これはよくあるような在り来たりの話だ。
私は虐められていた。
きっかけは分からない、もしかしたらきっかけなんてものは無いのかもしれない。
直接的な行為は何もされなかったため誰が私を虐めているのかさえわからなかった。
ただただ学校に行くと上履きが無かったり、連絡網が私だけ回ってこなかったり、教科書やノートに落書きをされる。
だが友達や先生には相談することはできなかった。
彼らが私を虐めていないという確証はなかったからだ。
直接的な行為がないため相談する友達がいじめっ子であるかもしれないし、先生が一緒になって虐めをするなんてことをニュースで見たことがある。
だからと言って家族に相談するようなこともなかった。
家族に迷惑や心配をかけたくない。
実を言うと私はそれほど困っていなかったのだ。
上履きなんてそこらへんを探せば見つかるし連絡網なんてめったに使われることがない、落書きなんてただ気にしなければいい。
それに私が誰かに話しかけたとしても普通に受け答えをして、それなりに面白い会話をしてくれる。
・・・まあだからこそ私は人を信じることができなくなっていったのだろう。
人はなんて残酷なのだと
虐められてるんだと気づいてから約半年後の放課後、教室で漫画を読んでいると一人の男の子が話しかけてきた。
その漫画、俺も読んでるんだ、面白いよなって・・・
彼だった。
部活が終わって教室に寄ったのだろう、少し汗臭かった。
彼はクラスで目立つ方のグループにいる。
そして目立つようなグループが私を虐めているのだと目星をつけていた。
流石に半年間も虐められていればある程度誰が虐めているかなんて察することができる。
周りの人間も私が虐められているということは気づいているだろう。
分かっているのに何もしない彼らのことを薄情だとは思わない。
むしろとても人間的だと感じたほどだ。
今思えば、困っている人がいるのに助けないようなことを人間的だなんて考えるほどに人間というものに見切りをつけていたということだろう。
彼は漫画の話を少ししたあとに、気まずいのか少し頭をかいて迷うような素振りを見せた。
そして彼は謝る。
その時私は、ああやはり私を虐めていたのは彼らのグループか、と思うのと同時になぜ今になって謝ってきたのか疑問に思った。
気付けなくってごめん、その言葉を聞いたとき私に電撃が走る。
私は勘違いをしていた。
彼が私を虐めていたから謝ったのだと思ったが彼は気付けなくってごめん、といった。
気が付かなかっただけで私に謝罪をしているのだ。
虐めなんてものはもうないから・・・明日から普通の生活に私は戻ることができるのか?
もう全員に話をつけてきたから・・・だから彼は汗だくなのだろうか?
もっと早く気づいていれば・・・この言葉は彼自身が自分の株を上げるためについた嘘なのだろうか?
本当にごめん・・・なぜ彼は謝るのだろうか?
彼は全く悪くないだろう、しかし彼は謝り続ける。
彼がもし敏感に物事を察知していたら防ぐことのできた不幸が他人を苦しめることが彼は許せなかったのだろう。
そして私はその時救われた。
虐めがなくなったからではない、虐めがなくなろうといじめられていたという過去は変えることなどできない。
誠心誠意謝られたからではない、謝られたところで傷が癒えるわけがない。
彼のような人間が、相手のことを本気で考え、周りを気にせずに正しいと思ったことをそのまま実行できるそんな人間が存在していたという事が人間不信気味だった私にとって何よりの救いだったのだ。
私は彼に感動のあまり抱きついた。
汗の匂いなんて微塵も気にならなかった。
私はごめんの返答としてはいささか変だったが
「ありがとう」、といった。
今から2年半前の秋のできごと。
人生で一番惨めだった時期の私が一生のうちで一番の希望を手に入れることのできた、私だけの物語。
誤字脱字してきお願いします。