幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第57話 対決!ターニャ対ベアトリクス

 全体主義。

 国家において一切の批判、異論を許さず、共産主義、社会主義のように統一された思想のみを強要し、国民全てを不幸にする思想だ。国民を人民という名の家畜にし、その飼い主のはずの支配階級の人間も常に足を引っ張り合って互いを粛清しようとする。

 だが人間とはおもしろいもので、不幸を愛する人間は一定以上存在する。

 愛や信頼関係を壊すことに快感を覚える人間も。

 ベアトリクス・ブレーメ少佐、彼女のような人間が全体主義を支えているのだろう。

 

 彼女の軍人としての才能は惜しいと感じつつも、倒さねばならぬ相手とも理解している。

 故に革命最後のけじめとして、彼女に勝負を挑んだ。

 だが、衛士としての私は彼女には大きく劣る。これまで他の衛士相手に無双できたのは術式弾のお陰だ。これは相手に確実に命中させ、さらに爆破までできる。

 だが、私の戦闘データで彼女にそのタネは割れてしまった。不意打ちですら倒せないのでは勝負は見えている。さらに私の調整不足のバラライカと最新鋭機のアリゲートルでは、機体の性能までも段違いだ。

 

 故に、私が選んだのはもっとも取ってはならない攻撃方法。

 

 距離を詰めての近接戦闘! 

 

 私は機体のスピードを強化し、彼女のアリゲートルにぶつけるつもりで突進させた。

 

 この攻撃法は、やはり予想外だったのだろう。ブレーメ少佐は全力で回避。だが回避しつつも、突撃砲で私のバラライカを攻撃!

 

 まさか不意を突いたあの状況で撃ち、あまつさえ当ててくるとは思わなかった。

 機関部を損傷し、私のバラライカは行動不能。

 やはり彼女は一流の衛士だ。

 

 だが、目的は達した。私の目的は一瞬彼女の動きを止め、脱出装置で機体から離れること。

 

 衛士としての私はブレーメ少佐に遙かに遠く及ばない。

 

 なればこそ、航空魔導師として彼女に挑む!

 

 脱出したシートより空中で離れ、そのまま空中飛行。

 

 ユニット内にあらかじめ置いてあった突撃銃を構え、アリゲートルに突進!

 

 やはり空中より突撃銃で向かってくる私に、ブレーメ少佐は対応できない。

 

 アリゲートルの懐に飛び込み、貫通術式を銃身にかけ、管制ユニットの搭乗者の頭がある部分めがけて撃つ!

 

 パン! パン! パン!

 

 二発三発と撃ち込むと、アリゲートルは動きを止めた。

 

 ――――勝った!

 

 思わずそう確信してしまった時だ。

 

 アリゲートルは再び動き出し、突撃砲の銃口を私に向けた!?

 

 ――――しまった!

 

 戦術機の管制ユニットを銃弾で貫通させ搭乗者の頭のある部分を打ち抜く戦術は、ヘルツフェルデ基地格納庫襲撃の時に跡を残してある。

 あれを元に、とっさに私の狙いを読み取り、躱したか!

 

 私は回避機動もとれず、防殻術式を全力展開するしかなかった。

 

 ―――くそっ、生身で突撃砲を受けねばならないとは! せめて命一つは守れるか!?

 

 

 

 

 

 

 ――――その時だ。ベルリン放送局の拡声器から演説が流れた。

 

 『全てのドイツ市民の皆さん、革命軍のみなさん、そして国家保安省の武装警察軍の皆さん、ただちに戦闘をやめて冷静になって下さい。現在BETAが迫ってきており、内乱を終わりにして一丸となってこれに立ち向かわなければなりません。

 突然驚かせてしまってすみません。ですがどうか私の話を聞いてください。私は第666戦術機中隊の――――』

 

 この声はカティアか!? カティアもベルリンに来たのか!

 

 そして突然の放送が来たことに、アリゲートルの動きが止まった。

 

 私は銃口を潜り抜け、今度こそブレーメ少佐を撃ち抜かんと突撃銃を構えた時………

 

 『ウルスラ・シュトラハヴィッツ。この国の元第一戦車師団アルフレート・シュトラハヴィッツ中将の娘です。父から西ドイツへ送られ、今までカティア・ヴァルトハイムと名乗っていました』

 

 ――――ウルスラ!?

 

 ―――カティアの本当の名がウルスラだって!?

 

 不覚にも、私もその名前の衝撃で動きが止まってしまった。

 

 カティアの演説は拡声器だけでなく、テレビやラジオの放送にも乗せて全東ドイツに流されているようだった。

 

 

 ―――――英雄だった父に西ドイツへ送り出されたこと。

 

 

 ――――父を捜すために東ドイツへ来たこと。

 

 

 ――――第666戦術機中隊に入り数々の作戦に参加したこと。

 

 

 ――――彼らと共に、この国を支配し多くの国民を殺害している国家保安省と戦う決意をしたこと。

 

 

 そして初めて会った時からのカティアの変わらぬ理想。

 

 

 ――――今こそ西ドイツと手を取り、BETAに立ち向かうべきだということ。

 

 

 

 彼女の演説を聞き、私は過去の様々なことを思い出した。

 そういえばノィェンハーゲン要塞でカティアに私の姉貴分の面影を見てしまい、つい《ウルスラ』と呼んでしまった時に、彼女は随分慌てていた。なるほど、今更ながらその理由がわかってしまった。

 

 懸命に演説をするカティアに、私は毒気を抜かれた。

 ブレーメ少佐もそうだったらしく、突撃砲を下ろして戦闘をやめた。

 やがてどちらからともなく互いに地上に降りた。

 そしてブレーメ少佐は管制ユニットから降りてきた。

 

 「まいったわね。何かあるとは思っていたけど、まさかあの子にそんな秘密があったなんて。

 貴女に気を引かれすぎて調べるのを怠ってしまったわ。もっとも、国家保安省はあなたに潰されたのだから、それを知ったとしても結果は同じだったでしょうけど」

 

 自嘲気味に笑い、放送局の方を見上げた。

 

 「何故、私を撃たなかった? 放送に気を取られたのかと思ったが、考えてみれば貴女ほどの衛士がその程度で不覚など取るわけがない」

 

 「アレが言ってたでしょ。『BETAが迫っている』って。

 いま来ているBETA挺団は全ヨーロッパを蹂躙するに足るもの。そして誰が勝とうと、それと戦わなければならない。なら、敗者である私は勝者である貴女に道を譲ることにしたの。

 生きて戦いなさい、ターニャ・デグレチャフ」

 

 礼を言うべきか。いや、彼女の所属組織の国家保安省を潰した私が礼などしても、受けるわけにはいかないだろう。しかしブレーメ少佐はいま、サラッととんでもないことを言ったな。

 頼む! どうか言い間違いであってくれ!

 

 「あの…………いま”全ヨーロッパ”と言いました? ”全東ドイツ”ではなく?」

 

 「ええ。今回の襲来は東ドイツのみならず、全ヨーロッパ最大の試練になるはずよ。東ドイツは間違い無く消え去るでしょうけど、最後の希望として貴女を生かしておくことにしたわ」

 

 クラッと地面が揺れたような気がした。

 BETAどもめ。向こうの生産工場はいったいどうなっているのだ? 今までも10万20万と信じられない数で攻めてきたというのに、損耗の気配すらも見せず全ヨーロッパを蹂躙するに足る攻勢だと!?

 ショックで震えている私に反して、ブレーメ少佐は涼しい顔で放送を聞いている。顔だけ見れば勝者敗者が逆転していることだろう。

 これがベルリン覇権争奪戦勝者の賞品だよ。とほほ…………

 

 かつての東ドイツの英雄の娘であるウルスラ・シュトラハヴィッツの演説は、強く優しく新しい東ドイツの始まりを予感させる希望に溢れたものであった。

 だが、そこにブレーメ少佐の居場所は無い。長く人民を押さえてきた恐怖政治の担い手の一人であったのだから。

 

 「これからどうする、ブレーメ少佐」

 

 「私のことより勝者の貴女の覚悟を聞きたいわ。全ヨーロッパを蹂躙するに足るBETA。これと戦う意志はある?」

 

 「もちろんだ。革命政府は西欧諸国とも連携してこれに当たる。無論、私もだ」

 

 悲しいが、こう言うしかない。この世界、どこで何をしようともBETAはついて回る。

 

 「―――それでも苦しいでしょうね。3日前を越える数に加えて、重光線級や光線級はさらに多く来ているそうよ。私が敵である貴女たちや西方総軍をできる限り倒そうとしなかったのは、そのためによ」

 

 それを知らない私は容赦なく殺しまくってしまった。圧倒的不利のこちら側が勝つには、それくらいしなければならなかったが。

 

「ともかく、BETAのことは了解した。ただちに防衛戦に第666はじめ革命軍も向かうよう進言しよう。だがブレーメ少佐。貴女は………」

 

 「アリゲートル。いい機体よ」

 

 ふいに彼女は自分の機体を見てそんなことを言った。

 

 「え? ああ、確かに素晴らしい性能でした」

 

 戦ったのはほんのわずかだが、それでも分かる。出力も機動も旋回性もバラライカとは比べものにならないほどに圧倒的だった。だが、それがどうしたのか?

 

 「これを貴女に託すわ。これに貴女が乗れば、これからの東ドイツの絶望にも少しは希望が見えるかもしれない」

 

 いや、貴女の愛機であっても貴女の所有物ではないだろう。勝手に私と貴女の間で譲渡など出来るわけがない。それに例え私が乗ることが許されても、第666の皆がバラライカなのに、私だけアリゲートルではひどくバランスの悪い部隊になってしまう。

 

 「私がどうするかの話だったわね。――――これが私の答えよ」

 

 ブレーメ少佐は懐から短銃を出し、自分の頭に当てた。

 

 「ブレーメ少佐!? やめろ!」

 

 「さよなら。『ヴァルハラで待っている』アイリスディーナにそう伝えてちょうだい」

 

 

 パ―――――ン!!

 

 彼女は躊躇うことなく、自分の頭を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 「………………けじめ、か。『東ドイツを守る』という志は同じでも、最後まで我々と………いや、アイリスディーナと共に歩む道は拒んだか。二人の間に何があったのか」

 

 私はブレーメ少佐の遺体を見下ろし、そんな疑問を抱いた。

 

 

 その才は惜しいとは思いつつも、共に戦えるかといえばそれは否。

 

 

 己が野心の為なら味方殺しをためらわない国家保安省。そのやり方に馴染みすぎたその性分は、やはり味方にはしたくはない。

 

 

 だからこれは一つの良き結果。

 

 

 せめて強敵として敬意を持って送ろう。

 

 

 存在X、彼女の魂を迎えてやれ。くれぐれも妙なことに使おうとするなよ。

 

 

 

 そんな感傷を一頻りブレーメ少佐の遺体に送った後、これからのことを考えた。

 とりあえずブレーメ少佐の遺体とアリゲートルは、味方の拠点のカウルスドルフ収容所に持っていくか。どちらもこのまま置いておくには剣呑すぎるブツだ。

 その後、放送局へ行ってアイリスディーナとカティアと合流しよう。カティア一人でここに来たわけもないし、おそらくは反体制派の部隊もいるのだろう。連中とこれからの善後策を話し合うとしよう。

 そんなことを考えていた時だ。何者かが私に近づいてきた。

 

 「こんにちは、小さな衛士さん。なかなかの見物だったよ。よろしければ色々解説していただけるとありがたい。かわりに南方モアイ島の話や、ドードー鳥の生態などを聞かせてさしあげるが」

 

 などと奇妙なことを言うその男は東洋人であった。といっても低所得者層の移民には見えない。身なりの良いスーツなどを来ており、帽子を目深に被っている。一見して一般人に見えるが、こんな状況の私に声をかけるなど、とても只の一般人には思えない。

 

 

 ――――いったい何者だ?

 

 




原作ではベアトリクスとアクスマンが死んだらエンディングですが、『幼シュヴァ』はもう少し続きます。
そして次回、リクエストに応えて帝国より特別ゲスト登場!
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