『あんた、以外と役に立つわね。こんな小娘の才能を見抜くなんて、さすがは”シュヴァルツェスマーケン”の隊長ってとこかしら。あっちのうるさいのに感化されてバカな死に方だけはしないでね』
BETA退治任務の二度目の帰投途中、こう褒めてくださったのはシルヴィア・クシャシンスカ少尉だ。ちなみに”うるさいの”とは、カティアだ。彼女の素晴らしき理想の東西ドイツ友愛構想はお気に召さなかったようだ。
シルヴィア少尉。このお方はテオドール少尉の短所をさらに酷くしたようなお方だ。すなわち、『陰気で人間不信』という部分をさらに割増し倍増。人間やめる一歩手前、『猛人注意』、とでも言うべき素晴らしきお方だ。
そして私はもったいなくも二機一対の分隊(エレメント)の相手方にしていただいた。ベルンハルト大尉。私、あなたに何かしましたか?
彼女の戦い方は強気でガンガン前にでてしまうし、私はまだ戦術機の操縦が覚束ないのでてんやわんや。とにかく彼女の進路を先読みし、道中のBETAの動きを止めることに徹した。私がBETAに手傷を負わせ、少尉がとどめを刺す、という連携を殊の外お気に召してくれたようだ。
『いや、失敗した。突っ込みすぎるクシャシンスカ少尉を抑えるために新任のデグレチャフをつけたが、逆になってしまった』
新任を元気すぎる飼い犬の首輪にするのはよして欲しい。全くどんな無茶振りでもなんとかしてしまう我が有能さが恨めしい。
「うわぁ、ターニャちゃん凄い! 私はどうです? テオドールさん!」とカティア。
「”エーベルバッハ”だ。まだ30点」
気のせいかテオドール少尉の性格が和らいでいる気がする。テオドール少尉の機体が整備不良で後方に退がった時、護衛としてカティアも一緒に退がったが何かあったのか。
…………ふむ、我ながら実にワザとらしい。何もなかったらその方がビックリだ。
危ぶまれていた私達新任ふたりも、無事に二度の出撃に耐えたので部隊の空気も軽い。
私以外は、だがな。
―――――だが、そんな中ヤツらは来た。
国家保安省(シュタージ)の武装警察軍戦術機大隊「ヴェアヴォルフ」指揮官ベアトリクス・ブレーメ少佐と、同職員のハインツ・アクスマン中佐だ。
ヤツらは我々が戦術機を降りたというのに、最新鋭の戦術機『チボラシュカ』で周りを取り囲んできた。そして二人、我々の前に立った。
ブレーメ少佐は黒髪の妖艶な美女。アクスマン中佐は褐色の髪の年若い、俳優の様な男だが、どちらも相当なクセ者に見える。まったくなにをしてきたらこんな獲物を狙うキツネみたいな目になるのか。
「アクスマン中佐、ブレーメ少佐。我々を戦術機で取り囲むなど、この不当な扱いの理由をお教えください!」
アイリスディーナは怒気も露わに聞いた。
「もちろん、重要調査対象のカティア・ヴァルトハイム少慰とターニャ・デグレチャフ上級兵曹への尋問よ。二人を少し貸してくれるかしら?」と、ブレーメ少佐。
「断る! 根拠もなしに二人を連れて、尋問行為を行うのは越権行為だ」
「ほう、そうかね? 私には尋問するに十分な理由があると思うが」
そう言ったのはアクスマン中佐。さらに続ける。
「救助した西ドイツ衛士がそのまま亡命を希望する、など都合のいい話があると思うかね? もう一人の方はさらにおかしい。何の訓練も受けてこなかった幼女が、たった一ヶ月の訓練で特務部隊審査のテストに合格するなど! これで裏が何も無かったら正に夢のような話だな!」
「二人の入隊に関しては我が隊政治将校のイエッケルン同志中尉が一部始終を見ている。これは同志の職責を犯す行為だ。そうだな、同志中尉?」
アイリスディーナの言葉にイエッケルン中尉は応えた。
「ええ、その通りよ。カティア・ヴァルトハイム少尉に関しては、思想、言動共に問題はありますが、私の調査、面接により、スパイの可能性は限りなく低いと判断しました。
デグレチャフ上級兵曹に関しては、私は彼女のテストには全て立ち会い、多くの質疑質問も重ねてきましたし、彼女のもといた孤児院で追跡調査までしました。彼女の戦死したご両親も政治的に問題を起こしたことは一度もありません!」
いやはや、アイリスディーナ、イエッケルン中尉共に、この国の恐怖の象徴である国家保安省の武装警察軍相手に一歩も退かずに応酬するとは! さすが我が国最強第666の中核ですな。
それにしてもお二人、実はこんなに仲睦まじかったのですね。いや小官、思わず妬けてしまいましたよ。いっそ、ご結婚されてはいかがです? ご慶賀申し上げますよ。お二人の性別を忘れ、ついそう思ってしまいましたよ、はっはっはっ。
「少佐、ここまでのようだ。本日はこれくらいでいいだろう。帰還するとしようか」
しばらくの応酬の後、アクスマン中佐は言った。
「ええ。でも最後に………」
そう言うとブレーメ少佐は私の方へ歩いてきた。
「ねえ、デグレチャフ上級兵曹。あなた、何者なの?」
私のことなど、とっくに調査済みだろう。バカバカしいが、上官に問われれば答えないわけにはいかないのが軍人稼業。まぁ、元気な新兵思い出し、少佐殿にご挨拶といこう。
「はっ、小官は第666戦術機中隊所属、ターニャ・デグレチャフ上級兵曹であります! 義勇兵の任務の最中、ベルンハルト同志大尉に助けていただき、その縁で中隊に配属となりました。そのご恩に報いるべく粉骨砕身、任務と訓練に従事する者であります!」
敬礼も完璧! どうだ、文句のつけようも無い完璧な新兵だろう!
「フ~~ン………あなた、本当に新兵?」
なっ、どこがおかしい!? 前世知識で完璧な軍人答礼のハズだぞ!
「訓練期間、入隊期間が短いにしては軍事作法が如才なさすぎるわね。それに何より……」
チャキッ!
いきなりブレーメ少佐は私の額に銃を突きつけた!
アイリスディーナ、イエッケルン中尉共に猛抗議しているが、少佐は微動だにする事無く、私に銃口を突きつけたまま。
…………本当にやる気か? いや、いかに国家保安省とはいえ、それはリスクが高すぎる。が、一応、防殻術式の展開準備をしておくか。
「………………やっぱりね。あなた、私達がここに来てから、一度もおびえた目をしなかった。いえ、笑ってすらいた。この国の人間で、ここまで私達武装警察軍を怖がらない人間は初めてだわ。それとも、この国の人間じゃあないのかしら?」
そういうことか。我が完璧さが仇になるとは! しかし押し通すしかない。
私は少佐の目をしっかり見て、淀みなく言った。
「小官は祖国に忠誠を誓った一衛士です。誤解を生んだことは謝罪しますが、本当にそれ以上、それ以下の人間ではありません」
少佐は黙り込み、私の目をじっと見据えた。銃口はそのままで。
私も彼女を見つめ返した。”撃ち気”の兆候を一切見逃さないように。
――――しばらくすると、彼女はニヤリ、と笑った。
良い笑顔です、人狼少佐殿。何か良い獲物でも見つけましたか?
彼女は拳銃をしまい、背を翻した。最後に私に微笑みかけ、
「また逢いましょう、上級兵曹ちゃん。今度は二人っきり、ゆっくりと話したいわね」
そんな言葉を残し、国家保安省の手先連中は悠々退いていった―――
―――この日はただ、目に止めただけだった。
だが後に知る。
この日、見据えた幼女こそ
BETAすら超える最大の強敵だと――――