光線種――――
人類の航空兵器に対抗するためにBETAが生み出したといわれる、強力なレーザーを放つBETAであり、これのいる戦場ではいかなる航空機も飛ばせない。
私のエレニウム95式で作る強力な防殻であろうと、レーザー種の放つあまりに強力なレーザーは易々とこれを破壊してしまう。
それに対し、私はレーザー回避の術式を編み出した。機体が予備照射を受けたなら、私の操縦無しに自動で回避機動をとるというものだ。だが重光線級の重撃レーザーは照射範囲があまりに広いため、これでは間に合わない。
しかしそれはバラライカでの話だ。
いま私の乗っている高機動のアリゲートルならば、光学術式と組み合わせれば回避可能だ。
すなわち通常二割程度の速度で推進し、予備照射を受けた瞬間、自動で全速力で回避するのだ。
さらにレーザー以外の避けなければいけない物がないこの大空ならば、大きく回避領域をとることができる。
そして『光線種は空中の目標を優先して攻撃する』という性質がある。その性質に違わず、全ての光線種は私に狙いをつけているようだ。
故に、現在下で光線級吶喊をしている部隊の難易度は大きく下がっているはずだ。
「くそっ、立て直しが遅い! 飛ばされた瞬間でも、飛行を安定させないとダメだ!」
数度のレーザーを躱した後に、機体を立て直しながらつぶやいた。
レーザーを避けられることは避けられるのだが、その直後は大きく機体が揺らぐ。その立て直しに手間取ると、もう次の照射がきてしまう。
どうやらこの新術式を使いこなすには余程の安定した滑空飛行技術が必要であり、弾き飛ばされた瞬間にたて直す技量を要するようだ。
(思い出せ、二〇三航空魔導大隊時代を。乱戦の時など無数の銃弾をくぐりながら、鳥のように滑空していたはずだ。戦術機とはいえ、こんな無様な飛行など、私の飛び方ではない!)
想定通りレーザーの回避には成功したが、レーザー回避時にふいに弾き飛ばされる機体を四苦八苦しながら立て直さねばならない。
レーザーなど目には見えないので、本当に前触れもなく弾かれてしまう。
(イメージは鳥ではなく水。突然発生する揺れにも、力に逆らわず受け流せ!)
航空魔導師になった初期、ふいの突風に煽られた時の対処法を思い出しながら上昇していく。
推進! 推進! 推進!
回避! 回避! 回避!
何千ものレーザーにさらされながら、それでもそれら全てを躱して上昇していく。
ひとつ分かったことは、レーザーを躱し続けるのは思ったより難しくないということだ。
確かに目にも映らない何千もの光速のレーザーは、全て正確に私の機体を撃ってくる。
だが、その正確さが仇だ。
撃たれる寸前にその場を素早く退避すれば回避は可能だ。
要するにBETA共は、これだけ多数の光線種がいるにも関わらず、全てが私の機体を点として撃つという非効率な真似をしているのだ。
もし私が撃つなら面制圧。
即ちこの空域全てに満遍なくレーザーを満たして照射しているだろう。
それをされたら私でもお手上げだったが、全ての光線種は愚直に私一機を狙い、レーザーを放ち続けている。
回避に余裕が出て水平飛行に入った頃、ノイエンハーゲン要塞にいる重光線級からの照射と思われるレーザーが止んだ。
やったか、アイリスディーナ。さすが仕事が早い。
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アイリスディーナSide
「本当に………あいつはレーザーを回避しているのか………。あの空の向こうで」
この戦場の最大の脅威である光線種は、先程から幾度も天空に向けて絶え間なくレーザーを照射している。
いつも厚く空を覆っている灰色の雲はすっかり霧散し、生涯に初めて見る青空が大きく広がっている。
あまりに眩しく空を見上げる事は出来ないが、全ての光線種が上空にレーザーを放ち続け、結果として光線種は現在無力化している。
「どうやらアイツの目論見は成功したようだな。中隊全機、今の内に重光線級を狩るぞ!」
他の光線級吶喊の部隊にもこの好機を逃さず任務を達成するよう通達した後、私は号令をかけて中隊を出発させた。
中隊はたちまち目標のノイェンハーゲン要塞に陣取っている重光線級の足元に急接近すると待機。
ファム、テオドール、アネットら近接戦闘の得意な者らで吶喊小隊を組み、残りをヴァルターに任せた。
「吶喊小隊…………突撃ィ!!!」
私の号令と共に四機は一斉に噴出跳躍。首を上げて上空にレーザー照射している重光線級の喉元を次々に刃を突き立て、瞬く間に全目標を殲滅した。
すると、デグレチャフから通信が来た。
『こちらシュヴァルツ09。シュヴァルツ01、予定目標の重光線級のレーザーが止みました。殲滅に成功したのですか?』
「ああ、最も難しいと思われていたノィェハーゲン要塞上の重光線級を損耗なしの短時間で排除できた。お前の陽動のお陰だ。まだこの陽動は可能か?」
『噴出剤の状況から、あと50分ほどは可能です』
「ではもう一つ重光線級群を狩る。目標はここから南東の重光線級の一団だ。そこらを中心に陽動をかけてくれ」
『了解。目が回りそうですが、またまた派手に踊って見せましょう』
「お前の華麗な踊りが見られないのが残念だ。では、またな」
次の重光線級一団の殲滅にも成功した。
他の部隊の光線級吶喊も次々成功したらしく、上空へ放たれるレーザーはかなり激減している。
私は再びデグレチャフへ通信を送った。
「シュヴァルツ09、こちらシュヴァルツ01。たった今目標Bを無力化成功。補給のために帰還するが、そちらも10分後に帰還せよ。他の部隊にも通達しておく」
『シュヴァルツ09了解。ではその10分で、残りの重光線級群だけはこちらでかたづけておきましょう』
「な、なに?」
遙か向こうの、相変わらず連続照射する重光線級の太い光を見てみると、不意にその真上の空から光の粒が降ってきたような気がした、その瞬間だ。
――――!?
派手な爆発音をたて、そこら一帯が爆発した!!
『何だ!? なにが重光線級を攻撃したんだ?』
『CP! 今の攻撃はどこのものかわかるか?』
などの通信が飛び交い、各地点の部隊は喜ぶより混乱している。
「…………シュヴァルツ09、これもお前が?」
『ええ。大分レーザーが少なくなったので、攻撃も可能になりました。他の重光線級群や、ついでに奥まった場所にいる光線級もこちらで片づけておきます。今日中に全ての光線種を消しておきましょう』
あまりの奇跡的な出来事に、何も言えずに通信は切れた。
すると今度はテオドールから秘匿回線による通信が来た。
『01。アイツ、随分派手な戦果を上げているな。 いいのか、事前に何の報告もしてなかったんだろう?』
「まぁ、あいつの能力を説明する所から始めなきゃならんし、時間も無かったのでハイム主席には何も言わなかった。人民軍が壊滅した現在、私の上はハイム主席しかいないことでやれた私の独断だな。処分は免れんかもしれんが、それも生きていればこそだ」
やがてさらに次の吉報が報告された。第四地点の重光線級群が同じ様に爆破されたというのだ。さらに第五地点も!
次々に重光線級群が爆破されるという吉報は続き、遂に戦場に重光線級は全て駆逐されたと報告が上がった。
作戦行動中にも関わらず、歓声が上がる中に新たに驚く声が上がった。
『お、おい!赤い戦術機が飛んでいるぞ!』
『レーザーをよけているぞ! あんな戦術機が開発されたのか!?』
レーザー種の激減により、デグレチャフは低空飛行に入ったようだ。
そして、派手な空中からの爆撃をくり返し、レーザー種を次々に駆逐していっている姿が戦術機のモニターで確認できてしまった。
………………どうするのだ、これは? 他の部隊に何と説明を?
しかしこの分ならやがて全てのレーザー種を殲滅し、他のBETAも航空爆撃機の出動で駆逐することが可能だろう。
「やれやれ。私らの光線級吶喊を完全に奪うつもりか、アイツは。ハイム主席にアイツをどう説明したものか。ともかくこの戦い、生き残れる可能性が………いや、戦線を押し返して勝利することも見えてきた」
戦場の空を華麗に舞う美しい紅の流星は、眩しく輝いて見えた。