疲れて何も言えねぇ。チョコ作り過ぎて余ったの食ってたら胃袋もたれた。
何分急いでいたもので、多少手抜きっぽい感じかもしれないけど、勘弁してください。
私には、この日が一番大切
2月14日。今日も晴天なり。
今日という日だけは雨が降って欲しくなかったが、日頃の行いが良かったのか、見事にサンサンだ。いいお出かけ日である。
今日は一年に一度、彼女が大切にしている日。
何の変哲もない休日だが、彼女ーーーシロナにとって今年のこの日は間違いなく特別な日である。
昼食を家族で食べ終えた後、シロナは食器を流しに持っていくと、すぐさま部屋に向かった。
机の上に置いてあった財布を強引に掴み、駆け足で階段を降りていく。
「ーーーカレン!早く行きましょ!」
声を張り上げ、未だリビングにいたカレンに声をかけた。
くるっと振り返ったカレンは、何やら顔を顰めている。
「……すまないが、今日は一緒に行けなくなった。悪いが、私の他に誰かを連れて行ってくれ」
そう断りを入れたカレン。
珍しいものだとシロナは思った。当日ブッチとか、今までしたこと無かったはずなのに。
「えっ、どうして?」
「……クロメに呼ばれてな。行きたかったが、こればっかりはどうにも………」
「そっ、そっか。……うんっ、仕方ないよ。何なら、カレンの代わりに買って行ってもいいよ?」
「それは助かる。私は前々から言っていたグラスを頼む」
「了解。クロメくんの事、宜しくね」
「……あぁ、任された」
財布をポケットに入れて、リビングのソファーで唸っていたアリアの首襟を掴んだ。突然の事に驚いたアリアは、そのまま玄関まで引っ張られて行く。
じたばたしているアリアを横目に、「行ってきます」と一言。
アリアにも靴をしっかりと履かせて、市街地に駆けて行った。
「待て待て待て待てっ。一体何なのよ!!」
いつもは力では負ける筈のシロナが、ここまで力を出している。これには驚きと困惑が隠せない。
体力の無さでは家の中でトップと言ってもいいシロナだが、その顔は全く持って余裕の顔。息もしっかりとしているし、その足取りはタンタンとリズムを刻んでいる。
何が彼女にここまで力を引き出しているのか。ふと思った事は、アリアには瞬時に理解出来た。
なんせ今日はーーー。
「どうせアリア暇なんでしょ?だったら、シロナの買い物に付き合って!!」
「私も暇じゃないのよォお!!!クロメの誕生日プレゼントっ、決まってないんだからァァ!!!」
ーーーそう。今日はクロメの誕生日である。
本人は完全に忘れているが、家のカレンダー全て(クロメの部屋除く)の部屋に『kurome's birthday!!』とデカデカと書かれている。
忘れる事はない、大切な人の誕生日なのである。
「ツキミオジサンの店で取り寄せたのが今日来るの!!アリアもっ、決まらないならそこで見て決めちゃえ!!」
「ふーざーけーんーなーぁっ!!私は去年の失敗を繰り返さないように考えてるんだから!!」
今日の失敗。忘れる筈もない、今世紀最大のやらかし。
夕御飯の際、自分の誕生日が今日だと言うことを全く持って忘れていたクロメに、それぞれ誕生日プレゼントを渡した。
その際、アリアの前に渡したのがサーヤであった。サーヤは毎年毎年凝ったものを贈っているため、中々に繊細な物も多い。クロメに渡したものも、自ら作ったガラスの彫刻。………サーヤの女体だったのはさておき、ビーナスもその美しさには驚愕するであろうものであった。が、事件は起きた。
クロメがゆっくりと机に起き、アリアが1歩前に出た。その時、大き過ぎて机に乗らなかったプレゼントに足を引っ掛け、そのまま転倒。クロメがアリアを受け止めたのは良かったのだが、アリアの持っていたプレゼントが見事にサーヤの彫刻にヒット。そのまま机から転倒し、床に激突。その衝撃で、腰より下の部分が全壊。ビーナスもびっくりな現象が起きた。
これには全員唖然。サーヤはそのまま後に倒れて気絶。1週間布団(クロメの)から出てくる事は無かった。1週間の間、啜り泣く声と神に対する愚痴などが聞こえてきたが、相当ショックだったであろう。
アリアが悪くないとはいえ、これにはアリアも閉じ篭ってしまう始末。クロメの優しさ(乙女中毒性甘々Voice)でサーヤの心をベロンベロンにし、アリアの罪悪感を愛でぶっ飛ばしたので事無きことを得たが、アリアは未だにそれを根に持っていた。
「あれはただの事故なのに……。サーヤもそれは分かってたでしょ」
「でもそれはそれ。今年はそんな事故が起こらないように気をつけたいの!!」
「でもそれ渡すプレゼントと関係無くない?考えるべき順番間違ってると思うけど」
「うっ、うっさい!!大体何で私なのよ!!サーヤは今回も部屋でなんかやってると思うけど、ミミとかみかんとかシロナのポケモン達もいたでしょ。決まって無い奴連れてきてどうするの!!」
「ミカンちゃんはルカとどっか行っちゃったし、ピーちゃんはまだ子供。ミルはサーヤとタメ張ってたから止めといたし、クッシーとクレアはもう渡すもの準備中だったから邪魔できなかったし、ミミは見当たらなかったし。とにかく、1番近くにいたのがアリアだったから」
「ただ単に誰か誘うのメンドくさかっただけね!!私はヒマじゃないのにぃ!!」
未だ離してもらえないアリアの叫びと共に、市街地に足を急がせた。
「ーーーオジサン!!例のヤツ届いた?」
ドアを勢い良く開け、ドアについている鈴が汚く鳴った。市街地の中心部にある雑貨屋ツキミ。店内には綺麗に並べられたガラスの彫刻やグラス。焼物の花瓶や皿、色とりどりなヘヤピンなど、大小様々なものが整列していた。
「やぁ、来たねシロナちゃん。アリアちゃんもよく来た」
スキンヘッドの厳ついオジサン。彼がこの店のオーナーであるツキミ。御歳四十後半だというが、正直年の割に全然若く見える。初めて見る人には、顔の怖い店員として思われるぐらいだ。
「予定通り、シロナちゃんの頼んだものと、カレンちゃんが頼んだものは届いたさ。もう箱詰めしてあるから、ちょっと取ってくるよ」
そう言って、店の奥に消えていったツキミを見つめ、ふと店内を見渡しているアリアに目を向けた。
何やら値札を見て唸っているご様子。
「……お金、足りないの?」
「ちちちちちがうわよ!!ただ単に見たかっただけなの!!別に値札見てこんなに高いのと思ってどうしようか悩んでるとかそういう事じゃないから!!お金には余裕ありありだからァ!!」
そう言うと、顔を赤くして抗議し始める。アリアはアリアなりにクロメに尽くしているわけだし、擬人化という事もあって中々買い物には行かないのだ。こういうのは興味深く見たいのだろう。
「なら、もっと見てみたら?私も残って見てたいし」
この雑貨屋は、この市街地の中では有数の品揃えと、ツキミの趣味かはたまた時の流れかよく分からないが、流行には敏感なのだ。普通のデパートで買うよりも、ここで買う方が信頼出来る。
「……そうね。あっ、これって……」
そう言ってアリアが手に取ったもの。それは、髪留めであった。
「あっ、それってクロメくんが可愛いって言ってたヤツ」
テレビドラマを見ていて、顔がアップして映っていた時にふと俳優さんの髪留めに目が止まっていた。簪のようにも見えるし、カチューシャにも見えるその髪留め。モコモコした綿状の塊が可愛くデコられ、ピンクと白で彩られたその大きめな髪留めは、クロメの好みに十分匹敵していた。
なんせクロメは可愛い物好き。取り敢えず可愛いぬいぐるみなんかは集めているし、長い髪を後で束ねている時も女子が使ってそうなシュシュだし、おでこ強調がクロメのスタイルなのか知らないが、たまに猫耳カチューシャも付けている。…………これが似合い過ぎて家の女子達が野獣化したのはどうしようもない。特に残念美人母。
クロメもこれを探していたが見つからず、諦めていたのを覚えている。
「…………値段は結構するけど、私的には問題ないわね」
「案外早く決まったね。あんだけ渡す時の事考えてちゃ、もっと悩むと思ってたのに。あっさり決まって面白みのない」
「いいでしょ別に。クロメ、これ結構好きそうだったもの。…………渡したら、猫耳付けてくれるかなぁ……?」
なんて甘い声で妄想を展開するアリアを放置し、そろそろ来るであろうとレジに向かうシロナ。
カレンの分のお金は無いが、お財布の中にはクロメの分も入っている。要はあまり金の使い道が分からないクロメは、正直どうでもいいと言って、お年玉をいつもしに渡している。まぁたまに使っているが、それはクロメのお金なので全く文句なし。が、多分シロナのお金だろうがクロメが使う時点で問題ないと放置するだろう。むしろもっと使ってみたいな。
「お待たせ、今日はカレンちゃんが来てないからアレだけど一緒に持っていくだろ?」
「勿論。今日は1年でとても大切な日なの。仲間はずれなんてしないわ」
「モテる男はいいねぇ。じゃ、アリアちゃんもそれ買うんだろ?早く買って渡してあげな」
既婚者であるツキミには、アリアとシロナは自分の子供のようなものだろう。親バカの感性が働き、何とも応援したくなるのはツキミがただ単にいい人というわけじゃないだろう。めちゃくちゃいい人、なのだ。
商品分の金を渡し、すぐさま家に向かって走り出した。未だ妄想に浸っているアリアの首襟を掴んで。
家に帰ると、なんだかいい匂いがした。クロメがいつも料理をしているため、今日はどんな料理なのかと期待しながらリビングに向かう。
リビングの扉を開けると、既にプレゼント渡しが始まっていた。
「えーっ、もう渡し始めてたの?もうちょっと待って欲しかった」
「帰るのが遅かったから仕方ないわ。それよりも、まだ渡してないのはサーヤとミル、遅れてきた二人なんだから早く渡しなさい」
クレアはひしっとクロメの腕にくっついたまま動かない。
プレゼントを渡した順で、どうやら抱きつき券(本人の許可無し)をゲット出来るようだ。今はクレアなので、今机に置いてあるクレア人形は彼女のだろう。
「なら私が。今年は誰かさんに壊されないように、工夫しましたので、ご覧くださいっ」
ゴソゴソと布を取っていき、机にドンと置いた。
そこにあったのは、今日よりもさらに美化され、くびれや凸部分もしっかりとくっきり掘られているサーヤの女体の彫刻であった。今年はショウケースに入れられていた。
「おぉっ、今年もまた凄いの作ったな………。てか、何で裸?」
「そっ、それはっ、クロメさんにいつでも襲われても大丈夫だというサインを……」
チラッチラッとクロメに視線を送るサーヤ。クロメをあすなろ抱きしている何処かの残念美人母は、サーヤに何かの箱を渡していたが見て見ぬ振りをした一同。
「はっ、甘いわね。去年は負けたけど、今年は負けないわ!!」
ミルもまた、サーヤのプレゼント波にでかいものを出てきた。ガラスケースに入ったそれはサーヤと同等であり、きめ細かく入ったラインや筋、髪の1本1本までもが動き出しそう彫刻があった。勿論ミルの女体。
「…………は、反応に困るんだけど」
「ふふーん。私の方がより美化され洗礼されエロスを感じさせるでしょう!!」
「何言ってるんですか。リアルな貴女は腹脂肪たゆんたゆんでお尻もこんなにキュッとしてないでしょう。美化し過ぎにも程があります」
「なんですってーーー」
「え?え?やりますか?ーーー」
と、喧嘩し始めた二人を放置。終わるのを待つとキリがないため、早めに渡そうと思い、シロナはカレンにグラスの入った紙袋を渡す。
お世話になっているのは同じ時から。渡すのも、一緒と決まっている。
「ーーークロメくん。誕生日おめでとう」
「貴様、私達のプレゼント、大事にしなかったら、お前の某をもぎ取ってやるからな」
何とも物騒な発言。しかし、それを分かっていた上で、クロメは笑みを浮かべていた。
「ありがとう。二人のプレゼントって毎年センスあるから、楽しみにさせてもらってるよ」
こうして、クロメの誕生日は毎年の如く、華やかに祝われるのだった。
「ーーークロメ、これ……」
「………えっ?これって、俺が欲しかったやつ!?」
「………うん、たまたま見つけたから……」
「アリア、ありがとうっ。やっぱり俺の嫁は幸運を持っていたんだ!!」
その発言は、戦争を巻き起こすとは知らず、楽しい楽しい誕生日会をぶっ潰す原因となったのだった。
リアルに作者の誕生日です。
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