続気が上がるかは気分です。
───マスター、起きてください。てか起きなさい───
ん、眠い……。
───……ダメですね。『宝具』使用。『
「あばばばばばば!!?」
「ふぉ!?」
気絶していた所にいきなり雷が身体を迸った。
看病していたのだろうか。近くにいた1人の女性が驚きの声をあげた。
……あれ?この人って―――
「―――ね、姉しゃん?」
……なに言ってんの俺!!しかもまだ痺れが残ってるし!
「っ!」
そう呼んだら彼女は涙を浮かべ、そして俺は彼女に抱きしめられた。
え、ちょ、なんで束さんは涙を流してんの?!なんで俺は束さんに抱きしめられてんの!?
「おかえり、
束さんは泣きながら、絞り出すようにそう言った。
身体が冷たい?人生を壊した?そんなことはどうでも良くないけど、いまは関係ない。それよりも―――
「―――解、って、誰?」
頭に浮かぶ疑問を束さんにぶつけた。
「……やっ、ぱり、忘れちゃった、んだね」
涙を拭った彼女は、さっきとは打って変わって笑顔を浮かべた。
「はじめまして、私は篠ノ之束さんだよ!君の名前はまだ無いの。どんな名前にしたい?」
その笑顔は彼女と初めて顔を合わせた俺でも無理をしていると分かる笑顔だった。
「あの」
「ん?なーに?」
「つらいな、ら、吐きだ、した方、がいいです、よ?」
そう言うと、束さんの顔から笑みが消えた。
「……君に私の何が分かるの?」
「わかりま、せん。でも、目のま、えで誰、かが、辛くし、てたな、ら―――」
束さんがどう思うかは知らんし、俺のことをどう思ってるかは知らん。でも目の前でそんな悲しい顔をされたら―――
「―――ほっと、けませ、ん」
―――ほっとけないだろ?
〇⚫〇⚫
「―――ほっと、けませ、ん」
解の皮をかぶったISの、その言葉を聞いた時、束は引っ込めたはずの涙がやた溢れ出てくるのを感じた。
『ほっとけない』という言葉は解の口癖とも言える言葉だった。幼い頃から彼は誰かの助けをしていたからだ。
この言葉も解の言葉では無い。そう頭では分かっているものの、束に涙を流させるには十分なものであった。
「……じゃあ、少しだけ弱音を見せてもいいよね?」
「だい、丈夫、です」
一夏と共に第2回モンド・グロッソを見に行った時と変わらぬ背丈の彼を束は抱き寄せ、静かに涙を流した。
〇⚫〇⚫
「ありがとうね」
俺を抱き寄せ、抱きしめた後、束さんは笑顔でそう言った。その顔は先ほどの無理をした笑顔ではなく、心からの笑顔だと思えた。
「だい、じょ、うぶで、す」
「……君は優しいね」
「そう、ですか?」
「うん!……それでね、君の名前を決めたいんだけど、何がいい?」
……名前?
「えっと、解、では、だめなん、ですか?」
「確かに君は解の死体から作られているけど、君は解じゃあないでしょ?」
……なるほどな。それが束さんなりの区切りという訳か。にしても、ふむ、名前か……。
───前世の名前ではダメなのですか?───
あ、俺が転生者であること知ってるんだ。今の俺は前世の俺とは身体が違うし、束さんが言うようにその解って子でもないからな。
「ねぇ、なーまーえーはー!どーするの!?」
「ひゃぅい!?み、耳元で、叫ばないで?」
生理的な反応は詰まらずに言えるのか。でも、やっぱ普通の会話は拙いなぁ……。
───私がサポートすれば拙く喋ることはありませんが、その分私生活におけるSEの消費は多くなります。どうしますか?───
うーん、ゆっくりだけど伝わるからやんなくていいや。……SE無くなったら動けなくなるしね。
───承知いたしました。ところで、名前はどうするんですか?───
そうだねぇ……。
「……『水無月』で」
「『水無月』?それでいいの?」
束さんが、俺の目の前で首を傾げながら聞いてきた。正直、可愛い。
「は、い。水は、人間が生き、るために、必要な、もの。人の、皮を被っ、たわた、しにはちょ、うどい、いかと」
まぁ、それもあるけど正確には前世のスマホゲームでいつも使ってるネームだけどな。
───タジタジですね。サポートした方が良さそうですが……。あとそう思わなければかっこよかったのですが?───
言うな。知ってるから。
「なるほどねぇ。なら君は今から水無月くん……つまり、みっくんだ!!」
「みっ、くん……?」
ズビシ!という効果音が付きそうな動きと共に束さんは指を俺に向けた。
おぉ、これが束さんの謎なあだ名付け。……みっくん、か。あだ名は無かったから個人的には嬉しいな、うん。
「じゃあ、みっくんにはISの名前を考えてもらいます!」
「ISの?」
「そう!君の中にあるISの名前をね。みっくん用にチューニングされたそれは専用機みたいなものだから、みっくんが名付けないとダメでしょ?」
……確かに。
───いい名前をお願いしますよ、マスター?───
……まぁ、もう決まってるんだけどさ。もし言われなかったら束さんに直接言うつもりだったし。
「……『アフィリオン』、がいい」
「『アフィリオン』か。いい名前だね!由来とかはあるの?」
「誰か、がゲー、ムに出て、くる、宇宙、船の名、前だっ、て言っ、てた……。ISは、宇宙船、だから、ちょうどい、いかなっ、て」
そう言うと、束さんはほんの少し驚いたような顔をした。そして、お礼の言葉を口にした
「……ありがとうね、みっくん。ISを、宇宙船として見てくれて」
「どういた、しまし、て」
ニッコリと笑顔で答え……られたかな?
そんな事をして、束さんは俺の頭を撫でながらしゃべり出した。死体って言ってたし、成長しないのかこの身体?
───しませんね。長年マスターを見てきましたが1ミリ、いえ、1ナノも成長した兆しは見えませんでした───
なるほど了解。ならずっと120cmくらいの身長か……。凰よりも小さいのか……。
───諦めてください───
まぁ、IS学園に行かなきゃ大丈夫だろう。
「さてさて、名前が決まったところでみっくんにはIS学園に行ってもらいます」
「I、S学、園?」
……マジで?あれ、束さんと裏で暗躍する奴じゃないの?にしても撫でるの上手い。……気持ちいい。
───フラグでしたね───
「そっ!見た目は男の子だけどみっくんはISの様なものだからね!束さんの近くにいてもいいけど、逃げの日々に巻き込みたくはないからね!」
あー、そういう事か。確かに逃げの日々だといつ起動停止してもおかしくはない……のか?
───それに、マスターが逃げ遅れてどこかの国に使われるのが一番マズイでしょうし───
納得。
「明後日にはIS学園に送るけど、それでいい?」
俺はコクンと頭を上下に動かしてうなづいた。
……でもなんで明後日?
「了解っ!ならみっくんはあそこで少し横になって貰える?中にあるISコアにチョチョイっと調整しちゃうから」
また頭を上下に動かしてうなづいた。
えっと……あそこか。
束さんは頭に置いていた手をどけ、俺は束さんの指定した手術台のようなものの上で横になった。
「眠ってもいいからねー」
そう言って束さんは俺の頭によく分からない装置を付けた。
よく分からない装置を付けてからはカタカタというキーボードを押す音だけがこの場を支配した。
俺は眠気を感じ、そのまま意識を手放した。
〇⚫〇⚫
水無月が眠ったのを確認してから束は、
「……有り得ない。こんなに複雑なプログラムをアイツらが作れるわけがない」
そう言ってキーボードを打つ速度を速めた。
「みっくん、君とこの『アフィリオン』は一体何者なの……?」
繋がれた画面の一つにはこのISコアが467個の一つ出ないことを示す『unknown』が。また、別の画面は文字化けしていて、殆どが読めなかったが、
『モード:カルデア』……unlock
『モード:ALICE』……unlock
『モード:パズル&ドラゴンズ』……lock
『モード:???』……lock
『モード:???』……lock
だけはどうにか読む事が出来た。
束はこのISを作り上げた見知らぬ誰かに二つの感情を覚えた。自分だけが作り出せると思っていたISコアを作り出したことへの関心と、天災とまで称される自分にすら解くことの出来ないファイアーウォールを作り出された事への憤慨だ。
「挑戦状として、受け取ってあげる」
そう呟く彼女の顔には水無月へ向けていた優しい笑みはなく、科学者としての冷酷でありながらも熱意を感じる顔が存在していた。
〇⚫〇⚫
「みっくん、終わったよ?」
沈んでいた意識を呼び戻したのは束さんのその言葉だった。
「おはよ、うございま、す……?」
「うーん。確かにみっくんとしてはおはようだけど私としては久しぶりかな?」
久しぶり?なんで?
───マスターは2日間も眠り続けていたのですよ───
へぇー。……2日!?
「ごめんねぇ。調子に乗って2日も使っちゃって☆」
キャピ☆とイイ笑顔で束さんは謝った。
……殴りたいこの笑顔とはこの事だろうか。この身体で出来ることとかの確認もしたかったんだが……。とりあえず殴るか。
束さんを殴る(もちろん手加減はする)ため手術台のようなものから降りようとし、足を床につけたところで俺はそのまま床に倒れ込んだ。咄嗟に手をついたため、身体をぶつけることはなかった。
……あれ?
───まぁ、そうなりますよね。2日間も同じ格好でいた訳ですからいきなり動かしても動くわけありませんよ───
え、でも研究所から出た時はすぐに動いたけど?
───それは私がサポートしていたからですよ。あの時は緊急だったのでSEをフルで回してサポートしましたが今回は流石にサポートする気はありません。流石に落ちた時は危なかったのでサポートしましたが───
さんきゅ。
「……みっくん大丈夫?」
「あ、大、丈夫、です」
ついた手が痛いけどな。
「そっか、よかった。……それでね、みっくん。そろそろIS学園に着いちゃうんだけど、とりあえずはお風呂入ろっか?」
俺は無言で頷いた。……だって2日も入ってないんだろ?臭いやん……。
───まぁ、マスターの身体は死体なんでほとんど汚れはありませんけどね。あとマスターの身体は防水加工されてませんよ───
気分だよ、気分。……え、マジで?
───嘘ですよ───
嘘ならいいや。
アフィリオンの言葉に気にすることもなく束さんに引きずられて俺は風呂へ向かった。
……束さん、流石に自分で入れるから。あなたも入らなくていいから。頼むから、ね?
〇⚫〇⚫
「君が水無月か。……本当に解の身体を利用しているのだな。あの頃の解そのままだ」
フフッ。と昔を懐かしむように目の前の女性は小さく笑った。
あの後、束さんに介護されながら準備を整え、俺はIS学園に落とされた(文字通りの意味で)。
……アフィリオンがブースターを展開してくれなかったら死んでたぞ。
そんなこんなで今はIS学園一年生寮の寮監室で先ほど話にあげた女性と話をしている。
ちなみに寮監室で話す理由は「こちらのが都合がいい」とのこと。
「いきなり笑ってすまんな。では自己紹介といこう。束から聞いていると思うが、織斑千冬だ」
「水無つ、きです」
「これからよろしく頼む」
千冬さんはそう言って手を差し出した。俺もそれに応えるように(アフィリオンにサポートされながら)差し出された手を握った。
「さて、仕事の話をしよう。束からの連絡を受けてから教職員全員で話し合った結果、アリーナの管理を任せることにした。まぁ、管理とは言っても掃除と物品の管理くらいだがな」
そう、俺はIS学園で働くことになったのだ。そもそも束さんが俺をここに入れた理由が俺を一つの国が所持することを防ぐためだと踏んでる。
───生徒として入れてしまうと3年間という制限が付きますが職員であればそれは無くなりますからね───
それな。
「SEを補充する際に私たち他の教員に許可をとる必要は無い。生徒が使ってない状況であればアリーナは使ってくれて構わん。生徒に模擬戦などを挑まれた場合の判断は任せる。……なにか聞きたいことはあるか?」
「得、にありま、せん」
「そうか。ならこの書類に名前を書いてくれ。それで終了だ」
トントン。とテーブルの上に置いてあった1枚の書類を千冬さんが叩いた。
えっと、署名欄署名欄は……っと、ここか。えっと、『水無月』っと。よし、サインしたな。
「よし、これで君もここIS学園の一員だ。職員を代表して一言言っておこう。これからよろしく頼む、水無月先生」
「よろしくお、願いしま、す織、斑せ、ん生」
「ああ、よろしく。……さて、ここからはただの織斑千冬とただの水無月として
やめてください。
───死んでしまいます───