その日の放課後
二度目のあの世界に旅立つ
彼女は僕に過去のことに踏み込んでごめんなさいと謝ってきた。
そしてさらに一緒に戦ってほしいと頼む。
僕はそれを了承した。
理由はあまりわからなかったが僕自身がしたほうがいいと感じたのだから仕方がない。
昨日も思ったことだがやはりここは僕の街だろう。
ゲームひとつで町ひとつ作り上げるなんてスケールでかいなー。
昨日と同じようにこの世界は光輝いていて、昨日と同じように左右は対称。
昨日と違うところ人が大勢いるということだ。
「チュートリアルで教えられたのは神獣の倒し方だからこのゲームについて簡単に説明するわね、まずは・・・ 」
一緒にこの世界に入った川井さんが説明してくれたことを要約すると
神獣の数は現状128体に対してプレイヤーは235人、そのほとんどは高校生だろうということ。
プレイヤーが20人やられると新たに神獣が一体生まれること
この世界で死んだ人間はここでの記憶を失うこと
この世界で受けたダメージについて痛覚はそのまま。
武器はNPCのような人たちが存在して彼らから貰うことができる。
もちろん作ることなどできない。
行動を止めた状態で「ヒール」というと一日1回だけ受けた傷や怪我などのすべてを癒やすことが出きるなどのこと。
そして最後にこのゲームにおいて神に人間の意志の強さを一番見せつけた人間がなんでもひとつ願いをかなえてくれる・・・なんてありきたりな設定も混みだ。
判断基準は川井さんも知らないらしい。
今日は実際に神獣に挑むために来たようだ
「これだけは言っとくわ。今日は勝てるなんて思わないで、むしろ絶対に勝てないわ。今日はようす見、神獣がどれだけ強いか、自分の力がどれくらいなのかを知ってもらうことが目的よ。死んでしまったら新しい神獣が生まれてしまうし、何よりも貴方は刀をつくりだせるなんてとんでも能力を持っているし剣道経験者なのだからほかの人と比べて大きな戦力なのだから」
そういった川井さんの表情は真剣みを帯びていた。
試しに僕は刀を造り出す。
無骨なまでに普通の刀だ。
ただその刀は神気とでも呼ぶべき金色のもやを携えていた。
彼女のほうに目を向けてみてももう驚いた様子はない。
それどころか彼女はそのことが当たり前のような様子でさえあった。
「ではいきましょう。言っておくけど昨日とは比べようにならないほど強いわよ。」
初のちゃんとした戦いはチュートリアルで戦ったのとおなじ馬鹿でかい山羊だ。
「チュートリアルのやつと同じ形状をしているけどこいつは直線的な攻撃以外に踏みつけやボディープレス、炎のブレスを放ってくるわ、あと角が弱点ってわけでもないから」
「考えただけで十分鬼畜なんだけど」
っていうか山羊なのに炎のブレスって・・・
「だから空中から角を狙うような攻撃は止めてね、ただただ体が無防備になるだけだから」
神獣は一定距離近づくと行動を開始するらしく、10mぐらいになると例の鳴き声で雄叫びをあげた
「MEEEEeeeeeeeee」
「じゃあはじめましょうか、ちなみに私の武器はこれよ。」
そう言って自信満々に手に持っている弓を見せてきた。
なんと矢は想像によって光の矢を作り出せるらしい、
「武器は作ることできないんじゃないの?」
「作れないのは物質であってこの矢は意志の集合体・・・純粋なエネルギーだから作り出すことができるのよ。実際、こんな感じのエネルギーを使って魔法使いみたいなことをしている人もいるぐらいだから」
何それかっこいい!!・・・でも精神的な消費は激しいんだろうな
「まずは見ていて私の実力を…」
そう言うと川井さんは一本の矢を作り出し敵の頭めがけて射ったあとそのまま前にダッシュしていった。
弓兵なんだから普通距離をとって攻撃するのがセオリーのはずなのに彼女は至近距離にて矢を連射する。
その一回一回のほとんどが関節を狙って攻撃しているため、相手の動きもある程度鈍くしている
「そんな戦い方もあるのか」
時には敵の周りを回りながら、時には敵の真下を通り縦横無尽に攻撃を仕掛ける。
そんな中でも狙いは正確すぎるほどに正確。
常に動きながら射っているため山羊の方もうまく狙いが定められないようだ。
しかし腐っても相手は神獣、ついに川井さんの動きを予測してそこに思いっきり前足を振り下ろす。
「MEEEeeeeee」
「川井さん危ない!!」
慌てて助けに入ろうと足に力を入れた瞬間彼女の顔に一片の焦りがないことに気づく。
「水瀬くんそこで見てなさい、これが私の最強の矛よ」
川井さんが弓の弦を引く、そこには幾重にも束ねられた光の矢が集結していた。
「我が穿きしは煌めきの放光、乱れ飛べ、
束ねられていた光たちが拡散していき、今までのように点での攻撃でなく、面での攻撃を山羊の前足に喰らわせる。
流石に踏みつけを跳ね返すには至らないが攻撃を弾き逸らすには十分だった。
全長約10mは有ろうかという巨体の体重がかかった踏みつけを正面から弾くなんてとても女の子のやることとは思えない、いや、男でもあんなことが出来る奴なんてそうはいないのだろう。
かくゆう僕も弾くなんて真似は不可能だろう。
大体、剣ならともかく刀はものを弾くためには不向きすぎる。
刀の特徴は鋭すぎる切れ味にある。
まるで芸術品のように鍛え上げられた刀身は細く、しなやかで、そして脆い。
川井さんの使っているような弓は命中はあるが一発の威力はない。
ならば一気に何本も打てばいいという彼女の発想はとても安直的だが、それ以上に効果的であった。
そんな攻撃を足へモロに食ったため山羊は体勢を崩したようだ。
「これで終わりとは思わないでね!」
彼女の攻撃はまだ終わっていない。
自信満々に弦に手をかける
またしても光の束が弓につがえられていた。
「我が穿きしは閃光の一手、貫きなさい、
今度の矢は集結されまま、つまり数10本の矢をひとつの矢にして強力な一撃を完成させる。
速さは音速を超えそれによって生じた衝撃波も一緒に敵を攻撃する。
音とは波だ。
音速を超える、つまり音を出している物質が音を置いてけぼりにする。
置いてけぼりにされた音の波は束になり文字どうり音速を持って前のものを襲いかかるのだ。
ソニックブーム。
光の束と音の束。
これが彼女のいう最強の矛だろう。
さっきの一撃も凄いが、威力は比べるまでもなくこちらのほうが上だ。
「MEEEEeeee」
その一撃は胴体の真ん中を射抜き、敵を激しく後退させ、攻撃を中断させる。
「私の力はもう十分見せたでしょう、次はあなたの番よ、さあ私にあなたの剣を示して見せて」
川井さんの戦闘は弓というあまり汎用性がないように思える武器を使った、とても多彩な攻撃。
攻撃力の欠ける武器で放つ強力な一撃。
そんなすごい戦いを見せられて燃えないわけがない。
この時僕自身すら気がつかなかったことだがきっと中学の頃と同じ顔つきになっていたことだろう。
僕は川井さんと入れ替わるように前へと飛び出す。
恐怖心がなかったと言うとそれは嘘だ。
だがそんなことよりも初めて戦う敵に対する高揚感が僕の顔に笑みを浮かべさせていた。
・・・さあ始めよう、試合の時間だ。