元大手芸能プロダクションだったうちの会社を再建していく話 作:pocket_ぽけ
本来もっと多くのアイドルたちが登場し、長い話になるのを想定して作ったストーリーを改稿したものですので、非常に駆け足でもはやダイジェストのようになってしまっているだけではなく、カットによる設定の未開示すらあるので読者の方からしたら意味不明に思われる点も多くあるとは思いますがどうかご容赦ください。
出会いは、ただの偶然だった。
その日は天候が荒れ、際限なく降り注ぐ雨はアスファルトの地面をしたたかに打ちつけていた。
「……無い……っ! どこっ……!?」
営業帰り。傘も差さず雨に全身を濡らしながらも意に介さず、辺りを見回しながら一心不乱に歩き回る少女を、見つけてしまった。
忙しげに道を歩く人々は皆、少女を一瞥しながらも無視し通り過ぎていく。
営業の疲れと、傘を叩く豪雨、水を吸ったズボンの裾。
そんななか、わざわざ他人を気にするほどの心は持ち合わせていなかった。
―――――その、はずだった。
「……なんでっ……どこぉ……どこにいっちゃったのぉっ!?」
「――――――――」
喧騒の中で、悲痛に満ちたその声が聞こえたのも、雨と涙に顔をグチャグチャに濡らし、端正な顔立ちを酷く歪めている、そんな少女の姿が目に入ってきてしまったことも、
そして――――それを見た俺が、情か哀れみか、彼女に手を差し伸べたことも―――――何もかもが唯の―――
唯の……偶然に過ぎなかった。
***
「落ち着いたか?」
「は、はいっ」
向かいのソファに腰掛け、毛布にくるまっている少女は、緊張した面持ちで返事をした。
あの後、彼女―――五十嵐響子というらしい―――の探し物はすぐに見つかった。
一本の紐に星型のアクセサリが付いているだけの、言ってしまえば安っぽいブレスレット。話によると、彼女の弟妹に上京する彼女お守り代わりとして送られた大切なものらしい。
「あの……それでここは一体……?」
「ん? あぁ」
不安げに辺りに見回しながら問う。
彼女が今ここにいる理由。一人の大人として彼女の身体を案じただけなのだが。
探し物自体はすぐに見つかったのだが、かなり長い時間探していたのか、雨に濡れた身体は冷え切り、このままでいれば風邪を引くこと間違いなしという状態だったのだ。
幸い俺の勤める会社の事務所が近くだったのでつれてきたという訳だ。
仕事柄、若い女の子が一人いたところでさほど目立たない場所であることもあり、現在体を暖めているところだった。
シャワーを浴びさせ、現在身体を温めながら服を乾かしているところだ。
「まあざっくり言うと、芸能プロダクションの事務所だな」
「芸能……ってええっ!? あの、アイドルとか、ってことですか!?」
「お、おう……そうだな。アイドルのプロデュースがメインだな……と言っても、ちょうど今日最後の一人もやめちゃったんだがな……」
苦笑しながら言う。
口にしてから、はじめて会った子に言うようなことではなかったと少し後悔したが、半ば自棄のような状態の俺は語るのをやめなかった。
「
「28って、あの28ですかっ!?」
「あの28がどの28かはわからないけど……」
「小日向美穂ちゃんや安部菜々ちゃんが以前いた事務所ですよねっ」
「……そうだな」
以前いた。その言葉は、今も鮮明に思い出せる記憶が既に昔のものであると実感させた。
胸に突き刺さるような鈍い痛みを押し込めながら、話を続ける。
ここで話を終えればよかったものを――――
「あの二人や、名前の売れてた奴らは根こそぎ
「……引き抜き……ですか? 移籍ではなく……」
業界に関係も無い、それも15歳の女の子に話すようなことではなかったと後悔するも既に遅く、響子は疑問に思った様子で繰り返した。
「―――――――。……聞かなかったことにしてくれ」
「…………」
俺の様子から、触れるべきでないことには気付いたのだろう。沈黙が流れる。
「あっ、えっと、それで私、上京してきたって言ったじゃないですか」
「そうだな」
そうしていると、彼女が話を切り出してくれた。年下の子に気を遣わせてしまったことを情けなく思うが、彼女の気遣いに甘えることにした。
「それで、どうして東京に来たんだ?」
「はいっ。私、アイドルになりたいんですっ!」
―――――――話題があまり逸れなかったことは仕方がないだろう。
少し和みながら、彼女の話を聞き始めた。
***
「それで……あの、今こういうこと言うのもずるいとは思うんですけど」
「あぁ…えっと……なに?」
しばらく話を聞き、ふとうつむいて何かを考え出したと思ったら、決心したように頷き、話を切り出してきた。
穏やかだった空気が引き締まる。
話の流れから、彼女が何を言おうとしているのかは容易に予想は付くが、水は差さず彼女が話すのを待つ。
彼女の緊張がひしひしと伝わってきた。
そして、
「私を、私をこのプロダクションでアイドルにしてくださいっ」
「それは………」
言い淀む。なんと言うべきか。
結論は決まっている。問題は伝え方だ。
なかなか浮かばない言葉と沈黙にしびれを切らしたように、そのまま口をつく。
「……やめたほうがいい」
「え……それは……私、には向いてない、ってこと……ですか?」
しまった、と思った。
一瞬悲しげに歪み、すぐに乾いたような笑いで取繕われた彼女の表情を見て、自らの失敗を悟った。
「いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくて……ウチで、デビューするべきじゃないっていう話で……」
「それはやっぱり、私に魅力がないということじゃ……」
「違う。そうじゃなくて……えっと、五十嵐さん、は、すごく魅力的な女の子だ。それは間違いない。こうして話してみても、気遣いが出来るだとか、笑顔が多いだとか、褒めるべき点は沢山あった」
「ならどうしてですか……?」
「だからこそ、ウチみたいな小さな事務所じゃなくて、もっと大きなところでデビューすべきだ。ハッキリ言ってうちの事務所はもうおしまいだ。作り上げた実績も、一緒に働くアイドル達も、全て失った。そんなところにいてもきっと君の願いは果たせない」
「…………」
「だから――――「いいえ」――――え?」
言葉を尽くし、自らの不甲斐なさをさらけ出しながら丁寧に断りの返事をした。
年の割に察しも、物分かりもよい彼女ならば納得してくれるはずと、そう思っていた。
それは買い被りであり、侮りでもあったのだろう。
「あ、すみませんっ、話、遮っちゃって。でも……」
伏せていた顔を上げ、しっかりとこちらの目を見据えながら言った。
「そんな顔してる人を放ってなんかいられません」
「そんな顔って……」
とっくに自分がどんな顔をしているのかなんて分からなくなっている。
心の中では様々な感情がせめぎあい、今自分がどんな気持ちかもはっきりわからない。
「私はみんなを幸せにできるアイドルになりたいんです。当然プロデューサーさんもです」
「五十嵐さん……でも……」
「大丈夫ですよ。結果が出なければそれは私自身の実力不足ということですから」
「そんなことは……!」
彼女の意思を理解し、それでもなお食い下がろうとする俺の口に、指が添えられた。
その細長い指を、腕を順にたどるとそこには微笑みながら上目遣いでこちらの目を覗き込んでくる五十嵐さんのやさしさにあふれた微笑み。
「私を……アイドルにしてくれませんか?」
机に乗り出すように前に傾いた体を引き戻し、倒れこむように背もたれに身体を預ける。
とうとう、彼女の申し出を断ることは出来なかった。
「それにしても、いつも礼儀正しそうな
笑いながら言う。
すると響子は微笑みながら右腕を持ち上げ一言。
「ふふっ。だって私は――――お姉ちゃんですからっ!」
その手首に光る星は彼女の姿と同様に誇らしげな輝きを放っていた。