《秀元兄様、私は才あるものではありません!
だから、私には陰陽術は必要ないと思うのです!だから、家事をさせてください!》
《…可愛い妹のお願いでも、それは聞けへんなぁ
…それに 朝霧には才、あると思うんよ?僕は、ねっ?是光兄さん?》
《……ぅ……うむ……》
《えぇ!晃光兄様 是光兄様の方を持つのですか!》
《いや…そういうわけでは…》
『…にい…さ、ま…』
薄っすら開いた目には 過去に私と秀元兄様、是光兄様の3人で話した記憶があった
無邪気に笑う秀元兄様、難しい顔で首をひねる是光兄様……そして、
不満そうな顔を、今の私では出来ない笑顔に変えて笑っている私
もう、戻れない過去の記憶に 手を伸ばした
『……んっ……ここ、は……』
ゆったりと身体を起こせば 何処かの和式の部屋が目に入った
顔を俯かせた体制の時、布団をポトリ、何かが濡らした
落ちたところを辿れば…私の頬…
そっと瞼に触れれば 瞼は震え 睫毛は濡れていた
ーーー…私、泣いてたんだ…
そして、私を過去に持っていくものがもう1つあった
今、夢で見た記憶と…部屋に飾られた
飾られていた花、“スターチス” という花
花言葉、それは…ーーー
『…変わらぬ心、跡絶えぬ…記憶…』
紫の小さな花たち 花開院本家の庭に春になると咲いていた
…もしかして…ここは… 花開院本家…?
今までのことは 陰陽師たちの厳しさに耐えきれなくなって 描いてしまったこれからの “もしも” だったりして…
……はぁ…
『……そんなわけないか…何考えてんだろ…』
呆れたようにため息をついた私に 唐突に聞こえた声
「…なんじゃ 起きたのか」
『…え?』
部屋の襖に寄りかかるように 此方を見つめる男…いや、妖
私は、一応陰陽師の血筋だからか見分けくらいは出来るようだ
……って、そうじゃない!
『だ、誰ですか!?』
「ワシか?ワシは…ーーー」
お前以外に誰がいる
名前を教えようとしてくれたのか 口角を上げ 口を開いた妖
その声を遮るように開いたのは 襖
襖に寄りかかっていた妖は 「ぅおっ」と声を漏らし 後ろに倒れそうになったが
よろけながらも立て直した
「大丈夫か!?朝霧!」
『お、淡海ちゃん!?どうしてここに…』
「……元気そうだな…おい、ぬらりひょん!」
焦げ茶色のとても長い髪を揺らして振り返った淡海ちゃんは妖のほうへ振り向いた
切れ長の目は、心なしかいつもよりも鋭い気がする
淡海ちゃんの体はまだ、妖の姿のまま
生えた耳と尾 九尾なのか 生えた尾は妖を今にも串刺しにするように 攻撃体制に
なっているようにも見える
「この部屋には絶対に入るな、と言ったはずだが…?」
「ワシは隠しごとが嫌いじゃ…そんなワシがこの部屋に入ってしまうのはしょうがないと思わねぇか?」
「しらねぇよ …まさか、朝霧に手を出そうとしたわけじゃないだろうな」
「…ほぅ…朝霧というのか…この娘…」
『……っっ…』
舐めるような目で 此方を見つめる妖は ペロリと唇から舌を見せ舌舐めずりした
その視線に耐えきれなくなり 顔を俯かせ 身動ぎすると ククッという声が聞こえた
「…ぬらりひょん…貴様…それは妾の娘に手を出した、ということだな?
いいだろう…相手になってやろう」
「…ふんっ “まだ” 手は出しとらんじゃろう?…まぁ、この美貌の娘を放っておくつもりもないんじゃが…」
「……最後の言葉…お前の遺言ということでよいな?」
絶対零度の目で妖を睨みつける 淡海ちゃんの顔は険しい
「アンタ達、いい加減にしなさいよ 病人がいるのよ?」
『…雪麗さん!
いつの間にか部屋に入っていた雪麗さんは 2人の頭にチョップをかました
「…淡海、ぬらりひょんにその子取られたくないなら さっさと帰ることね」
「………そうだな 帰るか 朝霧」
抱き上げられ ふわりと浮く感覚がした
焦って雪麗さんの方に目を向ければ 優しそうな、でも切なそうな目でこっちを見ていた
『雪麗さん、ありがとうございました!』
「…えぇ、でもこの屋敷にはもう入っちゃダメよ?」
『え?』
すると、私の視界が暗くなった
最後に見えたのは、妖の金色の月のような瞳だった