのだ?』

 

 「デグレチャフの収穫は諦めるべきでしょう。抹殺の許可を」

 

 『バカを言うな。モスクワとの交渉で、彼女を引き渡すことを条件とした様々な案件が有る。いや、すでに幾つも見返りをもらっている。君の乗っている最新鋭の戦術機[アリゲートル]もそうなのだぞ』

 

 「この襲撃作戦には、最精鋭の陸戦部隊ゲイオヴォルグ全員と我がヴェアヴォルフを割った中隊を送り込みました。そして完全な奇襲作戦で攻め、第666戦術機中隊も無力化しました。

 にも関わらず、ゲイオヴォルグと戦術機一個中隊全てを撃破して逃亡したのです。これは事実上、彼女を生け捕ることは不可能と示されたも同然です。

 いまだ国家の全てを掌握しきれていない今、彼女の捕獲にこだわるのは愚策でしかありません」

 

 『…………特殊陸戦部隊ゲイオヴォルグの再編は可能か? 彼らにはこの後、人民宮殿や議会等のベルリン中心部の制圧をしてもらう予定のはずだが』

 

 「不可能です。責任者の処罰も必要ありません。指揮官以下全ゲイオヴォルグ隊員及び支援要員等任務に赴いた全員が殉職したのですから。故にベルリン制圧は部隊を新規に編成し、我々がハイムを撃破した後で支援に回り、やるしかありません。国家を掌握するのは非常に遅れることになります」

 

 「なっ!………なっ………!」

 

 シュミット長官は珍しくうろたえている。無理もない。

 『ゲイオヴォルグ全滅』など、言葉にした私ですら効いている。『損害なしの任務達成』から落とされた長官の衝撃は相当だろう。

 

 『………………! まったく、あの時アクスマンの提案にのっていればこんな失態などなかったものを。値をつり上げるためにデータ収集などして、結局これか!』

 

 「面目ございません、シュミット長官」

 

 『ともかくアイリスディーナ・ベルンハルト大尉を捕らえたことは評価しよう。彼女の名声が使えないのであれば、向こうも手詰まりのはずだ。ベルリンの制圧は私の方で何とかする。少佐はそのまま西方総軍及び第666を抑えていろ。ターゲットの抹殺は許可しない。そしてベルリンを制圧した後、ハイムと交渉する』

 

 「ハイムと交渉!? 国家の完全な掌握は諦めると? それにターニャ・デグレチャフはあまりにも危険です。例えソ連との約束があったとしても、抹殺すべきです!」 

 

 『落ち着きたまえ、少佐。ソ連との約束を違えて、我々に未来があると思うかね?

 それに他にも事情がある。時間が我々の敵にまわった。明日までに完全な国家掌握ができんのならば、妥協せざるを得んのだ。先程ミンスクハイヴから新たに10万のBETAが出現し、こちらに向かっているとの報告が入った。多数の光線級、そして重光線級も確認したそうだ。明日の今ごろ、再び防衛線は激戦となっていることだろう』

 

 「な! ………成る程。であれば今、光線級吶喊に長けた第666は潰せない。しかも多数の人民軍将校を粛清してしまったために反乱軍の部隊も使わざるをえない。我々は動くのが早すぎた。いえ、まさかこんなに早く新たなBETA大規模挺団が来るなど予想外。海王星作戦でも多数のBETAが殲滅されたはずなのに、驚くべきことです」

 

 『ああ、BETAにまで裏をかかれた気分だ。とにかく、あの娘が化け物なら我々が相手にするのは悪手だ。化け物には化け物の相手をさせ、我々は戦力を温存するのが最善。一時ハイムと手を組み、娘も人民軍に預けてBETAの相手をさせよう。然るべき時期、政治取り引きによって手に入れることとする。

 ハイムと交渉の後、反乱軍は恩赦と引き替えに祖国防衛にあたらせる。第666もベルンハルト大尉の命を盾にすればいうことを聞くだろう。次の準備まで今少し時間が必要だ。頼んだぞ』

 

 ――――――ピッ……………ダン!

 

 

 人生で最も情けない報告を終え、シュミット長官への連絡を終了した後、思わず拳を叩きつけた。

 何らかの処分が私にも下されるかと思ったが、それはなかった。それ程、今の状況は悪いのだろう。無理もない。長年、国家保安省の優位を支えていた特殊陸戦部隊がいきなり消失してしまったのだから。

 この、いきなりのゲイオヴォルグ消失は埋めようのない巨大な穴。この先の計画をいくつも修正、若しくは破棄しなければならないだろう。

 シュミット長官は平静を装い会話をしていた。たが、彼と同類の私にはわかる。深い怒りを心の奥底に隠している。長年に準備を費やした国家の掌握に、ハイムを入れるなど屈辱以外の何者でもないはずだ。

 

 「計画中止? 私の失った時間は………5年?10年!? いったい何なの、アレは! いかに特殊な能力を持っているとはいえ、我が国の最精鋭の陸戦隊と戦術機中隊を撃破するなど、人間離れが過ぎる!」

 

 そしてこの一件は、私自身の計画をも頓挫させた。私の計画はシュミットに東ドイツを掌握させた後、彼を抹殺して実質的に私がこの国を支配。理想の全体主義国家に作り変え、人類の防衛となる予定だった。

 が、シュミット自身、国家の完全掌握は不可能となり、ハイムと実権を分かち合わねばならないのでは諦めるしかない。

 そしてターニャ・デグレチャフ。予想以上の化け物のアレを倒してはいけないなどと、それだけで戦略段階で劣勢を強いられているようなものだ!

 ……………いや、シュミットの言う通り、彼女とは戦うべきではないだろう。彼女を抹殺するために戦力をすり減らすのは愚かなことだ。化け物とはいえ、彼女はBETAと違って政治攻勢が可能なのだから。

 と、シュミットのことを思い出した時、ふと疑問が頭をよぎった。

 

 

 「長官はどうやってベルリン中心部を制圧するつもり? 中央の守備はそれなりに強固。ただの寄せ集めには不可能だわ。

 ゲイオヴォルグも無く、私たちヴェアヴォルフも使わないとなると………」

 

 

 

 

  

 

 

 

  ♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 ターニャSide

 

 夜間に軍用車を走らせ、ベルリンに接近。車内で明け方近くまで睡眠をとり、そこからひとっ飛び空を飛んで、厳重警備を飛び越えてベルリン市内に侵入。そこでさらに外出の解禁時間まで待機し、最初の目的地に向かった。

 そこは低所得者層や海外移民などの集う一般区。いわゆるスラムのような所だが、自由主義圏と違い路上生活者などはいない。

 なにしろここは社会主義国。国家が全ての人民に仕事と住居を与えてくれる。仕事も住む場所もないような人達は、もれなく労動キャンプへとご招待。死ぬまで生活と仕事と食事の面倒を見てくれる炭鉱掘りだ。

 

 さて、そんな裏町そのものの、この場所で私が向かう先はファム中尉から教わった反体制派の中継拠点のとある雑貨店だ。そこから反体制派の幹部へ話を通してもらう。

 その雑貨店の裏口にまわり呼び鈴を押した後、ファム中尉に教わった通りに数度ノックを叩く。

 数秒後に扉がわずかに開くと、そこにファム中尉がくれた不規則に半分に切られたトランプを差し出す。これが反体制派の同志の証だそうだ。

 しかしこんなやりとりをしていると、フランスヤオランダのレジスタンス映画の登場人物にでもなった気分だ。…………いや、似たようなものか。相手もドイツ社会主義統一党と、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)とほとんど変わらないし。

 やがて扉は大きく開き、私を入れてくれた。そこの主はファム中尉と同じベトナム系の初老の男性であった。

 

 「やあ、いらっしゃい。確かドーゼィのところのお嬢ちゃんだったね。今日はお母さんからのお使いかな?」

 

 「ええ、そうなの。お母さん、最近いろんなものがなかなか手に入らないけど、おじさんなら何とかしてくれるって言ってたわ!」

 

 「こらこら、それは国家の批判になるかもしれないよ。気をつけなさい」

 

 「いっけなぁい、国家と党と人民に忠誠を!」

 

 ……………いや、我ながら自分でしゃべっているとは信じられない裏声だ。こんな女の子っぽい声でこんな会話はしているが、格好は軍用BDU。端から見ればさぞ不気味だろう。

 いきなり初対面の人物相手にこんな茶番を演じているのは訳がある。

 主人は私の応対をしながら、手にはこんなことを書かれた紙を持っていたのだ。

 

 『盗聴されている。話を合わせろ』

 

 

 …………本当にレジスタンス映画そのものだ。

 

 

 

 

 

 




第6章開始!
カウルスドルフ収容所より始まる東ドイツ革命!
革命の戦火に幼女は何を見る?
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