pixivで現在の総武かちょっぴり甘い八オリで募集した所、八オリが多かったので、書きました。もう続きも、総武側も書く気はありません。
それではご覧ください。
家族に勘当され、事故に遭って入院、名家の人に助けられ、執事として雇ってもらった。この間、わずか半年。ガイルさんのスパルタのおかげで今では車の運転以外ならほとんどの事はこなせるようになった。俺ってやればできる子だったんだー。前の家ではやればできる子だと思っていたのにねぇと諦められてたが、それ見たことか。今では名家の執事ですよ?見習いだけど。
癖となっている心の中の1人寸劇をしながら、与えられた自室で書類に目を通している。執事にも書類仕事があることに驚いている。何とか仕事をしているおかげで給料もあり、本も大量に購入できた。ぶっちゃけ比企谷家の俺の部屋の本を返してほしい………。
そして俺の後ろで唸り声をあげながら、ゴロゴロと暇を弄んでいる人物は、この家の娘妹、卯月。まだ中学三年生のお子様だ。
分け合ってこの家には今俺ら二人だけ。五月宮名家の掟には、家は1人もいない状況を作らないというものがある。だから基本卯月か葉月が留守番をしているのだ。娘だけじゃ心配という良孝さんの意見でガイルさんが残っていたが、今では俺がいるため、ガイルさんは良孝さんと月子さんに付き添う事が出来るというわけだ。
「暇」
「勉強されてはいかがですか?あなた受験生でしょう?」
「A判定取れてるからいい。後お父さんとかいないから、敬語やめて」
彼女のだらけっぷりに呆れる日々。この俺が目の前で仕事を、そう、仕事を!しているというのに。何でこんな人が優秀なのだろうか。世の中理不尽で溢れかえっている。
「八幡遊ぼうよ~。せっかく二人っきりなんだからさ」
「何故そこを強調した?」
こんな執事と一緒にいて嬉しいお嬢様なんて絶対いないだろ。
「王様ゲームやろう!」
「……は?2人で?」
「2人以上いれば成り立つでしょ?やろう!」
◆
卯月の突発的な提案により、王様ゲームをやる羽目になった。適当にくじを作り、俺と卯月は対峙する。
「王様だーれだ?」
結果、まずは俺が王様になった。
「あまりHなのはダメだよ!」
わざとらしく頬を赤らめて、くねくねする卯月を無視し、俺は口を開いた。
「じゃあ、ここに用意しておいた茹で人参を食べてください」
「げっ!?」
取り出したのは卯月が毎回食事の時に葉月に食べてもらっている、嫌いな食べ物人参だ。
「ほれ」
「うぅ……」
フォークで刺した人参とにらめっこを始めた。数秒、数分と人参との格闘は続く。
「はぁ……ほれ、口開けろ」
「え……」
シビレを切らした俺は人参の刺さったフォークを奪い、卯月の口の中に無理矢理滑り込ませた。
「っ!?」
「感想は?」
「ま、まだ食べれそうにない……(というか、八幡にあーんされた……。味なんて分からない)」
俺から見てもまだ人参は食べれそうにない様子だ。顔赤いし。今度は人参料理を工夫して食べやすくしてやるか。
「また俺か」
「何でぇ……」
「そうだな……。これといって特にないんだよな」
卯月に人参食わす目的はもう達成したから、願う事は実は何もないのだ。
「ほらほら。もっと素直になりなよ。私にしてほしい事とか」
「勉強」
「それ以外で!」
「なら特にない」
「それはそれで複雑……」
卯月にため息をつかれた。無欲だと言われたが、今は十分恵まれた環境にいるのだから、これ以上何か求めたら罰が当たる。贅沢するのは、この家に恩返しをして独り立ちする時だ。そう決めている。
「で、お願いは?」
「ではこの野菜ジュースを」
「何でそんなのばっかなの!?」
◆
「やっと私だ!」
当たりくじを引くや否やはしゃぐ卯月。こういう子供っぽい光景には思わず笑みがこぼれる。
「八幡、膝枕して」
「ひ、膝枕?」
「ほら、ここに座って」
仰せのままに、マイプリンセスと言わんばかりの俺は即従い、正座になった。卯月は隣に寝転がり、顔を俺と同じ方向に向けて膝に置いてきた。
「こんなことされたかったのか?」
「うん。あー、結構いいかも」
俺はあまり気が進まなかったが、本人が喜んでいるようで安心した。これで微妙な表情されたら、十八番のネガティブシンキングがノンストップしてたぜ。
卯月の笑顔に思わず手が頭を撫でてしまっていた。
「あ……」
「あ、わり」
「も、もっと続けて!ちょうだいちょうだい、そういうのちょうだいもっと!」
「お、おおう」
勢いに乗った卯月の声に戸惑った俺は、少々乱暴気味に頭を撫で続けた。お前はあれか。ツイッターでやばい程自分好みのイラストを見つけたときの野球選手か。
卯月はえへへ~と令嬢らしからぬ気の抜けた声を出している。おい、涎拭け。
「卯月、そろそろ起きた方がいいんじゃないか?」
「もうちょっと…」
「葉月が見てるぞ」
「…えぇ!?」
卯月は勢いよく起き上がり、部屋のドアへ目を向けた。そこにはドアの隙間から卯月が膝枕をされている光景を途中から覗いていた葉月がいる。実は頭を撫で始めたときから、視線は感じていたのだ。ただ、葉月から静かにと制止させられたから、そのままにしておいた。
「あ、あのねお姉ちゃん!これは違うの。そう、ほら、八幡最近忙しくて疲れてそうだったからさ、私が癒しのつもりで膝枕してもらってたの。決して私から頼んだんじゃなくてね」
卯月は両手を派手に動かして、姉である葉月に一生懸命弁明をしている。そこまで必死にされると俺の心情も複雑なんだが、俺からも頼んでないからな?ていうかお前が頼んだんだろ。
「へー、成程ー、そうですかー。では八幡さん。是非私も使ってください」
「それはだめぇ!?」
「あれ?私も八幡さんに癒しを与えようとしているのよ?」
「お姉ちゃんはダメ!絶対に!私一人で十分だもん」
おーい、やめて、私のために争わないでー。葉月、からかうのはそこまでにしようぜ。見てる分には卯月がめちゃくちゃ面白いけど。
「卯月、どれだけ八幡さんの事好き」
「ここでは言わないで!」
その後も姉妹の会話はしばらく続いた。俺は会話には耳を傾けず、横目にスマホを適当にいじっていた。
◆
しばらくすると卯月がこちらに近づいてきた。
「もう用は済んだのか?」
「うん。それで、この後外食に行くから、八幡も身支度済ませといてね」
「分かりました」
俺には二次元のような鈍感属性なんてものはついていない。だから、卯月の気持ちには気付いていないわけではないのだ。確証が持てない不確かなものではあるが、嘘である証拠もない。もし、卯月が本気ならば、俺もその時は本気で返すつもりでいる。
それまでは、令嬢と執事の関係を保って、楽しんでいようか。後悔しないためにも…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これにて名家シリーズ完結です。ありがとうございました。