幼女 シュヴァルツェスマーケン来たりて   作:空也真朋

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第7話 ターニャ評価

 『私は事故機の突っ込んで来る様に驚き、操作を誤り、事故機にぶつかった』

 

 そういうことになった。それでいい。”二人を救ったのでヒーローになって称えてくれる”、などということはありえない。ここは社会主義国。あらゆる曲解がなされ、たちまちスパイに祭り上げられてしまうだろう。

 

 

 

 

 「体はもう良い様だな。見かけによらず、丈夫なことだ」

 

 と、私をいたわってくれるのは第666戦術機中隊の我らが指揮官アイリスディーナ・ベルンハルト大尉殿だ。魔導防殻を展開したので、私も機体も軽傷だ。

 

 「はっ、操作を誤り事故機にぶつかるなど、自分の未熟さに頭が下がる思いです」

 

 「………デグレチャフ上級兵曹、貴様はクリスチャンなのか?」

 

 「なんとまさか! 幼き頃より社会主義の理念に邁進してきたこの私が!」

 

 ………少なくとも神は敵だ。この一点だけはクソッタレな社会主義に同調できる。

 

 「今でも十分幼いがな。だがそうか? 事故の最中、ずいぶん面白いひとりごとを言っていたようだが? それに、あれだけハデにぶつかっておきながらも、その軽傷。それは何かの奇跡なのかもしれないなぁ?」

 

 「え、ええ! これぞまさしく社会主義の勝利! 崇高なる社会主義理念の優位が今、証明されたのです!」

 

 全然関係ないことでも社会主義の優位に結びつける! これぞ完璧なアホの社会主義者!

 

 「………なるほど。とりあえず安心しろ。お前の面白い独り言は政治将校殿に届くことはない」

 

 アイリスディーナは面白そうに私を見て言った。

 

 「だが覚えておけ。私は手綱の握れない駒を飼うつもりはない。肝に命じろ」

 

 「はっ、以後、精進いたします」

 

 「一応、部隊についていけるだけの技量は有ると見なし、以後、そのように扱う。このクリューガー中尉につき、指示を仰げ。ヴァルター、頼んだぞ」

 

 アイリスディーナは横に控えているクリューガー中尉に言った。何のためにいるのかと思ったが、そういうことか。

 

 「はっ、了解いたしました」

 

と、クリューガー中尉は、はじめてしゃべった。

 

 「クリューガー中尉殿、よろしくお願いいたします」

 

 クリューガー中尉は中隊にいる二人いる男性のウチのひとりで壮年の衛士。アイリスディーナの副官のような位置におり、彼女が一番信用している部下のような気がする。衛士としての能力はかなり高く、地味に安定した戦術機運用が得意なようだ。前世の私なら部下に欲しいくらいだ。

 

 「来い、小娘。シミュレーターで絞ってやる。それでお前の使い方を決める」

 

 「了解いたしました、クリューガー中尉。ですが、できればデグレチャフ上級兵曹とお呼び下さい」

 

 「長い。いちいち呼べるか。それと任務中でなければヴァルターでいい」

 

 「…………はい、ヴァルター中尉」

 

 それが流儀なら従うまでだ。いつまで続くか、わからんがな。

 

 

 

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 アイリスディーナSide

 

 

 

 ターニャの訓練が終わった後、ヴァルターを呼び結果報告をさせた。

 

 「それで? デグレチャフの衛士としての評価はどうなのだ、ヴァルター」

 

 私の問いに、ヴァルターはいつも通り姿勢一つ崩さず答えた。

 

 「まず、特筆すべきはBETAをまるで恐れない、ということです。BETA視認時における精神障害テスト。即ち、暗闇でBETAの衝撃映像を見せるというものですが、何とまるでこれに動じないのです。人が食い殺される様も、部隊が壊滅される様も、街が潰される様などを見せても、身じろぎ一つせず見ていました。そして後にした会話も、澱みなく正常でした」

 

 「……………ほう、度胸はありそうだと思ったが、それ程までとはな」

 

 彼女と初めて会った時、空を飛びながら突撃銃でBETAと戦っていた。BETAと戦うには火力不足のそれでBETAを撃ち抜き、互角ともいえるほどにわたり合っていたのでさもありなん。その時の映像は消してある。

 

 「体力は………年相応の女子としては驚嘆すべきものですが、やはり衛士としては及びません。あれでテストに受かるはずはないのですが」

 

 「実戦にしか使えない隠し玉があるんだろう。そのことはいい。で、戦術機は?」

 

 「まず、彼女を戦術機のシートに乗せるには、補助器で席を高くし、高ブーツを履かせなければなりません。でなければ操縦桿に手が届かないし、ペダルも踏めません。そして彼女の強化装備。あれは彼女が着れるよう、無理やり小さくしたものです。なので機能は十全とはいえません。

 以上、このようなハンデがあるにも関わらず私の機動に付いていけるのは大したものです。が、やはり近接戦闘は不可能です。

 次に射撃に関してですが、これは驚嘆すべきものです。シミュレーターでも確実にBETAの急所を撃ち抜き、少ない弾数で制圧しました。長距離射撃も優秀で、確実に的に当てます。彼女のBETAを恐れぬ精神力を合わせて考えますと、砲撃支援として確実に我が隊に貢献するでしょう。

 ただ、やはり年齢による体力面で不安があります。彼女が然るべき年齢に達するまで待つ、という手もありますが………」

 

 その年齢に達した時、彼女が我が隊に来る可能性は低い。然るべき教育機関で思想教育されてしまえば、私の敵になる可能性もある。それくらいならば我が隊の政治将校イエッケルン中尉殿の、ヌルい思想教育を受けさせた方がマシだ。

 彼女の裏の能力の、BETAとほぼ生身で戦える能力は貴重だ。それに、圧倒的質量の航空機を戦術機で蹴り飛ばすような魔法も魅力だ。是非、手元に置いておきたい。

 

 「我が隊も損耗が続き、余裕がない。使えるならば使う。次の出撃にはデグレチャフも連れて行く。ヴァルター、そのつもりでデグレチャフを鍛えろ!」

 

 「はっ、了解しました」

 

 

 

 

 

 ――――ターニャ・デグレチャフ。

 

 彼女は、私の道の大いなるヤマになる予感がある。

 

 それが悲願成就の鍵となるか

 

 それとも破滅の死神となるか

 

 

 今はまだ見ることはできない――――

 

 

 

 

 




 ターニャを戦術機に乗せるのは大変!
 年齢も身長も全然、衛士に届かないんだから。
 幼女じゃなく少女だったら問題は無いけど、イヤですよね? ファンの人。

 まあ、色々こじつけて、やっと衛士にしました。

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