幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第53話 革命の序曲

 ※第666戦術機中隊とヴェアヴォルフとの戦闘が起こった日の明け方に戻ります。 

 

 

 

 幼女も眠る午前1時。しかし私は眠らない。

 『イェッケルン中尉とズーズィ女史は無事にベルグ基地へ着いただろうか』などと思いながら、魔導飛行中。ベルリン郊外の軍用車より飛行してきて、カウルスドルフ収容所上空に到着。

 格好はもちろん昼間の幼女天使な一般人の格好ではなく、衛士強化装備。人の顔も私の髪も光るため、頭にはマスクとゴーグルだ。

 前世の航空魔導師時代には、このような強襲偵察任務もよくやったものだ。

 高度を下げ、事前に目星をつけた中央管理棟の屋根へと降り、その中央に立つ。

 メインコントロールルームが最上階に有るというのはいい。普通の人間ならたどり着くのが一番困難でも、空を飛んできた私には一番簡単に到着できる。

 屋根の一隅に高性能爆薬を仕掛ける。仕掛け終わったら、魔術で周囲の空気をできる限り薄くする。周囲に響く爆発音、倒壊音を消すためだ。でははじめよう。スイッチオン!

 

 ボォォォォン……………

 

 天井を爆破し、穴を開けた。

 そこから突撃銃を構え、素早く中に入る!

 付近を一瞬で見回し、その場にいる人物を射つ! 深夜のせいか、広さの割に二人だけだった。

 

 「君たちもここに入れるということは、この国の勝ち組。相当なエリートだったのだろう。まぁ、これから転落するかもしれないが、強く生きてくれ」

 

 私の使った突撃銃は不殺用に術式で仕掛けをしてある。貫通力を極限までおさえ、衝撃は体全体に拡散するように。

 大義をかかげ革命を成そうとする身には、同国人の軍人でない者を襲撃して殺害するというのは、いかにも外聞が悪い。故にこの襲撃には”ぬるい”相手はできるだけ殺さないことに決めたのだ。

 

 私は二人を拘束すると通信機、そして厳重そうな扉の電子錠を破壊。これでこの部屋は天井からしか入れなくなった。侵入者よけの”返し”などあったから、私以外の人間はさぞかし苦労するだろう。

 さて、これで作戦第一段階は終了。私は棚にかかっている全てのマスターキーを手にし、そして再び天井から外に出た。異変を知ったならば、真っ先にここへ入ろうとするだろうから大いに時間が稼げる。

 

 さて、いよいよ作戦第二段階。『アイリスディーナのお部屋訪問』だ。

 アイリスディーナのいる政治犯収容棟へと向かい、光学迷彩術式で姿を消して侵入。その棟の警備詰め所を襲撃して制圧し、看守を拘束。何とはなしに監視カメラを見てみると、知った顔が映っていた。

 ノィェンハーゲン要塞守備兵だったヒゲモジャ戦車帽『クルト・グリューベル曹長』だ。もっとも今は戦車帽もなく、ヒゲも剃られているが。

 私は早速その房へ向かった。

 

 

 

 

 「…………ターニャ・デグレチャフ上級兵曹? なんでここに? あんたも捕まった………わけじゃないよな。看守もいないし、衛士強化装備だし」

 

 そこの房の扉を開け、私が挨拶すると、クルト曹長はじめそこの囚人の方々は皆、あっけにとられた顔をした。

 深夜に男性だらけの房に訪問など、東ドイツの淑女たる私にはいかがかとも思うが、これも大義のため私の将来のため。淑女の矜持を曲げても、やらねばならないこともあるのだ。

 

 「お久しぶりですね、グリューベル曹長。私の保安隊殺害の件を知られていたのだから、当然にそれを隠匿したあなたや他の方々もここへ、という訳ですか」

 

 いい加減、これだけのマスターキーを持っているのは大変だった。肉体を魔導強化してあるとはいえ、重くてしょうがない。この棟の政治犯を解放するのはアイリスディーナを助け出した後の予定だったが、彼と彼の仲間を使って、先に解放することにした。では、改めて。

 

 「喜びたまえ、諸君! たった今、この監獄全ての囚人の刑期は満了した。刑期の終わった諸君らには新たな仕事に従事してもらう。”革命”だ!」

 

 私の言葉についていけない顔をしたクルト曹長やその他の囚人にマスターキーを渡し、まず信用のおける者を解放するよう促した。

 

 「な、なあ。あんただけでこんな………。警備のやつらはどうしたんだ? この先の勝算はあるのか?」

 

 「この棟は、地下以外の看守、警備兵は全員拘束しました。私の隊長の救出が優先ですが、ここの政治犯を全員解放してここを拠点とします。警備詰め所に拘束した警備兵がいますので、彼らの装備からあなた方の武器を調達しましょう」

 

 クルト曹長は尚も話についていけず、呆然と私についてくる。簡単に私と第666戦術機中隊が、国家保安省のクーデターに乗じて、反体制派の活動をはじめたことを説明した。

 さて、人手もできたことだし、いよいよアイリスディーナの解放といこう。 

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 アイリスディーナSide

 

 ―――あれは突然の出来事だった。

 

 一昨日、第666戦術機中隊は重光線級の光線級吶喊を行ったが、その際、私はレーザー照射の余波による衝撃で重傷を負った。

 その療養のため、ヘルツフェルデ基地の後方の格納庫で休養していたのだが、突然に陸戦部隊の襲撃を受けてしまった。デグレチャフから襲撃の可能性を聞かされていたので、部隊員にはそれなりの準備をさせていた。しかし敵の数は予想以上に多く、練度も高い部隊であったために我々は為す術もなく全員捕まってしまった。

 その後、私は気絶している間に一人だけベルリンのこの収容所へ運ばれたらしい。

 要するに、何も出来ずシュタージの奴らにしてやられてしまったというわけだ。

 

 

 

 

 ――――そして現在

 

 

 猛烈な寒さに私は苛まれている。極度の低温の地下独房で全裸で座らされているからだ。

 私の前にはここの尋問官という男と、その部下数名が暖かそうなコートを着て嗜虐そうな笑みをうかべながら立っている。

 

 「なかなかに強情ですな。おとなしく協力していただけるなら、暖かい暖房器具をご進呈さしあげてもよろしいのですが」

 

 私の尋問官はそう言うが、私はそれに屈する気はない。奴らに屈する気が無い以上、ここの番人などに会話することさえ体力の無駄だ。故に彼には一切話かけず、黙り続けた。

 

 「…………まぁよろしいでしょう。『どんな手段を使っても吐かせろ』とは命令されてはおりませんし、ブレーメ少佐からもあなたは『いじるな』と言われておりますしね。

 英雄殿にここの素敵な尋問でもてなしたいところですが、実に残念です。ですが、ここにいる間はそうやってふるえていて頂きましょう」

 

 直接的な拷問などはしないらしいが、ここの独房はかなりの低温。寒さが猛烈な痛みとなって私を苛む。手足を凍傷で失うかもしれないが、それでもかまわない。私はここで果てる覚悟をきめ、目を瞑った。

 

 

 

 

 ――――『はははははははははははははは』

 

 ―――――!?

 

 突然に、独房の外から笑い声が聞こえた!

 それは一人だけでなく、何人、何十人もの人間が一斉に笑い声をたてているのだ!

 

 『アハハハハハハハハハハハハハ!』

 『ハーッハハハハハハハハハハ!』

 

 なんだ、これは。これも責め苦のひとつか!?

 

 

 「おい、何を笑っている!? いったいそこで何をやっているんだ!?」

 

 尋問官も本気であせっている。やはりこれは、彼も知らないことらしい。

 そしてその声も、彼の問いに答えることなく、尚も笑い続けている。

 

 「外を見てこい! 何かの病気かもしれん。気をつけろ!」

 

 彼は近くに待機していた部下に命じた。

 

 「はっ、ただいま向かいます!」

 

 そう言って扉の錠を外し、扉を開いた瞬間―――――

 

 ―――ガッ! ドッ!

 

 一体の子供のような影が物凄いスピードで室内に入り、瞬く間に尋問官、およびその部下を昏倒させた。

 

 

 (……………来るかもしれんとは思っていたが、こうも早いとはな。お前を中隊に迎え入れた時、私の道のヤマになると予感したが………正しくその通りになったということか)

 

 

 衛士強化装備を着たその見慣れた幼女は、私の前に立って敬礼をした。

 

 「お久しぶりです、ベルンハルト大尉。只今お迎えにあがりました」

 

 「よく来たな、同志ターニャ・デグレチャフ上級兵曹。ずいぶん早かったな。襲撃からほぼ時間を置かなかったんじゃないか? 他の中隊の皆も無事なのか?」

 

 「はい、いえヴァルター中尉だけは重傷ですが、他は無事で現在ハイム少将の元へ行っています」

 

 「…………そうか。で、外の笑い声は何なんだ?」

 

 「ああ、”策”ですよ。ここの扉を無理矢理開けたら、その瞬間あなたを殺害することも考えられます。故にこのように笑い声をたて、外へと注意を引き、扉を中から開けさせて侵入をはかったというわけです。

 グリューベル曹長、笑いをやめてよし!」 

 

 

 こうして私は救い出された。ここへ連れてこられた時は死をも覚悟していたが、大した責め苦も負わず、一日寒さに震えただけだった。もっとも、ここへ来る前に負った衝撃による負傷はそのままで、この棟の職員の部屋の一室で寝かされている。

 

 「我々はこれから他の棟と外周の警備を制圧し、カウルスドルフ収容所の完全制圧をはかります。同志大尉はここで休んで、数時間後までに声だけは出せるよう回復していてください」

 

 「逃亡はせず、ここを制圧? 何をするつもりだ、デグレチャフ」

 

 「革命ですよ。外では再びBETAの大規模侵攻が来てしまい、内乱に時間はかけられません。故に、今日中にドイツ社会主義統一党と国家保安省を倒し、我々が東ドイツの実権を握って西ドイツ軍と連携し、これに備えなければなりません。

 ベルンハルト大尉、出番が来たら休むことなどできなくなるでしょうから、今はしっかり休息をとっていてください」

 

 ――――正気か? 今日中にドイツ社会主義統一党と国家保安省を倒すなど!

 

だが、考えてみれば私の救出も困難なはずが、たった一日で成し遂げてしまった。

 

 よかろう。この地下独房で果てるはずだった身だ。

 

 ターニャ・デグレチャフ。

 

 

 お前の為す『革命』に乗ってやろうではないか――――

 

 

 

 

 

 

 

 




燃え上がる幼女革命ロマン!
今夜、東ドイツ革命の火蓋は切られた!

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