キルケSide
「では改めて。連邦情報局(BDN)のアリョーシャ・ユングよ。お招きに応じて頂いて感謝するわ、キルケ・シュタインホフ少尉」
と、その女性は自己紹介した。ここは西ドイツ領の東西国境に最も近いキルヒ・ホルスト基地。その講堂の一室に、この女性と二人きりでいる。
私は西ドイツ軍フッケバイン隊所属のキルケ・シュタインホフ少尉。現在部隊を離れ、一足先に帰国している。理由は内乱中の東ドイツへ備えるためである。
この人の誘いに応じたのは、グダンスク基地から帰る時にバルク少佐から『俺の同期のアリョーシャ・ユングってのが今、詰めている。会ったらよろしく言っておいてくれ』と言われたからだ。つまり、『この人と接触しろ』という意味だろう。
「あなたがここへ帰還する間にも東ドイツの事態は大きく動いたわ。フランツ・ハイムを旗頭とした革命部隊。それがドイツ社会主義統一党も国家保安省も倒して、現在東のトップになったわ」
―――――――!?
「まさか、いくら何でも早すぎる! 私がグダンスクを出た時は国家保安省が圧倒的有利だったはずですよ!」
「さらにその国家保安省麾下の西欧諸国を荒らし回った悪名高き共産テロ、ゲイオヴォルグ部隊も一緒に潰されていたわ」
「ええ!? あれってとんでもない戦闘技術を持った特殊部隊って聞きましたよ! あれを倒せる程の力なんて革命軍にあったんですか!?」
「事前の分析では無かったわね。革命軍は第666中隊以外は二線級の寄せ集めと思われていた。であるのに短期間に東ドイツの最大勢力だった国家保安省を完全に粉砕したわ。
『我が西ドイツは国家保安省支配による東ドイツは歓迎していない。でも、BETAに対抗するため、手を組まざるを得ない』というジレンマから解放されたのは喜ばしいことよ。でも、新たな問題が出たわ」
それは聞かなくても分かる。今現在、私が思っている疑問をそのまま西ドイツ中の政治家、諜報員、軍関係者が抱いているのだろう。
「…………『どうやって、この短期間に国家保安省を倒す程の力を手に入れたか』、ですね?」
「ご名答! 私たちの『東ドイツの反体制勢力を後押しする派』は主流派じゃなかったけど、一気に主役になれたわ。でも、それを成した過程にいろいろ不可解が多いのは、いただけないのよ」
やはりバルク少佐とこの人は、東ドイツの反体制派を後押しする勢力の仲間同士だったか。彼が東ドイツの第666中隊を助けようとしたのも、私が東ドイツ軍である第666戦術機中隊に接触するのをあえて咎めようとしなかったのもそういうことだったのだろう。
「『東ドイツ脅威派』ってのも大きくなっちゃってね。元は国家保安省が支配する東ドイツに警戒を呼びかける一派だったんだけど、今や謎の力を持っている革命政府を警戒し、融和をはかるのは時期尚早という声も大きいのよ」
「そんな! BETAの脅威が迫っているんですよ! 東ドイツと手を組んで防衛線を構築しないと、破られて西ドイツにBETAが来てしまいます!」
「ええ、だから主流派じゃない。でも、彼らの言い分にも一理あって、無視はできない。東ドイツを受け入れた途端、西ドイツも腹を食い破られないとは言い切れないからね」
海王星作戦の時にターニャというちびっ子から聞いた『社会主義陣営腹破り宣言』か…………。あの時は敵陣営に良い内乱のタネが潜んでいると私も上層部も喜んだものだが、こちらの手助けもなしにこうも見事に腹破りを実現したとなると、その実力が不気味に思えてくる。
個人としては彼らを信じたいが、やはり西ドイツの人間としては、その”力”を見極めずに手を組むのは危険すぎる。
「と、言うわけで貴女の役目も当初とは変わったものになったわ。東ドイツへ行って、その力の正体を探ってきてほしいの」
「何故、私に?」
ユングはパサッと新聞を私の前の机に広げた。それは、かつて海王星作戦において、西ドイツの新聞でありながら東ドイツの第666中隊の活躍を大きく扱った記事のものであった。そこには第666の子供衛士の『ターニャ・デグレチャフ』の写真が大きく載せられている。
「これは………そうか、第666がその力に関係していると見ているんですね?」
「特にこの子がね。共産圏の子供でありながら、強い反共思想を持っていること。子どもでありながら衛士としての高い技量を備えていること。それにこの声、その子じゃない?」
ユングはレコーダーを出し、スイッチを押した。すると、
『社会主義思想は糞である! 資本主義に遙かに及ばない失敗思想である!』
などという、共産圏では考えられないような社会主義体制の悪口が延々と流れた。
「………ええ、間違い無くあの子の声です。大胆ですね。こんなことを言ってあの子、無事なんですか?」
「やっぱりね。これは国家保安省が出した反社会主義の声明よ。でもやっぱり、あの子に繋がる背後の謀略だったみたいね」
「謀略といっても………これを国家保安省の声明だなんて言っても、誰も信じないでしょう? 女の子の声だし」
「信じたわ。何しろこれは国家保安省の本部の空を飛行していたバラライカから出されたものだもの」
「―――!?」
「お陰でベルリンを警戒していた武装警察軍は大混乱。さらに直後に本部は誘導弾で破壊されて、どう動けばいいかわからずにあっという間に革命軍に制圧されたわ」
「…………成る程。貴女はこの子を育てた人物、若しくは組織がその背後の力と睨んでいるんですね? まさかアメリカ!?」
アメリカは西側自由主義陣営の盟主ではある。しかし、その強引で他国を踏みにじるにも等しいやり方は、同じ西側陣営であっても同調できない場合が多々ある。もし、この東ドイツの革命にあの国の影があるなら、現在の革命政府に近づくのは危険だ。西ドイツまでも彼の国に取り込まれてしまうかもしれない。
「やっぱりそこが一番の候補ね。この革命は東ドイツ壊滅を機に、彼の国が東欧の共産勢力を潰すために仕組んだ謀略かもしれないわ。もっとも、動きが派手すぎてそうともいいきれないけど。
ともかく、あまり時間はないけど、この子か第666中隊隊長のアイリスディーナ・ベルンハルト大尉に当たってみてちょうだい」
「当たっても何か聞き出せるかはわかりませんよ。でも、時間がないというのは?」
「再びBETAの大侵攻が始まったのよ。重光線級も含めた大量の光線種も付いてきてね。ともかく最優先にしなければならないことは、現在侵攻中のBETAを防ぐ防衛線を東ドイツと強力して構築すること。その取り決めをする使者に付いて行ってちょうだい。そこでこの任務に当たって欲しいの」
この人から命令されるいわれは無いし、この要請も非公式のものだ。とはいえこの話を聞いて、私もあの子のことはかなり気になった。故にこう答えた。
「わかりました。微力を尽くしましょう」
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アイリスディーナSide
起床時間より一時間ほど早く、鳴り響いた内線によって起こされた。それはハイム主席からであった。
『すぐ作戦室に来てくれ。前線で非常事態が発生した』
内容は電話では話せないとのことなので、私とイェッケルン中尉はすぐに作戦室に向かった。
作戦室のモニターを見た瞬間、非常事態の内容が分かってしまった。BETAを示す赤い光点が、ゼーロウ要塞の奥深くまで食い込んでいたのだ!
「ま、まさか!? ゼーロウ要塞が破られたのですか!? いくら何でも早すぎる!」
「その通りだ。現在詳細を確認中だが、確実なのは、もう間もなくBETAはこのベルリンへやってくるということだ。急いで市民をベルリンから西側へ脱出させねばならないが、時間が足りない。ベルンハルト少佐、次の任務はそのための時間稼ぎとなる」
あまりの事態の衝撃に、私の頭の中は真っ白になってしまった。
首都ベルリンを守る最大の壁がBETAに抜かれた――――
「現在要塞は最大限に時間稼ぎをしてくれているという。だが、半日が限界だそうだ。イェッケルン中尉、急いで西ドイツに行き、この事態を伝えてくれ。ベルンハルト少佐、急いで隊員を起床させ、中隊をベルリン郊外の防衛にあたらせてくれ。私も今、最大限に戦力をまとめる」
そう言うと、ハイム主席はまた慌ただしく各方面に指示を出しに戻った。
ついに、この時がきてしまったのか。これだけ早く革命が実現できたのに、それでも遅かったというのか? いや、昨日連絡を取った時には『三日はもたせられる』という言葉があったはずだ。要塞の方も、我々が中央の争いを収めて各国からの援軍を集めて送る旨を連絡してあるので、無理なことはしないはずだ。
いったいBETA共は何をしたというのだ?
そして要塞が抜かれた以上、BETAは何もない平原を真っ直ぐ広範囲に広がりながらベルリンへ向かってくる。それを市民の避難が完了するまで押さえ続けるだと?
それは、次の任務は中隊全ての”死”を意味していた――――
アリョーシャ・ユングはゲームには出てこないけど、原作キャラです。小説の方に出てきます。
テオドールで遊びすぎて遅れましたけど、やっとBETAヨーロッパ大戦の始まりです。